キューピーヘアーのたらたら日記

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3億円のエクボ (前半)

2008-06-01 16:21:09 | 私が作者です
金曜の朝、5時きっかりに武は目を覚ました。

起き上がるとすぐ、玄関に朝刊を取りに行った。

ロト6の当選番号を見るためだ。

ロト6は、先々週と先週2回続けてキャリーオーバーになっている。

その繰越金は8億を超えている。

ということは、今週1等が2人出ても、賞金は最高額の4億円がもらえる。

武は毎週ロト6を買っている。

1週間に1口(200円)ずつという、チョー貧乏くさい買い方だ。

それを、今回は9千円分買った。

勝負に出たのだ。

9千円という微妙に半端な数字は、

45口分番号を選ぶのにいいかげん疲れたからだ。

本当は1万円の予算を当て込んでいた。

最初のうちは1桁台を全部はずしてやろうだとか、

30番台から3つ選ぼうだとか、

意表をついて15、16、17のように3つ並んだ数字を選んでみようだとか、

それはそれで楽しいのだが、次第に、

つきに見放された自分のような男が当たり番号なぞ選べるわけが無い

という意識が交錯してくる。

組み合わせは何億通りもあるのだから、そう考える方がまともだ。

しまいには、機械で選んだ数字の方が信憑性があるように思えて、

最後の5口はクイックピックにした。

そんな、ロト6さえ満足にやりとげられない男にツキが味方するはずも無く、

結果は5等が1本だけだった。9千円買って、賞金が千円。

ここは、千円の賞金があったことを神に感謝しなければならない。

自分にはほんのチョビットの幸せしかやっては来ないのだ、

そう強く言い聞かせため息を突いた。

たかが8千円の負けくらいで、と思われる方はたくさんいらっしゃることだろう。

だが、手取り10万円のプラスチック成型工場の軽作業員の武にとっては大きな金額なのだ。

武に任されている仕事といったら、ベルトコンベアーで流れてくるプラスチックス成品を

箱に詰めること、ただそれだけなのだ。

ただただ、効率だけが重視され、手の素早さが要求される仕事に、

運動神経の鈍い武は負担を感じていた。

だから、他職種のようにもっと賃上げをしてくれだとかは口が裂けても言えない。

10万円いただけるだけでありがたく思わなければならない。



何も武はこんな仕事を30年も続けてきたわけではない。

若い頃はCOBOLのプログラマをしていた。

引く手あまただった。

たくさんある開発プロジェクトの中から、自分の好きな仕事を選べた。

そして、3年後にはフリーになった。

バブルの頃は、月40万がフリープログラマの平均収入だった。

稼いでいる人は、いくつも仕事を掛け持ちし、百万以上稼いでいた。

目先の収入の高さに世渡り下手な武は突き動かされた。

このまま会社に埋もれているより、もっと派手に生きたい、そう思った。

それが、平成不況に突入する頃には、COBOLのプログラマは

世間から邪険に扱われるようになってしまった。

パソコンが普及し、JavaだとかC言語とかいった武には縁の無かった言語を

扱える技術者たちがちやほやされるようになった。

俺にはコンピュータしかない、そう信じて疑わなかった武が

「この仕事、向いてないんじゃないの?」

といわれる日がついにやって来てしまったのだ。

「卒業生が最先端」というキャッチコピーでCMを流しているコンピュータ専門学校がある。

裏返してみれば、優遇されるのは最初のうちだけですよ、

と言っているのと同じことだ。

もっと意欲的に他言語に取り組めばよかった。

自己啓発が足りなかった。

今でこそそう思えるが、その時の武には「向いてないんじゃないの?」の一言が

弱気になった身に重くのしかかった。

「この業界から足を洗おう。」そう決めた武だったが、

そこから先は坂道を転げ落ちるだけの人生が待ち受けていた。

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