散歩も暑いとやってられない。日中歩いていると、ほとんど馬鹿みたいである。自分ではそう思うが、しかし歩いている人はいる。それも散歩ではなく仕事で。役場なんかはクールビズで統一されているけれど、行商のビジネスマンには黒服の人が居たりする。かなりぎょっとするが、正気らしい。馬鹿に見えるが、しかしこれはこれで偉いものである。何が偉いかはよく分からないが…。
人間も暑いが犬だって暑い。特に道路は、ほとんどアスファルト加工されている。地面の熱気に近い分だけ、たぶん犬もつらかろう。さすがに日中の太陽の盛んな時間ではないにせよ、夕方になっても熱がこもっている。家を飛び出す勢いは激しいが、ちょっと歩いただけで、呼吸が激しく、まさにあえいでいる。
杏月ちゃんの場合は小さいながら少し足は長いのだが、毛が黒いので暑さがこもるのかもしれない。立ち止まってしきりに顔の周りを足で掻くようなしぐさをすると、もうあんまり歩きたくねえな、というようなサインでもある。本当は抱っこしてくれと飛びついてくるのだが、抱っこしても暑いというのは知っており、要するに立ち止まって涼しいところで休めよ、という意味であるらしい。そんなところが散歩道のあちこちにあるはずもなく、適当なところまで我慢してほしいのだけれど、まあ、今がその時の場合には、仕方なく暑いまま、抱っこして歩くことになる。お互いの熱気で温めあいながら、構わず汗をかきながら歩く。これもやはりなんだかバカみたいだな、とは思うが、まあ、バカだから仕方がないじゃないか。
そんな風にしてボチボチ歩いているのだが、それでも汗の流れは激しくなる。地球には重力があるから、頭の上からかいている汗が、容赦なく下の方へしたたってくる。上半身の汗だって下半身に流れていくだろう。下半身の汗だって…、というような順繰りがあって、脛のあたりでも汗がしたたるのを感じる。これは靴の中が臭くなって当然だな、と思う訳だが、これは靴箱が文句を言わないので何とかなっているのだろう。
しかしまあ、こんなことをやっているのは馬鹿げてはいるものの、歩いているのは僕だけではない。中には颯爽と大きな手振りで真剣な人もいる。あれは何とか健康法とかあるんだろうな。小さいバーベルをつかんでいる人もいる。足首に重りを巻いている人もいる。暑いのにウインドブレーカーのようなものを着込んでいる人なんかもいる。そんなにみんな自分をいじめて何になるんだろう。本当にマゾッけの多い世界になったもんだ。暑いといろいろイカれることもあるのかもしれないな。しかしまあ馬鹿がたくさんいると、それなりに安心でもある。まったく早く家につかないものか。そもそもなんで家を飛び出してこんなことをしてしまったのだろう。
暑さというのは、人間に不毛なことばかり考えさせるようである。