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近くの多摩川に飛来する野鳥の連続写真を中心に、日頃感じた出来事を気ままな随想でご紹介し、読者双方との情報を共有したい。

漆工作業その18

2015年07月19日 00時00分01秒 | 緑陰随想

 研ぎについて考えてみる。漆工では各種の研ぎに必要な研削材料を使っている。研ぐことは研削や研磨という言葉を使う。原理は出っ張っている部分や出っ張りを削り取って平らな面にすることなのであるが、そればかりではなく、わざわざ平らな表面に傷を付けて表面を粗(あら)し、次ぎに塗る塗料の足がかりを付ける。これをアンカー効果といっている。船が海洋で錨(イカリ)を降ろし、船を固定する投錨の意味である。このことは、意外と知られていないのであるが、一定の厚みが必要な塗膜は、塗り重ねることによって得られる物で、刷毛塗り1回の膜厚は精々30~50ミクロンぐらいであるので、また、ガラスの様な平坦な表面に塗料を塗ると乾燥後密着が悪く直ぐに剥がれてしまう。

 

 塗料が物体の表面に塗られ、密着するには、投錨効果ばかりではなく、分子間引力が作用することや、物体の表面に異物や、油脂類があると塗料がはじき、うまく密着してくれない。これを濡れ(ぬれ)という言葉で表しているが、研ぎは、表面の異物を除き、濡れをよくする目的もある。

 

 研ぎと磨きは作業に必要な材料が異なり、区別して用いているが、原理は同じである。漆工に用いる研ぎ材料としては、砥石、炭、木賊(とくさ)研磨紙、耐水研磨紙等である。砥粒の粗さによって用途を変えるが、下地の研ぎには砥石を用い、上塗りに従って、砥粒の細かい炭や砥の粉を使う。連続して磨きを行うが、炭の粉をふるいにかけた炭粉、砥の粉とあぶらをねった研磨剤、チタン白、醐紛等も用いられている。

 

 塗装作業で研ぎは作業全体の2/3位のウエイトを持っていて、必ず必要な作業である。空研ぎと水研ぎに分かれているが、粉塵を吸い込まない水研ぎの方が体には良く、耐水研磨紙を使用する。漆工では、手で研ぐのが普通であるが、面積が広くなると機械研磨(サンダー)を利用する場合もある。エアサンダー、ベルトサンダー、ポリッシャー等も導入されている。円軌道運動をするオービタルサンダー、前後運動をするラインサンダー等も仕上げの程度によって選択されて使われている。

 

 機械による研ぎは、簡単な様に思えるが、平面を出すのはそれなりの熟練がいる。塗面の研ぎは研削材料との摩擦による熱の発生が塗膜を軟化させ、研削効率を逆に落とす場合もあるので、取り扱いには熟練を要する。研ぎ作業は難しい作業で、研ぎすぎることによって、塗膜を台無しにする研ぎ破りなど仕上がりに直接影響する作業である。