クピドの悪戯「虹玉」/北崎拓著(小学館)
以前、吉行淳之介のエッセイを読んでいたら、「ときどき、童貞という存在を忘れる」というようなことを書いていた。その頃はなんという横柄な事を書くオッサンだと思ったものだが、この漫画を読んでいたら、なんとなく思い出してしまった。こんなようなことが僕にもあったのかもしれないが、ほとんど忘れてしまっている。吉行の言わんとすることは、そういうことだったのかもしれない。
漫画なので荒唐無稽な話ではあるのだけれど、しかし、男女の恋愛のもつれと、その童貞の頃の男の考え方というのは、あんがい本当のことなのかもしれない。忘れてしまっているとはいえ、そんなような感じはする。そうして、確かにいろいろと余分に苦しんだようにも思う。ストーリーも二転三転して、なかなか考えさせられるものがあった。恐らく特殊体験だが、しかし同時に共通性もありそうだ。少なくともそう思わせられる上手い仕掛けが随所に仕組んであるのだった。
如何に純粋に愛とセックスを結び付けようとしても、一方では愛の無いセックスというものが存在するのも確かそうな訳で、そのことがもしも対極的な図式であると仮定するならば、普通に考えてセックスそのものは、その範囲の中のどこかに位置するはずである。その上で、その行為を行う二人が同時に同じように純粋性を追求しようとするならば、どこかで無理が生じてしまうように思える。そういうものを求めるとしたら、相手の気持ちを信じるより他に確証しようがないのである。普通はそれは、ある程度は自明のこととして了解しているものではあろうが、疑い出すと同じようにキリが無くなる。そういう訳で、多くの場合は感情的に、男女間はもつれあうことになるのであろう。信じても裏切られることはあるだろうが、信じられる程度には自分を納得させられなければならない。めんどくさいが、そのような葛藤を確証に変えられない限りは、最終的には結婚というような決断は出来ないのだろう。
自分自身をどうであったかということを一時棚上げにしなければ、もうすでにあの頃のことはよく分からない。しかしながら少なくとも、このような葛藤のドラマがあった方が、お互いの絆のようなものは深まるのかもしれないとも思う。この漫画が最初に設定しようとした、いわゆる純粋なままの恋愛心では、実は男女の仲は長続きが難しいのかもしれない。結論がこれでいいのかどうかはともかく、そういうことを面白がりながら考えさせられる物語なのではなかろうか。
以前、吉行淳之介のエッセイを読んでいたら、「ときどき、童貞という存在を忘れる」というようなことを書いていた。その頃はなんという横柄な事を書くオッサンだと思ったものだが、この漫画を読んでいたら、なんとなく思い出してしまった。こんなようなことが僕にもあったのかもしれないが、ほとんど忘れてしまっている。吉行の言わんとすることは、そういうことだったのかもしれない。
漫画なので荒唐無稽な話ではあるのだけれど、しかし、男女の恋愛のもつれと、その童貞の頃の男の考え方というのは、あんがい本当のことなのかもしれない。忘れてしまっているとはいえ、そんなような感じはする。そうして、確かにいろいろと余分に苦しんだようにも思う。ストーリーも二転三転して、なかなか考えさせられるものがあった。恐らく特殊体験だが、しかし同時に共通性もありそうだ。少なくともそう思わせられる上手い仕掛けが随所に仕組んであるのだった。
如何に純粋に愛とセックスを結び付けようとしても、一方では愛の無いセックスというものが存在するのも確かそうな訳で、そのことがもしも対極的な図式であると仮定するならば、普通に考えてセックスそのものは、その範囲の中のどこかに位置するはずである。その上で、その行為を行う二人が同時に同じように純粋性を追求しようとするならば、どこかで無理が生じてしまうように思える。そういうものを求めるとしたら、相手の気持ちを信じるより他に確証しようがないのである。普通はそれは、ある程度は自明のこととして了解しているものではあろうが、疑い出すと同じようにキリが無くなる。そういう訳で、多くの場合は感情的に、男女間はもつれあうことになるのであろう。信じても裏切られることはあるだろうが、信じられる程度には自分を納得させられなければならない。めんどくさいが、そのような葛藤を確証に変えられない限りは、最終的には結婚というような決断は出来ないのだろう。
自分自身をどうであったかということを一時棚上げにしなければ、もうすでにあの頃のことはよく分からない。しかしながら少なくとも、このような葛藤のドラマがあった方が、お互いの絆のようなものは深まるのかもしれないとも思う。この漫画が最初に設定しようとした、いわゆる純粋なままの恋愛心では、実は男女の仲は長続きが難しいのかもしれない。結論がこれでいいのかどうかはともかく、そういうことを面白がりながら考えさせられる物語なのではなかろうか。