この作品、著者ホームページに掲載の作品リストを見ると、出版8冊目となっている。1982年12月に『レコーディング殺人事件』と題して講談社ノベルズで出版された作品。作品リストの第1冊が1982年2月の出版なので、実に最初期に書かれた作品である。改題名称の方がやはり何となく現代的な感じを受ける。今風といえようか。文庫本表紙には、THE TAKE という英字が付されているので、名詞形で使われている。研究社の『新英和中辞典』を引くと、「模造品」の続きに「いんちき;虚報」という意味も記されている。ここでは、「いんちき」という意味合いがぴったりする。捜査プロセスでのやりとりでいえば「虚報」となる。がfake という英単語には動詞として「偽造する」という意味の他に、「・・・・のふりをする」という意味がある。読後印象としては、動詞の後者の意味で受け止めるのが一番自然な気がした。「疑惑」と意訳したら少しニュアンスが一面的になるように感じる。ちょっと飛ぶ感じ。だが、まあそういう見方もできるのはうなづける。
というのは、主な登場人物がそれぞれに違うニュアンスにおいてフェイクな行動を取るからである。それぞれに「ふりをする」意図が違うからだ。このふりのしかたが人間模様として副次的なテーマととらえてもおかしくないと思う。人間関係の維持、仕事の関係の維持において、誰しも本音ばかりぶつけているのでなく、「ふりをしている」側面があるよね、という意味だ。この作品において、新曲のレコーディングという目的に対するプロセスでの様々な人々の関わり方がそうなのだから。
さて、この作品は、定員約1万人を収容する武道館での5日間のコンサートにおいて、チケットを入手できなくて口惜しむファンが居るほどの人気歌手にまつわる事件である。大物歌手本田勇造が、午前2時を過ぎた時刻に、新曲のレコーディング作業を終えて、スタジオを出た後、その駐車場で殺されるのだ。原題は素直に「レコーディング殺人事件」と付けてある。
本田勇造をシールド線を使い背後から絞殺したのは、新曲レコーディングを企画するネオメディアの倉橋部長その人なのだ。本田勇造がスタジオを後にして、駐車場に向かったときには、倉橋部長はそのスタジオに入っている時間帯なのだ。出来上がった3曲分のラフミックステープをもう一度じっくり聴きたいと、ミキシングルームにいる栗原と田所に依頼する。倉橋の希望でスタジオ内を暗くして、明るいミキシングルーム内から田所が音が流れるように段取りをたてるのだ。
この作品は、殺害のネタばれという状況-倉橋が緻密に計算し計画した疑似密室状態-から、犯人捜査が始まるという設定である。だれがどこをヒントに、何に気づいて、どのように疑似密室状態での殺人事件解決への推理をし、立証するかのプロセスが描き込まれている。一番怪しそうでない人間が、じつは犯人だったというトリック解明ストーリーである。この手法はしばしば映画などにも取り入れられてきていると思う。
ネタばれから始めるのだから、よほど巧妙に筋立てを構成しないと、読者を引きつけない、途中で投げ出されるリスクがある。著者は作家活動の最初期にその難関にチャレンジしていることになる。結論を言うと、投げ出さずに最後まで楽しめた。
さて疑似密室状況での設定と主な登場人物を簡単に紹介しておきたい。
1.場所 九段スタジオ
スタジオとミキシングルームは3階。1スタが使用されていた。
駐車場は地下1階。エレベータが3階から地下までの移動手段
1階は事務所。2階はメインテナンススタッフのオフィス。
駐車場入口には守衛が常駐している。
2.時間帯
本多勇造武道館コンサート(5日間)終了の翌日 18時からレコーディング
午前2時頃 レコーディング終了
事件の翌日午前7時 警察が通報を受けて現場検証開始
3.登場人物
被害者本多勇造は大物に成長したシンガーソングライター。年齢28歳、独身。倉橋部長に独立を考えていると告げる。今後、後には業界の古顔・醍醐という人物が付いてくれるのだと匂わす。関係者にとっては扱いにくい人物。倉橋部長にはドル箱的存在となっている。
a)直接の関係者
倉橋達夫:ネオメディアの部長。新曲レコーディングの企画トップ。
田所を見いだし、その才能を引き出した。田所の過去を知る人物。
本多勇造を見つけて、売り出した育ての親的存在
田所平吉:ミキサー。元ヤクザ。罪をかぶって刑務所暮らしの過去がある。
栗原正一:サニーサイドレーベルのディレクター
社内的事情で本多勇造のレコーディング担当となる。仕事疲れを愚痴る
西野志郎:サブミキサー。九段スタジオの従業員。
桑島常彦:ネオメディアのマネージャー。倉橋部長の直属の部下。
b)捜査の直接担当者
大門警部:田所が刑務所入りする際の事件を担当した刑事
谷刑事 :大門警部の相棒
c)周辺の間接的関係者
秋谷雅子:中途半端なタレントという役割のモデル
本多勇造と桑島常彦の二人とSEX関係を持つ。桑島は本多との関係を承知
礼武 :フェアウェイ(5人グループ)のリーダー。田所の技術に信頼を置く。
田所から本多が殺された時の状況を聞き、独自の推理を始めるミュージシャン
d)その他本作品に登場する人名、組織名:これらがどう関わっていくかはご一読を。
評論家福原先生、東都テレビの名物プロデューサー岩崎、畑山九段スタジオ所長、池沢(田所がかつて兄貴と呼んだ人物)、重松(フェアウェイのリードギター担当)、ヤクザ3人、マネージャー)、前田弁護士。
これで端役まで含めて役者がそろった。倉橋が殺人に手を染めた真因は何だったのか。田所がどういう行動をとったのか。なぜ、そんな行動をしたのか。大門警部が田所をどう見ているか。礼武はどう推理を展開したのか。
後は本書を手にとって、あらかじめ犯人等が読者には自明となったストーリーの謎解きエンターテインメントをお楽しみあれ。
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
門外漢故に、いくつか音楽用語などネット検索してみた。一覧にしておきたい。
シールド線ってなんですか? :「YAHOO!智慧袋」
シールド線 Hitachi Cable
同軸コネクタ&ケーブル :「ekoubou.net」
舞台照明 :ウィキペディア
マルチ・トラック・レコーダー :ウィキペディア
ストリングス :ウィキペディア
VUメーター :「平衡プロジェクト」
「VUメーターとピークメーター~その1」~音響豆知識(6)
:「おとなバンド『健康』のムリムリ活動報告」
シティ・ポップ :ウィキペディア
和製AORとは何ですか?またどのような歌手がそうですか? :「YAHOO!知恵袋」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『スクープ』 集英社文庫
『切り札 -トランプ・フォース-』 中公文庫
『ナイトランナー ボディガード工藤兵悟1』 ハルキ文庫
『トランプ・フォース 戦場』 中公文庫
『心霊特捜』 双葉社
『エチュード』 中央公論新社
『ヘッドライン』 集英社
『獅子神の密命』 朝日文庫
『赤い密約』 徳間文庫
『内調特命班 徒手捜査』 徳間文庫
『龍の哭く街』 集英社文庫
『宰領 隠蔽捜査5』 新潮社
『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』 徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』 集英社
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新2版
というのは、主な登場人物がそれぞれに違うニュアンスにおいてフェイクな行動を取るからである。それぞれに「ふりをする」意図が違うからだ。このふりのしかたが人間模様として副次的なテーマととらえてもおかしくないと思う。人間関係の維持、仕事の関係の維持において、誰しも本音ばかりぶつけているのでなく、「ふりをしている」側面があるよね、という意味だ。この作品において、新曲のレコーディングという目的に対するプロセスでの様々な人々の関わり方がそうなのだから。
さて、この作品は、定員約1万人を収容する武道館での5日間のコンサートにおいて、チケットを入手できなくて口惜しむファンが居るほどの人気歌手にまつわる事件である。大物歌手本田勇造が、午前2時を過ぎた時刻に、新曲のレコーディング作業を終えて、スタジオを出た後、その駐車場で殺されるのだ。原題は素直に「レコーディング殺人事件」と付けてある。
本田勇造をシールド線を使い背後から絞殺したのは、新曲レコーディングを企画するネオメディアの倉橋部長その人なのだ。本田勇造がスタジオを後にして、駐車場に向かったときには、倉橋部長はそのスタジオに入っている時間帯なのだ。出来上がった3曲分のラフミックステープをもう一度じっくり聴きたいと、ミキシングルームにいる栗原と田所に依頼する。倉橋の希望でスタジオ内を暗くして、明るいミキシングルーム内から田所が音が流れるように段取りをたてるのだ。
この作品は、殺害のネタばれという状況-倉橋が緻密に計算し計画した疑似密室状態-から、犯人捜査が始まるという設定である。だれがどこをヒントに、何に気づいて、どのように疑似密室状態での殺人事件解決への推理をし、立証するかのプロセスが描き込まれている。一番怪しそうでない人間が、じつは犯人だったというトリック解明ストーリーである。この手法はしばしば映画などにも取り入れられてきていると思う。
ネタばれから始めるのだから、よほど巧妙に筋立てを構成しないと、読者を引きつけない、途中で投げ出されるリスクがある。著者は作家活動の最初期にその難関にチャレンジしていることになる。結論を言うと、投げ出さずに最後まで楽しめた。
さて疑似密室状況での設定と主な登場人物を簡単に紹介しておきたい。
1.場所 九段スタジオ
スタジオとミキシングルームは3階。1スタが使用されていた。
駐車場は地下1階。エレベータが3階から地下までの移動手段
1階は事務所。2階はメインテナンススタッフのオフィス。
駐車場入口には守衛が常駐している。
2.時間帯
本多勇造武道館コンサート(5日間)終了の翌日 18時からレコーディング
午前2時頃 レコーディング終了
事件の翌日午前7時 警察が通報を受けて現場検証開始
3.登場人物
被害者本多勇造は大物に成長したシンガーソングライター。年齢28歳、独身。倉橋部長に独立を考えていると告げる。今後、後には業界の古顔・醍醐という人物が付いてくれるのだと匂わす。関係者にとっては扱いにくい人物。倉橋部長にはドル箱的存在となっている。
a)直接の関係者
倉橋達夫:ネオメディアの部長。新曲レコーディングの企画トップ。
田所を見いだし、その才能を引き出した。田所の過去を知る人物。
本多勇造を見つけて、売り出した育ての親的存在
田所平吉:ミキサー。元ヤクザ。罪をかぶって刑務所暮らしの過去がある。
栗原正一:サニーサイドレーベルのディレクター
社内的事情で本多勇造のレコーディング担当となる。仕事疲れを愚痴る
西野志郎:サブミキサー。九段スタジオの従業員。
桑島常彦:ネオメディアのマネージャー。倉橋部長の直属の部下。
b)捜査の直接担当者
大門警部:田所が刑務所入りする際の事件を担当した刑事
谷刑事 :大門警部の相棒
c)周辺の間接的関係者
秋谷雅子:中途半端なタレントという役割のモデル
本多勇造と桑島常彦の二人とSEX関係を持つ。桑島は本多との関係を承知
礼武 :フェアウェイ(5人グループ)のリーダー。田所の技術に信頼を置く。
田所から本多が殺された時の状況を聞き、独自の推理を始めるミュージシャン
d)その他本作品に登場する人名、組織名:これらがどう関わっていくかはご一読を。
評論家福原先生、東都テレビの名物プロデューサー岩崎、畑山九段スタジオ所長、池沢(田所がかつて兄貴と呼んだ人物)、重松(フェアウェイのリードギター担当)、ヤクザ3人、マネージャー)、前田弁護士。
これで端役まで含めて役者がそろった。倉橋が殺人に手を染めた真因は何だったのか。田所がどういう行動をとったのか。なぜ、そんな行動をしたのか。大門警部が田所をどう見ているか。礼武はどう推理を展開したのか。
後は本書を手にとって、あらかじめ犯人等が読者には自明となったストーリーの謎解きエンターテインメントをお楽しみあれ。
ご一読ありがとうございます。
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門外漢故に、いくつか音楽用語などネット検索してみた。一覧にしておきたい。
シールド線ってなんですか? :「YAHOO!智慧袋」
シールド線 Hitachi Cable
同軸コネクタ&ケーブル :「ekoubou.net」
舞台照明 :ウィキペディア
マルチ・トラック・レコーダー :ウィキペディア
ストリングス :ウィキペディア
VUメーター :「平衡プロジェクト」
「VUメーターとピークメーター~その1」~音響豆知識(6)
:「おとなバンド『健康』のムリムリ活動報告」
シティ・ポップ :ウィキペディア
和製AORとは何ですか?またどのような歌手がそうですか? :「YAHOO!知恵袋」
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その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『スクープ』 集英社文庫
『切り札 -トランプ・フォース-』 中公文庫
『ナイトランナー ボディガード工藤兵悟1』 ハルキ文庫
『トランプ・フォース 戦場』 中公文庫
『心霊特捜』 双葉社
『エチュード』 中央公論新社
『ヘッドライン』 集英社
『獅子神の密命』 朝日文庫
『赤い密約』 徳間文庫
『内調特命班 徒手捜査』 徳間文庫
『龍の哭く街』 集英社文庫
『宰領 隠蔽捜査5』 新潮社
『密闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『最後の戦慄』 徳間文庫
『宿闘 渋谷署強行犯係』 徳間文庫
『クローズアップ』 集英社
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新2版