肉体表現は言語を超える。
そんなのは映画がサイレントの時代から分かっている事なのだが、目の当たりにするとこの言葉がいつも頭に浮かんでくる。
ハリウッドが多額の資金をつぎ込んで新たな映像技術を開発し、観客たちを驚かせ感動させているが、やはり生身の人間によるギリギリのアクションには敵わない。息づかいや体温が画面から感じられないから。
今や編集やCG等視覚効果によりバーチャル世界のような無気質なものとなった格闘アクション映画が多い中、数少ない《本物のアクション映画》を作る男がタイに存在する。
パンナー・リットクライ師匠である。
トニー・ジャーの出世作『マッハ!』により世界的知名度を得た彼は、自分の育てた俳優たちの作品において次々と新たなアクションを見せてくれた。それはかつてジャッキー・チェン作品
などで感じた《痛みが共感できる》ような血肉の通ったアクション。そんな彼の生み出すアクションに世界中のファンたちは賞賛の声を贈った。
だが、『チョコレート・ファイター』以降、パンナー師匠自らが直々にアクション指導する作品は減り、彼のアクションチームの手による《パンナー師匠的アクション》作品ばかりとなり、正直編集と受け手(やられ役)の技術向上ばかりが目に付き、ここ数本はちょっと食傷気味でパンナー作品のこれ以上の期待が望める要素がなかった。あの『マッハ!』の興奮を、『7人のマッハ!!!!!!!』の興奮よもう一度!とそれらの作品を見ながら(決してアクションのレベルが落ちているわけではないが)そう思っていた。
だが、やってくれましたよ師匠!
昨年末(2010)にタイで公開された、パンナー・リットクライ久々の監督(共同)作である『Bangkok Knockout』 はそんな世界中のパンナー信者の心の叫びを一瞬で満たしてくれた、危険度MAXな超絶アクション満載のどこから切っても《パンナー印》な作品だったのだ。
ストーリーはあってないようなもので、闇の賭博組織によって拉致され、死と隣り合わせな格闘ゲームの《駒》とされてしまったスタントチームの生き残りを賭けたサバイバル・バトルを延々と描いており、多少の恋愛要素はあるものの映画の大半は紅一点のヒロインや身内を《賞品》として、スタントチームの面々と闇組織の用意した《敵》たちとの壮絶な闘いの連続だ。
集団劇である故に、トニー・ジャーやダン・チューポンみたいな頭一つ飛び抜けた存在が登場しないので(ひと山幾ら的な感じがする)個々で感情移入しにくいのが難点だが、各面々にそれぞれ振付けられた異なるアクションを堪能することができ、格闘振付師パンナー・リットクライの才能の高さを窺い知る事ができる。
久々のパンナー師匠度100%な作品を楽しんだわけだが、よ~く考えてみるとやってる事は前作の『7人のマッハ!!!!!!!』と変わっているわけでもないし、もっというと代表作『Gead Maa Lui』(86)や90年代に仲間たちで製作した数々の作品群とも大きな違いはない。それは何か?彼の作るアクション映画が、ストーリーを語る上の手段でアクションを用いているのではなく、アクションの積み重ねによって映画を構築していく点である。このあたりは全然進歩がない。武術指導・アクション監督としての才能はものすごいものを持っているのだが、ドラマを含め総合的にやってしまうと映画のバランスがものすごく悪いのだ。そうやって考えると『マッハ!』や『トム・ヤム・クン!』そして『チョコレート・ファイター』で一緒に組んだプラッチャヤー・ピンゲーオ監督は映画というものを知っている。
過激なアクションのみがずば抜けて突出し、全体のバランスが悪い映画ではあるものの、面白い事には変わりはない。肉体で映画を語ってきた80年代香港明星たちは既に演技に重点を置いた作品に移行し、人命が安っぽく感じられるスタントシーンが満載だった香港アクション映画も過去のものとなった2011年現在、未だに肉体の可能性を信じ、敢えて安全性度外視で(実際は経験と技術でカバーしているけど)映画を作っている御仁がいるなんて感動ものだとは思わないか?
追記:変わってないといえば、敵の集団が忍者風なのも昔と全然変わってない。好きだねぇ、パンナー師匠…
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