2003年4月6日(日)
大木トオル「SWEET HOME TOWN」(avex io IOCD-2001)
本場アメリカでも活躍するブルース・シンガー、大木トオルの最新作。2002年リリース。
60年代後半より音楽活動を開始、76年に渡米。「Everynight Woman」のヒットで日本でもメジャーな存在になったのが79年。
35年ものキャリアを誇る、元祖イエロー・ブルースマンだ。
そんな彼のニュー・アルバムはまず、「Mississippi Boogie」からスタート。
MG'S調のビートにのせて、マディ風のオリジナル歌詞を歌う。
彼の声質は、ご存じのかたはご存じと思うが、しゃがれてくぐもったような感じの低音で非常にクセが強い。好き嫌いがはっきり分かれるタイプの声だ。
筆者も昔はこの声、「ちょっとブルースの"型"にはまり過ぎているんじゃないの?」と思っていて、あまり好きになれなかった。
だが、ひさしぶりに聴いてみて、おのれの音楽を聴く耳(感性)が変わったためだろうな、「そう悪くもないじゃん」という印象を抱いた。
これが、長年音楽を聴くことの面白さともいえそうだね。子供のころ、「おつ」な食べ物を受け付けなかったのに、年齢を重ねると不思議と美味しく感じられるようになるのと、似ている。
続くは「Land Of 1,000 Dances」。そう、60年代に一世を風靡したR&Bヒット、「ダンス天国」である。
正直言うと、ホーンの代わりに使用されたシンセサイザーの音にいささか違和感を感じる。こういうコテコテの"ソウル"な曲はぜひとも生ホーンでやって欲しいもんだ。
が、それ以外は全編、なかなかタイトでノリがよく、ご機嫌なサウンドです。
お次は、アルバムタイトル曲「Sweet Home Town」。これは彼のオリジナル。
これは当初、大木の生まれ故郷である日本橋人形町をイメージして作られたそうだ。
だが、2001年にNYCで同時多発テロ事件が起きた後、被害者救済のチャリティ・コンサートに彼も出演し、この歌を唄ったところ、観客であるNY市民にも大いに共感を呼んだという。
以来、もうひとつの意味がこの曲に加わったという。「Sweet Home Town」とは、東京でもあり、NYCでもあり、そしてまたどこか別の、あなたの生まれた街でもあるのだ。
女声コーラスを配して、ジャズィなムードで切々と歌う大木。丁寧な歌唱がいい。また新たな境地を切り開いた一曲といえそうだ。
「Midnight Soul」はオリジナルだが、JB、ウィルスン・ピケットあたりが歌っていてもおかしくなさそうな正調R&B。
こういう曲だと、実に生き生きと楽しそうに歌っておるね。
「You Really Got A Hold On Me」、これは再びカヴァーものだが、作者のスモーキー・ロビンスン率いるミラクルズとも、また有名なビートルズ・ヴァージョンともまた違った「悲痛な叫び」が印象的。
50代になった大木が歌う「You Really~」は、人生の表も裏も全部見てきた者でないと出せない、ミョーに深い味わいがある。
「Everynight Woman 2002」はもちろん、79年のヒットの再録音。
こうやってひさびさに聴いてみると、そのメロディ・ラインといい、歌いぶりといい、ほとんど「演歌」だな~と思うが(笑)、でもそれもまたよし、である。
ブルースとか演歌とか、そういうジャンル分け自体にほとんど意味はないし、いい音楽でありさえすればいいのよ、実際のところ。
大木トオルも、長年ブラック・ミュージックにどっぷりハマって、英語の歌ばかり歌ってきているものの、根っこはやはり、東洋人、ジャパニーズである。そのへんを自覚して、日本人なりのブルースを歌っていけばいい。
黒人クリソツに歌うことが「ブルースを極めた」ということではないっちゅうことや。
次はなんとオーティス・ラッシュの「Homework」。いかにも大木好みの、賑やかなホーン&コーラス・アレンジを施した一曲。
ラッシュのシブさとはまた違った、メリハリに富んだ、お祭り騒ぎのようなこのヴァージョン、けっこう好きです。
「Talk To My Baby」(Talk To Me Babyとも)は、エルモア・ジェイムズのカヴァー。ホワイト・ブルース系バンドにカヴァーの多い一曲だ。
いかにもエルモア風のハードなスライド・ギターに負けじと、大木もテンションの高いヴォーカルを聴かせる。
「East Side Woman Called The Blues」はオリジナル。ブルースを夜の女に喩えたメタファーといい、マイナーの曲調といい、「Everynight Woman」の流れの上にある曲といってよい。これもまた再録音とのこと。
裏に反戦メッセージをこめた、戦士たちに捧ぐブルース。彼のもの悲しい声質がなんともマッチしている。
やはり彼の本領は、マイナー系でこそ発揮される、そういう気がするね。
「Hip Shake Mama」は一転、ひたすら陽気なシャッフル。大木のオリジナルで、これも再録音。
サックスそしてギターのソロが、ノリノリ、ギンギンで、ほんとにごキゲンであります。
「Stormy Monday Blues」はいうまでもなく、ブルース・スタンダード中のスタンダード。
この名曲を大木は掌のブランデー・グラスでも温めるかのように、じっくりと歌いこむ。熟成された味わいだ。
バックのタメのきいたギター・プレイ、ホーンの分厚い音の壁、これまたヨロシイ。
まさにブルースの王道を行く完璧な仕上がりぶり。
しかし、これで大団円にせず、もう一曲。
DJ KAORIの手による「Land Of 1,000 Dances Remix」がそれである。。
バッキング・トラックをあえて外し、再構築した「意欲作」。ま、ふつーのブルース・ファンから見れば噴飯ものの「お遊び」だろうが、あえてあのお年で、こういう異分野にも挑戦した意欲(というか、洒落っ気か?)は評価したいと思う。
ブルースとはあくまでも「現在進行形」の音楽。つねに変化をとげ、進化していくものだという考え方がそこには感じられる。
「博物館」におさめられた「過去の遺品」ではなく、生きた音楽としてのブルースを生み出していこうという姿勢、後輩のわれわれも大いに見習って、「いま現在」を映し出したブルースを歌っていこうではないか。