バイリンガルや多言語を操る方の脳の構造がどのようになっているのか普段から疑問に思っていたが、今回様子を見ることにした。日本語の文脈のポイントとなる語や語句をフランス語に変換した語を階層構造のように素早く筆記し、頭の整理をしていた。変換した階層構造は殆ど見ずにフランス語を話し、フランス語から日本語へは筆記もせずに私へ伝えてくれた。
階層構造は通訳が知らない日本の状況や専門用語を自ら理解するための記述であったのかもしれない。板書に日本語か英語で解説用に書くことはままあるが、これはフランス語に変換することで研修員に単語で伝えるためで、女史の頭に日本語―フランス語の辞書が入っているようであった。 自分には到底出来ない芸当である。
普通、通訳者が同席する環境では、コースの運営の詳細について、事前の打ち合わせがもたれる。その時点で講義の内容を伝えるが、専門分野になると、用語の意味の説明からはいるため、コーディネータの経験と力量が要求される。集団コースの場合は講師が各国の事情や、状況まで短時間で把握することは通常、困難で(場合によっては来日前にカントリーレポートが手元に届くことがあるが決してすべてが揃うわけではない)、集団コースの難しさである。
研修の最後はアクションプランの作成である。このセクションが研修員の帰国後に各自が展開する我が国の技術移転の研修成果で、今後の二国間援助やフォローアップ等のベースとなるものである。
我が国の技術協力に高い賛辞が送られている背景には、研修を成功裡に導くコーディネータの存在と、広範な業務をこなす能力があって始めてなし得るものである。どの研修であっても、コーディネートすることの大変さを実感し、その実態にふれてきたが、自分の能力以上の行動がとれたのもコーディネータの介在があったおかげで、成功できたのであり、そのことに今でも感謝している。(このシリーズ最終回です)