伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む市議会議員。市政や市議会、日常の活動などを紹介していきます。

多核種除去設備処理水の政府対応への請願・意見書を全会一致で採択

2020年06月19日 | 市議会
 多核種除去施設で汚染水を処理したトリチウムを含む処理水の扱いをめぐっては、いわき市議会としてもどのように対応するかが検討されてきた。

 今回採択された意見書を前に、いわき市議会各会派が合意した意見書は、2018年11月定例会にさかのぼる。この定例会では、私の会派から提出した「東京電力福島第一原子力発電所からのトリチウム水の国民・市民の理解が得られていない海洋放出については慎重に決定することを求める意見書」が、全会派の賛同を得て採択された。

 この後、昨年9月定例会に志帥会から「トリチウム水の適切な処理と新たな風評が生じないよう徹底した対策を求める意見書(案)」が提出された。しかし、この意見書の要望項目には、処理水の海洋処分を強く連想させる「処理」という言葉が使われていた。このため、漁業関係者らが海洋処分等に反対している状況を踏まえ、当面の陸上保管など多様な手法を内包できる「対応」という文言に修正することを求めた。しかし、この修正が入れられなかったため、9月定例会、12月定例会の2度に渡って会派として態度を保留。他に創世会も同様の姿勢をとったために、いわき市議会のルールによって意見書は廃案になった。

 今年2月定例会に、志帥会から再度、処理水に関する意見書が提出された。
 「トリチウム水の処分方法については、各産業の関係者から丁寧に意見を聴取するとともに、新たな風評を助長しないよう風評対策の拡充・強化と合わせて示すことを求める意見書(案)」と題された意見書からは、「国の責任による適切な対応」が求められるとの認識が示される一方、この前の意見書の「処理」の言葉はなくなっていた。

 このため会派としては、この意見書に賛同したが、創世会が態度を保留し、6月定例会に継続審議となっていた。

 6月定例会までの間に資源エネルギー庁は、アルプス小委員会の報告書について、県内の各議会に説明するとともに、意見を聴取した。いわき市議会も4月に全員協議会での説明と質疑を予定した。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう国の緊急事態宣言を受けて文書による質疑に変更した。

 風評被害等の懸念から、漁業・農業等の産業関係者や住民が放出に反対している状況がある。このことを前提に、会派からは、政府が小委員会報告と関係者や住民等の意見をどのように受け止め、方針に反映していくのかの観点を中心に質疑をした。その結果分かったのは、
①「政府としては、いつまでも時間をかけて検討するものではないと考えております」「スケジュールありきで進めるものではないと考えており、幅広い関係者のご意見をお伺いした上で、結論を出していきます」の相反する2つの考え方を示しながら、どちらを重視する姿勢かは明確にせず、「時間をかけて検討するのではない」の考えを優先する可能性があること、
②政府としての対応方針決定にあたっては、政府方針案を示し、これに意見を聴く考えは持っていないこと、
③風評被害克服に、トリチウム等の人体や環境への影響などを広く国民に知らせ、その理解を広げることが重要にもかかわらず、この間の政府の取り組みのほとんどは、県内イベント等での説明にとどまっていること、
などだった。

 資源エネルギー庁への質問、再質問への回答は以下のブログに記載してある。

■国の回答読んでみたが・・あれれ
■ご飯論法とはこのことか・・ALPS処理水再質問へのエネ庁回答

 この質疑の結果を受け、6月定例会前に、2月定例会提出の志帥会の意見書に加筆修正を求めた。

 原案は次の通り。

 国においては、トリチウム水の処分方法については、当県の各産業の関係者から丁寧に意見を聴取するととともに、新たな風評を助長しないよう風評対策の拡充・強化とあわせて示すことを強く要望する。


 修正案は次の通りだ。

 国においては、トリチウム水の処分方法の最終判断にあたっては、ALPS小委員会報告にとどまらず、政府の処分方法案の公表とこれに対する意見聴取等も実施し当県の各産業の関係者から丁寧に意見を聴取するととともに、新たな風評を助長しないよう広く国民に向けた処理水の安全に関わる情報発信を行った上、風評対策の拡充・強化とあわせて示すことを強く要望する。

 修正の内容は、資源エネルギー庁との2度にわたる質疑で受け止めた問題点から、国の姿勢の是正を求めるために、要望項目をより具体的な事例で補強する観点から加筆したものだった。

 6月定例会を前にした5月28日、市民団体が会派をめぐった。要望されたのは、多核種除去施設処理水に関する請願を採択するために紹介議員になってもらう上でのアドバイスと、「陸上保管」を求める意見書を採択して欲しいという内容だった。

 会派としては、トリチウムを含む「処理水」について、絶対的な陸上保管を求める立場ではなかった。
①トリチウムを含んだ処理水を放出することを政府が安全と考えているなら、その内容を政府の責任で国民に向けて説明し理解を広め、放出しても風評被害が生じないような環境を作り、これをもって県内関係者等の環境放出の理解を得ること、
②それまでの間は陸上保管を続け、関係者に風評被害への不安をもたらさないこと、
以上の立場で、2月定例会の代表質問、そして6月定例会の一般質問でも、私がその観点から質問をしている。現状は、国民にトリチウムの影響について理解を得るような環境はない。したがって、現状で放出することには問題があると考えている。

 しかし、市民団体の当初の求めは「陸上保管」ありきの内容だった。従って会派として、この求めの請願の紹介議員となることはできない。また、これまでに市議会のほとんどの会派が合意した到達点から考えれば、市民団体が求めた内容では、請願が受け入れられないであろうことは明らかだった。そこで、アドバイスを求める市民団体には、会派として請願の紹介議員となることができるとすれば、請願に次の内容が盛り込まれることが必要とする考えを伝えた。
①政府の処分方法案の公表とこれに対する意見聴取、
②多核種除去設備等処理水の安全に関わる情報発信と風評対策の拡充・強化を合わせて示し、関係者や国民の理解と合意を広げること、
③それがなるまでの間は陸上保管を続けること。

 一口で言えば、風評被害が起きないような社会的環境を政府が責任をもって作りあげた上で、トリチウムを含む処理水の環境放出等の対応を選択せよという内容に請願の内容を変更することが必要ではないか、とアドバイスしたわけだ。これはあくまで、会派の考え、議会としての大方の一致点を伝えた物であって、請願者がこの意見に従う必要はない。議会に対する請願提出は、いわば住民が議会に直接議案を提出できる固有の権利であって、その権利を議会側から制約することは、制度の趣旨に反すると考えるからだ。

 志帥会からも請願者に意見を述べたと聞いている。これらのアドバイスを受けながら市民団体がまとめた請願は、志帥会、共産党・市民共同、創世会の3会派が紹介議員となって提出された。請願は、共産党・共同や志帥会が市民団体にアドバイスした内容を反映したものだった。

 一方、意見書は不可思議な経過をたどった。

 継続審議になっていた志帥会提出・共産党共同修正の意見書は、請願とほぼ同趣旨だった。違いは、国民的あるいは関係者の合意ができるまでの間は陸上保管を求める内容が含まれるかどうかだけで、内容に大きな違いがなかった。しかし、創世会はこの意見書とは別に、条件なしの陸上保管を求める意見書を提出した上で、志帥会提出を基本とする修正意見書には保留とする態度を取った。このため志帥会提出の意見書は、2議会連続で継続審議となり廃案となった。

 「陸上保管」を求める意見書には、志帥会と共産党・共同、つつじの会が反対した。2月定例会提出の志帥会案に賛成し、市民団体提出の請願にアドバイスした経過からは当然の対応だった。同じく志帥会案に賛成していた一世会、公明党は態度保留とした。志帥会案に賛成しながら、全く趣旨が異なる意見書案に態度保留とする、その姿勢の理由はよく分からない。

 不可思議なのは、創世会が志帥会提出、共産・共同修正の意見書とほぼ同趣旨の請願の紹介議員となりながら、志帥会提出の意見書に態度保留の姿勢をとり、その結果廃案としてしまったことだ。

 請願が付託された政策総務常任委員会は、創世会所属議員を含めて全委員一致で、請願を採択すべしという結論を出した。請願は、市執行部に対して、トリチウムを含む処理水対応の政府案を示して、これに意見を求める等、志帥会提出の修正意見書と、ほぼ同等の内容となっているのにだ。

 創世会の請願と志帥会提出・修正意見書への賛否の姿勢の違いは良く分からない。しかし、少なくとも、より請願に近い表現であれば全会一致で意見書を採択できる条件があることは分かった。

 そこで、議長から、あらためて請願採択の方向性を受けた意見書採択について、非公式の会派代表会議で検討することが求められた。請願の文案がベースであれば、請願の紹介議員を含め、全ての会派が一致できることは明らかだった。結果、意見書は採択されることになった。

 採択された意見書は、トリチウム多核種除去設備処理水の放出に反対する内容ではない。NHKの「はまなかあいづ」でも次のように紹介した。







 たしかに放出に反対という文言はない。しかし、国民全体への説明と理解、風評被害への対策策定と公表及びそれに対する理解、そして、その両者が達成した上での放出をはじめとした政府の対応策の実行。少なくとも、政府に対して、処理水放出に対するかない髙いハードルを求めたことにはなると考えている。

 特に国民全体に、稼働する原発から放射性物質が日常に放出されていることが国から積極的に説明された時、その後のエネルギー政策に対して国民がどのように反応するのか。国にとってこの説明は、原発を一つの柱に据えるエネルギー政策にとって必ずしもプラスになるものではない。むしろ、一定の基準とはいえ、多量の放射性物質が放出され続けることが国民的な常識になればなるほど、別のエネルギーを求める世論に誘導される可能性がある。

 私は、こうした現実を共有した上で、次のエネルギーをどのように選択していくかを、国民的に検討していくことこそが大切だと思っている。

 政府は、インターネットを通じて国民に意見を求める期間を6月15日の締め切りから7月15日に延長されたようだ。福島県内で、幅広く意見を聞くことを求める声が強くなっているこの影響なのかもしれない。いずれにしても、今後、この問題でどのように対応するかは注目される。

 引き続き、政府の対応をしっかり見ていきたいと思う。


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