落葉松亭日記

ニュース・評論スクラップ、凡夫の日々雑感、山歩記など

米「グリーンランド売ってくれ」

2019年08月22日 | 世相
トランプ米大統領はグリーランド買収をデンマークに提案した。
フレデリクソン・デ首相は「馬鹿げている」と一蹴した。
米大統領の狙いは・・・
「グリーンランド買いたい」「売らない」 トランプ氏、デンマーク訪問を中止
2019年08月21日
https://www.bbc.com/japanese/49416875

写真: グリーンランドは北大西洋および北極海に位置する世界最大の島。デンマーク王国の一部だが自治政府を持ち、独自の議会もある

ドナルド・トランプ米大統領は20日、9月に予定されていたデンマーク訪問を取りやめた。メテ・フレデリクセン首相が、グリーンランドをアメリカに売るつもりはないと発言したことを受けて、ツイッターで発表した。
トランプ大統領は先週、グリーンランド買収に関心があると話した。しかし、フレデリクセン首相はこの提案は「馬鹿げている」と一蹴し、トランプ氏の冗談だといいのだがと話していた。
トランプ氏は、デンマーク女王マルグレーテ2世の招待で、9月2日からデンマークを訪問する予定だった。

トランプ大統領はツイッターで、「デンマークは素晴らしい国民のいるとても特別な国だが、メテ・フレデリクセン首相はグリーンランド購入について話し合う気はないようなので、2週間後の会談を別の機会に延期することにした」と説明した。

ホワイトハウスの報道官も、大統領の訪問が中止になったと認めている。

トランプ氏はこれに先駆けて、グリーンランド買収に関心があるという報道を認めた。アメリカの領土との交換も視野に入れているかとの質問には、「色んなことが可能だろう」と答えていた。
「これは大きな不動産取引だ」
しかし、この提案はグリーンランドとデンマークの政府関係者によって却下された。

グリーンランドのキム・キールセン自治政府首相は、「グリーンランドは売りに出していない。しかし、グリーランドはアメリカを含む他国との貿易や協力には、門戸を開いている」と話した。
ラース・リュケ・ラスムセン前首相はツイッターで、「これはエイプリルフールの冗談に違いない」とツイートしていた。

グリーンランドはどこ?

グリーンランドは北大西洋および北極海に位置する、世界最大の島。デンマーク王国の一部だが自治政府を持ち、独自の議会もある。
人口は約5万6000人で、沿岸地域に集中している。人口の9割はグリーンランド先住のカラーリット(イヌイット)が占める。
島の8割は氷で覆われているが、地球温暖化で溶ける危険性がある。一方で、氷が溶けることで、島の鉱物資源が採掘しやすくなっている。
一方で、島内の米軍基地に米軍が冷戦中に埋めた有害な核廃棄物も、氷の溶解で露出するのではとみられている。
米軍は第2次世界大戦中にグリーンランドに基地を設置。戦後も戦略上の重要拠点と位置づけ、北大西洋条約機構(NATO)の一環として、現在に至るまで空軍基地やレーダー基地を置いている。

なぜグリーンランドに興味を?

トランプ大統領は、石炭や亜鉛、銅、鉄鋼といったグリーンランドの天然資源に興味を持っていると報じられている。
しかしグリーンランドは現在、予算の3分の2をデンマーク政府に頼っている。自殺率やアルコール依存症、失業率も高い。

写真:トランプ大統領は、石炭や亜鉛、銅、鉄鋼といったグリーンランドの天然資源に興味を持っていると報じられている

米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ大統領はグリーンランドの「国家安全保障上の価値」に注目していると伝えた。
共和党のマイク・ギャラガー下院議員は、トランプ氏のアイデアを「賢い地政学的な動きだ」と評している。

過去にもグリーンランド購入を模索

アメリカは1860年代、アンドリュー・ジョンソン大統領の時代にも、グリーンランドの買収を画策したことがある。
1867年の国務省報告書によると、グリーンランドはその戦略的位置や豊富な資源から、理想的な購入対象だと示唆されている。
しかし1946年にハリー・トルーマン大統領がデンマークに1億ドルでグリーンランドの購入を提案するまで、公に動きはなかった。
AP通信によると、トルーマン大統領はこの時、アラスカとグリーンランドの戦略的地域の交換も視野に入れていたという。
(英語記事 Trump cancels Denmark visit over Greenland sale spat)

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 令和元年(2019)8月22日(木曜日)弐 通算第6179号  
http://melma.com/backnumber_45206/

トランプは本気で打診したのだ。「グリーンランドを購入したい」
  デンマークは本気で怒ったのか、それとも別の思惑があるのか?


 他国の領地を購入することも、戦争以外に領土を拡げる手段であり、過去の歴史は幾多の例を残している。
 1603年 ジェファーソン大統領は、1500万ドルでルイジアナを購入した
 1667年、ジャクソン大統領は700万ドルでアラバマを購入した。
 1803年 ナポレオンはカナダ南東部を購入し、フランス領に編入した。
 1848年 米国はメキシコからカリフォルニア州、そしてネバダまで購入した。
 1861年、米国はアラスカをロシアから購入した。
 1917年、米国はデンマークから2500万ドルでヴァージン諸島を購入した(現在の米領ヴァージン諸島のこと)
 そして1945年、ハリー・トルーマン大統領はグリーンランド購入をデンマークに打診した。だから、米国の購入打診は74年ぶりのこととなる。

 トランプ大統領は「グリーンランドを購入したい」と訪問前に発言した。たちまちデンマーク側は反発し、フレデリクソン首相(女性)は、「驚くと同時に失望した。『侮辱的提案』だわ。売り気はありません」と突っぱねた。

 ビリー元外相は「トランプは外交の基本をわきまえず、娯楽のつもりなのか。彼はナルシストか」と激しく反発した。九月初旬にマルグレータ女王二世の招待でコペンハーゲンを訪問する予定だったトランプは『延期』を発表した。

「思いつき」で発言したのか、それとも不動産リゾート開発でグリーンランドにもトランプタワーを建てる目的か? 欧米のメディアは驚きと同時に「これは娯楽番組か」とおちゃらけぶりの分析だった。

 じつは米国は本気なのである。
提示した金額は1兆ドル強だと英紙『ガーディアン』(電子版、8月22日)が伝えた。ホワイトハウスでは、NATOの安全保障をめぐっての戦略討議が行われ、NATOの軍事的要衝としてロシアと中国の軍事的脅威から安全をいかに維持できるか。デンマーク一国では物足りないのではないかと懸念が拡がっていた。

 そもそもグリーンランドがデンマークに編入されたのはそれほど古くなく、1953年までは植民地だった。国土の85%が氷河である。住民はイヌイット(エスキモー)、かれらはデンマークへの帰属意識は殆どない。
同じく「同君連合」の一員だったアイスランドは、十四世紀以来デンマークの支配を受けてきたが、1944年にデンマークから独立している。

 デンマークはグリーンランドに対して年間7億ドルを補助しているが、この税制負担もきついと言われ、またグリーンランド住民からすれば資源の収入の半分はグリーンランド自治領の歳入だとして、別途デンマーク政府に支払いを求めていた。デンマークは原油とガスに恵まれ、100%自給。余剰石油をドイツなどへ輸出している。

 デンマークとグリーランドでは所得格差ばかりか、住民の民族も言葉も異なり、ひとりあたりのGDPはデンマークが5・3万ドルにたいして、グリーランドは犬ぞりの狩猟生活と漁労だから所得も低く、そのうえ厳寒の自然環境からアルコール依存度が高く、麻薬も蔓延り、自殺率が高い。NATOの一員としてのデンマークはGDPの1・35%しか防衛負担がないため、日頃から米国は不満をぶつけてきた。

 ▲トランプの狙い、じつは地下埋蔵のレアアース、そして中国牽制にある

 もうひとつ重大な戦略的目標があった。
地球温暖化でグリーンランドの氷河が溶け始めているが、地下に眠る大油田と、レアアース鉱脈である。
グリーランドは氷土だが、面積は日本の五倍以上。住民はイヌイット系のエスキモーを中心に五万七千人しかおらず、いまはエビの漁労が盛んで、日本の水産企業駐在員も五名いる。
 レアアースは中国が90%を産出するため、近未来のスマホ、電気自動車の部品材料としての需要は天文学的であり、資源確保が急がれている。
すでに豪の資源会社はグリーンランドの一部鉱区を契約して2007年から操業している。

 以前から中国がリゾート建設を打診してきた経緯もあり、そのうえ、グリーンランドの住民投票は、じつに71%強が、デンマークからの独立を望んでいることがわかっている。したがってナショナリズムを刺戟され、カネを餌に狙われたら、危ないのである。もちろん、中国の得意技「借金の罠」である。

 米国はグリーンランドのクラタークに、レーダー基地を設置しており、NATOの安全保障の向上を前面に出している。