シンガー/ピアニスト、ブロッサム・ディアリー、58年リリースのセカンド・アルバム。
ブロッサムといえば、そのなんともユニークでチャーミングな「カマトト・ボイス」がセールス・ポイントだろう。
一度聴いたら、絶対忘れられない、そんな声。筆者も長らく愛聴しているシンガーだ。
私事で恐縮だが、その昔、筆者がオカ惚れしていた女性がいて、そのひとがブロッサムそっくりの声をしていたのである。
しかも、性格も声同様、男を惑わすようなコケット、小悪魔タイプだった。
そんなこんなの理由で、ブロッサムの歌声にも自然とハマっていったのかもしれない(笑)。
<筆者の私的ベスト4>
4位「MANHATTAN」
ご存じ、ロジャーズ&ハートの代表曲。古くはリー・ワイリー、時代が下ってはエラ、ダイナ・ワシントン、メル・トーメ、トニー・ベネットなど、男女を問わず多くのシンガーによって歌われてきた極めつけのスタンダードだ。
ブロッサムはこれを、ピアノを弾きながらしっとりと歌う。
ブラシによるドラミングがなんとも粋な、コンボ演奏(オスカー・ピータースン・トリオのリズム隊、ギターのマンデル・ロウがサポート)。
ちょっぴりアンニュイ、でもなんとなく幸せな気分になれる一曲だ。
3位「TEACH ME TONIGHT」
サミー・カーン、ジーン・ディポールによる作品。こちらも、サラ・ヴォーン、ダイナ・ワシントン、ジョー・スタッフォード、バディ・グレコ、ジョー・ウィリアムズ等、女性シンガーを中心にカヴァーが多い。
「今夜教えて」とは実に意味深なタイトルだが、中身もやはり「夜の個人授業」ということであります。
しかも、ブロッサムのあの声で耳元で歌われた日には、たいていの男はメロメロになってしまうはず(笑)。
ちょっと「目の毒」ならぬ「耳の毒」な、きわどい一曲であります。
2位「DOOP-DOO-DE-DOOP(A DOODLIN' SONG)」
ベティ・ブープのような、彼女のキュートなお色気がもっとも生かされた一曲。サイ・コールマン、キャロリン・リーの作品。
意味不明のおかしな歌詞とスキャットで、聴く者をケムにまく。小悪魔ブロッサムの本領発揮である。
呪文めいたこの歌を聴けば、老若を問わず、どんな男性も恋の魔術にかけられてしまいそう。
1位「TEA FOR TWO」
いうまでもなく、80年近い寿命をほこるスタンダード中のスタンダード、「二人でお茶を」である。アーヴィング・シーザー、ヴィンセント・ユーマンスの作品。
ヴァースからゆったりとしたテンポで歌うブロッサム。ドリス・デイの「さわやか系」な歌もいいが、ミルキィな彼女の「不思議ちゃん系」な歌もまた悪くない。
まったく「生活臭」がなく、子供のおままごとのよう。彼女ならではの世界ですな。
ジャズ・ヴォーカルにもいろいろなスタイルがあるが、ここまでワン・アンド・オンリーな個性を持つひとはそういない。
ファニーで、しかも小粋。名前すら知らないよ、とおっしゃるかたも多いだろうが、一度は聴いてみてほしい。
バックの音もスウィンギーで、実にお洒落っぽいのがグーであります。
<独断評価>★★★★