わたしがこの漫画と出会ったのは、中学3年生の時だった。
ある雑誌にこの漫画が紹介されていて、家族と大晦日に神戸旅行へ行く際、単行本4巻を手に入れた。
この漫画は、ルドルフ皇太子を主人公にした作品で、架空の孤児・アルフレートとの関係がメインで、ルドルフ皇太子の短い生涯を描いた作品でもある。
世界を冠する帝国の皇太子として生を享け乍ら、愛情に飢えていたルドルフ。
彼は常に「皇太子である」ということで己を律してきた。
アルフレートとルドルフが出会ったのは、ルドルフが仕掛けた貴族の暗殺現場にアルフレートが出くわし、その口封じの為に彼をウィーンへと連れて来た。
9歳でありながら皇太子としての義務を果たし、父親であるフランツ=ヨーゼフと政治情勢を語り合うルドルフ。
しかし彼は己が病弱であるが故に、その出生に関する口さがない噂に密かに傷ついていた。
だがアルフレートは、ルドルフの噂をする女官達に抗議する。
アルフレートの純粋さに驚き、彼の優柔不断さに時折苛立つも、ルドルフはアルフレートに惹かれてゆく。
二人の関係は、ただの主従関係と片付けられるほど単純明快なものではない。
二人が出逢い、マイヤーリンクの狩猟館で「その時」を迎えるまで、アルフレートはルドルフを「無償の愛」で包んだ母のような存在だった。
第1部は二人の出逢いから結ばれるまでを描き、第2部は恋人同士となった二人が袂を分かつまで、そして第3部は再会した二人がマイヤーリンクで「その時」を迎えるまでを描いた物語である。
ネタバレになってしまうが、この作品ではルドルフは史実通りには死なず、その代わりに正気を失ってしまった。
幼き頃から己を律し、常に「皇太子であること」を己に課していたルドルフ。
しかし皇帝である父との対立が深まり、オーストリア=ハンガリー帝国の崩壊を阻止しようとした彼は、自らの命を以て己の死がドイツ帝国の陰謀であることを父に知らしめようとした。
彼の強靭な精神力はやがて狂気にむしばまれ、遂に唯一無二の存在であったアルフレートの事を忘れてしまう。
マイヤーリンクの狩猟館で自殺しようとしたルドルフは、アルフレートに笑顔を浮かべ、正気を失う。
息子が生きていると知った皇帝は、ルドルフが「自殺」したと発表し、葬儀を行う。
その葬儀の日に、彼が放った言葉が心に響いた。
「40年間も皇帝をやっていたが、父親というものは、愚かなものだな。」
幼き頃から父を尊敬し、やがては彼のような皇帝になると夢見ていたルドルフ。
心から息子を愛していたが、それを彼に伝える機会を逸したフランツ=ヨーゼフ帝。
ルドルフ亡き後、皇帝の甥であったフランツ=フェルディナンドが皇位継承者となり、彼はサラエボにて妻・ゾフィーに暗殺され、第一次世界大戦が勃発する。
皇帝は1916年に亡くなり、その2年後にオーストリア=ハンガリー帝国、ドイツ帝国、そしてロシア帝国も崩壊する。
時代の渦に巻き込まれた人間は無力である。
この作品は名作だが、残念ながら絶版となっている。
願わくば、文庫版として復刊して貰いたいものである。