今年も昨日から正倉院展が始まりました・・・。今年の正倉院展は新型コロナ感染拡大防止のため、観覧には「前売日時指定券」の予約・発券が必要で当日券の販売はないそうです。毎年、奈良国立博物館で開催される正倉院展に行っていますので、このブログでも毎回出品される宝物を紹介してきましたが、今年は正倉院展に行くことを取り止めました。それで、今回は昨年同じ奈良国立博物館で開催された「藤田美術館展」で観覧した曜変天目茶碗のお話をすることにします。
曜変天目茶碗(以下、曜変天目と称します)は、中国福建省建陽市水吉鎮にある建窯で宋時代につくられた黒い釉薬のかかった茶碗の一種です。曜変天目は建窯産の茶碗「建盞(けんさん)」の中でも極めて稀少なもので、現存するものは世界に三碗しかありません。その三碗は全て日本にあり、いずれも国宝に指定されています。三碗にはそれぞれ異なる表情が見られますが、曜変天目三碗に共通する特徴としては、碗の内面に星のような斑文が広がっていて、光や見る角度により変化する青、紫、緑などの光彩(虹彩)を帯びていることから、さながら碗の中に宇宙や銀河を内包しているが如くである点があげられます。
画像は、昨年開催された「藤田美術館展」で購入した2019年国宝「曜変天目」三碗同時期公開記念(異なる会場で同時期に曜変天目三碗の展覧会がありました)のクリアファイルです。現存する曜変天目三碗が写っているクリアファイルで、左が京都の大徳寺塔頭龍光院の所蔵品、中央が東京の静嘉堂文庫美術館の所蔵品、右が大阪の藤田美術館の所蔵品です。私は三碗のうち、昨年「藤田美術館展」で藤田美術館の所蔵品を、3年前に京都国立博物館で開催された「国宝展」で大徳寺塔頭龍光院の所蔵品を観覧しています。
私個人としては、藤田美術館の所蔵する曜変天目よりも大徳寺塔頭龍光院の所蔵する曜変天目の魅力が印象強く残っています。展示の仕方や照明の角度にもよるのかも知れませんが、大徳寺塔頭龍光院の所蔵する曜変天目は、漆黒の器の中で、星のようにも見える瑠璃色と虹色の光彩の輝きが吸込まれるような小宇宙を形成していて、とても神秘性を感じたことを憶えています。私がまだ観覧していない静嘉堂文庫美術館の所蔵する曜変天目は、「稲葉天目」の名でも知られていて、現存する三碗の中でも特に斑文(星紋)と光彩(虹彩)が鮮やかだと言われています。私が観覧した二つの曜変天目よりもさらなる魅力を秘めているのでしょうか・・機会があれば観覧してみたいものです。
三碗の曜変天目には、斑文や光彩の様相などにそれぞり独自の特徴がみられるように、焼成の偶然性が大きく影響していることが分かります。つまり、曜変天目はつくろうとして出来る器ではなく、当時であっても万に一つの奇跡によって生まれたものであると考えられます。約800年前に南宋で奇跡的に誕生し、その後、海を超えて日本に渡り、寺院や将軍家など多くの人々の手により守り伝えられ、今日に至るという奇跡の積み重ねによって世界で三碗しか現存しない曜変天目は、存在そのものが神秘的であり、この世のものでない・・美しさをたたえています。
という事で、今回は曜変天目のお話をしましたが、来年の秋には新型コロナも終息していて例年どおり正倉院展が開催されることを願っています・・・。