ヨーロッパの限りない大地

ヨーロッパの色々な都市を訪問した思い出をつづっていきたいです。

白猫スマイリーの奇跡の猫背④

2019-06-29 21:31:39 | 小説
ドスン!と落ちる衝撃で、スマイリーは我に帰ったような気がしました。

自分の周りに人の気配を感じます。

恐る恐る涙目を開けると、見慣れたFちゃん夫婦の顔、妹猫のハッピー、そして知らない白衣のおじさんが自分を心配そうに見つめていました。

「ふにゃん!」思わずFちゃんの胸に飛び込みます。

「スマイリー、どうしたの、大丈夫?」、Fちゃんがびっくりして話しかけます。

怖い目にあった後だったので、必死でにゃーにゃーとしがみつくスマイリーでした。

最初はみんな唖然としていましたが、あまりのスマイリーの怖がりように次第にみんなが笑い出しました。

それに気付くと、スマイリーはばつ悪そうにFちゃんから離れるのでした。

「どうやら目が覚めたようだね」知らないおじさんがつぶやきます。

「大聖堂の前で激しい光を浴びて、一種のショック状態のようになってしまっていたね。こちらに運ばれてからは時々もぐもぐ口を動かしつつも安静にしていたが、目の覚める直前に激しく痙攣していたね。へんな夢でも見たのかな?」

どうやらそのおじさんは獣医さんのようです。そしてここはアミアンの動物病院のようです。

スマイリーは冷静になって自分の体を見渡します。前と同じ小太りのままです。

またそっと病院の鏡を覗いてみますが背中に何も変化ありません。

結局、スマイリーにとっては数日に感じたことが、実際は一晩の夢に過ぎなかったようです。



スマイリーは体の簡単なチェックをしてもらい、特に異常なかったので、すぐに退院できました。

もうその日のうちに、アミアンからブリュッセルに帰ります。

駅への道すがら、大聖堂の前に立ち寄ります。

ファサードを見ると、スマイリーが夢で見た、細面のマリア様もそこにいました。

もちろん、スマイリーを叱ったときのようなお顔ではなく、やさしい表情をしていました。

思わずスマイリーはじっと見つめます。

とすると、スマイリーに向かってニコッと笑い、ウインクしてきました。

「ぎゃ!」と思わずスマイリーは驚き、Fちゃん夫婦やハッピーを見ましたが、特に何も気づいてないようでした。

もう一度おそるおそるじっくりとマリア様のお顔を見ますが、やっぱり動きのない彫像そのものでした。

「マリア様に叱られないように、少しはダイエットしなくちゃだめかニャ」と、スマイリーは自分の丸っこい背中をそっと振り返り見しながら思うのでした・・・。

(完)


白猫スマイリーの奇跡の猫背③

2019-06-29 21:29:43 | 小説
そう、アミアンの大聖堂で見かけた、聖母マリアさまが立っていたのです。

目の前のお姿はどうやら怒っているようです。

スマイリーを睨みつけながら、マリア様は言います。

「私はお前が心の清らかで、ピュアな子猫だと思っていました。それがいったいなんですか、みんながお供えのご馳走を持ってくるのをいいことに、欲望の塊となって自堕落に過ごす日々、本当にお前には失望しました。」

「ひえー許してぇ~」スマイリーは丸く縮こまって許しを請います。

「それからね・・・」マリア様は声を低くして続けます。

「お前が太りすぎたおかげで、私の顔も太ってしまっているじゃない!」

スマイリーはどきっとしました。

そうなんです。鏡でそっと背中を見てみると、スマイリーがぶくぶく太ったため、背中の表面積が広くなり、マリア様の細面の顔もでっぷりとしてしまったのです!

「残念ですが、その背中は元に戻します」

と冷たい声で言うと、マリア様からまぶしい光が発せられました。ちょうどアミアンの大聖堂の前でスマイリーが感じたのと同じような光線が・・・。

「ふにー・・・」

背中に熱いものを感じながら、スマイリーは別世界に落ちていくように感じました。もうこれでみんなにあがめられるのも、そして大好きなご馳走ともお別れなのか、と感じながら・・・。

(続く)