NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#143 ローリング・ストーンズ「LET IT BLEED」(ABKCO 80042)

2022-04-06 04:57:00 | Weblog

2003年3月9日(日)



ローリング・ストーンズ「LET IT BLEED」(ABKCO 80042)

(1)GIMMIE SHELTER (2)LOVE IN VAIN (3)COUNTRY HONK (4)LIVE WITH ME (5)LET IT BLEED (6)MIDNIGHT RAMBLER (7)YOU GOT THE SILVER (8)MONKEY MAN (9)YOU CAN'T ALWAYS GET WHAT YOU WANT

<制作データ>

ストーンズ、69年リリースのアルバム。プロデュースはジミー・ミラー。

皆さんご存じとは思うが、同年6月にオリジナル・メンバーのブライアン・ジョーンズがグループより脱退(追放というべきか)、7月には自宅のプールで変死をとげている。その後の11月にこのアルバムが発表されている。

そのため、一部の曲ではブライアンが参加しているが、大半はブライアンの死後にレコーディングされている。

ブライアンの代役として急遽参加したのが、ブルース・ブレイカーズにいたミック・テイラー。このアルバムの制作時点ではサポート・メンバー扱いだったが、のちに正式メンバーとして迎えられた。

よって、本盤は第一期ストーンズの最後のアルバムであると同時に、第二期ストーンズの最初の作品でもあるといえよう。

<ジャケット>

オモテはストーンズのLPの上に、映画フィルムの缶やらタイヤ、ストーンズの人形付きのデコレーション・ケーキ等が乗っかった奇妙なオブジェ。

ウラでは、無残にLPは割れ、ケーキは切り取られて人形は散乱、フィルムの缶もグシャグシャ。まさに「流血の惨事」状態。

これはもちろん、「LET IT BLEED」というアルバム・タイトルから考えついたヴィジュアルなんだろうが、ブライアンの怪死の直後だけに、ドキッとするものがあるね。

行動のスキャンダラスさ、アナーキーさでは随一であったストーンズらしいといえば、らしい。

タイトル自体も、ライヴァルであるビートルズのアルバム、「LET IT BE」をおちょくったものだろう。なかなか洒落がきいてます。

<聴きどころ>

筆者が思うに、ストーンズが一番クリエイティヴな仕事をしていたのは、本盤の前作「ベガ-ズ・バンケット」あたりから、第二期最後の作品「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」までの時期だという気がする。

彼らが自らのオリジナリティに目覚め、セルフ・プロデュースが出来るようになったのがその時期だと思うし、逆に第三期からはその確立されたフォーマットを何度も焼き直して使っているだけ、そんな印象がある。

ホント、68年から74年までの約6年間は、どのアルバムもハズレなく、よく出来ていると思うよ。

そんな中でも本作品は、ベスト3に入る完成度だと思う。

たとえば、(ジャガー=リチャード作名義になってはいるが)ロバート・ジョンスンが作り出した名曲、(2)。

このまったりとした、カントリー調のブルース一曲を聴くためだけでも、本盤を買う価値はある。ゲスト・プレイヤー、ライ・クーダーの弾くフラット・マンドリンがなんともいい雰囲気だ。

あと、ヒット曲「HONKY TONK WOMAN」のアコギ・ヴァージョンである(3)もいい。

ここではバイロン・バーラインのフィドルをフィーチャー、アメリカ南部風の鄙びたサウンドを聴かせてくれる。ミック・テイラーもスライド・ギターで参加。

(7)もキースのスライド・ギターをフィーチャ-したアコースティック・アレンジの曲。彼らの普段のライヴでは聴くことの出来ない、リラックスしたムードが横溢している。ブライアンもオートハープで参加。

もちろん、カントリー路線の一方で、正調ストーンズ流ロックン・ロールも健在。

緊張感にあふれた演奏が光る(1)、ベースラインがイカした(4)。まさに、後の「ブラウン・シュガー」「ダイスをころがせ」や「ハッピー」あたりへとつながっていく正統派ロックン・ロールだ。(4)にはミック・テイラーも参加、ソリッドなリズム・ギターを聴かせてくれる。

グループの準メンバーともいうべきイアン・スチュアートのピアノが実にごキゲンな(5)、シンプルなリフの繰り返しがカッコいいブギ-、(6)(この曲もブライアンが参加)。これらもまた、文句なしの出来ばえ。

ビル・ワイマンのヴィブラフォンを隠し味にした(8)も聴き逃がせない。スライド・ギターを前面に押し出した、ワン・コード・リフの繰り返しによるファンキーなスタイルが、この曲あたりで見事に確立されている。

そして本盤中一番の「意欲作」といえるのが(9)。ロンドン・バッハ聖歌隊や、マデレーン・ベル、ドリス・トロイ、ナネット・ニューマンら女性歌手との共演だ。

最初はおごそかな賛美歌ふうに始まり、次第にリズムも加わって盛り上がっていく。ゲストのアル・クーパーのピアノ、オルガン、フレンチ・ホルンでのプレイも、きめ細かなサウンドを生み出すのに、一役かっている。

当時の英国は、こういうロックのクラシックとのクロスオーヴァーが盛んだった(ビートルズ、ディープ・パープルなど)ということやね。

ストーンズ自身、かねてより「ルビー・チュ-ズデイ」「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」などでオーケストラを導入しているので、その流れの上にあるともいえる。

ストーンズと聖歌隊、水と油かと思いきや、意外とイケてます。

要するにどれを取っても、粒揃いの曲ばかり。ストーンズの演奏もタイトさに磨きがかかっており、その一方、イアン・スチュアートやニッキー・ホプキンスらの準メンバーたち、レオン・ラッセル、ライ・クーダー、アル・クーパーらゲスト連も巧者ぞろい。初参加のミック・テイラーも、臆することなく、堂々とプレイしている。

「王者の風格」の一枚といえよう。

<グループのその後>

前述したようにミック・テイラーはほどなく正式メンバーとなり、ハイド・パークの野外コンサートでライヴ・デビュー。

その後も、ストーンズが新しいサウンドを次々と生み出していく上で重要なキーパースンとなっていく。

実際、第二期はキース・リチャ-ズのドラッグ中毒が一番ひどかった時期で、スタジオワークの方はともかく、ライヴではほとんどリードを弾けないくらいの状態だったようだ。

そんな中で、リード・ギタリストとして活躍、あるいはアメリカ南部のサウンドをグループに積極的に導入したミック・テイラーの存在は、われわれが思う以上に大きかったのではなかろうか。

とにかくこの一枚は、新生ストーンズの以後の方向性をはっきり示したという意味でも、聴き逃がすことの出来ない作品だ。

現在、来日公演真っ最中のストーンズ。60歳前後の彼らの(実質最後?の)ライヴを聴きにいくのもいいんですが、やはり一番「旬」だった頃の彼らをチェックしとかんとね。

<独断評価>★★★★★


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