こんにちは。醒龍です。
今日は『蕩寇誌』(75)です。
女流作家パール・バックが1933年に書いた小説。その名は、"All men are brothers."。『蕩寇誌』の英文題名としてこのタイトルが付けられています。ということで御存知、チャンチェ監督の歴史モノですよ。監督は数名いて他にもウー・マがやってます。主演はデイビッド・チャン、ティ・ロン、チェン・カンタイ、ワン・チュン、ダニー・リーなどなど多数。お話はもちろん水滸伝であります。
ここでちょっと史実を確認しておきますと北宋末期、宣和2年(1120年)に農民の反乱が起きたそうですが、これが方臘の乱ですね。そして宋江という名の将軍が実際にいたことになっています。正史に対して民間伝承の話を野史または稗史とも言いますが、創作物である水滸伝ではこの反乱がモチーフになって形成されていると思われます。映画では自ら王と名乗る首謀者・方臘(飾チュー・ムー)がラスボスとなって進行します。
オールキャストで相当の予算をつぎ込んで作られているようですが、絶大な人気を誇っていた邵氏のスター姜大衛と狄龍。映画の持つ価値をここまで引き上げたのは当時の稼ぎ頭、このお二人のおかげ。しかし、当時の興収ランキングでは公開がちょっと遅れて75年度のデータとなっていますが、25位まで落ち込んでしまったようです。公開が遅れた原因は不明ですが、ブームも下火になってしまった時期で日本人・丹波哲郎が出演する大スペクタクル映画でも数字が取れない、稼げない、リー・ハンシャンの『傾國傾城』にも大敗(こちらは第3位)してしまいます。チャンチェ監督の大ピンチだったのです。それにしても監督が描きたかったものは果たして何だったのか。これも見て行きましょう。
そうそうオープニングには有名な妓女・李師師が登場してますね。ここのシーンに登場するのはあのベティ・チュンですよ!『燃えドラ』よりもちろん前に出演してるはずですが、監督がどうやって引っ張って来たんでしょうね。デイビッド先生とのきわどいシーンもあるんですが、シリーズを通して先生は"チカチカチャー"という効果音で登場するんです(笑)。海外なんかでもネタになっていたこの登場音ですが、こんな演出がまたいいんですよね!!(別格なのかな??)
ちなみに水滸伝の登場人物は108人。かなり多いですが、覚えておくのは7人ぐらいが丁度いいかも知れません。宋江、盧俊義、武松、呉用、林冲、戴宗、魯智深の7人あたりでしょうか。まぁ好きな7人を選んでみてください。キャストは当時の人気俳優さんが揃ってましたし、それぞれ大きい役(頭領)を担当してます。覚え方は五虎将や八虎将という分け方もありますので、この括りで覚えるか、主要なメンバーで覚えるかになるかと思います。まずは前述の7人あたりでしょうか。"方臘の乱"制圧を描く本編では燕青、李逵、石秀、張順、張青、孫二娘、そして史進の7人が討伐軍のメインとなります。
注目したいのは、五虎将の一人・董平を演じたチャン・ワイマンこと陳恵敏なんですよね。チャーリー親分は、刺青姿で登場しますが、もしかしたら映画に呼ばれたのはこの線だったりして・・。水滸伝には刺青キャラが何人か登場します。その親分が邵氏のこの時期の出演はかなり珍しく、まぁたまに出たりすることだってモチあるのですが、例えば『五トン忍術』なんて良かったじゃないですか。役柄上、槍で必死に戦いますが、あっという間に消えてしまいます。残念、もうちょっと見たかったですね。
人気という面で言うならば日本では"三国志"の方が圧倒的に人気があるかと思います。しかし、70年代の香港映画では三国志が描かれることは殆どありませんでした。前作『水滸傳』や続く本作『蕩寇誌』のように水滸伝のキャラたちが次々と映画の世界に飛び込んで行っていたのはどうしてでしょうか。我らが兄貴の為に。我らが山寨の為に。我らが天子の為に。無頼漢たちが山寨・"梁山泊"に集まって繰り広げる物語。水滸伝も実に面白いではありませんか。
物語は百回本の終盤、第81回よりスタートします。燕青は東京に向かい李師師の力を借りて道君(徽宗皇帝)に江南で勢力を拡大している方臘の討伐のため梁山泊メンバーの招安を訴えた・・。
途中、湧金門の湖のシーンでは当時セリフのない小さな役などで下積みをしていたジャッキー・チェンが出演していたようですね。71年~72年ぐらいだと思いますがジャッキーもまだ駆け出しの頃でしたので、こういった小さな役をいっぱいやっていた時代ですね。邵氏作品では何本もこういった形で出演しているケースがありましたね。
10個ある難攻不落の杭州城の門。こういった城攻めにはやはり軍師も必要となるでしょう。まず両斧をブン回す李逵が先陣を切って門へ突入します。その隙に燕青が裏から門の中へ。続いて好漢・石秀が割って入ってくるのですが・・・。(本編の石秀役のワン・チュンが大変素晴らしかった!)
そして、相撲大将軍(ヤン・スエ)と燕青の対決だあ。面白くなってきましたね~!!ここのヤン・スエの動きが実に良くて楽しいんですよね。アクション場面は本作の武術指導、劉家良&唐佳の本領発揮です。中盤の九紋竜・史進(陳観泰)のバトル・シーンや前述のヤン・スエのシーン、ワン・チュンの格闘シーンなどは当時の一級のバトルですよね。そんじょそこらの殺陣とは違いますね。
その後、城の攻略は燕青、武松が作戦を立て、突破口の湧金門へ向かうのは張順(ダニー・リー)。水門を開け、燕青率いる歩軍は砦の占領に成功するも、張順は戦死してしまう。敵の突破に方臘は動揺し梁山泊軍の想定通り、北関へ逃げるしかなかった・・。
梁山泊最後の戦い。ついに方臘を討伐するところまで来た燕青。どんなラストをみせてくれるのでしょうか。国王を追い詰める燕青が死に、そしての腕を斬られた武松が崩れるように倒れる姿・・・。チャン・チェ監督が描いたのは、梁山泊のメンバーだちが次々に倒れていく中で燕青と武松の最後の最後の美しい見せ場、それはつまり滅びの美学だったのです。
監督が当時力説していたのは、東洋人の死が西洋では考えられない、受け入れがたいものがあるが、それを数々の映画で繰り返し描くことによりいつしか理解してもらえる日も来るのではないかという事でしたね。そういった意味ではこの『蕩寇誌』も梁山泊最後の闘いであり、絶好のシナリオであったのではないでしょうか。方臘との戦いが終わった時、生き残った仲間はわずか27人だった。にも拘わらず、デイビッド&ティ・ロンの2人に印象深い映画のクライマックスを演じさせたんですね。
現在、漫画でも小説でも何でも読める時代になりました。例えば、中国の宮廷ドラマとか現在も人気のあるジャンルではありますが、なかなか観る機会がありません。三国志であれば日本の会社がコンテンツを共同で制作したりとかメディア展開されることも多いのですが、忙しい中でそういった情報も積極的に吸収しなければ何年も気が付かなかったりして取り残されることになりますね(苦笑)。
私は本作のように邵氏が作った歴史ある作品が好きです。大監督であれば、文献も多く世界中にそのメッセージが伝わることでしょう。様々な要因によりなかなかメッセージが伝わってこない映画も多いのですが、私には充分伝わりました。この『蕩寇誌』や前作『水滸傳』などは当時、出演者の丹波さんや黒沢さん、日本人スタッフも多数かかわっていたと聞きます。ここは興味のあるところです。本作も国内では『水滸伝 杭州城決戦』として無事DVDもリリースされましたね。(快挙です!)杭州城って言っても実際は西湖の畔の広大な土地に城壁で囲まれている所だったようですが、現在の杭州や西湖はとても美しく観光地として世界遺産にもなっていますので旅行に行きたいぐらいです。
古い時代の長編、三国志("三国志演義")も壮大なスケールではありますが、この水滸伝も個性的なキャラクターが数多く登場したり、一部のプロットが別の小説として枝分かれしたりと決して単純ではない読み応えのある内容ですよね。私は水滸伝が時代小説の中では好きな方なのですが、水滸伝のような中国古典を扱っている未だ観ていない映画もあると思いますので私自身これからがとっても楽しみです!
以下、余談を少々・・。
時間さえあれば、史実と比較したり時代時代の戦術を研究するのもいいかもですね。水滸伝のゲームソフトもいくつかありましたが、私が当時プレイしたことがあったのはPC用『三國志』というソフトでした。現在も新作ソフトがリリースされたりしてる人気シリーズですが、こういった歴史シミュレーションも根強いですね。今出ているソフトは昔に比べたら地形がかなりリアルになったり、セリフも中国語になったりとかかなり進歩してますよね。
水滸伝関連では当時購入したのが『水滸伝天導108星』というWindows95用のPCソフトでしたね。プレイ画面に出てくる武松の顔グラフィックがティ・ロンにそっくりなんです!(これはもしや!?)先日、久々に起動してみるとなんとWindows10でも仮想環境上でという制限付きではありますがしっかり動作しました。これはビックリ。仮想の力は偉大ですね。正常に動作するのでタイムスリップしたような気にもなります。仮想環境さえ構築してしまえば最新のOSでも動作するのです。うれしいですね。水滸伝の方は新作はいまのところないようなので作り直した新しいシステムで是非遊んでみたいですね。
電脳遊戯といえば水滸伝の本場、あちらでも当然あるんですよね。誰が作者かまったく分かりませんが、例えば"歓楽水滸傳"なんてヤツもそう。何匹もの虎が道を塞いだ迷路を駆け抜けるステージ"武松打虎"とか超笑えるんだけどwww。
とにかくキャラが乙女チックで今風のとても可愛らしいアクション・ゲームです。
豹子頭林冲なんて最高ですよ。私は水滸伝の中ではやはり林冲がお気に入りですね。
そうそう、動画を見てて思ったのですが、あちらでもゲームの実況なんて当たり前の時代ですので、皆さん普通にゲーム実況しています。もちろん男性が中国語で実況してたりするんですよね。時代は変わったものですよ。
もし映画の展開で物足りなさを感じたら、たまには無頼漢キャラになったつもりでゲームをプレイするとか、さすがに小説を書いたりまでは少々行き過ぎと思いますけど、そういった楽しみ方も面白いと思いますよ。最後はちょっとしたPCゲームのお話でした。
ふー。さて、お茶を一杯淹れて飲むとしますか。(終)
All men are brothers (75)
David Chiang
Ti Lung
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