カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

裏切り者か、はたまた…   フォッグ・オブ・ウォー

2014-03-29 | 映画

フォッグ・オブ・ウォー/エロル・モリス監督

 マクナマラ元国防長官のインタビュー映画とも言っていいものだ。先の大戦からベトナム戦争に至るまでのアメリカの歴史の中で、政府にかかわってきた人間が何を考えて、そして今どのような感想を持っているのか、という告白の記録である。
 マクナマラは既に故人だが、この映画のインタビューでは85歳ということらしい。実にしっかりした口調だし、さすがに老けているが、元気そのものという様子だ。何より頭脳が明晰そうに見えることがさすがであり、インタビューの受け答えも実に巧みである。
 歴史を振り返ることもそうだが、このインタビューが何故衝撃的な意味を持つのかというのは、実は日本人には分かりにくいところがあるのではないか。それというのも、素直に見るのであれば、アメリカの持っている問題や反省を素直に語っているだけの事なんだけれど、これは日本の側からすると、まあ、そうだろうなという納得のいくことが多いからである。それで何の問題もないじゃないかと思われるかもしれないが、実はそれは大間違いで、マクナマラは、多くのアメリカ人や、さらに政府の行ってきた公式の見解と、まったくの真逆の意見を述べまくっているというのがあるからだ。これを見たアメリカ人は、おそらく椅子からひっくりかえるくらい驚いたり怒りを覚えたりするのではないだろうか。だからこそこの映画がドキュメンタリーの賞を受けたり、ジャーナリズム的に衝撃度の高いものであるということが出来て、実にアメリカの内情を暴露するという面白さがあるのだろうと思われるのである。それも政府の中枢に居たはずの人物自身が、ほとんど反省の弁としてこのことを語っている。今まで何にも悪くないと教えられてきた国民は、寝首をかかれたような居心地の悪さを覚えるのではなかろうか。
 まあ、本来はそのような楽しみ方をするのがまっとうなのだろうが、日本人としては少しばかり溜飲を下げるような気分になるのかもしれない。今まで虐殺を受けた民族でありながら、加害者として謝罪させられる側でしか話をさせられない立場であるしかないのだから、国内的に強弁をふるうしか方法が無かったわけである。もちろん、マクナマラがこのように語っても、彼個人の問題と米国の考えが同一のものではないのであるから、今まで通り退けられるだけの事ではあるのだが、しかし、その後このような考えが歴史の中に残ることは、大変に意義のあることのようにも思える。それが米国の懐の深さを担保することにもなるだろうし、本当に戦後の日米間の関係に未来をもたらすものにもつながっていくだろう。アカデミックな分野では既に米国の反省点は研究されているはいるが、民衆の意識下にそのような反省があるとは現在でも考えにくい。マクナマラの存在は、そのような一般人にもささやかながら影響を及ぼす可能性があるわけで、今でもこのように映像が残っていることにも、貴重さがあるわけだ。そういう意味では日本人が見て溜飲を下げるのみならず、長くアメリカの歴史資料として残るべき作品ということが言えるのではなかろうか。マクナマラが裏切り者なのか正直者なのか、彼ら世論が考えて決めればいいだけの事だ。もちろん、そういう判断が素直にできるようになる素地が、いまだにあるのかは大いに疑問でもあるわけだが…。
コメント
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