2003年2月9日(日)
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ジョー・ウィリアムズ「EVERY NIGHT」(VERVE 833 236-2)
(1)SHAKE, RATTLE AND ROLL (2)EVERY NIGHT (3)A DOLLAR FOR A DIME (4)TOO MARVELOUS FOR WORDS (5)SOMETIMES I'M HAPPY (6)EVERYDAY (I HAVE THE BLUES)/ALL BLUES (7)SAME OL' STORY (8)JIMMY'S BLUES (9)I WANT A LITTLE GIRL (10)DON'T YOU KNOW I CARE (11)ROLL 'EM PETE
筆者の場合、いくらブルースやロックが三度のメシより好きだからといって、いつもそういうジャンルの歌ばかり聴いているわけではない。
他のジャンルでも、本当に歌のうまいシンガーなら、積極的に聴く。
逆にいくらブルースやロックでも、歌があまりいいと感じられないアーティストは、ノーサンキューだ。
ディスクを聴くことの出来る時間はしょせん有限だから、貴重な時間を有効活用するためにも、上質のものを厳選して聴く。
これが筆者のやりかただ。
そこで今日の一枚である。黒人ジャズ・シンガー、ジョー・ウィリアムズのライヴ盤。87年リリース。
これがなんともブルースな一枚なのだ。
もちろん、いわゆる「ブルース」のカテゴリーに入る曲は数えるほどしかないが、その「フィーリング」は凡百のブルースマンなど逆立ちしたってかなわない。とにかく抜群に歌がうまいのである。
ジョー・ウィリアムズについて簡単に紹介しておくと、1918年ジョージア州生まれ、カウント・ベイシー楽団のシンガーとして名を上げ、ソロとして独立してからもさまざまなミュージシャンと共演、数多くのアルバムを発表してきたが、99年、80才でこの世を去っている。
ナット・キング・コールやビッグ・ジョー・ターナーに影響を受けたという、中低音に特徴のあるなめらかな歌声で一世を風靡した。黒人ジャズ・シンガーとしては、成功した数少ないひとりといえよう。
このライヴは、カリフォルニアはハリウッドのジャズクラブ「ヴァイン・ストリート」にて収録されたもの。
ビシッと黒のタキシードで正装したウィリアムズが、ステージに上がってまず歌うのは、(1)。
オリジナルはブルースシンガー、ビッグ・ジョー・ターナー。ビル・へイリー&コメッツのカバーで知られるロックンロール・ナンバー(54年)だが、その大ヒットの翌年、カウント・ベイシー楽団もさっそく録音をしている。
もともとジャズとロックンロールに截然とした違いがあったわけではない。
成り立ちから見れば、ロックンロールはいわばジャズの亜種として生まれたようなものだ。だから、このナンバーがジャズ、ロックの両サイドで愛唱されたのも、実に自然なことなのだ。
ウィリアムズはなんとも楽しげに、軽やかにシャウトしてこの曲を歌う。そのリズム感、ドライヴ感は、ハンパなブルースマン、ロッカーを軽く凌駕するものだ。
続く(2)は、このアルバム・タイトルにもなっている、ウィリアムズ自身のオリジナル。
毎晩毎晩ショー・ビジネスに明け暮れる、彼自身の心境を投影させたかのような、ブルース・ナンバーだ。
これが実にいい。ときにはシャウト、ときにはソフトに包み込むような歌い方で、さらにはユーモラスな語りもまじえて、日常の苦しみと喜びを歌い上げる姿は、ブルースマン以上にブルース的だ。
(3)は一転して、いかにもジャズ・シンガーらしい、バラード・ナンバー。「もう一度ときめきをくれるのなら、君のためには何だってする」という内容の、この上なく甘いラヴ・ソング。
これを聴いてロマンチックな気分にならない女性は絶対いない、というくらいの極上のスウィートな歌声だ。
(4)もジャズィなバラード。ジョニー・マーサーの美しいメロディに、彼のヴェルヴェットを思わせる声質がぴったりとマッチしている。
バックの演奏も素晴らしく、ことにヘンリー・ジョンスンの正統派ジャズ・ギターが耳に心地いい。
(5)はウィリアムズの見事なスキャットが聴きものの、アップテンポのスウィンギーなナンバー。
バックも軽快にスウィング、ジョンスンのウェス・モンゴメリーばりのオクターヴ・プレイも聴ける。
バンマスのノーマン・シモンズのピアノ、ベースのボブ・バッジリーのソロもなかなか達者で、十分に楽しめる一曲だ。
続くは、この一枚の「目玉」といえるナンバー、(6)。
この「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」はもちろん、メンフィス・スリム作の、名曲中の名曲と称されるブルース。
もともとは48年に「ノーバディ・ラヴス・ミー」というタイトルで世に出たのだが、その後、B・B・キングらのカヴァーにより、スタンダードとしての地位を獲得した。
で、このジョー・ウィリアムズもまた、同曲を50年代初頭には持ち歌としてヒットさせているのだ。
ご本家メンフィス・スリム、BBを東西両横綱とするなら、ウィリアムズは、いわば「大関」にも相当する存在なのである。
で、ここでは、ただその持ち歌を再演しただけではない。なんとバックにマイルス・デイヴィスのオリジナル「オール・ブルース」をモダンなスタイルで演奏させて、これに乗って「エヴリデイ~」を歌う、という凝りようなのだ。
これが意外にしっくりと合っていたりして、面白い。決して木に竹を接いだって感じではない。
やはり、ブルースとは、さまざまなサウンドに架け橋を渡す、強力無比の「共通語」なのだなと思った次第。
しかも、この曲、オリジナルの(2)と見事に「対」を成している。なんとも粋だねぇ~。
(7)は、同名異曲が多いタイトルだが、これはウィリアムズ独自の持ち歌。バーナード・アイグナーの作品。
軽快なテンポのフュージョン~AOR風ナンバーだ。彼本来のカラーから考えれば、かなり異色だが、持ち前のたくみなテクニックで、完璧に歌いこなしているのはさすが。
(8)は、40年代、カウント・ベイシー楽団にも在籍したことのある、ウィリアムズにとっては先輩格にあたるシンガー、ジミー・ラッシングのオリジナル。
タイトルもまさに「まんま」という感じのブルース。ラッシングもまた、ブルース感覚にあふれたジャズ・シンガーのひとりで、ブルースを歌ったアルバムを何枚も出しているほどだ。
先輩への尊敬をこめて歌うこのブルース・ナンバーは、ソフトな歌い方ながら、実にディープ。これぞ、本物の味わいだ。
(9)は30年代のスタンダード。ルイ・アームストロングの歌でおなじみだが、カウント・ベイシー楽団もレパートリーとしていて、これまたラッシングがヴォーカルを担当している。
スウィンギーにしてブルーズィ、まさにウィリアムズにうってつけの佳曲といえよう。もちろん、文句なしの出来ばえだ。
(10)はエリントン・ナンバー。シモンズのピアノ・プレイがこのうえなく美しい。そして、ハートフルなウィリアムズの歌唱も最高。
「私がどれだけあなたのことを思っているか、あなたは知らない」という思いを、最上質のヴェルヴェット・ヴォイスにのせて、切々と歌う。これでクラッとこない女性がいるだろうか?
さて、ラストは彼もリスペクトするビッグ・ジョー・ターナーのナンバー、(11)。
ターナーもまた、カウント・ベイシー楽団で30~40年代活躍したシンガーだ。その特徴ある早口ヴォーカルで、不動の人気を得ている。
超アップ・テンポの伴奏に負けじと、歌とスキャットで飛ばしまくるウィリアムズ。
先輩シンガーの名曲を心から楽しんでいるのが、ダイレクトに伝わってくる一曲だ。
以上、「ショーはかくあるべし」と言えそうな、究極のエンタテインメントなライヴ。
同じようにステージで歌う人間にとって、これ以上のお手本はないというぐらい、完全無欠のステージング。
とにかく、モノホンの風格に、圧倒されまっせ。
<独断評価>★★★★