2003年4月20日(日)
マンハッタン・トランスファー「ベスト・オブ・マンハッタン・トランスファー」(ワーナー・パイオニア PKF-1019A )
ヴォーカル・グループ、マンハッタン・トランスファー、81年リリースのベスト盤。
トップの「TUXEDO JUNCTION」は、彼らの最初のヒット。
アースキン・ホーキンスほかのペンによる作品。30年代に書かれ、グレン・ミラーら多くのスウィング・ジャズ・バンド、ヴォーカルではアンドリュー・シスターズほかによって取上げられた。
75年のデビュー・アルバム「MANHATTAN TRANSFER」に収録された、初期のマントラを象徴するノスタルジックなナンバーだが、本盤では78年のライヴ盤「MANHATTAN TRANSFER LIVE」でのテイクを収録。
ローレル・アン・マッセーが在籍していた78年までの第一期マントラでは、こういう古いナンバーをコーラス用にアレンジし、オーソドックスなジャズ・サウンドにのせて歌うスタイルがメインであった。
その時期のナンバーとしては、本盤ではほかに「CANDY」「FOUR BROTHERS」「GLORIA」「OPERATOR」「JAVA JIVE」が該当する。
「CANDY」はデビュー・アルバムに収録。ナット・キング・コール、フォー・フレッシュメンなどの歌で知られるバラード・ナンバー。
タイトル通り、甘~いメロディ・ラインがいかにもいかにもなラヴ・ソングだ。
「FOUR BROTHERS」はアップテンポのスウィング・ジャズ・ナンバー。セカンド・アルバム「PASTICHE」収録。
ウディ・ハーマン楽団の十八番としてあまりに有名なこのナンバーを、マントラは「ヴォーカリーズ」という、アドリブ・ソロにもすべて歌詞をつけて歌う手法で、70年代に蘇らせたのであった。
「GLORIA」はドゥー・ワップ・グループ、キャディラックスの60年代のヒット。デビュー・アルバムに収録。
マントラの見事なヴォーカル・テクニック、ハーモニーが、この忘れられかけていたナンバーにスポット・ライトを当てた。
そう、彼らはジャンルを問わず、往年の名曲のリニューアルの達人であったのだ。
ここでの聴きものはやはり、アラン・ポールの思い入れたっぷりのリード・ヴォーカルだろうね。
「OPERATOR」はゴスペルな一曲。これまたデビュー・アルバムで聴ける。ジャニス・シーゲルの力強いリード・ヴォーカルに圧倒される。
「JAVA JIVE」は50年代に活躍したコーラス・グループ、インク・スポッツの代表曲。マントラはデビュー・アルバム、そしてメジャー・デビュー以前の音源集「JUKIN'」でもこれを取上げている。
のんびり、ほんわかとした雰囲気の、なごみ系チューン。バックの素朴なアコギの音も、いい感じだ。
ところが、ローレルが脱退、シェリル・ベンティーンに代わった第二期、マントラの音は大きく変わる。
それまでのノスタルジックで、ジャズィな音作りを脱皮して、コンテンポラリーなポップ・ミュージックへとシフトしていくようになる。
その「進化」を象徴するのが、プロデューサーにジェイ・グレイドンを起用して制作された79年のアルバム「EXTENSIONS」だ。
グレイドン、デイヴィッド・フォスターらのアレンジによる先端のサウンドにより、マントラは再スタートを切ったのだった。
本盤では「BOY FROM NEW YORK CITY」「TWILGHT ZONE-TWILGHT TONE」「BODY AND SOUL」「BIRDLAND」「TRICKLE TRICKLE」「A NIGHTINGALE SANG IN BERKLEY SQUARE」がそれに該当する。
「BOY FROM NEW YORK CITY」は60年代に活躍したコーラス・グループ、アド・リブスのヒット曲。81年のアルバム「MECCA FOR MODERNS」収録。
そのアレンジはあくまでもエレクトリック楽器中心。カヴァー選曲のセンスはそのままに、サウンドが大きく変化した一例だ。
「TWILGHT ZONE-TWILGHT TONE」は、かの人気TV番組「トワイライト・ゾーン」をモチーフに作った、ミステリアスなナンバー。彼らにしては珍しいオリジナル。アルバム「EXTENSIONS」収録。
ここで聴かれるジェイ・グレイドンの多重録音ギターがなんともカッコいい。スピード、スリルを満載。まさしく名演ですな。
「BODY AND SOUL」は数あるジャズ・スタンダードの中でも、名曲中の名曲。歌ではルイ・アームストロング、ビリー・ホリデイ、演奏ではベニー・グッドマン、コールマン・ホーキンス等々、名演は枚挙にいとまがない。
このナンバーをマントラは、繊細にして華麗、見事なヴォーカリーズを施して聴かせてくれる。新たな魅力がこの曲に加わったといえるだろう。アルバム「EXTENSIONS」に収録。
同じく「EXTENSIONS」に収められた「BIRDLAND」はジョー・ザヴィヌルの作品。もちろん、ウェザー・リポートがオリジナル。
シンセサイザーを多用した大胆なアレンジが光る一曲。もち、切れのいいコーラスも、さすがマントラ。
「TRICKLE TRICKLE」はヴィデオスなるドゥー・ワップ・グループ(詳細不明)のヒット曲のカヴァー。アルバム「EXTENSIONS」に収録。
ここでもアランをフィーチャー、軽快なドゥー・ワップ・コーラスをキメてくれます。身も心もウキウキするような一曲。
「A NIGHTINGALE SANG IN BERKLEY SQUARE」はアルバム「MECCA FOR MODERNS」からのバラード・ナンバー。
ここではオーソドックスなア・カペラ・コーラスを聴かせるマントラ。演奏ではベニー・グッドマン、歌ではナット・キング・コール、メル・トーメ、アニタ・オデイが有名だが、彼らにまさるともおとらぬ、素晴らしい出来ばえだ。
ふたりの女性シンガーを中心に、完璧なハーモニーを聴かせてくれる。個人的には、本盤のベスト・トラックだと思っている。
マントラはその後も着実に活動を続け、20枚近くのオリジナル・アルバムを発表、健在ぶりを見せている。来日も10回近い。
マントラの約30年のキャリアから考えれば、この一枚はほんの一部をカヴァーしているに過ぎないが、それでもその高い音楽性を知るには十分だろう。
ヴォーカル、そしてコーラスの可能性を限界まで追求したワン・アンド・オンリーな存在。歌よし、選曲のセンスよし。
やはり、マントラはスゴいグループだと思うよ、いまだに。