再掲載の画像です。ダイサギの飾り羽根
摺り合わせは水平な面を作るのに大変大事な作業である。どの段階で水平を出しておくかを意識して作業に当たらなければならない。石膏を利用した乾漆作業において、胎となる漆と麻布等で塗り重ねた漆胎すなわち乾漆は、経時変化で変形し、縮む。製品の僅かな歪みは全体の安定性を欠き、水平さえも取れなくなる。蓋物は特に、左右、上下が狂いやすい。下地を施してから直ぐに中塗り、上塗りと進めばよいかというと、そうではなく、上物ほど狂いを生じる時間を長く取る。半年や1年寝かせる場合もある。その間に、温度変化や、漆の固着が進み、痩せさせて、もう痩せることがないと見極めてから仕上げ塗りにかかる。
合板に使うピアノなどの鏡面仕上げに使う木材も輸入した後、製材し、屋外で棚積みして、乾燥させ、十分に狂いを出してから利用している。
伝統工芸展など展示会においても、目痩せして、下地に使った寒冷紗や麻布の模様が浮き出た作品も見受けられる。施工にかかる時間的制限があり、仕方がない面もあるが、表面のやせだけでなく、蓋が閉まらない、合い口部分に隙間が空く等の欠陥が生じる。変形は展示物に長時間スポットライトを浴びさせたことによる、温度変化で、照射された場所の膨張が起こることに起因する場合もある。
上塗りまでしてからの修正は困難であるので、下地の状態で水平を取っておく。ガラス板に比較的粗い耐水研磨紙に水を潤滑剤として、合い口の一方を前後左右にこすり、水平を出す。耐水研磨紙の代わりに砥の粉を用いても良い。立ち上がり面の水平は、一方の合い口の水平面を基準に、隙間を埋める。独自に治具を作り、へらとして、また、ゲージとして利用する。水平が取れた合い口部には塗料を薄く塗って仕上げる。
塗装面が縮むのは仕方ないことで、塗料は単体ではなく、刷毛等で塗りやすいようにするため、流動化させる。溶剤(シンナー)で原液を薄める。乾燥塗膜からシンナーが抜け出て、塗膜となる固形物だけが残るが、完全に抜けきるまでは時間がかかる。漆においても同様で、空気中の水分を採り入れるため、膨らむイメージがあるが、酵素(ラッカーゼ)の作用によってウルシオールが水分と結合して安定するばかりではなく、多くの炭化水素を持っていて、揮発する成分もあるため、結果的に縮む。下地材も同様で余分な水分が揮発する。また、塗りやすくするため、テレピン油などのシンナーを加えている。
塗料類の殆どは乾燥すると痩せると思っても良い。また、良い製品は基材の狂いを如何に抑えているのかによるが、直ぐには分からず、長年の使用で結果が出る。