小学校の同級生にMという成績優秀・スポーツ万能の男がいた(仮に「ミズノヒロシくん」といおう。)。
ある時、小学校の児童会役員の選挙があった。
「児童会」というのは中学校とか高校の「生徒会」みたいなもので、各クラスから1人ずつ児童会の役員が選ばれることになっていた(ように思う←太古の昔の話なので記憶が定かではない。)。
わがクラスの役員候補は当然、ミズノヒロシくん、ということになっていた。
投票の自由も投票の秘密もへったくれもなく、
「ウチのクラスはミズノヒロシ君に投票するんだがや」
とみんなが公然了解していた。
投票用紙に「ミズノヒロシ」以外の名前を書くことは太平洋戦争の最中に英語の歌を皇居前広場で歌うくらい非国民的行為だった。
担任の教師もこの「公然了解事項」を咎め立てしたりしなかった。それどころか投票の時間、「さぁ、みんな、紙にミズノくんの名前を書いたら後ろから前に回して」と言ってのけたのである。
誤解のないように言っておくが、私はミズノヒロシくんとは仲が良かった。よく一緒に遊んでいたし、宿題丸写しさせてもらったこともあったし、ミズノヒロシ君が苦手だった給食のおかずを食べてあげたりもしていた。
しかし、当時から正義感一杯の鼻持ちならないクソガキだった私がこのクラスの了解事項を了解しなかったことは言うまでもなく、私は投票用紙に「●●●●」(特定秘密なので特に名を秘す)とミズノヒロシくん以外の名前を書いて前の席に座っている級友に回した。
「あー! ヒライワったらミズノの名前書いとらんがや!」
と下品な名古屋弁で叫ぶ前の席のクソガキ。いやいや、級友。
う~む、名古屋弁ほど品のない方言もありますまいだがや。
いっせいに私の投票用紙を見ようと駆け寄ってくるクラスメート共。
「こいつ、裏切りモンだわ。」
「ヒライワとは口きいたらあかんて。」
「どえりゃあことやりくさったわ!」
「う~らぎり、う~らぎり!」
あぁ神様。あなたはなにゆえ、この品性のカケラもないクソガキ共を野にお放ちになられたのですか。
担任の教師の取りなしでその場は収まったものの、その後数日間、私はただ一人を除いて、クラスメート全員から無視され続けた。
たった一人、変わらず私と接し続けてくれたのはミズノヒロシくんだけだった。
ミズノヒロシくんは今、東京の某有名大学病院で医者をしているという。
最近の国政選挙違憲判決を読みながら、ふと、小学校時代の苦い思い出を思い出した。
ヒロシくん、元気でやっとるかや? 俺は元気だて。