第二幕
福井南警察署取調室
ボス:遠藤、さあ中に入れ。
ボスと遠藤小吉が登場。ボスの手にはコンピュータのリスト。
ボス、遠藤の手錠を外す。
ボス:そこに座れ。
今から取り調べを行う。
私はインターポールの刑事だ。
何の罪で逮捕されたかは分かっているな?
遠藤:児童ポルノ禁止法違反。
ボス:ふん、相手が17才だと知っていたか?
遠藤:知り合って一番最初に歳を聞いた。18才だと答えた。
ボス:それがこのサイトのルールだ。悪質だ。
14才の少女にも15才の少女にも履歴書に18才と書かせサインさせている。
それで摘発にあっても経営者は知らぬ存ぜぬで罪を免れている。
フィリピンの警察にはかなりの賄賂を渡しているようだ。
いくら摘発してもトカゲの尻尾切りだ。きりがない。
遠藤:サイトの運営のことは知らん。
ただ私たちは真剣に愛し合っていた。
ボス:愛し合っていただとお?あんた何才になるんだ?
遠藤:84才が恋して悪いか?
それはログか?
ボス:ああ、この一週間のあんたとYAYOIちゃんの会話が全部記録されている。
遠藤:通信の傍受は違法捜査だな。見せてもらってもいいか?
ボス:なことは百も承知さ。ただしあんたのやっていることは国家の沽券に関わるんだ。
ほれ、読んでみろ。
遠藤:ほら、ここで私は「I LOVE YOU」と言っている。
それに返してYAYOIは「I LOVE YOU TOO」と返事している。
愛し合っているじゃないか。
いったい何回「I LOVE YOU」と言っているか数えてみるがいい。
一週間で20回はくだらないだろう。
ボス:そんなものチャットの世界では社交辞令だ。
遠藤:ここを読め。YAYOIは「I AM HAPPY」と言っている。
女を幸せにして悪いか?
ほら、ここYAYOIは「早くあなたのお嫁さんになりたい」と言っている。
結婚の約束までしてるんだぞ。
ボス:向こうはそれがビジネスじゃないか。
お前、本気で結婚まで考えているのか?
なら人身売買で立件してやる。
反省の色が見えないようだと起訴だな。
女子高生と知ったのはいつだ?
遠藤:カレッジに進みたいと言い出してからだ。
ボス:そしてその後も女子高生と知りつつ援助交際を続けたと。
そうだな。
遠藤:待ってくれ、彼女の父親は長期失業者だ。
母親は肺を患っていて仕事ができない。
下には弟や妹がいる。
彼女の収入がなければ一家の家計は賄えない。
高校の授業料でさえ自分の働いた金で払っているんだぞ。
どこかの国のチャラチャラした女子高生の援助交際と一緒にしないでくれ。
私は少しでも彼女の助けになればと交際した。
それは放っておいたら高校を中退するだからだ。
万年不況のフィリピンで高校中退で満足な仕事にありつけると思うか?
いいとこカラオケバーのホステスだ。
運が悪けりゃ娼婦になるしかない。
そんな彼女に救いの手をさしのべていったい何が悪いんだ?
ボス:詭弁を弄するな!
そんな理屈で自分を正当化できると思っているのか?
いい年をして恥を知れ!
社会の不正を正す努力をしないでどうするんだ!?
目標はあくまでも最大多数の最大幸福だ。
一個人が問題なんじゃない。
遠藤:それなら彼女はどうなったっていいと言うのか?
このまま見捨ててしまえと言うのか?
ボス:彼女らは、現地の福祉局に保護を依頼してある。
福祉局の児童福祉課には心理カウンセラーもいるし、
職業訓練も実施されている。
だから、安心しろ。
……
遠藤:お役所のやることなんかあてになるものか。
ボス:なんか言ったか?
この件はこれにて落着と。
実は別件があるんだ。
あんた、その年にしちゃえらくコンピュータに詳しいな。
あんたのチャットを傍受していた捜査官のひとりが気付いたんだよ。
マハルのシステムは遠藤さんだけがチャット終了後、
ポイントが全額払い戻しされるようになっていると。
要するに、あなたは毎日只で快適チャットライフを満喫していたというわけだ。
専門家に分析を依頼したところ、実に巧妙な仕掛けがしてあったらしい。
その専門家はこう言っていた。
「こんな手の込んだ細工ができる者は、世界にたった一人
ハッカー界の神様「Shoukichi」しかいない。」と。
遠藤:……
ボス:インターポールと聞いてピンと来ただろう?
たかが、チャットの児童虐待でインターポールが動くわけがないだろう?
吐いたらどうなんだ?私がShoukichiですと。
遠藤:……
ボス:取り引きをしないか。
今後我々に協力しCIAや国防省のシステムをより堅牢なものにするための
ブレーンになってくれるならさっきの件はチャラにしてやる。
もちろん今までの不正アクセスだって不問にする。
給料だってはずんでやる。
その代わり、あんたがもし反体制側につくなら、
我々は徹底的にあんたを痛めつけてやる。
その年で実刑はきついぞ。
さあ、どうする?
遠藤:どうするって、俺はハッキングを認めたわけじゃないぞ。
ボス:このごに及んでしらを切るつもりかっ。
遠藤:……
コンピュータの世界は全て2進数でできているそうじゃないか。
0か1か。ONかOFFか。たった2つしかないんだそうな。
だからこそShoukichiとやらは電話回線が一本繋がっているだけで
どんなシステムにも侵入できるんだろう。
とすれば、堅牢なシステムなど存在しないんだろうな。
だから、俺がもしShoukichiだとすれば、ブレーンになる話なんて有り得ない。
ただし、反体制側にもつかない。
そういった形で何かに束縛されるのは嫌いだ。
俺は自由を愛する。
恋愛の自由、
表現の自由、
通信の自由。
そして、自由を束縛する権力を憎む。
体制という権力と闘い、
反体制という権力とも闘う。
たった一匹の小さな蟻だが、巨象をも倒してみせる。
ボス:貴様、アナーキストだったのか!?
象を倒した後に何が残るというのだ?
混乱と無秩序だ!
遠藤:違う!国があるから国境が生まれ争いが起こる。
国なんか無くたっていいじゃないか?
宗教なんか無くたっていいじゃないか?
民族なんて無くたって、
みんなでまぐわり合えば血は一つになり、世界は統一される。
アメリカ人よ、イラン人を妻に娶れ!
ユダヤ人はパレスチナ難民と結婚しろ!
そうすれば、お互いが分かり合える。
世界中が分かり合えれば、行き着く先は
俺のユートピアだ。
ボス、ハアと息を吐く。
ボス:誇大妄想のアナーキストか…。
まあ、あんたの考えはだいたい分かった。
今日のところはこのくらいにしておこう。
ご苦労さん。
拘留期間て何日あるか知ってるか?
ひひ、23日だ。後22日あるぞ。
俺の尋問に堪えられるかな、そのご老体で…。
立て。
遠藤に手錠を掛けるボス。
その時、遠藤がフラフラと崩れるように倒れる。
ボス:遠藤!
おい、遠藤!
誰か!!!救急車を呼べっ!!!
暗転
福井南警察署取調室
ボス:遠藤、さあ中に入れ。
ボスと遠藤小吉が登場。ボスの手にはコンピュータのリスト。
ボス、遠藤の手錠を外す。
ボス:そこに座れ。
今から取り調べを行う。
私はインターポールの刑事だ。
何の罪で逮捕されたかは分かっているな?
遠藤:児童ポルノ禁止法違反。
ボス:ふん、相手が17才だと知っていたか?
遠藤:知り合って一番最初に歳を聞いた。18才だと答えた。
ボス:それがこのサイトのルールだ。悪質だ。
14才の少女にも15才の少女にも履歴書に18才と書かせサインさせている。
それで摘発にあっても経営者は知らぬ存ぜぬで罪を免れている。
フィリピンの警察にはかなりの賄賂を渡しているようだ。
いくら摘発してもトカゲの尻尾切りだ。きりがない。
遠藤:サイトの運営のことは知らん。
ただ私たちは真剣に愛し合っていた。
ボス:愛し合っていただとお?あんた何才になるんだ?
遠藤:84才が恋して悪いか?
それはログか?
ボス:ああ、この一週間のあんたとYAYOIちゃんの会話が全部記録されている。
遠藤:通信の傍受は違法捜査だな。見せてもらってもいいか?
ボス:なことは百も承知さ。ただしあんたのやっていることは国家の沽券に関わるんだ。
ほれ、読んでみろ。
遠藤:ほら、ここで私は「I LOVE YOU」と言っている。
それに返してYAYOIは「I LOVE YOU TOO」と返事している。
愛し合っているじゃないか。
いったい何回「I LOVE YOU」と言っているか数えてみるがいい。
一週間で20回はくだらないだろう。
ボス:そんなものチャットの世界では社交辞令だ。
遠藤:ここを読め。YAYOIは「I AM HAPPY」と言っている。
女を幸せにして悪いか?
ほら、ここYAYOIは「早くあなたのお嫁さんになりたい」と言っている。
結婚の約束までしてるんだぞ。
ボス:向こうはそれがビジネスじゃないか。
お前、本気で結婚まで考えているのか?
なら人身売買で立件してやる。
反省の色が見えないようだと起訴だな。
女子高生と知ったのはいつだ?
遠藤:カレッジに進みたいと言い出してからだ。
ボス:そしてその後も女子高生と知りつつ援助交際を続けたと。
そうだな。
遠藤:待ってくれ、彼女の父親は長期失業者だ。
母親は肺を患っていて仕事ができない。
下には弟や妹がいる。
彼女の収入がなければ一家の家計は賄えない。
高校の授業料でさえ自分の働いた金で払っているんだぞ。
どこかの国のチャラチャラした女子高生の援助交際と一緒にしないでくれ。
私は少しでも彼女の助けになればと交際した。
それは放っておいたら高校を中退するだからだ。
万年不況のフィリピンで高校中退で満足な仕事にありつけると思うか?
いいとこカラオケバーのホステスだ。
運が悪けりゃ娼婦になるしかない。
そんな彼女に救いの手をさしのべていったい何が悪いんだ?
ボス:詭弁を弄するな!
そんな理屈で自分を正当化できると思っているのか?
いい年をして恥を知れ!
社会の不正を正す努力をしないでどうするんだ!?
目標はあくまでも最大多数の最大幸福だ。
一個人が問題なんじゃない。
遠藤:それなら彼女はどうなったっていいと言うのか?
このまま見捨ててしまえと言うのか?
ボス:彼女らは、現地の福祉局に保護を依頼してある。
福祉局の児童福祉課には心理カウンセラーもいるし、
職業訓練も実施されている。
だから、安心しろ。
……
遠藤:お役所のやることなんかあてになるものか。
ボス:なんか言ったか?
この件はこれにて落着と。
実は別件があるんだ。
あんた、その年にしちゃえらくコンピュータに詳しいな。
あんたのチャットを傍受していた捜査官のひとりが気付いたんだよ。
マハルのシステムは遠藤さんだけがチャット終了後、
ポイントが全額払い戻しされるようになっていると。
要するに、あなたは毎日只で快適チャットライフを満喫していたというわけだ。
専門家に分析を依頼したところ、実に巧妙な仕掛けがしてあったらしい。
その専門家はこう言っていた。
「こんな手の込んだ細工ができる者は、世界にたった一人
ハッカー界の神様「Shoukichi」しかいない。」と。
遠藤:……
ボス:インターポールと聞いてピンと来ただろう?
たかが、チャットの児童虐待でインターポールが動くわけがないだろう?
吐いたらどうなんだ?私がShoukichiですと。
遠藤:……
ボス:取り引きをしないか。
今後我々に協力しCIAや国防省のシステムをより堅牢なものにするための
ブレーンになってくれるならさっきの件はチャラにしてやる。
もちろん今までの不正アクセスだって不問にする。
給料だってはずんでやる。
その代わり、あんたがもし反体制側につくなら、
我々は徹底的にあんたを痛めつけてやる。
その年で実刑はきついぞ。
さあ、どうする?
遠藤:どうするって、俺はハッキングを認めたわけじゃないぞ。
ボス:このごに及んでしらを切るつもりかっ。
遠藤:……
コンピュータの世界は全て2進数でできているそうじゃないか。
0か1か。ONかOFFか。たった2つしかないんだそうな。
だからこそShoukichiとやらは電話回線が一本繋がっているだけで
どんなシステムにも侵入できるんだろう。
とすれば、堅牢なシステムなど存在しないんだろうな。
だから、俺がもしShoukichiだとすれば、ブレーンになる話なんて有り得ない。
ただし、反体制側にもつかない。
そういった形で何かに束縛されるのは嫌いだ。
俺は自由を愛する。
恋愛の自由、
表現の自由、
通信の自由。
そして、自由を束縛する権力を憎む。
体制という権力と闘い、
反体制という権力とも闘う。
たった一匹の小さな蟻だが、巨象をも倒してみせる。
ボス:貴様、アナーキストだったのか!?
象を倒した後に何が残るというのだ?
混乱と無秩序だ!
遠藤:違う!国があるから国境が生まれ争いが起こる。
国なんか無くたっていいじゃないか?
宗教なんか無くたっていいじゃないか?
民族なんて無くたって、
みんなでまぐわり合えば血は一つになり、世界は統一される。
アメリカ人よ、イラン人を妻に娶れ!
ユダヤ人はパレスチナ難民と結婚しろ!
そうすれば、お互いが分かり合える。
世界中が分かり合えれば、行き着く先は
俺のユートピアだ。
ボス、ハアと息を吐く。
ボス:誇大妄想のアナーキストか…。
まあ、あんたの考えはだいたい分かった。
今日のところはこのくらいにしておこう。
ご苦労さん。
拘留期間て何日あるか知ってるか?
ひひ、23日だ。後22日あるぞ。
俺の尋問に堪えられるかな、そのご老体で…。
立て。
遠藤に手錠を掛けるボス。
その時、遠藤がフラフラと崩れるように倒れる。
ボス:遠藤!
おい、遠藤!
誰か!!!救急車を呼べっ!!!
暗転