うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

両手を広げて

2024年02月06日 22時09分48秒 | ノベルズ

「ほら、こっち向けって。」
「大丈夫だよ、このくらい―――痛っ!」

オーブ・オノゴロ島の地下にある海中ドッグ。
その一角に設けられた医務室で、カガリは大型の絆創膏を両手で端を引っ張りながら、どう貼ろうかと「う~ん・・・」と顔をしかめている。
一方彼女と対しているキラは、左頬に擦過傷、加えて幾分か顔の各所が腫れあがっている。

つい先日、ラクスがファウンデーションに攫われたこと、更に部下のアグネスもファウンデーションに連れていかれたこと。加えてファウンデーションに核ミサイルが撃ち込まれたことで、乗組員とキラたちコンパス出撃組が脱出し、ここまで連れ帰ってきた連絡を受けたカガリは、モニターに映った片割れの姿を見て、酷く衝撃を受けた。
1年前まで、あれほど自分を支え、叱咤してくれた頼もしい弟は、今や魂の抜け殻のようだった。
直ぐに駆けつけたかったが、何しろ核の件が先だ。情報収集に加え、各国からコンパスへ、特にキラへの批難が世界中から集まってくる。
「キラはそんなことはしないっ!!」
代表だということも忘れて、思わず私情で叫んでしまったが、根拠はなくとも正論だと信じている。
数日もしないうちに、ファウンデーションからユーラシアをはじめとした各国への宣戦布告ともとれる声明の発表があった。
アスランからは「自作自演の上で、自らの正当性を図った宣戦布告」と言い切っていた。
いつ何時も冷静な彼が判断した結論だ。おそらく間違いはないだろう。
コンパスの活動の凍結。手段は封じられた。動けばオーブは彼らの攻撃の口実を作ることになる。

ファウンデーションから出された「戦いを回避したくば、ディステニープランの受け入れよ」という条件は、勿論今でもNo!の一言だ。議会にかけるまでもない。
だがあくまで「代表は緊急議会中だ」と容認させるために、執務室を抜け出したカガリはドッグに向かう。
と、そこから出てきたのは、アスラン。
だが
「ん?」
彼が珍しく右手を振っている。どこかにぶつけたのだろうか。
「どうした?アスラン。」
「いや、ちょっと喝を入れたらな、こうなったよ。」
そう言って苦笑しつつ、すれ違い様、カガリの肩にポンと手を置くアスラン。その微笑みはこの大事を前に何故かとても穏やかだった。
「キラのこと、見てやってくれ。」
その手をそのままヒラヒラさせてアスランはハンガーに向かって行った。
(キラと何かあったんだろうか?)
そうして、足早にドッグの待機室に入ってみれば、目に飛び込んだのは顔を腫らした上に血まで滲んでいるキラの姿。
「キラ!?どうしたんだよ、!」
「カガリこそ、どうしてここへ?」
「決まっているだろ!お前が心配だったから!!」
「そう・・・ごめんね。カガリ大変なのに心配させて。」
何故かズタボロなのに、この菫色の瞳には光が戻っていた。先日命からがら逃げかえってきたときは、まるで死んだみたいな目をしていたのに。
それを見てカガリは瞬時に悟った。

―――「ちょっと喝を入れた」

(そうか、アスランがキラを取り戻してくれたんだな…)

「ほら、ちょっとこっちに来い。手当してやるから。」
「大丈夫だよ・・・」
「大丈夫なもんか!そんな顔でドッグの中ウロウロされたら、それこそ他の職員に余計な心配を積算させるだけだぞ。」

そう言ってカガリは無理矢理医務室にキラを連れ入れた。

キラが殴り合いをしたなんて見たことがない。しかも相手はあの親友中の親友であるアスランだ。
「言わんこっちゃない。アスランに本気で殴られたら顔だの口の中だの、切れて当然だ。」
「殴られてないよ。全部ガードしたもん。」
「ガードできたのは褒めてやるが、それだけ腫らして「ガードできました!」って言っても、オーブじゃ誰も褒めてくれないぞ。コンパスで体術教えてもらっていなかったのかよ?さもなくば一時的にザフトにいた時に訓練させてもらったとか…」
「そんなことはしなかったよ。赴任したと思ったらいきなり「コンパス起ち上げる!」って言ったのカガリじゃない。」
「まぁ、それはそうだが・・・ほら、せめてその頬の腫れ位、冷やしておけよ。ラクスがその顔見たら、泣いて卒倒するかもしれないぞ。」
ラクスの名を出した時、一瞬彼の口元が苦みを帯びたように引き攣った。
「・・・泣かないよ、ラクスは。」
どこかまだ投げやりに、視線を外す。自信のない時の彼の癖だ。カガリは瞬時、声を低く抑えてそれを制した。
「見かけで判断するな。「心の中で」だよ。・・・気になっていたんだが、お前ら、ちゃんと会話しているのか?」
カガリに冷却ジェルを押し付けられ、キラは顔をゆがめる。ゆがめた理由はそれだけではないことは、カガリにはちゃんとわかっている。
「・・・カガリの言う通りだよ。僕ら、最近お互い忙しくて、すれ違って、ラクスが今、何を望んでいるのか、全然わからなかった・・・」
俯くキラ。カガリは「フー」と一つため息をついて、その俯き顔をその頭上から見やる。
「それでアスランから鉄拳食らった、ってわけか。」
「だから命中してないって。」
「自慢にならん。お前、アスランに向かって行ったとき、どんな風に拳打ち出したんだよ?」
「え?えっと・・・こう?」
そう言ってキラは素直に大きく振りかぶって、拳をカガリに向ける。が―――
<パシッ!>
「え?」
<ズドン!>
「痛っ!」
一瞬何が起きたのか、キラは目をぱちくりさせる。気づけば、カガリに向けたはずの拳が、いつの間にかねじ伏せられ、椅子に座っていたはずの自分が冷たいリノリウムの床に寝転がされていた。
「何するのさ、カガリ!僕、けが人だよ!?」
「ホー、認めたな。”けが人”って。」
「え、あ!その―――」
「互角、あるいは自分の実力以上の相手に、真正面から拳を振り上げてどうする。脇ががら空きだぞ。脇は右に肝臓、左に脾臓。そこに蹴りの一発でも入れられたら、お前いくらコーディネーターでもこの世にいないぞ?」
まるで小笠原流師範の様に、椅子に座ったまま、優雅にキラの拳を往なした上に、青天(※上向きに寝転がされる。一番屈辱な負け方💧)にしたカガリ。尚も説教は続く。
キラが衝撃に痛む腰を摩りながら座りなおせば、腕を組んだ師範、もといカガリは更に説明する。
「だから脇を締めろ。そしてどちらから攻撃を受けてもいいように、視野は広くもて。相手の踏み込みを見た瞬間、脇をガードしながら、反対の足で踏みきって相手の足や胴を攻撃しろ。基本中の基本だ。」
「・・・僕は今、怪我の治療を受けているんじゃなかったっけ?」
「こういう機会でもないと、お前に体術防御も教えてやれんだろ。ま、いいさ。ラクスを連れて戻ってきたら、顔を出せ。キサカに特訓つけてもらうから。」
「もう戻った後の話?」
「あぁ。そうだ。」
カガリは相変わらず胸を張って見下ろすように言ってのける。

キラもわずかだが目を見開く。
1年前、あれだけ涙を流し、傷つき、自分を犠牲にしながらオーブを救おうとした、悲劇のヒロインはもうここにはいない。
オルフェのことだ。ディステニープランを拒否し続けるオーブは自由の象徴。象徴が強ければ人が集まる。だとすれば、次の攻撃目標は「オーブ」。
だけどカガリはまるで臆することもなく、「ラクスを連れて戻ってきたら」と当たり前のように言ってくれた。
その言葉に、揺らぎは一つもない。
「カガリは・・・怖くないの?」
「キラ?」
「僕は、怖かったよ?議長の主張を否定して、その責任を取らなきゃ、って。早く平和にすることが、僕の使命だって思いこんでいた。皆が「議長を倒したんだから、責任とれよ!」って言っているみたいで。早く平和にして、僕のためについてきてくれたラクスが、安心して大好きな歌を歌えるようにしなきゃって。カガリはさ、今オーブが焼かれるかもしれない時なのに、なんでそんなに落ち着いているの?」
吐き出した後、物憂げに見上げてくる菫色の瞳。だがカガリは臆することなく、そして今度は視線の高さをキラに合わせ、カガリは屈むようにしながら微笑んだ。
「決まっているだろ?信用しているからさ。お前のことも、アスランのことも。そしてAAやミレニアムの皆、それから・・・ラクスのことも。」
菫が見開く。何でこんなに彼女は迷いがないのだろう。
「カガリは、アスランとずっと離れていたでしょ?それでもアスランのことで不安になることはないの?」
カガリは口元を緩める。そしてキラの頭をポンポンと軽くたたき、撫ぜた。
「一つもなかったぞ。私たちはあれだけ敵対して、傷ついて、迷って・・・それでも乗り越えてきたんだ。乗り越えた後で気づいたんだ。どんなに進む道は違っていたとしても、その先にある―――夢は同じだって。」
「――!」
キラは1年前を思い出す。
国を選び、アスランの手を離したカガリ。そしてその背を見送ったアスランの晴れやかな表情と、言葉―――

―――「焦らなくていい。夢は・・・同じだ。」

あの時、二人は乗り越えていたんだ。今キラとラクスが面している危機を。
恋に関して奥手のアスランと、自分のことにはとんと鈍いカガリ。
気づかないうちに、二人はそれを乗り越えて、心は距離を越えたんだ。

「そう・・・だね。」
「キラとラクスの夢も、同じだろう?だったら焦らなくていい。きっとラクスは今も待っているぞ。自分と一緒に夢を目指して歩いていける、お前のことをさ。」
「うん…」

目の奥が熱くなってくる。
本当に不思議だ。
カガリと話すと、ラクスとはまた違った安心感を受ける。
血が繋がっているから、なんだろうけれど、きっと「カガリ」だから。
「カガリ」だから、君もこんなに心を許しているんだろうね、アスラン。

すると
<フワ・・・キュ>
「か、カガリ!?」
カガリが両腕を思いきり広げてきたと思ったら、いきなり抱きしめられ、キラが困惑する。が

「よしよし。大丈夫。大丈夫だから…」
「・・・」

あぁ、これだ・・・
まるで泣きじゃくった後、母に抱かれて、慰められているような。

あの頃は、まだその理由がわからなかった。
でも今ならわかる、肉親としての情愛。
ラクスとはまた違った意味で、大事な存在、もう一人の自分。

キラの心が凪いでいく。すると、ゆるりとその腕から解放された。

「よし、落ち着いたみたいだな。」
「ありがとう、カガリ。ラクスを迎えに行ってくるよ。」
「あぁ、ラクスと会えたら、今の私みたいに、思いっきり両腕を広げて、精一杯ラクスを抱きしめてやれよ!」
「うん、わかった。」

その時、アナウンスが医務室の天井から流れる。
<パイロットは直ぐに第1ハンガーに集合して。今機体の準備をしたので、最終チェックをお願い。>
エリカ・シモンズの声に、キラは立ち上がる。その表情にもう迷いの色はない。
「行ってくるね、カガリ。」
「行ってこい、キラ。」

走り行く弟の背中を見送るカガリ。
彼は気づいていただろうか。
初めて抱きしめた時より、もうずっとその背の高さも、肩の幅も広くなっていることに。
そして、心もまた一つ大きくなっていたことも。

「さて、私も動かないと。先ずは国民の避難を優先させなきゃな。」


必ずみんな揃って帰ってこい。

お前たちが帰ってくる故郷は、何時でもここにある様に、

私も守ってみせるから―――

 

・・・Fin.

 

***

 

劇場版、まだ6回しか見ていないので、消化しきれていないですが、キラカガSSを勢いで書いてみました。
キララク的には当然ながら、アスカガも一安心(なのか?あの妄想は!?(゚Д゚;))な本編でしたが、夢見ていた「双子会話」の部分が全然なかったので、ここはひとつ、妄想を働かせてみました♥
双子とね、シンカガの会話が見たかったんですよ。
双子に関しては、無印も運命も、双子は繋がっているので(厳しいこと言ったりもありましたが、基本キラはカガリを助けているし支えている)ので、安心してはいるんですが、見たかったな~~!!(*´Д`)
シンとカガリも見たかった!!でもシンがあれだけアスランにキャンキャン(笑)吠えているところを見ると、やっぱり”アスハのことは嫌い!”なのかもしれませぬ。でも多分カガリの方は、もうそんなシンも受け入れるだろうなって。アスランがどんなにシンがキャンキャン言おうと横柄な態度を取ろうと、全然スルーしてますから、カガリもニッコリ笑ってやり過ごしそうw

双子、双子・・・サンリオコラボはリトルツインスターズ(キキ&ララ)で双子だったらよかったのに~と思いつつも、一番&2番人気のキャラを双子が独占したから、それはそれで良し!

小説版の方で、双子の会話シーンとか補完で出てないかな?
今はそれがちょっと楽しみです♥

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