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新・伝説の男

 T君の家から電話があったのは先週の水曜日。
「熱が出て学校を早引きしてきたので塾休みます」
えっ!彼の第一志望である私立中学の入試は土曜日、何やってるんだ!と思いながらも、
「早く治して下さい」
と言うことしかできなかった・・。
 
 翌木曜日、お母さんと一緒にT君が塾にやって来た。
「熱は下がったんで連れてきましたが・・」
「インフルエンザではなかったんですか?」
「熱が下がって検査しても反応が出ないからって、検査はしてないんですけど、たぶん大丈夫だろうって言われました」
「そうですか。それならいいでしょうね」
と、そのままT君は授業を受けていった。
「少し前からぶら下げてるエアーマスクって意味なかったなあ」
という嫌味に苦笑いしながら。

 さらに金曜日。またT君の家から電話があった。
「今朝からまた熱が出て、医者に行ったらインフルエンザだと診断されました」
「えええ!!インフルエンザですか・・」
「はい・・。明日と明後日の入試は受けさせようと思っていますが」
「そうですね、別室で受けられますよね。ここまで来たら頑張って受けてもらうしかないですね」
「はい。申し訳ありません」
「運が悪いですね・・」
と言いながらも、私は彼のウイルスが他の生徒に伝染していないか、心配で仕方なかった。もし伝染していたら私の判断ミスだ。エラいことになってしまう・・。
 だが、その日やって来た生徒は全員元気そうで、翌日と翌々日の試験に備えて気合い十分だった。
「これならウイルスが逃げてくな」
 生徒にT君のことを話しながらも、この子たちならたぶん大丈夫だろうと思った。

 日曜日の夕方、T君の家からの電話。
「一応二校受験しました」
「体はどうでした?」
「熱は土曜の朝には下がってたんですけど、ボーッとしていて・・」
「そりゃそうですよね。でも、まずは受けることができてよかったです」
「そうですね」
「かえって力が抜けてできてるかもしれませんよ」
「そうだといいんですけど・・」

 で、昨日。医者からの出校許可は火曜日に出たそうなので、前日から塾には来ていたが、試験の結果が分かるのは昨日水曜日。
「こんにちは」
という声が階下から聞こえたので出て行ったら、T君とお母さんが来ていた。
「どうでした?」
「ええ、おかげさまで合格しました」
「おおお!!そうですか。受かりましたか。おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます」
 やはりこの瞬間が最高だ。この感激を味わいたいがために塾をやっているようなものだ。嬉しかった!!

「やるなあ、君!!」
教室に入ってきたT君にお祝いの言葉をかけた。
「これで、伝説の男になったな、君は!。インフルにかかって受けて合格した奴なんて初めてだ!すごい!!」
T君は恥ずかしがり屋なので、にこにこしているだけだったが。、それでも十分喜びが伝わってきた。

 本当によかった。
 でも、まだまだ受験期間は続く。
 気を抜かずに頑張らねば!!! 
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