ビクトリア女王 最後の秘密/スティーブン・フリアーズ監督
女王即位50周年に当たり、英国領のインドからメダルの贈呈を行うことになり、その使者として英国に行くように命じられた若者が、その率直な性格を女王から気に入られ、そのために英国王室を騒動に巻き込んでいく物語。もともと気難しく人間づきあいの好きではない女王は、すっかりインド社会に興味をもって、言語だけでなく、青年から様々なことを真摯に学ぼうとする。その中で英国王室の様々なしきたりに衝突し、関係者はインド人青年への反発を募らせていくのだった。
女王様の乱心を描いたということもいえるし、植民地支配の英国の醜さを描いたともいえる。権力者に気に入られると毀誉褒貶が激しいのだ、という話なのかもしれない。結果的に女王にたいへんに厚遇されるインド青年だが、確かにそのために調子に乗っているようにも見える。女王以外はすべて敵のようなことになってしまい、女王に頼らなければ、まともに生きていくことさえ難しいだろう。一度こうなってしまうと、このまま乗り切るより道が無いようにも感じる。しかし女王は高齢でもある。どのようにすべきというか、インドに帰るべきタイミングも、考えておく必要があったのではなかろうか。
史実をもとに作られたものであるようだが、その当時の英国の状況も見て取れるし、インドの青年も好青年であることは確かで、コメディとしてもそれなりに成功している。愛する人を立て続けに亡くして心を閉ざしていた女王が、インドの青年との付き合いの中で、元気になっていったというのは、それなりに信憑性がある。また皇室の閉塞空間の中で、取り巻きがうるさいというのも見て取れて、そういう不自由社会を精神的に打開する方法としても、考えさせられるものがある。皆この地位に、多かれ少なかれ依存していて、逃れることができない。結果的に悲劇的なことにはなるんだが、これはもうシステムが悪いとしか言いようがないのではないか。
しかしまあ、そうであっても、曲りなりに英国王室は続いているわけで、現在も問題は続いているようにも見えて、のらりくらりやっているようにも見える。そういうのは、その中の人間模様に、それなりにしたたかなものがあるということなのかもしれない。