ゆめ未来     

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雪の階   古風な美人顔個性的で頭のよいお方

2019年06月03日 | もう一冊読んでみた
雪の階(きざはし)/奥泉光    2019.6.3  

  2019年版 このミステリーがすごい!
  国内篇 第7位 雪の階


奥泉光作、『雪の階』 を読んでみた。

笹宮惟佐子が、登場する場面では、先ず、お召し物の説明があり、彼女が如何に美人であるかの解説が入る。

 それにしても、今日の惟佐子の薄藍の色留袖に鉄黒の袋帯を締めた姿は、思わず見とれてしまうほどに艶やかで美しかった。細身の絵姿が近代的な印象を与えるのに対して、玉結び風の黒髪の下に、低い頬骨のうえの瞼が厚く眼の細い古風な美人顔が置かれているのが、不思議な魅力となって結晶している。

初めの紹介部分だけなら、そうなのかなるほどなるほど、と思うのであるが、この小説では、登場の度ごとなので、またかあ~と少々食傷気味となってしまう。
作者は、女性の服装や美しさを語ることに並々ならぬ情熱をお持ちのお方とみたが、この小説を書かれた目的の一部でもあったか。
一文が、比較的長い。
登場人物の顔の表現には、猿顔とか、●●顔などの装飾が入ることが多い。ただし、誉めることはほぼ無し。
情景場面の説明には、有名絵画が挙げられ、どれだけ知っているか自ら確認しながら読んだ。

 黙っていれば集蛾灯さながら異性を惹き寄せるのは間違いなく、実際惟佐子は無口なのであるけれど、稀にその口から発せられる言葉はどこか妙ちくりんで、理解を超える場合が多々ある。変な人----と云うのが、同窓生のあいだでの、とはつまり上層階級に属する女性たちのあいだでの評判であり、さる宮家の跡継ぎが器量好みで嫁にと求めたところが、あまりの変哲ぶりに這這(ほうほう)の体で退散したとの噂も囁かれていた。じつに惜しい人だ。との云い方で、おためごかしに揶揄する人もあったけれど、華子はむしろ個性的で頭のよい先輩として惟佐子を評価していた。

惟佐子という女性は、本当に変わっていると思う。
彼女を抱いた男達は、木を思わせる固い肉体を抱いたのではなかろうか。
女性としてのふくらみや温かさが感じられないのは、ぼくだけか。
世に絶世の美女の誉れ高くも、普通の人ならつきあいきれない女性だろうと感じた。
彼女の父親も変わり者だ。親が親なら子も子と言われそう。

 こと地理と云うことについて笹宮氏くらい関心の薄い人間も珍しく、中央本線から見る富士山を指して、あれはなんと云う山かと訊いたことがあって、東海道側からしか見たことがなかったからだとの言い訳が付いたとは云え、山は山、川は川、海は海とだけ認識して恬然憚らぬ非常識ぶりを、彼の異能の証と見做す一群の人々もないわけではないのだった。

こう言い放ったのは、彼の実の息子。

 「あなたは敵だ。皇国の敵だ!」
 「敵」よりむしろ「あなた」の言葉に鈍器をふるわれたかのような打撃を笹宮伯爵は受け、桃花心木(マホガニー)の肘掛けを両手で掴み、腕を屈伸させて尻をふわふわ上下させた。
 「戦いにおいてなにより恐ろしいのは味方の裏切りです。味方に紛れた敵こそが一番の敵。君側の奸こそが皇国に巣くう最悪の敵であらざるをえない。いまなにより剪除(せんじょ)しなければならぬ害毒にほかならない。皇国の威を借り、ユダヤ資本と裏で繋がり私腹を肥やす腐り切った者ども。あなたもその一部だと認めるしかない」


「雪の階」 好きな方は、めちゃめちゃ好きになる小説 かも知れない。
p587は、長いですぞ。

             『 雪の階/奥泉光/中央公論新社 』


コメント
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