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戦争は一大イベントだ!

津金澤聰廣+有山輝雄編「戦時期日本のメディア・イベント」を読む。
10年前の本なので、例えば難波功士さんの報道技術研究会関係の論考のように
既に単行本(←報研関係の基本文献!)になっているものもあるようです。
ただ、この本全体の傾向からすると難波さんの論考はやや例外的で、
(本の母体となったのがマスメディア関係の研究会であった為か)
新聞とメディアイベントの関係に言及した論考が主流となっています。
そして、それらの論考を通して読むと戦前の新聞、特に全国紙というのが
いかに戦争と手と手を取り合って歩んでいたか、ということが実感されてしまうのです。

戦時期日本のメディア・イベント戦時期日本のメディア・イベント
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戦前は今より遥に地方紙の力が強かったようですが、まずは日中戦争の報道合戦で
規模が大きく取材力のある全国紙新聞社(朝日系と毎日系)速報性の面で優位に立ちます。
で、この両系統が覇権を争って拡販合戦を繰り広げる中で、
その手段として今で言うメディアミックス的な手法が取られる訳です。
その核となるイベントが無料でニュース映画の大上映会だったり、
(そもそもニュース映画の制作自体が拡販の為の赤字事業)
軍への音楽や兵器の献納キャンペーンであったり、
紀元2600年の奉祝協賛イベントだったり、ヒトラーユーゲント来日イベントだったり、
はたまた軍の協力を得た(朝日が陸軍と組めば毎日は海軍と、といった具合)
飛行機による世界一周冒険旅行だったり・・・、
基本戦う日本を中心に色々な企画が次から次へと案出され、実行されて行く訳です。
で、それを連日紙面で大々的に報道して盛り上げ、拡販に繋げる訳ですよ。

新聞は戦後は一応は反省して、自社企画イベントの協賛記事は
ニュース記事としては掲載しないことになっているようです。
ですが、TVにはそういった自主規制(倫理観というべきか)があるようには見えない。
視聴率を取るために報道番組の中でも平気で番組の広告していますよね。
以前とあるシンポジウムで、新聞記者の方がこの事に強い違和感を表明していたことが記憶に残ります。

戦争をイベントと呼ぶのは不謹慎かもしれないけれども、多くの人の関心を集め、
興奮・熱狂させるものとしてこれほど強力な出来事もないのもまた事実。
この一大イベントを販売拡大・視聴率向上の道具として使おう、
という発想はある意味自然にも思え、また、必然とされるようにも思えますが、
(イラク戦争初期のFOXTVの圧勝とCNNの凋落を思い浮かべます)
それによりメディアは何を失う可能性があるのか。
メディアの有り様を考える上でも、今日に繋がる問題を扱った本であると思います。

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この本も掲載論文の発展形、だけど他の人の論文が遅れている間にこっちが先に単行本として出ちゃったんだって(笑)
1940年の東京オリンピックってもともとは東京市が震災復興(もちらん関東大震災)の完了をアピールしようと
皇紀2600年(西暦1940年)に併せて開催したいって言い出したのが発端らしい。
このテーマも興味深いので読んでみたいと思いました。

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