ドゥテルテ大統領の相談役に直撃! ドゥテルテ外交の真意を聞いてみた
2016.11.30(liverty web)
フィリピン下院野党院内副総務 海洋問題専門
ハリー・ロケ
プロフィール
1956年生まれ。86年にミシガン大学で政治学・経済学の学位を、90年にフィリピン大学で法学の学位をそれぞれ取得。96年にロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで修士号を取得した。海洋法専門の弁護士であり、ドゥテルテ氏の訪日と訪中に同行。南シナ海の常設仲裁裁判所に対する訴訟も担当し、フィリピン下院の野党院内副総務も務める。
「暴言王」として知られる、フィリピンのドゥテルテ大統領の外交をどう読み解くべきか。大統領に対し、外交問題のアドバイスをするハリー・ロケ下院議員に、ドゥテルテ外交の真意を聞いた。本インタビューは、本誌最新号である2017年1月号に載せきれなかった部分を含めたロングバージョンでお届けする。
(編集部 長華子)
ドゥテルテ大統領、支持率9割の由来
――ドゥテルテ大統領の支持率は約9割に達しています。それはなぜでしょうか。
ハリー・ロケ(以下、ロケ): 国民がドゥテルテ氏のことを好きなのは、彼が伝統的なタイプの大統領ではないからです。ドレスアップもしませんし、決まりにもうるさくありません。また、この15年ほどの貧困率は、約26%の状況が続いていました。そこで国民は、他のタイプの大統領を選びたくなったのです。
ドゥテルテ氏が大統領に就任してたったの5カ月で、貧困率が1%下がりました。これはとても大事なことです。経済成長率は7%ほどあるのにもかかわらず、国家予算が適切に使われていなかったために、人々は貧困状態のままでしたから。
また、フィリピンは、麻薬問題に根本的に対処しなければなりません。ドゥテルテ氏が行っている麻薬に対する戦争も、実は、貧困に対する戦争なのです。たとえ麻薬犯罪者への人権侵害があったとしても、民主主義の考えが根付いているフィリピンの人々は、大統領の政策を受け入れ、自分のことのように応援しています。
とはいえ、犯罪者をすぐに殺害してしまえば、大統領が国際刑事裁判所に訴えられてしまいますよと、議会は警告していますが。
アメリカは助けてくれなかった
――ドゥテルテ大統領は、フィリピンの同盟国であるアメリカに"暴言"を吐く一方で、中国に寄り添うような発言をするなど、その発言は、予測がつかないと思われていますが。
ロケ: 長期的に見れば、大統領の言動は一貫しています。外交では、アメリカ依存をやめ、中国から支援を引き出す独自外交を展開しながら、国内においては、麻薬常習者の撲滅に尽力したいと考えています。
――ドゥテルテ氏は一人でアジアの秩序を変えようとしているように見えます。
ロケ: かつて、アメリカは、対中国包囲網を形成するために、アジア諸国と一枚岩で団結していましたが、今はそうではありません。そこで、ドゥテルテ氏は、フィリピン一国でも中国と渡り合えるのだということを示しているのです。次に、中国とのやり取りを始めるのは、マレーシアだと思います。
――確かにアメリカは、日本の尖閣諸島のケースとは違って、フィリピンの領土問題においては、二国間の防衛条約を適用すると言明していませんね。
ロケ: もし、アメリカが日本に与えたのと同じような確証を私達にも与えてくれるなら、フィリピンはアメリカに頼ることができ、ドゥテルテ大統領は、中国に対して独自の外交政策を進めようとは思わないでしょう。
しかし、私たちはすでに、2つの島を失ったのです。その時アメリカは、我々を助けに来てくれませんでした。アメリカは、国際法のもとで解決されると考えており、領土問題で我々の味方をしてくれることはありませんでした。
――そんな中、常設仲裁裁判所は、「中国が南シナ海について主張している権利は認められない」として、フィリピン側の勝訴を言い渡しました。この判断をどう見ていますか?
ロケ: 常設仲裁裁判所に訴えることは、アメリカではなく、フィリピン政府の判断でした。私は政府に対して、裁判所に判断を求めるべきとアドバイスをした人物です。もちろん、弁護士費用はフィリピンが負担しています。
その時点でアメリカは、「何をすべきか」という考えがなかったのです。アメリカは裁判所の判断についても、援助してくれませんでした。私たちは、裁判所に訴えたことで、中国と独自に交渉できるという自信を持ったのです。それならば、なぜアメリカに頼らなければならないのでしょうか。
米植民地支配への恨み
――ドゥテルテ大統領の独自外交には、アメリカによる長年の植民地支配も影響しているのでしょうか。
ロケ: フィリピンは、アメリカの植民地の一つでした。(20世紀初頭に起きた)米比戦争は、世界史の中でも暴力的かつ非人道的で、国際人権法に反する戦争でした。しかし、アメリカは未だに、米比戦争の多大な犠牲を認めず、謝罪もありません。
アメリカに征服されてからも、フィリピン人は、アメリカに移住した人たちも含め、安い労働力として使われてきました。そのためフィリピン人には、アメリカへの恨みがあるのです。
現在、アメリカの経済成長率は約2%であり、中国のそれが約6%であることと比べれば、アメリカの経済的パワーとしての影響力は失っています。またアメリカの財政赤字は、中国よりも悪いですね。この点からも、フィリピンの関心がアジア諸国に向かうのは当然です。
ドゥテルテ大統領は、中国だけではなく、日本を含めたアジア諸国に期待を寄せています。ですから大統領は、中国の後に日本を訪問したことで、「フィリピンの未来はアジアにある、アメリカにあるのではない」と強調したのです。これが、彼の独自の外交政策が意味するところです。私たちフィリピン人は、過去に、イラク人のように、独自の国益が存在しないかのように扱われてきたのです。
――ドゥテルテ大統領は、中国の北京で、アメリカとの決別を宣言し、アメリカ軍を2年以内に追い出すとも言っています。しかし、軍事的にも経済的にも、アメリカに依存している部分があるので、どの程度分離しようとしているのでしょうか。本当に決別できるのでしょうか。
ロケ: アメリカとの決別は可能だと思います。私たちは、(米軍の駐留を認める)米比防衛協力強化協定を無効にしました。私は、フィリピンの裁判所に、この協定の無効を訴えた者の一人です。大統領は、この訴えに基づいて、アメリカ軍を2年以内に追い出すと宣言したのです。
ドゥテルテ大統領は親中ではなく親アジア
――ドゥテルテ大統領の言動は中国寄りに見えるため、日本人は、彼をどのように評価すべきで、その真意はどこにあるのか、見極めるのは難しいと感じています。
ロケ: 大統領の考えは、親中ではなく、親アジアです。ロシアとの関係も強化しようとしていますが、アメリカが過去に、そうした外交をフィリピンに許してこなかっただけです。アメリカとの決別により、中国やロシアとの関係を深めていくことができます。
――ドゥテルテ大統領は、南シナ海の領有権問題について、二国間協議を好んでいるようにも見えますが。
ロケ: 南シナ海のスカボロー礁は、中国とフィリピンしか領有権を主張していませんから、二国間協議になりますね。南沙諸島については、5カ国が領有権を主張しているので、多国間協議になります。二国間協議を好んでいるというわけではないのです。
――ドゥテルテ大統領が、中国に訪問した際に、国家予算の3分の1に相当する巨額の援助を中国から引き出しました。それに比べて、日本の援助額はかなり小さいものでした。それをどうお感じになりますか?
ロケ: 何の問題もありません。日本は今まで、フィリピンに対してほぼ同等の投資をしてくれています。日本は最大のトレーディングパートナーであり、国際協力機構(JICA)もありますね。日本は、対フィリピン投資では、No.1の国家なのです。
(訪日を終えた記者会見で)ドゥテルテ大統領が、「日本はこれまでも、今後もフィリピンの真の友人だ」と述べたのは本当です。
日本の方が中国よりもいいですね。日本には国際的な地位があり、フィリピン国民も尊敬していますので。フィリピンを走る車も、日本製が約9割を占めています。アメリカの車はすぐ壊れてしまいますから。
――フィリピンの人たちが、日本に期待することは何でしょうか?
ロケ: もっとアメリカから"独立"してほしいと思っています。日本からアメリカの基地を取り除いたらいいと思います。また、日本の人たちには、経済的にも安全保障の面でも、フィリピンを助けてほしいと思っています。日本は新しい巡視船をくれますが、アメリカは古いものをくれます。私たちは、アメリカより日本を頼りにしたいと思っています。
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