KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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ロンドン・コーリング vol.4~僕が彼女たち(女子マラソン日本代表)について知っている2,3の事柄

2012年08月01日 | 五輪&世界選手権
いよいよ開幕したロンドン五輪。当初はマラソン以外は興味が無い、と思っていても、決勝種目、ましてや日本人が出場と聞けば、ついついテレビに見入ってしまう。水泳、柔道、体操と、日本の得意種目が前半に集中しているのも効を奏している。正直、こんな機会でないと、観戦したりしないだろうなと思える競技もある。中には、そんな気持ちで五輪のマラソンを観戦するつもりの人も多いだろう。むしろ、そんなひとの方が多数派であることは間違いない。

今回は従来に比べて、マラソンに対する注目度が低く、一般メディアでも取り上げられる機会が少ない。街頭でインタビューしても、代表選手全員の名前を言える人は少数派であろう。下手すると、

「Qちゃんは出ないの?」

と言う解答も出かねない。


そんなわけで、4日後に迫った女子マラソンに向けて、日本代表の3人について、僕が知っている範囲で紹介し、彼女たちの戦いぶりを予測してみようと思う。


◎尾崎好美(第一生命)

1981年7月1日生 神奈川県出身 相洋高校卒

マラソン歴8回

ベスト記録 
5000m  13分28秒55
10000m  31分47秒23
マラソン 2時間23分30秒(2008東京国際女子)

国際大会実績
2009年世界選手権マラソン銀メダル
2011年世界選手権マラソン18位


エース(センター)不在と言われる現在の女子マラソン界、今回の代表で柱となるエースと言えば、最年長で最もマラソン歴も多く、世界選手権ではメダルも獲得している彼女となるだろうか。日本勢総崩れに終わった北京五輪の選考レースだった2008名古屋で、代表になった中村友梨香に次いで2位でマラソン・デビュー。北京五輪から3ヵ月後の東京国際女子マラソンでマラソン初優勝、そしてその翌年のベルリンでの世界選手権で銀メダル、と順調は成長を見せた。初マラソンで既に26歳だったのだから、日本のランナーとしては「遅咲き」の部類に入る。姉の尾崎朱美もランナーで、2006年の東京国際女子では、優勝した土佐礼子と先頭を争うも終盤に失速した高橋尚子を捕らえ、2位でゴール、という実績を残している。

しかしながら、日本の女子マラソン・ランナーは、過去のランナーがあまりにも大きな足跡を残しているために、偉大過ぎる先輩たちと常に比較される。常に長嶋茂雄や王貞治といったスーパースターと比較されていた原辰徳のようなものだ。

(長嶋さんを崇めている団塊世代のライターや作家には、原監督を現役時代から酷評する人が多いなという印象がある。彼の現役引退時に、詩も捧げたねじめ正一などは少数派ではあるまいか?)

あるいは、「最高で金、最低でも金」を要求され、銀や銅では喜ぶなと申し合わされているような柔道の日本代表のようなきつい立場かもしれない。

尾崎に対して、危惧を抱いているのは、「失敗レース」をしていること。世界選手権翌年のロンドンは13位。代表選考レースでもあった昨年の世界選手権は18位に終わっている。高橋尚子に野口みずき、そして土佐礼子は決して五輪に出場するまでに、二桁順位のマラソンを走ってはいなかったことと比較すれば、どうしても評価を下げてしまう。

さらに、今回はその世界選手権を含めて、横浜、名古屋と8ヶ月で3度の選考レースに出場して、代表の座を得ていることも、「代表入りに向けての執念」と評価する一方で、

「出ることだけが目標か?」

と酷評する向きもあるし、選考レースの一本化を主張する人たちからは、「選手の酷使」と陸連の選考方式の批判材料の事例にもなっている。今回の代表選考で課題となってのは、選考レースへの複数出場者への評価の難しさである。

横浜では木良子に敗れて2位。名古屋では日本人トップの2位だが、実はバルセロナ五輪以降、国内の選考レースで優勝を逃して五輪の代表に選ばれたランナーはいなかったのだ。アトランタの選考では鈴木博美が、シドニーの選考では弘山晴美が、選考レースである大阪国際女子で敗れて代表の座を逃した。当時に比べると、日本の女子の選手層も随分薄くなったなと思う。

世界選手権の女子マラソンで初の日本人メダリストとなった、山下佐知子が第一生命女子陸上部の監督に就任して16年、悲願だった「マラソン日本代表の育成」が実現した。

有森裕子、高橋、野口と歴代メダリストのシューズを作り続けた靴職人、三村仁司が、長年勤めたアシックスから独立して、アディダスと契約した。今回三村の作ったスペシャル・シューズでスタートラインに立つのが、尾崎である。

そんな「話題性」の面からも、注目されるべきランナーだ。「出ることだけが目標か?」などと酷評した人間に一泡吹かせて欲しい。


◎木良子(ダイハツ)

1985年6月21日生 京都府出身 宮津高~佛教大卒

マラソン歴3回

ベスト記録
5000m  15分22秒87
10000m  31分38秒71
マラソン 2時間26分32秒(2011横浜国際女子)

国際大会実績
2005年ユニバーシアードハーフマラソン銀メダル
2007年ユニバーシアード10000m銀メダル
2010年アジア大会5000m8位


マラソンや駅伝に普段さほど関心の無い人は彼女の出身校が「佛教大」と聞いてどういう印象を持つだろうか?駅伝ファンにはお馴染みだが、同校は全日本大学女子駅伝では、上位入賞の常連校で、2009年と2010年には連覇を果たしている。彼女も同校のエースとして活躍し、「学生の五輪」であるユニバーでは2個のメダルを獲得している。今回のメンバーではもっともトラックの持ちタイムのいい「スピード・ランナー」である。所属するダイハツからは16年ぶりの五輪出場。当時のコーチだった林清司が現在の監督である。

先日、ネットのニュースサイトにて、「日本女子マラソンメダル確定」という見出しを見つけた。何を根拠にと思ってクリックしたが、

「欧州で開催される五輪では、日本女子は常にマラソンでメダルを獲得している。今回も大丈夫。」

という内容だった。欧州でって、今までバルセロナとアテネでしかやってないやないか!
こんなもの「ジンクス」と言えるのか?こんな記事で原稿料が貰えるのか?とあきれ果てた。こんなものが「ジンクス」になるというのなら、

「五輪の女子マラソンは、大学卒ランナーが強い。」

という方がよっぽどジンクスだ。

山下佐知子(鳥取大卒 1992バルセロナ4位)
有森裕子(日本体育大卒 1992バルセロナ銀メダル 1996アトランタ銅メダル)
高橋尚子(大阪学院大卒 2000シドニー金メダル)
土佐礼子(松山大卒 2004アテネ5位)

これまで五輪に出場した大学卒ランナー6人のうち、4人がメダルか入賞を獲得している。初めて女子マラソンが実施された1984年のロサンゼルス五輪では、佐々木七恵(日本体育大卒)は17位だったが、当時の日本記録保持者だった増田明美がリタイアして、日本人唯一の完走者となった。1988年のソウル五輪でも浅井えり子(文教大卒)は25位だったが、日本人ランナーの最高順位だった。

持ちタイムの悪さから評価が低いが、これは選考レースだった昨年の横浜のコンディションのせいで、「記録を狙うレース」に出ていないというだけである。一部報道で、婚約者の存在が明らかになり、現時点では五輪後の競技継続は未定のようだ。しかし、五輪の結果がどうあれ、競技を継続するというのであれば、来春は海外マラソンで記録にチャレンジして欲しいと思う。父親が順天堂大で箱根駅伝を走っているということも話題の一つ。

全日本大学女子駅伝が、「世界への登竜門」と位置づけられるためにも、彼女の活躍には期待したい。


◎重友梨佐(天満屋)

1987年8月29日生 岡山県出身 興譲館高校卒

マラソン歴2回 
 
ベスト記録
5000m  15分32秒41
マラソン 2時間23分23秒(2012大阪国際女子)


JR岡山駅のターミナルビルが本店で、中四国にしか店舗を持たない百貨店である天満屋が全国のその名が知れ渡っているのも、五輪の女子マラソンに4大会連続して代表選手を出場させている女子陸上競技部の存在の賜物であろう。「てんまんや」と誤読する人ももう少なくなっただろう。駅伝の強豪チームでエース(最長)区間を走るランナーがマラソンでも優勝して日本代表入り、という日本の実業団の長距離ランナー育成メソッドの保守本流から生まれたランナーだ。以前読んだ、某週刊誌の「日本の女子マラソンが弱体化した原因は?」という記事、結論は、

「十代の頃から、駅伝で優勝するためのハードなトレーニングで心身ともに燃え尽きてしまうから。」

というものだったが、確かにそれはある部分では事実だろう。しかし、重友の母校は全国高校女子駅伝の強豪で、彼女が3年生の時に全国優勝している。さらに今回長距離トラックの代表で出場する新谷仁美は、彼女のチームメイトで3年連続1区で区間賞を獲得しているのだ。それを思えば、あまり説得力のない説だと思うが、まあ、甲子園の優勝投手が全員、プロ野球で成功するとは限らないようなものか。松坂大輔や斉藤祐樹は例外中の例外か?

男子においては、マラソン歴が一番少ない選手がメダルを獲得する、という事例があった。1964年東京五輪での円谷幸吉は、初マラソンがその年の2月。翌月の選考レースに出場して2位で代表入り。夏に練習で1本マラソンを走り、初マラソンから8ヶ月目、4回目のマラソンで銅メダルを獲得した。バルセロナ五輪銀メダルの森下広一は五輪が3度目のマラソンだった。

重友、そして木の危惧材料は経験の少なさ、特に夏のマラソンを未経験のところである。レース当日の天候も結果を大きく左右しそうだ。


3人のランナーに、共通点を見つけた。女子監督の指導を受けているのは尾崎だが、ダイハツも天満屋も、OGがコーチに就任していることだ。ダイハツのコーチは、世界クロカン代表の山中美和子。現在は結婚して退いているようだが、天満屋もシドニー五輪のマラソンで入賞した山口衛里がコーチを務めていた。


アテネ五輪以降、ライバルであるケニア、エチオピア、ロシア、中国、アメリカ等の躍進に遅れを取ってきた日本の女子マラソン。メダルの可能性は低く、陸連が公表した目標メダル数も「1個以上」と、控えめ過ぎるものだ。しかし、予選トーナメントで2連勝した男子サッカーに、初メダルを獲得した女子アーチェリー団体のような期待以上の結果を出す競技もあった。メダルの可能性はゼロではない。8位以内でも上出来だと思う。


(文中敬称略)


4 コメント

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オリンピック (giants-55)
2012-08-01 09:57:16
書き込み有り難う御座いました。

「オリンピックでないと、先ず見る事は無い競技。」、アーチェリーや砲丸投げ等は、そういった競技かもしれませんね。「競技自体の認知度を上げ、環境改善を図る。」という意味では、オリンピックは最大の場と言えましょう。

今回の記事を拝読する迄、全く意識していなかったけれど、確かに今オリンピックでのマラソンは従来よりも注目度が低いかもしれません。マスメディアの事前の取り上げ方次第で、注目度が如何様にも変わるというのは良く在る事ですが、今回で言えば砲丸投げなんかは其の典型かも。
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Unknown (がじゃっち@沖縄)
2012-08-01 15:27:00
ロンドン五輪のマラソンの競技時間帯(日本時間19:00~22:00)のロンドンの気候(テレビの五輪中継をを見ていても「涼しそう」と言うより「寒そう」です・・・)を考慮すると、今回はあまり「暑さ」はカギにはなりませんね!むしろ代表を決めた日本陸連も、それを報道するメディア自体も今回の五輪マラソン代表への評価が男女ともに「評価が低過ぎ」ではないでしょうか?確かに4年前までとはマラソン界を取り巻く環境が男女ともに変わりましたよね!当時は女子マラソンは野口みずき選手の「女子では初の五輪連覇成るか?」と言うのが絶対的なテーマでした!まさかレース直前に故障が発覚して、欠場を余儀なくされるとは予想外でした・・・。今回の女子マラソンも世界記録(2時間15分25秒=2003年ロンドンマラソン)保持者のポーラ・ラドクリフ選手(英国)の欠場が先日発表されましたが、彼女の全盛期(シドニー五輪の女子10000mでのフロントランナー(4位入賞)ぶり、以後はかんちゃんさんをはじめこのブログや「マラソン掲示板」の常連さんならご存知のことだと思いますので省略しますが・・・)を見ていた者としては長野冬季五輪で実況を担当されていた島村俊治アナウンサーが発したコメント「世界記録保持者が勝てないのが五輪」(島村さんが五輪の男子マラソンで実況を担当されていた頃によく発言されていましたよね!)と言う言葉にある種の「五輪のタイトルの重み」を感じますよねぇ・・・。今回のロンドン五輪での「ランニング界の「なでしこジャパン」「侍ジャパン」の活躍に期待したいところです!
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オリンピック (かんちゃん)
2012-08-03 07:28:36
>giants-55さんへ

実は学生時代に弓道をしていたのですが、アーチェリーは「似て非なる競技」として、楽しんで見ました。もっと見てみたいと思ったのはカヌーのスラロームですね。

卓球にフェンシングにテニス、くじ運が悪いのか日本選手が予選の早い段階で強豪と対戦して惜敗、というパターンが多いですね。

砲丸投げなど、陸上競技は日本人がエントリーしていない種目も少なくないです。日本人が出ていない種目というのは注目度も下がりますが、中長距離種目は、日本人の出場如何に関わり無く「面白い」ですよ。あの落合博満さんも「楽しみ」と語っていたくらいです。
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いよいよ陸上競技スタート (かんちゃん)
2012-08-03 07:35:01
>がじゃっちさんへ

男子も世界記録保持者のパトリック・マカウも代表選考から漏れました。世界記録保持者を落選させてもなお、メダル独占もありそうなケニア勢にどう立ち向かうか。

天候の影響は大きいでしょうね。高速レースとなるでしょうか?

ともあれ、女子マラソン勢には、「サプライズ」を期待しています。
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