『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1404

　スダヌスとの打ち合わせを終えたアレテスにオキテスが話しかける。
　『おう、アレテス、帰り便に俺を乗せてってくれ！』
　『解りました』
　スダヌスに顔を向けるオキテス。
　『では、浜頭、俺らはこれで失礼する。明後日の件よろしく頼みます』
　『おう、了解！了解！キドニス浜頭と打ち合わせておく』
　スダヌスが二つ返事で返す、広場を去っていくオキテスとアレテス、話を交わしながら船だまりの岸壁へ向かう。
　『おう、アレテス、仕事のほうだが順調に進展しているかな？』
　『え～え、すこぶるはないですが、順調です。小島の一同、生きがい、やりがいを感じています』
　『それはいい。船の仕事も営業活動計画にのっとってスタートした。建造の場も船の組み立ての全船台が稼働し始めた。順調展開を目指している』
　二人は、晩夏の陽射しを頭上から受けて岸壁に向けて歩みゆく。
　『おう、アレテス、今日の風向きはどうであった？』
　『はい、キドニアへは向かい風でした』
　『それで帰りは順風かな？』
　『そう、うまくいくかな？この季節の風は気まぐれですから、あてになりません』
　アレテスが操船する舟艇は、南東からの風に押されて浜に帰り着く。
　浜に降り立ったオキテスは、そそくさと会所に向かう、アエネアスらと顔を合わせる、イリオネスと目が合う、話しかけてくる。
　『おう、オキテス、早い帰りだはないか。うまくいったか？』
　『うまく交渉成立です。用件が終わり、アレテスの昼便にての帰着です』
　『価格改定交渉、集散所方がすんなりと了承してくれたか？』
　『快諾してくれました。付加構造と加算額の照合をやったうえで集散所側は、その割安感を理解してくれました』
　アエネアスが満足の表情を浮かべ口を開く。
　『おう、それはよかった！重畳！重畳！』
　イリオネスが同調する。
　『うまくいったな。オキテス、お前、交渉上手になったではないか。向かってくる敵なしとはいかんか』
　『張った張り身の交渉でした。緊張しました』
　『そうだろう、そうだろう。交渉事は、刃の下でのやり取りだ。斬るか斬られるかだ。船、大型商品だ。船を売っていく！売りたい気持ちがままならない！そこで気がせくとつまづく、脚下照顧、歩運びを慎重にしなければならんところだ』
　『垂訓ですな、ありがとうございます』
　『価格の改定が決まった。通じる気持ち、お前の交渉力、幸先にいい結果をだ！』
　『了解しました。報告を終わります』
　『おう、大変にご苦労であった』
　アエネアスらと話し終えて、オキテスが会所をあとにする、建造の場に歩を向けた。