単行本で読んだのでそのまま読後印象記をこの1冊としてまとめておきたい。
2015年10月に、『解放者 特殊捜査班カルテット2』 (角川文庫) として、このカルテット4と前回書いたカルテット3が合冊本となり、角川文庫化されている。この単行本の副題が文庫本でのタイトルになっている。
カルテット3は、このカルテット4の特殊捜査任務へのチーム確立の助走だったともいえる。この表紙のイラストは、カルテットつまり4人中の1人、クチナワである。カスミ・タケル・ホウ(=アツシ)というチームに任務を指示し、バックアップする。警察機構という国家権力の中に、特別捜査班を超法規的存在として認めさせている人物である。この第4作でクチナワの背後には、その特別捜査班の任務を承認する8人の委員会という存在が明らかになる。
カルテット3で、最後にタケルが傷つき、さらにホウがカスミを助けようとして肋骨を折られる怪我をする。そのホウの退院祝いに、ホウの希望したクラブに3人が行った場面からストーリーが始まる。六本木にひと月前にオープンしたばかりで、都内で最もとがっているという評判のクラブだ。ホウはそのクラブのDJは悪くはないがリンの真似だという。そのクラブでホウは知人でダンサーのケンを見つける。そのケンが、最近一番多く行くのは、「解放区」と称する野外イベントだという。携帯電話やパソコンにメールで開催情報が届き、ある日ある場所が、突然にイベント会場に指定され、「解放区」が設定されダンスイベントが始まる。警察が本腰を入れて取締まりに入る直前に、イベントが唐突に終わるという。その会場ではバツ、エス、ボールと称されるクスリがただで配られているという。カスミはケンから、解放区の案内を得るために、ケンとメールアドレスを交換した。解放区の話を聞いたタケルは、きっと何かカラクリがあるに違いないと断言する。
クチナワがホウの「退院祝い」という名目で六本木にある中華料理店に3人を招待する。そこでクチナワが3人に話したのが、ここ数ヵ月に都内と近郊で発生した連続破壊工作のことである。それはタチの悪いイタズラで、死者や怪我人は出ていないが、何千、何万という不特定多数が被害や混乱に巻き込まれているという。この悪質な妨害行為を行っている者をネット上ではリベレイター(解放者)と呼んでいる人間がいるという。一方、3日前には千葉で送電線を破壊しようとしていて感電死した黒焦げ死体が発見された。その身元を調べた結果、解放区と呼ばれる野外ダンスパーティに参加していたことがわかったという。
クチナワが3人に与えた任務は、解放区に潜入し、リベレイターとの関係を探ることと、関係が確認されたらその目的を明らかにすることである。
クチナワと別れたすぐ後で、3人はホウが知っているゴールデンタイガーと称するグループに襲われる。そのことは、クチナワから与えられた任務に関連することと、彼ら3人が六本木にこの日居るということを知っている第三者の存在を意味する。かつ、それはリベレイターの側に関連している人間が警察組織内に存在することを暗示しているといえる。
3人が解放区に潜入して初期段階はクリアできても、クチナワに3人が連絡した時点で、リベレイターに関係する警察組織内部の誰かに情報が漏れて、リベレイター側に連絡される可能性があることを意味する。このまま何もしない選択をしても、再び誰かに襲われることもあり得る。3人は潜入捜査を引きうける選択をする。
カスミはメールで、午前2時から、新宿区神宮外苑のグラウンド246の先でイベントが始まるという通知を受信する。そして解放区への潜入が始まる。
この作品で「解放区」という野外イベントの設定が興味深い。携帯電話やメールアドレスを介した不特定多数の参加者募集という発想にはリアル感がある。それは、インターネットを介した呼びかけで、国会議事堂周辺での大規模デモが繰り返し行われたごく最近の実例を想起させる。つまり、主旨に賛同あるいは興味を持った不特定多数がインターネットを介した情報発信・受信で短時間の間の交信でどこかに集結するということを起こせる時代なのだ。
「解放区」は若者たちの鬱屈した日常の気持ちを発散できる場を意図的に創り出す。クスリを無料でばらまくという形で、エネルギーを爆発させる環境が助長されるなら、それは一層ある種の若者達を吸い寄せる。単純な口コミでの好奇心がその波紋を増幅するだろう。ここで描かれた野外イベント企画が物語にとどまるのは、それを実現する資金である。ここで描かれた野外イベントの環境設定にかなりの金が要ることだ。だから、リアル感を感じながらも、少しハードボイルドなエンターテインメントとして楽しめるとも言える。
粗筋は、神宮外苑での解放区に潜入した3人は、ケンがダンスの中心にいることに気づく。カスミはケンに近づいて行く。カスミは潜入捜査という任務の枠を超えてケンに惹かれていく。カスミとケンが接近することになぜかイライラするタケシは、ホウと共に解放区の主宰者に食い込める糸口を探し始める。あるトラブルを見出し、それが契機で主宰者に至る。主宰者はタケシとホウにリベレイターの件をタチの悪いいたずら次元の面白さ目的でやっている認識で、話を持ちかけてくることで、クチナワの推定したシナリオが当たる方向が見え始める。相手に警察内部情報がリークしている危険姓を前提にして、主宰者の話にどう対処しこの先の捜査をどうするか?
一方、ケンに近づき一線を越えたカスミもまた、任務を放棄した訳ではなく、別の経緯から主宰者に至る。そして、カスミはそのプロセスで、大凡のカラクリを解明してしまう。だが、それは己を窮地に陥らせる契機にもなる。
このストーリー展開の構想で興味深い設定は、セレブの女が金がどれだけかかるかは気にせず、若者に鬱屈した欲求の発散の場を提供し、楽しませてあげるという目的を実現している。お遊び感覚で主宰するその企画の頂点にいて、己のもつ力を楽しんでいる。だがその主宰者は操り人形にしか過ぎない。その楽しみの背後には大きなカラクリが仕組まれていたという次第。
この解明に至るプロセスがこの第4作の読ませどころである。それがクチナワの構想する特殊捜査班の背後にある委員会も既に蝕まれている部分があったというアイロニカルな設定も含まれていて興味をそそる。
クライマックスの段階は、ストーリーの始まりから読み進めて行っても、意外性に満ちた展開となっている。さすが、ストーリーテラーである。
もう一つこの作品の興味深い点は、カスミを指揮官にし、タケルとホウ(=アツシ)を手足として特殊捜査班が行動するストーリー展開に、若者の心に生まれる「愛」の側面を絡ませ、織り込んで行く点である。十代の読者にはこの側面にかなりのウエイトがかかり、感情移入のテンションが高まるかもしれない。
カスミに対し芽生え始めたタケルの恋心が、ケンの登場で一挙に表に湧出してくる。ホウもまたカスミにある種の感情を抱きつつ己を制御している。それ故に、タケルの思いがホウには分析できる。タケルは己の心の内奥を見詰め、この特殊捜査の任務との葛藤に悩んでいく。カスミはカスミで、タケルとホウの己に対する感情に気づいている面がある。それでいてケンに惹かれていく・・・・。そのプロセスに、分析的視点も加味されていて、なかなかおもしろい感情分析ストーリーという側面があっておもしろい。
最後の戦いの現場で、タケルが言う。「この中にいたんだ、藤堂は」
この一言が、どんな展開のプロセスにあるかを、この物語を開いて楽しんでいただくとよい。
そして、第4作は次の文で締めくくられる。
「一時間後、カスミを乗せた救急車が付近のどの救急病院にもついていないことが判明した。該当する救急車が発見されたのは翌日で、社内には隊員もカスミの乗った痕跡も、いっさい残されていなかった。」
これは、このこのシリーズの後急転回が始まる予感を読者に抱かせるエンディングだ。シリーズ映画での常套手段でもある。できるだけ早く、この先を読んでみたい。
ご一読ありがとうございます。
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徒然にこの作家の小説を読み、印象記を書き始めた以降のものは次の小説です。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『カルテット3 指揮官』 角川書店
『生贄のマチ 特殊捜査班カルテット』 角川文庫
『撃つ薔薇 AD2023 涼子』 光文社文庫
『海と月の迷路』 毎日新聞社
『獣眼』 徳間書店
『雨の狩人』 幻冬舎
2015年10月に、『解放者 特殊捜査班カルテット2』 (角川文庫) として、このカルテット4と前回書いたカルテット3が合冊本となり、角川文庫化されている。この単行本の副題が文庫本でのタイトルになっている。
カルテット3は、このカルテット4の特殊捜査任務へのチーム確立の助走だったともいえる。この表紙のイラストは、カルテットつまり4人中の1人、クチナワである。カスミ・タケル・ホウ(=アツシ)というチームに任務を指示し、バックアップする。警察機構という国家権力の中に、特別捜査班を超法規的存在として認めさせている人物である。この第4作でクチナワの背後には、その特別捜査班の任務を承認する8人の委員会という存在が明らかになる。
カルテット3で、最後にタケルが傷つき、さらにホウがカスミを助けようとして肋骨を折られる怪我をする。そのホウの退院祝いに、ホウの希望したクラブに3人が行った場面からストーリーが始まる。六本木にひと月前にオープンしたばかりで、都内で最もとがっているという評判のクラブだ。ホウはそのクラブのDJは悪くはないがリンの真似だという。そのクラブでホウは知人でダンサーのケンを見つける。そのケンが、最近一番多く行くのは、「解放区」と称する野外イベントだという。携帯電話やパソコンにメールで開催情報が届き、ある日ある場所が、突然にイベント会場に指定され、「解放区」が設定されダンスイベントが始まる。警察が本腰を入れて取締まりに入る直前に、イベントが唐突に終わるという。その会場ではバツ、エス、ボールと称されるクスリがただで配られているという。カスミはケンから、解放区の案内を得るために、ケンとメールアドレスを交換した。解放区の話を聞いたタケルは、きっと何かカラクリがあるに違いないと断言する。
クチナワがホウの「退院祝い」という名目で六本木にある中華料理店に3人を招待する。そこでクチナワが3人に話したのが、ここ数ヵ月に都内と近郊で発生した連続破壊工作のことである。それはタチの悪いイタズラで、死者や怪我人は出ていないが、何千、何万という不特定多数が被害や混乱に巻き込まれているという。この悪質な妨害行為を行っている者をネット上ではリベレイター(解放者)と呼んでいる人間がいるという。一方、3日前には千葉で送電線を破壊しようとしていて感電死した黒焦げ死体が発見された。その身元を調べた結果、解放区と呼ばれる野外ダンスパーティに参加していたことがわかったという。
クチナワが3人に与えた任務は、解放区に潜入し、リベレイターとの関係を探ることと、関係が確認されたらその目的を明らかにすることである。
クチナワと別れたすぐ後で、3人はホウが知っているゴールデンタイガーと称するグループに襲われる。そのことは、クチナワから与えられた任務に関連することと、彼ら3人が六本木にこの日居るということを知っている第三者の存在を意味する。かつ、それはリベレイターの側に関連している人間が警察組織内に存在することを暗示しているといえる。
3人が解放区に潜入して初期段階はクリアできても、クチナワに3人が連絡した時点で、リベレイターに関係する警察組織内部の誰かに情報が漏れて、リベレイター側に連絡される可能性があることを意味する。このまま何もしない選択をしても、再び誰かに襲われることもあり得る。3人は潜入捜査を引きうける選択をする。
カスミはメールで、午前2時から、新宿区神宮外苑のグラウンド246の先でイベントが始まるという通知を受信する。そして解放区への潜入が始まる。
この作品で「解放区」という野外イベントの設定が興味深い。携帯電話やメールアドレスを介した不特定多数の参加者募集という発想にはリアル感がある。それは、インターネットを介した呼びかけで、国会議事堂周辺での大規模デモが繰り返し行われたごく最近の実例を想起させる。つまり、主旨に賛同あるいは興味を持った不特定多数がインターネットを介した情報発信・受信で短時間の間の交信でどこかに集結するということを起こせる時代なのだ。
「解放区」は若者たちの鬱屈した日常の気持ちを発散できる場を意図的に創り出す。クスリを無料でばらまくという形で、エネルギーを爆発させる環境が助長されるなら、それは一層ある種の若者達を吸い寄せる。単純な口コミでの好奇心がその波紋を増幅するだろう。ここで描かれた野外イベント企画が物語にとどまるのは、それを実現する資金である。ここで描かれた野外イベントの環境設定にかなりの金が要ることだ。だから、リアル感を感じながらも、少しハードボイルドなエンターテインメントとして楽しめるとも言える。
粗筋は、神宮外苑での解放区に潜入した3人は、ケンがダンスの中心にいることに気づく。カスミはケンに近づいて行く。カスミは潜入捜査という任務の枠を超えてケンに惹かれていく。カスミとケンが接近することになぜかイライラするタケシは、ホウと共に解放区の主宰者に食い込める糸口を探し始める。あるトラブルを見出し、それが契機で主宰者に至る。主宰者はタケシとホウにリベレイターの件をタチの悪いいたずら次元の面白さ目的でやっている認識で、話を持ちかけてくることで、クチナワの推定したシナリオが当たる方向が見え始める。相手に警察内部情報がリークしている危険姓を前提にして、主宰者の話にどう対処しこの先の捜査をどうするか?
一方、ケンに近づき一線を越えたカスミもまた、任務を放棄した訳ではなく、別の経緯から主宰者に至る。そして、カスミはそのプロセスで、大凡のカラクリを解明してしまう。だが、それは己を窮地に陥らせる契機にもなる。
このストーリー展開の構想で興味深い設定は、セレブの女が金がどれだけかかるかは気にせず、若者に鬱屈した欲求の発散の場を提供し、楽しませてあげるという目的を実現している。お遊び感覚で主宰するその企画の頂点にいて、己のもつ力を楽しんでいる。だがその主宰者は操り人形にしか過ぎない。その楽しみの背後には大きなカラクリが仕組まれていたという次第。
この解明に至るプロセスがこの第4作の読ませどころである。それがクチナワの構想する特殊捜査班の背後にある委員会も既に蝕まれている部分があったというアイロニカルな設定も含まれていて興味をそそる。
クライマックスの段階は、ストーリーの始まりから読み進めて行っても、意外性に満ちた展開となっている。さすが、ストーリーテラーである。
もう一つこの作品の興味深い点は、カスミを指揮官にし、タケルとホウ(=アツシ)を手足として特殊捜査班が行動するストーリー展開に、若者の心に生まれる「愛」の側面を絡ませ、織り込んで行く点である。十代の読者にはこの側面にかなりのウエイトがかかり、感情移入のテンションが高まるかもしれない。
カスミに対し芽生え始めたタケルの恋心が、ケンの登場で一挙に表に湧出してくる。ホウもまたカスミにある種の感情を抱きつつ己を制御している。それ故に、タケルの思いがホウには分析できる。タケルは己の心の内奥を見詰め、この特殊捜査の任務との葛藤に悩んでいく。カスミはカスミで、タケルとホウの己に対する感情に気づいている面がある。それでいてケンに惹かれていく・・・・。そのプロセスに、分析的視点も加味されていて、なかなかおもしろい感情分析ストーリーという側面があっておもしろい。
最後の戦いの現場で、タケルが言う。「この中にいたんだ、藤堂は」
この一言が、どんな展開のプロセスにあるかを、この物語を開いて楽しんでいただくとよい。
そして、第4作は次の文で締めくくられる。
「一時間後、カスミを乗せた救急車が付近のどの救急病院にもついていないことが判明した。該当する救急車が発見されたのは翌日で、社内には隊員もカスミの乗った痕跡も、いっさい残されていなかった。」
これは、このこのシリーズの後急転回が始まる予感を読者に抱かせるエンディングだ。シリーズ映画での常套手段でもある。できるだけ早く、この先を読んでみたい。
ご一読ありがとうございます。
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徒然にこの作家の小説を読み、印象記を書き始めた以降のものは次の小説です。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『カルテット3 指揮官』 角川書店
『生贄のマチ 特殊捜査班カルテット』 角川文庫
『撃つ薔薇 AD2023 涼子』 光文社文庫
『海と月の迷路』 毎日新聞社
『獣眼』 徳間書店
『雨の狩人』 幻冬舎