FacebookやTwitterではチョロチョロと告知しているのだけれど、明後日(27日)からロングツーリングに行く。
(↑BOLT。ネイキッドタイプのボバー・アメリカン)
(↑秋の苗場)
6日ほどかけて、東京から宮崎県西都市まで。帰路も同じくらいの日数がかかるだろう。
高速道路は使わず、全行程、下道で。
高速道路は「目的地に早く着く」という点では意味があるけれど、「旅」という視点では100km走っても1000km走っても、自分の体験としては「出発地」と「高速道路」と「目的地」しか残らない。それがつまらない。
今、代理人をつとめている裁判の関係で、11月2日に宮崎県西都市に裁判官以下関係者全員が集まる手続きがある。
時は11月初旬。ツーリングに絶好の季節。東京23区&都下30市町村の日帰りツーリングも達成したし(詳しくはこのブログの過去記事参照)、いい機会なので自分の知らない日本の風景を存分に身体に取り込んでみよう、と思い立った。
VR(ヴァーチャル・リアリティ)が進化して、自宅にいながら世界中の好きな場所にヴァーチャルで旅行できる時代になったけれど、アナログな僕にはやはりリアルなツーリングだ。
自分にとって本当に大切なものは、ふだん生活をしている場所や時間から現実に離れてみたときに、はじめて、リアルにわかるのではないかと思う。少なくとも僕はそうだ。
「1週間くらいかけて、高速道路は使わずに下道だけで宮崎県までオートバイで行こうと思う」
「行きは本州を西に、帰りは四国を横断してくるルートで」
という僕の計画を聞いた人の反応は、竹を割ったように2種類だけだ。
「馬鹿じゃない?危ないからやめとけ!」
と大人の分別で僕を諌めてくれる人と、
「うわっ!面白そう!」
と目をキラキラさせてくる人と。
だいたい前者9、後者1くらいの比率だと思う。
不思議なのは、前者のほとんどは「オートバイに乗ったことのない人ばかりである」ということだ。
オートバイに乗っている人、オートバイ好きな人は、100%の確率で「目がキラキラ派」。
オートバイという乗り物それ自体が持っている危険性や、「下道で2000km近く走って東京から宮崎まで行く」ということの過酷さは、オートバイに乗っている人こそがわかっているはずなのに、彼ら彼女たちは一様に目をキラキラさせて「いいなぁ」という。「俺も行きたいなあ」という。
いつだったか、NHKの「72時間」というドキュメンタリー番組で、オートバイに乗っている女の子に取材ディレクターが「バイクって何が楽しいんですか?」と愚問を投げかけるシーンがあった。
そのときの彼女の答えに、僕は心底、痺れてしまった。
関西人らしき彼女はこう答えたのだ。
「カレーライスが美味しいことは、カレーライスを食べた人にしか分かれへんやん。バイクもおんなじや。あたしが口でどうこう説明しても、結局、バイクの楽しさなんてバイクに乗ったもんにしかわからへんねん」
その通りだと思う。
オートバイとはそういう乗り物なのだ。
夏は気が遠くなるほど暑い。冬は指先が引きちぎれるかと思うほど寒い。雨が降れば全身びしょ濡れになるし、ちょっと街中を走れば埃と排気ガスの油煙で身体中べとべとだ。
「オートバイって風を切って走れて気持ちいいんでしょ?」と聞かれたりもするけれど、とんでもない。
気持ちの良さなら、エアコンをがんがんに効かせた車の方が遥かに上だ。
たとえば、ネイキッドの(つまり、カウルとかがついていない僕のBOLTのような)オートバイで時速80kmで走るということは、間断たなく風速22m強の向かい風を全身に受け続けるということだ。台風の暴風域内で立ち続けているのと同じ状態。
(↑BOLT。ネイキッドタイプのボバー・アメリカン)
車で時速80kmで事故を起こしても、シートベルトをちゃんとしていれば(最近はほとんどの車でエアバッグも標準装備されているから)、運が良ければかすり傷やムチ打ち程度で済むけれど、たとえば高速道路を時速80kmで走っているオートバイが事故を起こしたら、それは「ほぼ100%の確率で死ぬ」ということと同義だ。
緩やかなカーブひとつ取っても、気を抜いて突っ込めばオートバイではとんでもないしっぺ返しが待っている。僕も何度か痛い目に遭った。カーブの出口に停まっていた車に突っ込んで左足の親指を粉砕骨折したことがある。23歳だか24歳の頃だ。たっぷり2ヶ月以上、松葉杖のお世話になった。
でも、しかし。
それでもオートバイは楽しい。
エアコンの効いた車は一年中快適だけど、車の中はどんな時も「エアコンの効いた車内」でしかない。
春の香り、夏の日差し、秋の高い空、冬の凍てつくような冷気を、全身で感じられるオートバイに車はかなわない。
(↑秋の苗場)
片岡義男の「彼のオートバイ、彼女の島」という小説の中に、自分の愛車のバイクのエンジン音と自分の心臓の鼓動のシンクロを感じた主人公が思わず涙を流してしまう、というシーンがある。
オートバイに乗る人なら、程度の差こそあれ、この主人公の気持ちがわかるはずなのだけれど、そうでない人には何をどう説明したって永久に理解してはもらえないだろう。
「72時間」のあの彼女の言葉を聞いて以来、僕はオートバイがどんなに楽しいものであるかを人に説明することはやめた。
オートバイの楽しさを知りたいのなら、僕なんかに聞くより乗ってみればいい。
初めてシートにまたがって、ゆっくりとクラッチを繋いでオートバイが動き始めるあの瞬間の気持ちは、生涯忘れられない宝物になるだろう。少なくとも僕は、40年前のあの瞬間の気持ちをいまだに鮮明に記憶している。
僕の息子たちは僕のオートバイに見向きもしないけれど、いつか、彼らもオートバイの楽しさを知ってくれるといいなぁ、と思う。
オートバイに乗ることで、何かにきちんと向き合うこと、手を抜けば強烈なしっぺ返しを喰らうということ、ちゃんと付き合うことで得られる喜びとか感動。そういうものを息子たちもいつか体験してくれるといいなぁ、と思っている。
というわけで、ツーリング先で出逢うはずの、ヴァーチャルではないリアルな風景をこのブログにアップしていこうと思う。
息子たちがそれを見て、ちょっとだけオートバイに興味を持ってくれたらいいなぁ、と思う。
もちろん、息子たち以外の、このブログの読者の人も。