キューピーヘアーのたらたら日記

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『SAKURA』 第三幕-4

2011-04-15 15:55:19 | 私が作者です
第三幕-4 (桜子の独白)


舞台が暗くなり、桜子にスポットライトがあてられる。


桜子:私の母は温泉の枕芸者でした。

   枕芸者ってご存知?

   枕は「pillow」。枕芸者は枕を共にするのが専門の芸者。

   そう、売女。

   私は私生児です。

   小さい頃の写真を見ると、ボロみたいな服を着て、

   男の子みたいな髪型をして写っています。

   戦後の物資の乏しい時代だったからそれも仕方ないわね。

   活発な子でした。

   小学校も中学校も優秀な成績で卒業しました。

   でも、世間の風は冷たかった。

   集団就職で東京の電気屋に住み込みで勤めましたが、

   店主は始めから色眼鏡で私のことを見ていて、

   一ヶ月後に手篭めにされました。

   私は身ごもり、堕ろす堕さないで揉めていると

   関係が奥さんにばれ、店を追い出されました。

   子供は結局、薮医者の手で堕ろされました。

   不景気で仕事は見つからず、

   やがて盛り場で立ちんぼをして食いつなぐようになりました。

   「立ちんぼ」、わかる?街娼。

   蛙の子は蛙だと思い知らされました。

   二十歳の頃にはもう一人前のソープ嬢になっていました。

   そんなある日、私の元に一通の手紙が届きました。

   差出人は母の初恋の人の名前でした。

   「お前は私と澄江とが真剣に愛し合って授かった

   真実の子供です。

   だから、そんなところにいてはいけない。

   道は険しいかもしれないが、

   何があっても世間に負けるな。

   今は冬の桜の木でも、いつか必ず花を咲かせるときが来る。

   だから、今はイバラの道を選びなさい。」

   と書いてありました。

   筆跡は明らかに母のものでした。

   しかし、私は母の心の中にいる父の存在を感じ取ることができました。

   そして、その手紙を書いた母の想いを想像し

   胸が張り裂けんばかりになりました。

   そして私は立ち直りました。

   履歴書を高卒と詐称し、病院の給食を作る仕事にありつきました。

   その後、好き合った男性はできましたが、

   お風呂で働いていたことが言い出せずに自然消滅し、

   今もずっと独身です。

   そんな私ですが、母の死に目にだけは会えました。

   うわ言で初恋の人の名を呼んでいました。

   何十年も会ったことのない、男の人の名前を呼んでいました。

   私はその人に会いたい。

   母の唯一の希望、真実の人にひと目でいいから会ってみたい。

   私を底なし沼から救ってくれた人に会って話を聞いてもらいたい。

   どんなにか私が会いたかったかを…。

   きっと、そこから私の真の人生が始まるんだと思えてならないんです。


照明が元に戻る。

ボブが桜子の肩に手をかける。


ボブ:桜子さん、落ち着いて。

   僕にそんな打ち明け話はしなくていい。

   会えるさ、そのお母さんの初恋の人に、きっと。

   今日は遅くなったから、そろそろ僕は帰るね。

   あなたも少し休んだ方がいい。

   じゃあ。


こんな時もバタバタと退場するボブ。


暗転

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