桜キューブ

　私の住む町は平地が少ない。丘とその合間を縫うように流れる川。その川の周辺の狭い平地から構成されている。川沿いの平地には横浜駅に向かう相鉄線が川と平行して走り、踏切と川を超える橋がセットで設けられている。電車が来る、と言う段になると気の短い人は耐えられないほどの長さ、踏み切り前で待たされることになる。あまりの酷さに耐えかねて現在線路の高架化工事中だ。そのために今現在は私の最寄り駅も駅の上に高架化後の工事中の駅がある不思議な構造になっている。

　駅の上に駅が乗っかっている不思議な構造の駅を降りると、駅前は大したものもない住宅地の始まりだ。以前は駅前商店街があったが今は寂れてしまった、というほどの駅前商店街も無い。床屋と飲み屋と寿司屋と美容院と絵画教室と歯医者。だいたいこれがオールスターキャストだ。5階か6階建てのマンションが最近建つようになってしまったが、それも珍しく、多くは最大3階建ての民家が並ぶ。

　その一角に一辺が30mか40mぐらいの中規模の長方形の公園がある。いつもは小学生がキャッチボールやサッカーでキャーキャー言っている公園だ。この公園の周囲を数メートルおきに直径が最低でも80cm以上はある太い桜の木が取り囲んでいる。何本あるか数えてみたことがないのでわからないが、20本以上はあるだろう。この桜が今、満開だ。しかも昨夜の雨で少し散って、公園の敷地が花びらで桜色に染まっていて上空はびっしり桜が覆っているように見えるため、その空間全体が大きな桜の花のキューブのように見える。

　出勤前のみなさんが、早足で駅に向かう足を止めて、スマホをかざして写真を撮って行く姿が見られるが、当然なことだ。おそらく、1年のうち数日しか見ることが出来ない美しい光景だ。誰が意図したわけでもないのだろうが、宅地化の中で周囲のみなさんが大切に守って来た桜だからこそ、年に何日かだけでも恩返しに咲いてくれているのかもしれない。

　あいにくの雨だが、横浜周辺の桜は今が見頃だ。いつもとちがう世界を演出してくれる桜たちを、落ち着いてじっくり眺めてみるゆとりがほしい。（三）

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