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「し」か「じ」か?

 昨日、喫茶店で読んだ中日新聞朝刊に「いろは歌」についての記事が載っていた。何気なく読んでいたら、思いもかけぬ内容で少なからず驚いた。

  いろはにほへと ちりぬるを
  わかよたれそ つねならむ
  うゐのおくやま けふこえて
  あさきゆめみし ゑひもせす

という「いろは歌」が次のように解釈されていたのだ。

  色は匂へど 散りぬるを
  我が世誰ぞ 常ならむ
  有為の奥山 今日越えて
  浅き夢見じ 酔ひもせず

 私はずっと、「あさきゆめみし」の箇所を「浅き夢見し」だとばかり思っていて、「浅き夢見じ」という読みだとは全く思っていなかった。つまり、「し」をそのまま過去の助動詞「き」の連用形「し」だと思って、「酔ってもいないのにはかない夢をみてしまったものだ」と解釈していたのであって、否定の意味を表す「じ」とした場合の「酔ってもいないのにはかない夢など見ないよ」という解釈とは正反対の意味にとらえていたことになる。だが、この世の無常を憂う前半部から言って、酔生夢死する己の愚かさを嘆いた私なりの解釈の方が流れがいいのになあ、と思ったものだから、どちらの方がいいのか、少し調べてみた。
 すると、「教えてgoo」に正鵠を射た説明が載っていた。

『「みし」についてはこの歌全体をどう解釈するかで大きく違って来る語だと思います
「あんなに咲き誇っている花だっていつか枯れてしまうのだから、どんなに凄い人だってそれがずっと続く訳じゃない、今日も一日何とかやって来て」
と来て、「あさきゆめみし ゑひもせす」
・酒を飲んだ訳でもないのに、はかない夢なんか見るもんじゃないよ(見じ)
・酔ってる訳じゃないけど、ついつい夢を見てしまう(見し)
最後の解釈の仕方次第で歌の調子がかなり変わってしまいますよね』

Wikipediaなども調べたが、「いろは歌」の「し」を、「し」とするか「じ」とするかは、はっきりと確定はしていないようだった。なにせ、随分昔に作られた「歌」だけに、解釈は人それぞれで構わないということなのだろう。「し」でも「じ」でもどちらでもお構いなく、というような・・。ならば、私は今まで通り、「し」で通していこうと思うが、それも、なんだか己の情けなさが如実に表れた解釈のようでもあり、ちょっと躊躇しないわけでもない。だが、「はかない夢を見るもんじゃないよ」としたり顔に言われても、「夢見なきゃ生きていけないだろう」と言い出してしまうのが私だから、死ぬまで情緒的に生きていくしかないんだろうな、と開き直って、「浅き夢見し、酔いもせず」と断言することにしよう。

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