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近くの多摩川に飛来する野鳥の連続写真を中心に、日頃感じた出来事を気ままな随想でご紹介し、読者双方との情報を共有したい。

漆工作業その20

2015年07月21日 00時00分01秒 | 緑陰随想

 漆工作業はその歴史が示すとおり、技術的な技法は完成されているといえる。我が国が江戸時代に鎖国を行っていたが、黒船来航以後、鎖国は解かれ、開国して行く時期にペンキ(ペイント)も移入されたといわれる。培われていた漆工技術があったため、比較的容易に移入されたワニス等の油性塗料が使われる様になったようである。現在は多くの合成樹脂が使用されているが、その作業の多くに漆工技術が使われていて、基本的な塗装作業には共通点が多くある。

 

 漆工では天然樹脂の漆を使い、被塗物に対し、保護と美観を与える皮膜を形作る。使用する塗料である漆もJIS(日本工業規格)でその種類、品質等を規定している。天然素材を用いることは環境に対する影響を最小限にするとの意識があることはその通りと思われるが、他の塗料が必ずしも悪いわけではない。既に危険であり、人体等に悪影響を及ぼす塗料は安全なものに変わっている。環境に対して影響が少ない塗料を使用していて、ことさら合成樹脂塗料を否定する必要はない。むしろ、塗料の使用量は圧倒的に合成樹脂塗料で占められている。

 

 現在の塗装技術に漆工で培った変わり塗りなどの加飾方法はむしろ積極的に用いればよいのであって、100種類を超える変わり塗りの表現はデザインを一変させる効果を持つ。また、我が国独自の色合いである浅黄色、うるみ色、なす紺色、透(すき)、紅溜、緋色等の発色も和風といわれる雰囲気を醸し出す。

 

 漆で塗られた製品に、カシュー等の合成樹脂塗料を上塗りすると漆が持つ抗酸化作用が原因で乾燥しない場合がある。逆は問題ない様で、下塗りまでをカシュー等の合成樹脂塗料で仕上げ、上塗りに漆を用いた製品もある。塗装には、最終工程だけを目にするわけで、だからといって、下塗りは何でも良いということではない。下塗りまでの工程は上塗りの機能と異なる目的があることを知るべきで、手抜きは許されることではないであろう。

 

 使い捨ての時代となり、消費が美徳までいわれる昨今、物を大事に使い、それを長持ちさせる事の方が美徳であり、無駄にしない努力は永遠に必要な見識である。その一助に漆工の世界も存在してきた。必要ない機能を敢えて付加する必要はないが、漆工技術の持つ奥深さの中に、次世代を担う技術がかくされているのかも知れない。既に、電子線を当てて、乾燥時間を短縮する技術などが報告されている。