地図マニアだった。2万5千分の1の地図を繋ぎ合わせ部屋の壁一面に貼り敷き詰めていた。その癖待ち合わせの場所にすんなりたどり着けた例(ためし)がない、不思議な特性を併せ持つ。地図の前では立派な案内人なのだが、いざ現実においてある任意の点に置かれるや冒険家と化す。とんでもない方向に足を踏み出すからだ。何度こぼされたことだろう。
「お・前・の・せ・い・で…!」
回り道をしたり、遅刻したりしたことを指すのだろうが、男は瑣末には淡白でありたいものである。
国道167号線を伊勢方面に向かい、トヨタカローラを過ぎた当たり。鵜方と磯部との町境を西に走る道がある。うっかり見過ごしてしまいがちな三叉路だが、茶畑や野菜畑に囲まれた雰囲気のある道だ。ものの5分も走ると素晴らしい田園風景が広がる。西に日が傾きかけた時分など息をのむほどである。で、この農道がどこに繋がるかというと、穴川と迫子を結ぶ古い道路に出る。ひなびて、どっかのどかさを覚える快い農道である。地図では新道がすぐ近くを平行して走っているのが分かるが、この道からは窺い知ることができない。きれいに舗装されたこの新しい道というのが、道の駅直前の信号のある交差点を左折する道路である。やがて新旧二つの道が合流する訳だが、それまでつくりものでない真性の田舎の風景が続く。鵜方の田舎らしさはここまで足を運ばないと観られなくなったということ、か。趣きのある懐かしい景色は消えつつある。
合流するとまもなく、教室のits-mo Naviにはまだ記載されていないが、未舗装のだだっ広い道が現われ旧道と平行する感じで谷間を進む。途中分かれ道があって、新道は大きな上り坂になる。迷っているとたまたま軽トラックがぼくを追い越しその坂を登って行く。ナント初めて出会った車だ。それほど寂しい街道でもある。パンクに気をつけながら上りきると、見事に舗装された広い道が待っている。下は小川に沿って海へと続くなだらかな下り坂の旧道、新道は山越えだ。もし持っているとしたらという怪しい条件付きでぼくのマゾッ気が厳しい峠道を選んだ。道の状態はすこぶる良いが、アップダウンが激しい。すぐに後悔したが、ぼくの体力も半年前と違って耐性を帯びている。旧道を遥か右下に、横山の頂上を左手に眺めながら漕ぎ進む。ヘッドフォンから流れるブルーグラス・ミュージックの後押しが大きい。
心臓破りの坂をいくつか越え、こんな標識を見つけた。「近畿自然歩道」はもっと広く強く紹介されても良いのでは。PRのためのガイドマップを整備して欲しい。単にぼくが無知なだけかも知れないが…。
この近畿自然歩道、志摩市関連だけでも、
- 舟神様“青峯山”をたずねるみち
- 英虞湾一望の横山をたずねるみち
- 安乗灯台と文楽のみち
- 大王埼灯台をたずねるみち
- 麦崎・磯笛のみち
- 御座・金比羅山から富士山をのぞむみち
- 磯笛岬と五ヶ所湾探訪のみち
と、豊富である。
新道の終点は、迫子の東側の県道である。右に英虞湾が見えてくれたときは嬉しかった。で、軽トラック一台とジョギング中のご婦人とすれ違っただけ。まるっきりぼく一人のためにあるようだった。全線舗装が行き届けば、浜島町民は大幅なショートカットが期待できる。が、それまではぼくのお気に入りとしてブックマークさせてもらう。何しろ排気ガスの心配なく、思い切って喘ぐことができるのだから。
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