立待岬から海岸線を東に向かい途中湯の川温泉・トラピスチヌ修道院を過ぎ、50キロ近く走行すると恵山という場所に到着する。恵山は活火山で、蝦夷ツツジの原生林があり、山麓には温泉がある。モンテローザが経営する温泉旅館には涅槃仏や様々な彫像等があり公園となっている。温泉だけ浸かり、日帰りで利用することも出来る。ここから川汲(かっくみ)温泉を抜け椴法華(とどほっけ)を経由して函館に戻れる。
秋に当たる今の時期は函館湾の対岸に当たる上磯(かみいそ)で鮭の遡上が橋の欄干から見られる。上磯川と呼んでいたが正式名称は定かではない。さほど大きな川ではないが、函館湾内に注いでいる。海から川へ4年ぶりに戻った雄雌の鮭が海水から真水に魚体を慣らすために、河口付近を回遊する。河口を挟む左右500メートルの範囲は鮭釣りが禁止されているが、それより先の海岸には多くの釣り人が何本もの竿で海に向かって投げ釣りをしている。えさは疑似餌で、鮭は遡上を始めると餌を採らないようであるが、最後の餌となる疑似餌に食いつく鮭もいる。考えようでは惨い話ではあるが、うまく釣れることもあり、2~3キロもある大物釣りが楽しめる。
また、海岸から大波の中に大量の鮭の黒い魚影を見ることが出来る。函館湾は昭和29年9月26日、青函連絡船の洞爺丸が台風の高波・暴風によって転覆・沈没し、死者・行方不明者合わせて1,155人を出した海難事故の場所でもあり、比較的浅く、砂浜が続いている。上磯には太平洋セメントの工場があり、船で物資を搬送するための桟橋が相当沖まで続いている。
漁協が河口付近を堰き止め、遡上する鮭を捕獲して、人工ふ化の作業を行っている。産卵間近の鮭の卵(イクラ)を取り出し、精子をかける。暫く人工飼育をして、上流で放流するそうである。取り出された鮭は「ホッチャレ」と呼ばれ廉価で販売している。何匹も買い取り、寒風にさらし、トバ(鮭を乾燥させビーフジャーキのようにしたもの)にするそうである。河口付近の浅瀬には産卵を始める鮭もいて、その卵をねらうウグイが鮭の周りを取り囲んでいる情景は浅ましいと思う反面、自然の生態が人間によって替えられた、歪(いびつ)な世界を垣間見た。(このシリーズ最終回です)