英語と書評 de 海馬之玄関

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「福田康夫首相」とその時代

2008年09月07日 14時48分12秒 | 日々感じたこととか


福田康夫首相の突然の辞意表明は、「優秀ではあるが時代や世間とご自身の政治スタイルとのずれを理解できない、最も首相になってはならない政治家」の退陣表明であり日本のためには喜ばしいことと言うべきでしょう。けれども、一政治家の出処進退としてみた場合、9月1日の突然の辞任表明は呆れるほど無責任だったと思う。而して、この辞意の表明を通して私は、福田康夫氏が首相に就任できた現在の日本社会について考えさせられました。


■福田康夫首相の歴史的使命
福田康夫首相の登場は、(これはその再起を念じての叱咤激励の呼称なのですが)「根性なしの安倍前首相」の退陣を受け、火中の栗を拾ってのものでした。畢竟、(当時の)法律違反ではない事務所経費の記載の不適切さ、あるいは、自治労傘下、社会保険庁の寄生虫職員の<自爆テロ>的な内部告発を端緒とした年金問題なるものを理由とした安倍政権への常軌を逸したマスコミ報道の大渦の中で浮き足立った政界を落ち着かせることが「福田康夫首相」の歴史的な役割だった。而して、政権発足後4ヵ月程でその使命を福田首相は過不足なく果たしたのではいか。ならば、インド洋での給油活動に海上自衛隊を派遣する、所謂テロ特措法の衆議院での再可決で福田首相の歴史的使命は終っていたのかもしれない。そう私は思っています。

実際、民主党の小沢代表と気脈を通じて「大連立構想」に踏み込んだその手腕は敵ながら侮り難しだった(もし、大連立構想が日の目を見たとすれば、自民-民主内部の守旧派主導の政界再編が進み、保守改革派主導の政権の誕生は2013年の参議院選挙まで不可能だったかもしれませんから)。前回は「福田-麻生の一騎打ち」だった自民党総裁選挙が、1年後の今回は立候補者が6人とも7人とも噂される状況になったについては、安倍政権末期の疾風怒濤の浮ついた政界が一応落ち着き、かつ、与野党問わず誰もが初めて経験する「衆参ネジレ国会体制」を前に立ち竦んでいた状況が、同じく誰にとっても好ましくもなく不愉快ではあるものの既知の与件になったことが大きいのではないでしょうか。蓋し、まがりなりにも自民党総裁選に噂にせよ6人も7人もの立候補者が現われるところまで日本の政治シーンを落ち着かせた福田康夫首相の功績は認めなければフェアではないと思います。

「貧乏籤かもしらんよ」と自覚しながら、実際に引いたくじがご本人的には「貧乏籤」であったのだろう福田康夫首相。けれども、私は引いた籤を「貧乏籤」にしてしまったのは福田氏自身の責任でもあったと思うのです。畢竟、その政権の歴史的使命を果たしたテロ特措法の衆議院での再可決以降この8月末に秋の臨時国会の会期を決めるまで、福田首相のパフォーマンスは惨憺たるものだった。そして、「福田康夫首相とその時代」を考える上での最重要なポイント、あるいは、最も有効な補助線とも言うべきものは、その政権の歴史的使命が終焉して以降の政権と首相のパフォーマンスに関して福田康夫首相と日本社会の認識が絶望的なほど乖離していたことではないでしょうか。それは、この社会が政治に求めているものを福田康夫首相がついに理解できなかったことに収束すると思いますが、この点に関してはとりあえず下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。

・「福田康夫首相」とは何だったのか☆内閣改造ですか、それが何か?
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/54736993.html

・「福田康夫首相」とは何だったのか☆胡錦濤主席訪日の<成功>が照射する日本外交の機能不全
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/54818757.html


■拉致問題の軽さと自衛隊に対する失礼
福田政権崩壊の理由は福田康夫首相の不人気であった。而して、福田康夫首相の不人気の理由は首相の政治的パフォーマンスの低さでは必ずしもなく、福田康夫氏の政治的な発信能力の低さであろう。そして、自身「温もりのある政治めざす」という国会での所信表明演説や、外国に対しては「相手の嫌がることはしない」という大人の気配りとは裏腹に、福田康夫氏の政治的な発信能力の低さの究極の理由は国民個々の思いや運命に関する無関心、あるいは、国のために日々命をかけて貢献されている自衛官諸君に対する感謝と尊敬の念の欠如であろうと思います。それは、一言で言えば時代遅れの<エリート意識>のなせる業というべきか。

福田康夫首相は1年前の総裁選挙において「拉致問題を自分の手で解決したい」と大見得を切って対抗馬の麻生ローゼン閣下を降し宰相の印綬を帯びたのでなかったか。けれど、今回の突然の退陣によって北朝鮮は当然のように拉致問題解決のアクションを停止した。もっとも、おそらく誰も北朝鮮が本気で拉致問題の解決を行うなどとは考えていなかったでしょう。けれども、今回の突然の辞意表明が(恒常的に「時間稼ぎ」を狙う)北朝鮮に対して拉致問題解決に向けたアクションの停止をオフィシャルに宣言する理由を与えたことは間違いないと思います。

而して、このような北朝鮮のアクションは素人であればともかく、外交のエキスパートを任じる福田康夫首相であれば当然予測できたはず。もし、この想定が満更福田首相に酷なものではないとするならば、蓋し、福田康夫首相が1年前に語った「拉致問題を自分の手で解決したい」という言葉は総裁選挙用のレトリックでしかなかったことになり、畢竟、私は福田康夫氏が、拉致被害者-被害者遺族の気持ちも、そして、他国に自国民を拉致されるという主権侵害の重大さに関しても本当は個人的にはあまり関心がなかったのだろうと判断せざるをえない。

◆拉致調査委、設置先送り=新内閣の政策見極めへ-北朝鮮
高村正彦外相は5日午前の記者会見で、日朝両政府が合意した拉致被害者の再調査について、北朝鮮が「日本側の事情にかんがみ、新政権が(経済制裁一部解除の)履行についてどういう考えなのか見極めるまで調査委員会発足を差し控える」と通告してきたことを明らかにした。

北朝鮮の通告は4日夜、在北京日本大使館にあった。福田康夫首相に代わる新首相の対北朝鮮政策を見極める方針を明確にしたもので、今秋をめどとした調査結果取りまとめが大幅にずれ込むのは避けられない見通しとなった。

北朝鮮の対応について、高村外相は会見で「非常に残念だ。これからも早期に調査を開始するよう働き掛けたい」と述べた。町村信孝官房長官も会見で「(拉致問題は)政権が代わっても大変重要な外交課題で、こういう対応は残念だ」と語った。

外相によると、日本政府は首相退陣表明後の2日、北京の大使館ルートを通じて再調査の早期開始を北朝鮮に要求。4日の通告はこれに対する回答として行われたという。この際、北朝鮮は「日朝実務者協議の合意事項を履行する立場だ」として、再調査先送りの責任は日本側にあるとの認識を示した。【時事通信:9月5日】


◆最高指揮官の首相、異例の欠席=自衛隊高級幹部会同
福田康夫首相は3日午前、防衛省で行われた自衛隊高級幹部会同を欠席した。同会同では最高指揮官の首相が訓示するのが恒例となっているが、今年は代理出席もない異例の事態となった。

過去10年間では、2001年と02年に外遊のため小泉純一郎首相(当時)が欠席した例があるが、その際も福田官房長官(同)が代理出席した。

福田首相は1日の退陣表明以降、1日1、2回行ってきた「ぶら下がり取材」に応じないなど、表に出る機会を減らしている。自衛隊法で「自衛隊の最高指揮監督権を有する」と定められる首相が、全国から集まった幹部の前で訓示せず、代理も立てない姿勢には疑問の声も出てきそうだ。【時事通信:9月3日】



海外で今回の福田康夫首相の辞意表明と福田以後の日本の政治の行方の予想はどう報じられているのか。私は、福田後継の総理総裁の帰趨よりも、来る総選挙を終えた段階での日本の政治構造が遥かに重要だと考えていますが、その総選挙後の日本の政治構造を考える上でも海外から日本の政治に注がれる目線をフォローすることは無駄ではないと思う。以下、海外報道を紹介する所以です。出典はいずれもReutersの記事。







●Japan PM Fukuda quits over parliament deadlock
Unpopular Japanese Prime Minister Yasuo Fukuda resigned on Monday over a political deadlock, becoming the second leader to quit abruptly in less than a year and threatening a policy vacuum as Japan slips towards a recession.

Fukuda, 72, has been struggling to cope with a divided parliament where opposition parties have the power to delay legislation. His sudden departure has deepened doubts about his conservative party's ability to cling to power or even hold together after ruling Japan for most of the past six decades.

Fukuda has also suffered recently from conflict between his Liberal Democratic Party (LDP) and its junior coalition partner, the New Komeito, which was wary of letting him lead the ruling bloc into an election that must be held in the next year.・・・


●日本の福田首相、国会の行き詰まりを理由に退陣を表明
支持率が低迷していた日本の福田康夫首相は月曜日(9月1日)、政治が立ち往生状態にあることを理由に辞任する旨発表した。これで1年足らずの間に二人の政治指導者が唐突に辞任することになり、福田首相の辞任は日本が景気後退に向かいつつある局面で政治的空白を惹起しかねないと危惧されている。

福田首相(72歳)は野党が法案審議を遅滞させ得る権限を持つ(両院の各議院が多数派を異にする)分裂国会の運営に悪戦苦闘してきた。突然の首相の辞職は、首相率いる保守政党がこの60年間のほとんどの間日本を支配してきたにもかかわらず、その政権担当能力について、あるいは、一個の政党としての団結を保持できるのかどうかについてさえ疑問を感じさせるものだ。

また、福田首相は最近彼が率いる自由民主党(自民党)と連立政権を組む小規模政党の公明党との間で板ばさみになり苦しんでいた。而して、公明党は来年には必ず実施される選挙に向けて連立与党運営の主導権を福田首相にこのまま委ねることに慎重になっていた。(中略)


Taro Aso, an outspoken, right-leaning former foreign minister and LDP secretary-general, is the frontrunner to succeed Fukuda but pressure is likely to mount for an early general election.・・・

Speculation had been simmering that the unpopular Fukuda might be replaced by the LDP ahead of a general election that must be held by September next year but could come sooner. But the surprise timing of his departure will create the very political vacuum at a time when Japan's economy is nearing a recession.・・・【September 1, 2008】


歯に衣をきせぬ言動が持ち味の右派、元外務大臣にして現職の自民党幹事長、麻生太郎氏は福田後継レースの先頭を走っている。けれども、(誰が首相を引き継ぐにせよ)総選挙の早期実施に向け情勢は切迫しつつあるように見える。(中略)

来年の9月までには必ず、場合によってはすぐにでも実施される総選挙の前に自民党は国民の支持を失っていた福田首相の更迭に動くのではないか。そのような観測は確かに徐々にではあるが広がりつつあった。しかし、誰しも驚愕するしかない突然の首相の退陣表明は、日本経済が景気後退に向かいつつある時に、言葉の正確な意味での政治空白を惹起させるかもしれない。(後略)




●Japan reformers to challenge Aso for PM
Japanese economics minister Kaoru Yosano and former defence minister Yuriko Koike lined up on Thursday to challenge frontrunner Taro Aso in the race to become prime minister, setting up a clash over economic policy as Japan teeters on the edge of recession.

The winner likely will face an early general election -- possibly as soon as November -- Kyodo news agency said, as the main ruling Liberal Democratic Party (LDP) tries to capitalize on an anticipated wave of support for the new leader.

Yosano has pushed for the Japanese government to curb its huge public debt, while Aso has said that increasing state spending to stimulate growth is more important in difficult economic times.

Koike's candidacy is backed by ruling party heavyweight Hidenao Nakagawa, who argues that Japan should cut wasteful spending and boost economic growth through structural reforms before raising taxes to tackle its tattered finances.

Outspoken Aso, a 67-year-old former Olympic sharpshooter and a fan of comic books, is the top pick in voter polls to replace Prime Minister Yasuo Fukuda, who quit suddenly this week, but some in the ruling LDP worry he could derail fiscal reform.・・・


●首相の座をかけて麻生氏に挑む日本の構造改革派
日本の与謝野馨経済産業相と小池百合子元防衛相は木曜日(9月4日)首相後継レースの先頭を走っている麻生氏に挑むべくスタートラインに着いた。彼等は日本が景気後退の危機に瀕している現在の状況を鑑み、経済政策を巡る論争を巻き起こしたいと考えているようだ。

総裁選の勝者は、共同通信によれば11月とさえその実施が見込まれている、早期の総選挙に立ち向かわなければならなくなるだろう。というのも、政権与党の本体たる自由民主党(自民党)は新首相に対して予想される国民のご祝儀相場的な支持を利用しない手はないと考えるはずだから。

与謝野氏はその膨大な公的負債を抑制するように日本政府に働きかけてきた。他方、麻生氏は、その経済が苦境にある時には国の支出を増やして経済の成長を促すことがより重要でないはずはない、と述べている。

小池氏の立候補は与党の有力者である中川鬼瓦の後見によるもの。而して、中川鬼瓦は、破綻している財政の問題に取り組むについては日本は(消費)税率の引き上げなどを行う前に無駄な歳出の削減と構造改革による経済成長の加速を行うべきだと主張している。

直言居士の麻生氏は67歳、射撃競技でオリンピックに出場した経験もあり、また、世に知られた漫画オタク。その麻生氏は今週突然辞意を表明した福田康夫首相の次の首相候補として世論調査では常に最も多くの支持を集める存在ではあるけれど、与党自民党の中には麻生氏は財政再建路線を踏み外すのではないかと危ぶむ声もなきにしも非ず、である。(中略)


A veteran conservative politician, Yosano, 70, has said in the past that Japan's sales tax rate needed to be doubled from 5 percent to at least 10 percent by around 2015, as a wave of retirements among baby boomers threatens to blow out pension and welfare costs.・・・

Former transport minister Nobuteru Ishihara, an advocate of sweeping reform of the bureaucracy and floated as another possible contender, said he had different views from Aso and it would be bad if no one challenged him for the leadership.・・・

Some analysts said the plethora of candidates made it more likely Aso would win the election.・・・Aso's popularity may be a deciding factor, however, as the new leader will face an election within a year.・・・【September 4, 2008】


経験豊富な保守政治家、与謝野氏は70歳。従来より彼は、2015年前後までには日本の消費税率は現行の5%から少なくとも10%に倍増される必要があると発言してきた。というのも、ベビーブーマー世代が一斉に定年退職を迎えるとともに年金や社会保障の財源が破綻することが危惧されるからというのがその根拠であるらしい。(中略)

元国土交通大臣の石原伸晃氏は官僚機構に大胆にメスを入れる構造改革の貫徹を主張している一人であり、これまた総裁選の立候補が取り沙汰されている。石原氏によれば彼と麻生氏とでは考え方に違いがあり、誰も総理総裁のポストをかけて麻生氏に挑まないとすればそれは望ましいことではないということだ。(中略)

総裁選立候補者が乱立する事態になればそれだけ麻生氏が総裁選挙で勝利する可能性が高まることになると予想する専門家は少なくない。(中略)而して、誰が新しい首相になろうとも総選挙は年内に行われるだろうから、畢竟、麻生氏の人気は総裁選の帰趨を左右する決定的な要素には違いない。


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