英語と書評 de 海馬之玄関

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児童英会話におけるカリキュラムの意義

2006年02月19日 10時41分33秒 | 英語教育の話題

児童英会話スクールの講師やスタッフには、日々、保護者からいろんな要望や質問が寄せられています。私は全国展開している二つの児童英会話スクールで、スクールブランド全体の教務責任者を務めていた経験があり、間接的とはいえ保護者からの質問や要望に日常的に接してきました。つまり、スクール現場で働く誰もが保護者、特にお母様方からの質問に適切に答えられるようにすることも私のタスクだったということ。このエントリー記事では、網羅的というわけには行きませんけれども、「レッスンを構成している個々のカリキュラム内容の意義」について考えてみます。

児童英会話のレッスン内容について保護者のお母様方から寄せられる質問や要望には次のようなものがある。

・もっと、楽しくいっぱい英語を話すように子供をリードして欲しい!
・絵本なんか読ませるんじゃなくたくさん英語を話させて欲しい!
・フラッシュカードをもっと速く操作して単語をたくさん覚えさせて欲しい!
・小さな子供にはゲームやアクティビティのルールを日本語で理解させるのも大変なのだから、凝ったゲームは割愛して、単純な英語での応答訓練を増やして欲しい!

・英語の歌を子供に唄わせるのも悪くはないけれど、別に、音楽教室に通わせているのではないのだから、英語を話したり聞いたりする訓練を多くして欲しい!

・うちはクレヨンのお絵描き教室に通わせているんじない! ゲームやアクティビティで使うカードや小道具をレッスン時間中に、子供自身に作らせるのはスクール側の手抜きでは?


これら以外にも多くの質問や要望があるでしょうが、しかし、英語のネーティブスピーカー講師と日本人講師の上手な連携の仕方とかを除けば、スクールのレッスン内容に関してはここで例示したものはまず典型的な質問ではないでしょうか。そう言っても、大方の<同業者>からの賛同を得られると思います。


◆児童英会話を巡る常識
英会話のレッスンなのに、どうして塗り絵や貼り絵にこうも時間をかけるのか? 英語での受け答え練習をする際にどうしていちいちボールを投げあったりするのか/英語で話しをする「権利=順番」を得るためにどうして英語と関係ないゲームで得点しないといけないのか? 3歳の子供が絵本を英語で読んで聞かされても理解しているとは思えない! これらは、例えば、発話意図やナチュラルセッティングの理論、あるいは、記憶と記憶定着におけるコグニティブツールの利用や自己対象化の手法など、一応、言語教授法的な観点から回答可能なものです。

この記事ではこれらの質問や要望に対して、特に「発話意図」の観点からお答えしようと思うのですが、その前に一つ回答の前提をこしらえておきたい。それは、保護者の方々が持っておられる<児童英会話>に関する常識に関するものです。

児童英会話スクールが全国津々浦々に普及し都会でも郡部でも珍しいものではなくなった現在、逆に、スクールにその子供を通わせている保護者の方は、スクール運営スタッフよりも児童英会話スクールを巡る常識に精通しておられる。ならば、児童英会話教育に携わっているサーヴィス供給側は(顧客が抱いている常識がもし間違いであるとしても)サーヴィス需要側の上記の要望や質問に対してはそれら常識を踏まえた回答をしなければ説得力はないでしょう。では、その常識とは何か? かなり自虐的に聞こえるかもしれませんがそれは、次の二つに整理できると考えます。

・児童英会話は所詮小学校3年生までの習い事、つまり、児童英会話は一般的にそう教育効果のあるものではない;なら、アルファベットや幾つかの英単語を覚えさせてもらい英語が好きになり英語への興味を持たせてもらう以上のことを児童英会話スクールには期待していない

・子供達が英語を好きになるかはどうかは所詮講師・スクールスタッフの力量と子供との相性次第、そして、子供達の英語力が伸びるかどうかは究極的には家庭の教育力で定まる;ならば、児童英会話スクールのレッスンカリキュラム内容なんかはどうでもいい


児童英会話は教育効果がない! 児童英会話スクールなどは所詮(英語のネーティブスピーカーの講師がいる)子供達が英語に触れられる託児所にすぎない。

保護者が抱いている<常識>としてにせよこう記すと、同業者の多くは憤慨されて、「それは貴方が勤めておられたスクールのお話しでしょう、私のスクールではそんなことは断じてありません」と反論されるかもしれません。また「児童英会話研修における教育の成果ってどういうものと貴方は考えているのですか」と「成果の概念」について切り替えしてこられる方もおられるでしょう。

しかし、幼稚園の年長から小学校4年生までの5年間、週に1回研修を行ったとして、例えば、スイミングスクールや習字、算盤、新体操、日本舞踊では研修を行ったか行わなかったで、「何かができる/できない」という点では研修成果は厳として存在し容易に確認できるけれど、こと英会話研修に関してはそのような有意の差異は存在しないか少なくとも統計的に確認することは難しい。また、児童英検の各レヴェルで80%以上のスコアを獲得することや英検4級・3級に合格することにおいて児童英会話スクールの研修は邪魔にはならないがさりとてそう合目的的な研修ではないことも自明でしょう。

ここでも、「児童英会話研修における教育の成果とは何か」という本質的な議論は残りますが、精々12歳未満の幼児・児童を抱える家庭の同じ財布をターゲットにして、また、有限な児童の時間(また、生徒を送り迎えする保護者、特にお母様方の時間)を奪い合おうとする<選択肢=コンペティター>として、児童英会話スクールもスイミングスクールや習字、算盤、新体操、ボーイ/ガールスカウト、日本舞踊等々の習い事も捉えた場合、児童英会話研修の成果が他に比べて確認しづらいものであることは児童英会話スクールサーヴィスの供給側は自覚しておくべきだと思います。

そして、子供英会話とはいえ英会話レッスンは生徒と講師の接触であり;異文化の衝突、あるいは、人間と人間の衝突です。よって、児童英会話スクールの下手なレッスンやオペッレーションが原因となって、逆に、英語嫌いの子供達や英米の文化に対して負け犬根性が刷り込まれた日本人を生産する危険性は皆無ではない。ならば、もし、本当に成果がない/成果が社会的に確認できないのなら児童英会話は家庭にとっても社会にとっても小さくない資源の無駄使いに他ならないだけではなく、それはない方がましなものになってしまいかねないと思います。


◆児童英会話研修の成果
児童英会話は教育効果がない! 私自身はこれはある意味正しく半ば間違っていると考えています。つまり、スクールに通っている時だけ英語に触れることで、何か研修の成果があるかと言えばそれはまずない。ポイントは、スクールでのレッスンを1週間の自宅・自己研修の成果の発表の場として位置づける<スクール&家庭>を通じてトータルな研修の仕組み(といいますか、その家庭にとっては英語研修を織り込んだ生活パターン)が成立するかどうかです。

簡単な話しです。児童であれ幼児であれ、研修というものは到達目標が明確でなければ努力を持続することは難しい。また、「どれくらいの期間、毎日どれくらい、どのような努力を継続すれば、今できないこのようなことができるようになる」という努力のマイルストーンが明確でなければ研修の効率性を保つことは難しい。このことは大学受験指導でもロースクールの受験対策でも同じことです。

そして、幼児であれ児童であれ児童英会話スクールが英語力開発という長丁場かつ日々の努力の積み重ねが不可避な工程である限り、スクールのレッスンと家庭での英語への取り組みの結合がこれまた成果達成には不可避になります。而して、この家庭とスクールの効率的協働を確保するためにこそレッスンカリキュラムは必要になってくるのです。思想的・理論的にも一貫しており、スクールと家庭での学習の量と内容を効果的に配分するカリキュラムこそ児童英会話を巡るネガティブな世間の常識を打ち破る必要条件である。私はそう確信しています。

よほど教育力の高い例外的な家庭を除けば、スクール以外の時間にも親子(=家庭)が一丸となって英語に触れる生活スタイルを形成するためには、家庭学習の仕方(=生活スタイルの作り方)にまで情熱と根拠を持ってアドヴァイスする講師・スタッフの力量と子供や家庭との相性が決定的に重要だと思います。逆に言えば、そのようなスクールと家庭との英会話研修を巡る役割分担というかフィードバックの関係が成立して初めて、スクールでのカリキュラムは成果達成に本当に結びついてくる。そして、そのような家庭とスクールの連携が確立でき持続できたのならば、いかに成果の見えにくい英会話研修といえども成果は必ず生じるし確認できる。そう私は信じています。

蓋し、そのような役割分担というかフィードバックの関係が成立しておらず週1回50分の時間だけがスクールでのレッスンのパフォーマンスを左右するのなら、畢竟、絵本なんか読ませたり英語の歌はほどほどにして、たくさん英語を話させること:フラッシュカードの操作をハイスピードにして単語をたくさん覚えさせ:複雑なゲームやアクティビティは割愛して単純な英語での応答訓練を増やすこと:まして、貴重なレッスン時間にゲームやアクティビティで使う小道具を子供自身に作らせるなどは時間の無駄であり論外になるでしょう。

家庭とスクールの連携が確立しているならば英会話研修といえども成果は上げられるしその成果は確認できる、と私は上で書きました。では、児童英会話研修における成果と何でしょうか? 

このテーマに関して面白いことは、児童英会話のマーケットというか需要側がそう明確な「成果」のイメージを持っていないことだと思います。逆に言えば、需要側が漠然とした「成果イメージ」しか持っていないから、供給側もそれに甘えて(?)、「子供達を英語好きにする」「国際化の時代にふさわしい外国人や異文化に対するみずみずしい感受性と広い心を育てる」「街頭で外国人に英語で道案内ができるようにする」、あるいは、児童英会話と直接の関連は薄いことは明らかなのに「小学校4年までに英検4級、小学校卒業までに英検3級全員合格」とかの曖昧で非本質的な「成果目標」を掲げているのかもしれません。これはおかしいでしょう。

では、児童英会話スクールが達成すべき成果はどんなものでしょうか? 私はこの点に関しては極めて単純に考えています。英検対策・高校受験対策・TOEIC対策、等々いろいろ切り口はあるにせよ所詮英語は一つということ。また、どのような試験もそれが試験として確立されているのならば、それをクリアするためには特別で特殊な対策が幾らかは必要である、と。これらを前提にすれば成果も摩訶不思議なものではなくなるはずです。

而して、児童英会話の成果とは、例えば、6,000語の英単語と600のイデオム、600の定型文を覚え適切なときにそれらを発話でき聞き取れる能力の開発:而して、10歳未満という、所謂言語習得の臨界期以前の年齢の子供達の研修を行うのだから、英語特有の音韻・音声パターンの体得を最低限の獲得目標にすべきと考えます。そして、このような目標が達成されると約束するのなら、その帰結として試験慣れのための対策講座の若干の履修を条件に、例えば、「研修開始後3年目には英検4級、同じく研修開始5年目には英検3級の合格はほぼ達成できる」というのが(もちろん、約束すれば「詐欺」になりますが)、児童英会話研修の成果になるのかと思っています。


◆児童英会話のカリキュラム内容
児童英会話スクールに対して上で述べた常識以上の成果を求めない家庭が教育に不熱心な家庭であり、常識を超えて成果を求める家庭が子供思いの教育熱心な家庭というわけでもない。英語など子供たちが小学校卒業までに身につけるべき知識・スキル・経験の極々一つにしかすぎないでしょうから。

ですから現在でもそうですが、児童英会話スクールにも自分の所を英語に触れる託児所と割り切る所もあれば、児童英検・英検・TOEIC Bridgeの対策スクールと位置づける所、はたまた、「英語を使って自分の言いたいことを言う。そのためには、相手の言い分も英語で聞き取れるようになる」そんな英語でのコミュニケーションスキルを開発するスクールと自己規定する所もある。而して、このようなことは言うまでもないですが、各家庭の児童英会話に関するニーズと投入できる資源(正直、費用というより、スクールへの送り迎えや家庭学習のフォローに保護者が使える時間と労力)を勘案して、その目的にあったスクールを選べばよいのだと思います。

けれども、各々の家庭で英語研修にどれだけの資源(費用・時間・労力)を投入されるにせよ、どうせ週に1~2回レッスンに通わせるのならば(送り迎えの時間を入れれば、週に最低でも3~6時間を使うのならば)、レッスンカリキュラムの意味とか狙いについて理解できていた方がいいに決まっている。それらをもう少し知っていれば、英会話研修に関して家庭とスクールの連携がよりスムースになり、而して、成果もより上げやすくなるはずだからです。冒頭に掲げた要望・質問を題材に、最後に、児童英会話カリキュラムの狙いと意味について簡単に説明したいと思います。



①楽しくいっぱい英語を話すように子供をリードして欲しい!
幼児であれ児童であれ大人であれ、楽しくもないのに楽しく話すことはできません。また、英語を話したくもないのに英語を話す気にはなりません。要は、子供達がその小さな小さな胸の内に「今、この内容を私は英語で言いたい!」という欲求を抱いているときに、その欲求と発話したい内容に英語で形を与えて初めて、楽しく・英語を・たくさん話すレッスンは可能なのです。言語コミュニケーションスキルの開発において、この欲求や発話の意図に形を与えることが極めて重要であり効率的であるという思想と理論を「発話意図論」と呼びます。

②絵本なんか読ませるんじゃなくたくさん英語を話させて欲しい!/英語の歌より英語を話したり聞いたりする訓練を多くして欲しい!
50分のレッスン。いや、30分のレッスンでも大人の講師(まして、英語のネーティブスピーカーの講師)との少人数のレッスンは子供達にとってストレスフルなものであり、逆に、エキサイティングなものです。要は、レッスン内の休憩は不可避なのです。

また、自我や自意識が完全に確立していない学齢の子供達にとって、大好きな先生と大好きな英語を話して興奮している時に、絵本を読む/塗り絵をする/歌を唄うという時間は、自己対象化(=今、大好きな英語を勉強している自分を意識するため)の時間であり、学習内容を定着させ、他方、レッスンが終わり興奮が収まった段階でも、「僕は/私は今日英語を勉強した。楽しかった」という事柄;英語学習への自分自身の興味を自分自身で確認できるよになるために重要なことなのです。加えて、英語特有のリズムを子供達自身の身体に馴染ませるために英語の歌を唄うことは重要でしょう。

③フラッシュカードをもっと速く操作して単語をたくさん覚えさせて欲しい!
記憶の定着強化のために、記憶を呼び出す契機(=この場合、英単語とその表すイメージを描いたフラッシュカードを見てその英単語を発声すること)を漸次高速で操作することは有効です。けれど、記憶の定着の強化を英会話スクールの貴重なレッスン時間に行うことは効率的でもなくコストパフォーマンスから見ても無駄だと言えるでしょう。要は、週に1~2回のレッスンは覚えるべき新しい概念にきちんと触れること、および、覚えた概念をいろんな場面で使ってみることに使うべきであり、高速フラッシュカード技法による記憶定着はご家庭で行うのに適したものだと思います。

④凝ったゲームは割愛して単純な英語での応答訓練を増やして欲しい!/ゲームやアクティビティで使うカードや小道具をレッスン時間中に、子供自身に作らせるのはスクール側の手抜きでは?
「発話意図」に言葉の形を与えるのが英語教育です。ならば、どうすれば児童英会話レッスンという人為的な空間で、子供達に「今、これを相手に言いたい!」という内容をコンスタントに持ってもらうことができるでしょうか。ゲームや小道具の自作は、「それについて自分が話したい内容」を子供達に持ってもらうための手法なのです。カリキュラムとして人為的に小道具やカードの制作をさせ、あるいは、発話する権利をゲームによって獲得するなどして、小道具や今英語を話せる立場にあることこだわりやプライドを持たせ、子供達に発話意図を人為的に与えたり強化する手法です。そして、この手続きを通して身につけた英単語やイデオムや定型表現を定着するのは、これまた家庭での作業に任せる方が効率的だと思います。








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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
I have an earache... (ハイジ)
2006-02-22 18:39:06
おっしゃるとおりで!!

家庭とスクールとの連携が確立されてこそ効果がありますねぇ~~

とわかってはいるのだけれど・・・とっても耳が痛いです



示唆に富むこちらの記事ですが以下の3つの立場を持つ私としてはどの立場からコメントしていいのやらとっても悩むところです(笑)



①一応に英語教授法の知識を持つ立場。

②児童英会話のネイティブ講師から裏ばなしを始終聞いている立場。

③娘を実際に児童英会話スクールに長年通わせていた立場。



そして③の立場から言うと、

キッパリ!!家庭ではなにもやっていませんでした

元来真面目でなく大らか子育てなもので、、、

レッスン時には「発話意図」を大切にし、毎回なんらかの達成感さえ感じてくれれば、、、そして言語のcritical period以前に英語に必要な言語脳が刺激されれば・・・くらいの考えでした。



ネイティブ講師からのクレームの根源に潜むもののひとつに現在の日本での英語教育の迷いやあいまいさがあるのでしょう。

小学校での英語教育もきちんとしたカリキュラムのないまま母親たちがあせるばかりで。

そして中学での英語教育を視野に入れると問題は余計に複雑です。。。私立中学だとnatural methodを採用するところなどもありかえってフォニックスを知っていることなどが障害にもなりかねます。



・・・なんて、よく言えば常にflexible!!ハッキリ言えばいつも「てきとう」な私が言っても説得力に欠けますね。

右脳で生きているような私は大のカリキュラム嫌い・・・シラバスが作れない!!いや!作りたくない!!



theoryから入ると「こうやってこうやって、、、こうやるべき・・・」なんてなるのでしょうけれど、

所詮世の中そんなに思ったとおりにいくはずないですし。

1回の授業でも与えられた2時間、3時間をどう使っていくか、、、生徒の反応を見ながら、まるでステージを与えられたかのように授業を作っていくのが私の快感でもあるのです



追伸:

フラッシュカードをもっと速く操作して・・・

には笑ってしまいました。

だったら藤井あきらさんにお願いしてみたらいかがでしょうか?(爆)
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