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世界金融危機への対処の日米落差☆MBA進学の決断と「派遣村-京品ホテル」騒動との間の絶望的な距離

2009年01月29日 22時02分08秒 | 日々感じたこととか


世界金融危機は「金融の危機」を遥かに越えて自動車生産&販売・不動産取引・石油価格・食品生産等々の実体経済にも甚大な影響を与え始めており、IMFの見通しでは「世界経済の2009年の成長率は戦後最悪の0.5%」に留まるとの報道もなされています。而して、この経済情勢を睨んで企業の投資動向も低迷しており、就中、雇用の縮小傾向は内外とも決定的というべきでしょう。

けれども、この「経済情勢」を共通の与件としながらも日本と世界、特に、日本とアメリカにおける労働者の行動と心性にはほとんど絶望的に見える差があるように思えてなりません。畢竟、世界金融危機に対処する日本社会とアメリカ社会との距離はおそらく太平洋よりも広大ではないのか、と。

所有権を尊重する資本主義社会では(極論すれば、雇用契約と労働法規を遵守している限り、増収増益の企業を店仕舞いにすることも企業所有者の勝手である資本主義社会では)その解雇に関して「偽装倒産→不当解雇」等々の不埒な経緯があったとしても、否、「公共の福祉のための権利制限」を除くいかなる理由によっても許されるはずのない「企業施設の労働側による自主運営」を行い、結局、強制排除された京品ホテルの強制代執行、あるいは政治宣伝目的のパフォーマンスでしかなかったとさえ疑われる「年越し派遣村騒動」等々、この社会が資本主義社会であり自己責任の原則に価値を置く自由主義社会であることが理解されていない状況が日本では散見されます。それに対して、もちろん日本と同様に世界金融危機の中での厳しい経済情勢を抱えるアメリカ社会では、「共和党→民主党」の政権交代にかかわらず一貫して自己責任の原則と資本主義を支持する健全な世論が支配しているように思われる。

更に、日本では、そのアメリカ発の今次の世界金融危機をもって(当然批判されるべき金融機関、就中、派生金融商品の開発と流通に関する法制度の不備だけではなく)、「小さな政府」を志向する「市場万能主義−新自由主義」の破産、あまつさえ、『蟹工船』『資本論』ブームを引き合いに出しながら資本主義自体の蹉跌や終焉を喧伝する風潮も皆無ではない。蓋し、これらは「寝言は寝て言え」ものの戯言である。そう私は考えています。

世界金融危機が資本主義の終焉を意味するというナイーブな心性は、しかし、世の中を「善悪の二元論」で理解するこの国にありがちなものかもしれません。実際、公害批判が吹き荒れた1960年代後半から1970年代前半には「科学文明の終焉」さえ叫ばれ、1973年と1978年の石油危機の際には「貿易立国日本の黄昏」が、而して、大東亜戦争の後には「戦前的な思想・制度の全否定」が真顔で公言されたのですから。

畢竟、「All or Nothing」の心性は社会と個人とを問わず、それが現実に抱える諸問題を現実的に解決する上ではあまり生産的なものではないでしょう。蓋し、その就任演説で、"The question we ask today is not whether government is too big or too small, but whether it works." 「今日我々に突きつけられている問題は政府が大きすぎるか、それとも、小さすぎるかなどではなく、それが機能しているかどうかだ」とアメリカ国民に語りかけたオバマ大統領の姿勢に日本国民も学ぶ所は少なくないと思います。

いずれにせよ、「市場万能主義」など新自由主義の論者の誰も主張していない。つまり、所謂「市場の失敗」の存在(=市場の働きだけでは効率的な資源の配分が実現できない幾つものケースが存在すること)、更には、市場の働きだけでは「公平な所得配分」は原理的に期待できないこと、よって、市場主義は国家権力の経済政策を否定などしていないことはミクロ経済学のどのような教科書にも書かれていることではないでしょうか。

また、マルクス主義の経済理論が、最早、「理論」としては成立し得ないことは自明でしょう。蓋し、①それが資本主義の不道徳を糾弾する基盤たる「剰余価値論」のそのまた根幹たる所謂「労働価値説」がべーム・バヴェルクが喝破した如く単なる循環論法にすぎないこと、②昔懐かしい「恐慌→革命」論や窮乏化革命論の<理論的>前提であった「資本の有機的構成比の高度化傾向」の予想は『資本論』出版後142年間マクロ的にはついに実現しなかったこと。

③カール・ポパーが『歴史主義の貧困』で看破した、所謂「唯物史観」の科学方法論的な無根拠性、④フリードリヒ・ハイエクが論証した「人権抑圧の官僚的独裁のシステムにならざるを得ない社会主義経済体制」の本質。而して、⑤古典派経済学の枠組みの内部で成立した「マルクス主義経済理論」の限界性としてのヨーゼフ・シュンペーターのいう意味での「イノベーションの契機」の看過した理論体系であること。これらのポイントを鑑みれば経済政策を導く理論としてのマルクス主義は最早成立しないことは自明だと思います。

ならば、1989年—1991年にその破綻が歴史的に確定した社会主義を(世界金融危機を奇貨として)、あたかも、市場から一旦回収された「賞味期限切れの毒餃子」を流通経路に戻すが如き社会主義からの「資本主義—新自由主義」批判は噴飯ものの主張と言わざるをえないのではないでしょうか。


All or Nothing的心性からの脱却は、しかし、「曖昧」や「穏当」を許容する「旧田中—竹下派的心性」への回帰を意味するものではない。それは、不確定で錯綜した状況に拮抗しつつ「一歩でも半歩でも理想を実現する」ために自己のパフォーマンスの改善(国家においては教育改革と構造改革と産業調整:個人においてはスキル開発)を怠らない態度ではなかろうか。と、そう私は考えています。

而して、些か旧聞に属しますがこの点に関して参考になる記事を目にしたので紹介します。出典はNew York Timesの” In Tough Times, M.B.A. Applications May Be an Economic Indicator,”Oct7, 2008「経済危機を迎えてMBA出願者数は経済動向を占う指標になるか」です。


MBA留学準備指導の専門家だった私から言わせていただければ、この記事は、

(1)日本ではその学位さえ取れば望み通りの転職が可能になる「何か凄い所」とかいまだに漠然と捉えられる向きもあるMBAですが、本場のアメリカではそれは所詮「今のスキルでは出世できにくい人材が仕方なく行く職業訓練所の一種」という側面。すなわち、「MBAは高級立ち食い蕎麦屋ならぬ高級職業訓練所である」経緯が的確に書かれている。加えて、(2)アメリカでは、これまた「デモシカMBA」や「赤信号とMBAは皆で渡れば怖くない」式の「何となくクリスタルなMBA留学」がいまだに少なくない日本とは異なり、MBA出願者はMBA進学の投資効果を真剣に考えた上でMBA出願の是非の判断をしている状況が奇麗に描かれていると思います。

尚、このNYTの記事は「アメリカの大学・大学院の入学審査の仕組み」に関しての背景的知識がないと些かわかりにくいかもしれない。そう思い記事末尾に註と参考記事URLをつけました。よろしければそれらも併せてご一読いただければと思います。




HERE’S a pop quiz for the M.B.A. crowd: With the sharp downturn on Wall Street, applications to the nation’s business schools are likely to a) fall, b) hold steady or c) rally like a tech stock in 1999?

It’s not an academic question. Deadlines for first-round applications at many business schools are rapidly approaching. Some admissions officers are already reporting larger-than-normal crowds at events for potential applicants, which could mean that many people are thinking about leaving the Street to take shelter in the quad.

“It’s a very predictable and reliable pattern,” said Stacey Kole, deputy dean for the full-time M.B.A. program at the University of Chicago’s Graduate School of Business. “When there’s a go-go economy, fewer people decide to go back to school. When things go south, the opportunity cost of leaving work is lower.”


MBA関係者の間で人口に膾炙している旬な質問がある。ウォールストリートの業績急降下を受けて、アメリカ国内のMBAに対する出願者は、a)減少する、b) 堅調に推移しそう変化はない、あるいは、c)1999年のハイテク株と同様大幅に増える。この中のどれになるだろうか、と。

これは学問的な質問ではないけれど、ビジネススクールの多くで第一期の出願締め切り日が刻々と迫ってきている現在、本当の結果がいずれになるかはもちろん不明であるにせよ、予想される出願者数は通常の年よりも増える模様であるという報告がすでに幾つかのビジネススクールの入学審査関係者から出され始めている。而して、このことは、多くの人々がウォールストリートから大学に避難しようとしていることを推測させるものだろう。

「それは(ウォールストリートの業績(≒株式市場の動向)とMBA志願者数の関係は)予測に援用可能な信頼にたる優れものの傾向ですよ」と、シカゴ大学経営学大学院のフルタイムMBAコース副学部長 Stacey Kole 女史は述べている。「経済が活況を呈している時に学校に戻る決断をする人はそう多くはないということでしょう。他方、経済動向が思わしくなければ、職を離れる機会損失は相対的に低くなるということでしょう」とも。




During each of the four officially declared recessions since 1980, the number of people taking the Graduate Management Admission Test ― a requirement for most business school applications ― peaked or was about to peak. Through Sept. 30 of this year, registrations for the test were running about 11.6 percent higher than in the comparable period of 2007, according to the Graduate Management Admission Council, which administers the test.・・・

Not everyone agrees that a Wall Street bust is followed by a boom in business school applicants.

The director of M.B.A. admissions at the Stanford Graduate School of Business, Derrick Bolton, said he had seen little correlation. Even after some of Wall Street’s most wrenching periods, such as the market crash of 1987, the application numbers at his school were “pretty standard,” he said. Demographics, as opposed to the swings of the stock market, are a much bigger factor, he said.


1980年以降、政府が公式に不況期であると言明した4回はすべて、例えば、大部分のビジネススクールが入学審査の要件としている the Graduate Management Admission Test を見ても、それら四つの期間のGMAT受験者はすべてその前後の年よりも多いかそれに準じる状況だった。GMATを実施している Graduate Management Admission Council によれば、今年の【2008年】9月30日時点でのGMAT申込者数は2007年の同月末比で約11.6%増になっている。(中略)

ウォールストリートの低迷はビジネススクール志願者の激増をともなうという主張にすべての論者が同意しているわけではない。

スタンフォード経営学大学院のMBA入学審査総責任者、Derrick Bolton氏はそこには(ウォールストリートの低迷、すなわち、株式市場の低迷とビジネススクールの志願者の増減には)ほとんど相関関係は見いだせないと述べている。ウォールストリートが最も不況に呻吟していた過去何回かの時期でさえも、そう例えば1987年の市場暴落の際にも【ブラックマンデーの際にも】 Bolton氏が勤めているスタンフォード大学の志願者数は「全くもって通常通り」だった。株式市場の浮き沈み動向などと比べても人口統計的な諸要素の方がよほど重要な【MBA志願者数を決定する】要因であるとBolton氏は語ってくれた。



The habits of M.B.A.’s have inspired economic theories over the years.

One tongue-in-cheek gauge, called the Harvard M.B.A. Indicator, takes into account the kinds of jobs taken by the latest graduating class at Harvard Business School. If more than 30 percent of graduates end up in “market-sensitive jobs,” which include investment banking, private equity and hedge funds, it’s a long-term sell signal for stocks, said Ray Soifer of Soifer Consulting, a former banking analyst (and Harvard Business School alumnus) who created the index and has tracked it for several years.

That indicator reached a record 40 percent for the class of 2007 ― its strongest signal yet to sell. But Mr. Soifer is quick to add that the index ― driven by the idea that when Wall Street is ballooning, the market is probably peaking ― is mostly for fun. As a market bellwether, he said, it “may or may not be better than the Super Bowl.”


MBA学位取得者の行動パターンはここ数年来、経済学理論を刺激しつつある。

ハーバードビジネススクール指標と呼ばれることもある裏腹尺度なるものは、ハーバードビジネススクールの直近の卒業生の就職先業種を計算に入れるものであり、もし、30%以上の卒業生が「市場-敏感型職業」、つまり、投資銀行や資産運用会社、あるいは、ヘッジファンド等が含まれるそのような業種に就職したとすれば、それは長期的には株売却を促す徴候である。そう、Soifer Consultingの Ray Soifer氏は述べている。Soifer氏は銀行分析のかっての専門家であり(もちろん、ハーバードビジネススクールの卒業生の一人でもあり)この指標を開発し、ここ数年に亘ってこの指標と現実の関連を追跡している人物なのだけれども。

この指標によれば2007年-2008年のクラスに関してその記録はクラスの40%に達しており、それは株がとっくに売り局面にあったことを強烈に示唆するシグナルだった。しかし、Soifer氏は大急ぎでこう付け加える。この指標は、ウォールストリートが拡大を呈している際には市場もまた最高潮に達しつつあるという大枠の想定から考えだされたものにすぎず、この指標はもっぱら遊び心から作られたものだ。而して、市場の先導者としてこの指標は「スーパーボールと比べてよい勝負という所くらいではないでしょうかね」とも。



◆KABU註:米英MBAのアドミッションの仕組みと舞台裏
MBAを含む米英の大学・大学院には原則「入学試験」というものはなく、ほとんどのケースでは書類審査&インタビューで合否が判定されます。大学学部の成績指数であるGPA、この記事でも紹介されているMBA出願者に対する適性テストのGMAT、または、英語の母語話者ではない志願者に要求される英語力判定テストであるTOEFL等々の各種スコアは、米英の大学・大学院の入学審査においては「必須提出書類」の一つという位置づけになります。

また、米英の大学・大学院に原則「入学試験」が存在しないことから(例えば、9月1日の新学期スタートに併せて、6月1日なりに全国何会場かに志願者を一同に集めて適性と能力をテストするなどということができないということですから、)TOEFLやGMATを含めた「出願書類」の締め切り日は日本に比べて遥かに早くかつ複数回設定されることになります。この記事で取り上げられているシカゴ大学やスタンフォード大学、そして、ハーバード大学を含む大部分のTop MBAでは例年、(翌年の9月入学に対して)前年の11月から遅くとも2月上旬にかけて複数回の締め切り日を設けています。

そして、あるMBAが第1回目の締め切り日受付分の出願者から(入学辞退者を見込んだ)入学定員のほとんどを確保したような場合には、実質、(当該MBAで入学審査を所轄しているアドミッションオフィスが想定した「合格者の辞退率」を越えて入学辞退者が出ない限り)2回目以降の締め切り日は当たりクジが入っていない「空クジ大会」の様相を呈することになります。

正直に言って、TOP校になればなるだけ「辞退率」が低いのは当然であり(=「歩留り率」が高いのは当たり前であり)、また、何事にも如才ない有力な出願者は早期の締め切り日にエントリーする傾向がありますので、Top MBAに関しては第2回目以降の締め切り日でのエントリーはそれだけで最初からハンディーを背負っていると言っても過言ではない。畢竟、この意味でも資本主義社会は「Time is money.」なのです。


・英米大学院留学の心得のようなもの
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/459373e67aa7a4be826125ceeea5c465

・英米大学院留学のTipsのようなもの<エッセー編>
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/d879ae5ed8c458f6e5f3f4f4225e3607





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