NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#152 オールマン・ブラザーズ・バンド「A DACADE OF HITS 1969-1979」(Polydor 314 511 156-2)

2022-04-15 05:00:00 | Weblog

2003年5月10日(土)



#152 オールマン・ブラザーズ・バンド「A DACADE OF HITS 1969-1979」(Polydor 314 511 156-2

突然ですが、今日からまた、フォーマットを変えますので、ヨロシク。基本的には、毎日更新態勢で行くつもりです。

さて、今日はオールマンズの初期ベスト盤。

彼らのアルバムは名盤が多く、どれか一枚に絞るのは至難の技だが、60~70年代の彼らの活動をざっと見渡すには、こういうヒット曲集も便利だろう。91年リリース。

<筆者の私的ベスト3>

結論を先に言ってしまうと、デュエイン(デュアン)の生きていた頃のオールマンズのサウンドのほうが逝去後のそれよりも、筆者的には好き。

よって、以下のようになる。

3位「ONE WAY OUT」

エルモア・ジェイムズ、サニーボーイ二世で有名なナンバー。アルバム「イート・ア・ピーチ」所収、ライヴ録音。

グレッグの歌は、黒人シンガーにだって負けていない、濃い出来。さすが恋愛経験豊富なグレッグ、こういう歌がサマになるね。

また、ディッキー・ベッツ、デュエインともに、サステインの利いた見事なソロ・プレイを聴かせてくれる。こちらも注目。

2位「STATESBORO BLUES」

40~50年代に活躍したジョージア出身のシンガー/ギタリスト、ブラインド・ウィリー・マクテルの作品。

以前このページで取り上げたこともあるアルバム「アット・フィルモア・イースト」よりのライヴ録音。

ここでのデュエインのスライド・プレイはシャープで、スピーディ。文句なしにカッコいい。

そして1位は、「WHIPPING POST」

デビュー・アルバムに収められたこのグレッグの作品は、初期のオールマンズを象徴するような名曲。

鬼気迫る歌詞、ブルーズィなメロディ、緊迫感あふれるサウンド。

グレッグの歌とオルガン、ふたりのギタリストのプレイも、もちろんいい。掛け値なしの名演。

変にひねった曲より、こういったブルース色の強い、ストレートな演奏にこそ、彼らの魅力は集約されていると、筆者は思っている。

もちろん、「ブラザーズ・アンド・シスターズ」以降の曲も5曲収められているので、カントリー色の強いオールマンズがお好きなかたもどうぞ。

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#151 レッド・ツェッぺリン「レッド・ツェッぺリンIII」(east west japan AMCY-4007)

2022-04-14 05:00:00 | Weblog

2003年5月4日(日)



#151 レッド・ツェッぺリン「レッド・ツェッぺリンIII」(east west japan AMCY-4007)

レッド・ツェッぺリンのサード・アルバム。70年リリース。

筆者が生まれて何枚目かに買ったアルバムだけに、いったい何十回、何百回聴いたか、測り知れない。

アナログ盤はとうに擦り切れ、今ではこうしてCDで聴いているのだが、この一枚に対する思いのたけを書き出したら、たぶん際限なく続くと思うので、今回は要点だけ。

「IMMIGRANT SONG(移民の歌)」は、ご存じZEPが日本でも大ブレイクするきっかけとなったシングル曲。

ギター・ソロが入っているわけでなし、単純なリフのみ、今聴いてみると曲の作りはおそろしくシンプルだが、それでもロバート・プラントのターザンを思わせる雄叫びは、ZEPというバンドの存在を日本中に知らしめるに十二分な威力を持っていた。

まさに「つかみはOK」的な一曲(笑)。

「FRIENDS(フレンズ)」はアコギとパーカッション、ストリングスを使った野心作。現代音楽的、あるいはエスニック音楽的な不協和音の続くアレンジが、従来のZEPのブルース・ロック路線とはかなり違う。

この流れは後年、ペイジ=プラントの「NO QUARTER」あたりで、ひとつのまとまりを見せることになる。

「CELEBRATION DAY(祭典の日)」は、筆者的にも結構オキニな一曲。

ハード・ロックなリフが続く前半から一転、サザン・ソウルの雰囲気が横溢するサビとなる。このあたり、実にカッコいい。いかにも、アトランティック・レーベルのアーティストっぽいね。

「SINCE I'VE BEEN LOVING YOU(貴方を愛しつづけて)」は前半(A面)のハイライトともいえる、マイナー調のブルーズィな名曲。

静かに始まり、いきなり、胸をかきむしるようなフレーズで盛り上がるギターの前奏。もう、このへんからリスナーのハートを鷲づかみだ。

プラントのヴォーカルも最高にいい。オーティス・レディング、ウィルスン・ピケットにもひけをとらない、ディープでソウルフルな歌いぶりに、ノック・アウトされまくり。

ペイジのギター・ソロ、アルペジオも、ベストな出来ばえ。ジョーンジーのオルガン、ボンゾのドラムもパーフェクト。

「OUT ON THE TILES(アウト・オン・ザ・タイルズ)」は当初、シングル「移民の歌」のB面だった曲。

体育館みたいな広い場所で録ったように聴こえる、奥行きのある音場が印象的な、ハード・ロック・ナンバー。ことにイカしているのが、ボンゾの叩き出す変則リズムだ。また、リフのカッコよさでは、ZEPの数ある曲の中でも、一、二を争うんじゃなかろうか。

後半へ行こう。アナログ盤のB面は俗に「アコースティック・サイド」などとよばれているが、確かにアコギ中心のアレンジになっている。

当時のファンの中には「B面はつまらないので、聴かない」というひとが結構いたようだが、どうだろうか。このアルバムを出した意義は、実はB面のような新しいサウンドへと踏み出したことだと思うんだがねえ。

確かに、ZEPに「ゴリゴリのハードロック・バンド」のイメージを求めてアルバムを買うファンが多かったのは事実だが、ZEPほど多様で豊かな音楽性をもっていたロック・バンドはそうない。

このアルバムこそは、「ハードロック・バンド」という括りを軽く飛び越えて、「ZEPミュージック」とでもいうべき独特のカテゴリを打立てた記念碑なのだと、筆者は思っている。

「天国への階段」も、「カシミール」も、このアルバムを土壌に花咲いた名曲なのだと思うよ。

さて、「GALLOWS POLE(ギャロウズ・ポウル)」はレッドベリーなどでおなじみのトラディショナル。シンプルなフレーズの繰り返しで構成されており、素朴ながらも躍動感に富んだ一曲。

アコギのみならず、バンジョーやマンドリンも加えたアレンジ。それが結構サマになっている。ペイジ、ジョーンジーの器用さがうかがえる。

「TANGERINE(タンジェリン)」はペイジの弾くペダル・スティール・ギターがいかにもカントリーな一曲。タイトルにぺイジのエスニック趣味がにじみ出ているように思う。

「THAT'S THE WAY(ザッツ・ザ・ウェイ)」もカントリー趣味があふれたナンバー。CSN&Yあたりの、ウェスト・コースト系バンドにも一脈通じるものがあるサウンド。ZEPがことにアメリカ人に人気のある所以だろう。

ZEPはそれまでは「メロディの美しさ」というものに、余り重きをおかず、シンプルなリフの繰り返しが生み出す「力強さ」を最重要視してたという気がするが、このアルバム以降、次第にメロディをメインにフィーチャーするようになっていく。「ザッツ~」はその典型例といえるだろう。

そしてその傾向は、次のアルバム、なかんずく「天国への階段」で結実することになる。

「BRON-Y AUR STOMP(スノウドニアの小屋)」は軽快なビートのブリティッシュ・トラッド風ナンバー。ペイジのギター・プレイに英国のグループ、ペンタングルあたりの影響を強く感じるね。

「HATS OFF TO (ROY) HARPER(ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー)」はタイトルが示すように、英国のユニークなシンガー、ロイ・ハーパーにトリビュートした作品。

この曲をはじめて聴いたとき、ヴォーカルやスライド・ギター・プレイのあまりもの「濃さ」に筆者は引いてしまった記憶がある。

それもそのはず、この曲はブッカ・ホワイトの「SHAKE 'EM ON DOWN」という古ーいブルースを下敷きにしたものなのである。

当時(13才くらい)、戦前のカントリー・ブルースなど一度も聴いたことのなかった筆者にとっては、ものすごく強烈な「体験」であった。まるで、ウィスキーを原液でいきなり飲まされたような感じだった(笑)。

ZEPがファーストやセカンド・アルバムで取上げていた黒人ブルースは、そうはいっても第二次大戦後の、しかも都市のそれが中心だったので、とても同じジャンルの音楽とはにわかに思えなかった。

そのうち、これもまたブルースの一形態だとわかってきたんだけどね。

そして、その(奇妙な)サウンドがようやく耳になじんだころには、すっかりブルースのとりことなってしまっていた、というわけだ。

そういう意味でも、この一枚は、新しい世界への水先案内人でもあったのだ。

…なんて、書き出したら、やっぱり長くなってしまった。

とにかく、ZEPがブルース・ロック、ハード・ロックのカテゴリを超越して、文字通り世界一のバンドとなった証明がこの一枚。

聴かずして、ロックは語れんぞよ。


音盤日誌「一日一枚」#150 ジョン・レノン「ROCK 'N' ROLL」(CAPITOL 4N-16069)

2022-04-13 05:01:00 | Weblog

2003年4月27日(日)



ジョン・レノン「ROCK 'N' ROLL」(CAPITOL 4N-16069)

ジョン・レノン、75年リリースのアルバム。タイトル通り、全曲ロックン・ロール、R&Bのカヴァーである。

プロデュースは、フィル・スペクター、レコーディング・メンバーはレオン・ラッセル、スティーヴ・クロッパー、クラウス・ヴーアマン、ジム・ケルトナーといった、おなじみの面々。

トップの「BE-BOP-A -LULA」は白人ロッカー、ジーン・ヴィンセント、57年の大ヒット。

独特の唱法を、ジョンも上手く真似て、ヴィンセントの不良っぽい雰囲気を出すことに成功している。スティーヴ・クロッパーのソリッドなギター・プレイもカッコいい。

「STAND BY ME」は、いうまでもなくR&Bシンガー、ベン・E・キングのスーパー・ヒット。キングとリーバー&ストーラー・コンビの共作。

このジョンのカヴァーののち、オリジナルも同題の映画の主題歌として86年にリヴァイヴァル・ヒットしているから、皆さんおなじみだろう。

アコギの響き、そして、ジョンの少し鼻にかかったような高い歌声がなんとも印象的な名演だ。

続くはメドレーで「RIP IT UP/READY TEDDY」。前半はリトル・リチャード、バンプス・ブラックウェルの作品。

リチャード自身のほか、ビル・ヘイリー、エヴァリー・ブラザーズ等の演奏でおなじみのこの曲を、ジョンもまたノリノリで歌いまくっている。

後半もリチャード=ブラックウェルの作品だが、エルヴィス・プレスリー、バディ・ホリーのカヴァー版もまた、オリジナルと同じくらい有名だろう。もちろん、ジョンのシャウトも、彼らに負けじと熱い!

チャック・ベリー作の「YOU CAN'T CATCH ME」は、ちょっと因縁含みの曲。

ビートルズは何曲かベリーにインスパイアされた曲(平たくいえばパクり)を書いていたが、ことに「COME TOGETHER」はこの「YOU CAN'T CATCH ME」にクリソツということで、作者からクレームがついていたのだ。

今回の選曲は、そのフォローともいえそう。なるほど、聴いてみると前半がとくに良く似てますな(笑)。ホーンがなかなかの迫力。

「AIN'T THAT A SHAME」はファッツ・ドミノのカヴァー。チープ・トリックなんぞもやっていましたな。ここではレオン・ラッセルのピアノが大活躍。

「DO YOU WANT TO DANCE」は黒人シンガー、ボビー・フリーマン、58年の作品。というよりは、クリフ・リチャード、デル・シャノン、ビーチ・ボーイズらの持ち歌といったほうが、通りがよさそう。

いかにも軽快でネアカなメロディをレゲエ風ビートに乗せて、ジョンも楽しんで歌っております。

「SWEET LITTLE SIXTEEN」は、これもまたチャック・ベリーのナンバー。にぎやかなホーン・アレンジに乗せて、ジョンがシャウト&シャウト。

「SLIPPIN' AND SLIDIN'」も、リトル・リチャードのナンバー(「のっぽのサリー」のB面)。レオン・ラッセルのスピーディなピアノ、そしてボビー・キーズのサックス・ブロウが、実にR&R気分な一曲。

「PEGGY SUE」はバディ・ホリーの代表的ヒットのカヴァー。ホリー、ジェリー・アリスン、ノーマン・ペティの共作。

陽気なことこの上ないロックン・ロールを、高らかに歌うジョン。コード奏法によるギター・ソロも実にごキゲンだ。

お次はメドレーで「BRING IT ON HOME TO ME/SEND ME SOME LOVIN'」。前半はサム・クックの代表的ヒット。彼自身の作品。

後半はリトル・リチャードの作品で、サム・クックも取上げているナンバー。このふたりは、リチャードが「BRING IT ON HOME TO ME」をカヴァーしていたりと、意外につながりが深いのだ。

ジョンも、ゆったりとしたテンポで、リラックスして歌っている。「ソウルフル」というのとはちょっと違う歌い方だが、なかなか和み系でいい感じだ。

「BONNIE MORONIE」はN.O.出身のシンガー、ラリー・ウィリアムズがオリジナル。ロック・ファンにはジョニー・ウィンターのカヴァーが有名だろう。

ミディアム・テンポの南部風サウンドをバックに、粘っこく歌うジョン。うーん、ファンキー!

「YA YA」も「南部」な一曲。N.O.の代表的シンガー、リー・ドーシーの作品。

ジョンはこれをデビュー前のビートルズ時代(ビート・ブラザーズと名乗っていたころ)にも取上げており、再演ということになる。

いかにもノリのよい快演。ジョンのやや上ずり気味の高音のヴォーカルが印象的だ。

ラストはロイド・プライスの代表的ヒット、「JUST BECAUSE」

プライスもおもにN.O.で活躍したR&Bシンガーで、「LAWDY MISS CLAWDY」等を黒人のみならず白人マーケットでもヒットさせた、先駆者的存在でもある。

ロックン・ロールというよりはN.O.の地方色豊かな、バラード・ナンバー。ジョンものどかな雰囲気をかもしだす歌いぶりを見せている。

以上、ひたすら往年のロックン・ロールをトリビュートしているジョンの姿は、社会運動家としての彼とはだいぶん違ったおもむきだ。

後代の研究では、70年代の名作「IMAGINE」なども、そのコンセプトはもっぱらヨーコ夫人によるものだということがわかってきており、こういう「永遠のロックン・ロール少年」像こそが、ジョンの本来の姿なのかもしれない。

筆者にとっても、70年代のヒーローは、やはりジョン・レノンにほかならなかった。

彼の「原点」を知る意味でもこの一枚、必聴だと思うよ。



音盤日誌「一日一枚」#149 マンハッタン・トランスファー「ベスト・オブ・マンハッタン・トランスファー」(ワーナー・パイオニア PKF-1019A )

2022-04-12 05:17:00 | Weblog

2003年4月20日(日)



マンハッタン・トランスファー「ベスト・オブ・マンハッタン・トランスファー」(ワーナー・パイオニア PKF-1019A )

ヴォーカル・グループ、マンハッタン・トランスファー、81年リリースのベスト盤。

トップの「TUXEDO JUNCTION」は、彼らの最初のヒット。

アースキン・ホーキンスほかのペンによる作品。30年代に書かれ、グレン・ミラーら多くのスウィング・ジャズ・バンド、ヴォーカルではアンドリュー・シスターズほかによって取上げられた。

75年のデビュー・アルバム「MANHATTAN TRANSFER」に収録された、初期のマントラを象徴するノスタルジックなナンバーだが、本盤では78年のライヴ盤「MANHATTAN TRANSFER LIVE」でのテイクを収録。

ローレル・アン・マッセーが在籍していた78年までの第一期マントラでは、こういう古いナンバーをコーラス用にアレンジし、オーソドックスなジャズ・サウンドにのせて歌うスタイルがメインであった。

その時期のナンバーとしては、本盤ではほかに「CANDY」「FOUR BROTHERS」「GLORIA」「OPERATOR」「JAVA JIVE」が該当する。

「CANDY」はデビュー・アルバムに収録。ナット・キング・コール、フォー・フレッシュメンなどの歌で知られるバラード・ナンバー。

タイトル通り、甘~いメロディ・ラインがいかにもいかにもなラヴ・ソングだ。

「FOUR BROTHERS」はアップテンポのスウィング・ジャズ・ナンバー。セカンド・アルバム「PASTICHE」収録。

ウディ・ハーマン楽団の十八番としてあまりに有名なこのナンバーを、マントラは「ヴォーカリーズ」という、アドリブ・ソロにもすべて歌詞をつけて歌う手法で、70年代に蘇らせたのであった。

「GLORIA」はドゥー・ワップ・グループ、キャディラックスの60年代のヒット。デビュー・アルバムに収録。

マントラの見事なヴォーカル・テクニック、ハーモニーが、この忘れられかけていたナンバーにスポット・ライトを当てた。

そう、彼らはジャンルを問わず、往年の名曲のリニューアルの達人であったのだ。

ここでの聴きものはやはり、アラン・ポールの思い入れたっぷりのリード・ヴォーカルだろうね。

「OPERATOR」はゴスペルな一曲。これまたデビュー・アルバムで聴ける。ジャニス・シーゲルの力強いリード・ヴォーカルに圧倒される。

「JAVA JIVE」は50年代に活躍したコーラス・グループ、インク・スポッツの代表曲。マントラはデビュー・アルバム、そしてメジャー・デビュー以前の音源集「JUKIN'」でもこれを取上げている。

のんびり、ほんわかとした雰囲気の、なごみ系チューン。バックの素朴なアコギの音も、いい感じだ。

ところが、ローレルが脱退、シェリル・ベンティーンに代わった第二期、マントラの音は大きく変わる。

それまでのノスタルジックで、ジャズィな音作りを脱皮して、コンテンポラリーなポップ・ミュージックへとシフトしていくようになる。

その「進化」を象徴するのが、プロデューサーにジェイ・グレイドンを起用して制作された79年のアルバム「EXTENSIONS」だ。

グレイドン、デイヴィッド・フォスターらのアレンジによる先端のサウンドにより、マントラは再スタートを切ったのだった。

本盤では「BOY FROM NEW YORK CITY」「TWILGHT ZONE-TWILGHT TONE」「BODY AND SOUL」「BIRDLAND」「TRICKLE TRICKLE」「A NIGHTINGALE SANG IN BERKLEY SQUARE」がそれに該当する。

「BOY FROM NEW YORK CITY」は60年代に活躍したコーラス・グループ、アド・リブスのヒット曲。81年のアルバム「MECCA FOR MODERNS」収録。

そのアレンジはあくまでもエレクトリック楽器中心。カヴァー選曲のセンスはそのままに、サウンドが大きく変化した一例だ。

「TWILGHT ZONE-TWILGHT TONE」は、かの人気TV番組「トワイライト・ゾーン」をモチーフに作った、ミステリアスなナンバー。彼らにしては珍しいオリジナル。アルバム「EXTENSIONS」収録。

ここで聴かれるジェイ・グレイドンの多重録音ギターがなんともカッコいい。スピード、スリルを満載。まさしく名演ですな。

「BODY AND SOUL」は数あるジャズ・スタンダードの中でも、名曲中の名曲。歌ではルイ・アームストロング、ビリー・ホリデイ、演奏ではベニー・グッドマン、コールマン・ホーキンス等々、名演は枚挙にいとまがない。

このナンバーをマントラは、繊細にして華麗、見事なヴォーカリーズを施して聴かせてくれる。新たな魅力がこの曲に加わったといえるだろう。アルバム「EXTENSIONS」に収録。

同じく「EXTENSIONS」に収められた「BIRDLAND」はジョー・ザヴィヌルの作品。もちろん、ウェザー・リポートがオリジナル。

シンセサイザーを多用した大胆なアレンジが光る一曲。もち、切れのいいコーラスも、さすがマントラ。

「TRICKLE TRICKLE」はヴィデオスなるドゥー・ワップ・グループ(詳細不明)のヒット曲のカヴァー。アルバム「EXTENSIONS」に収録。

ここでもアランをフィーチャー、軽快なドゥー・ワップ・コーラスをキメてくれます。身も心もウキウキするような一曲。

「A NIGHTINGALE SANG IN BERKLEY SQUARE」はアルバム「MECCA FOR MODERNS」からのバラード・ナンバー。

ここではオーソドックスなア・カペラ・コーラスを聴かせるマントラ。演奏ではベニー・グッドマン、歌ではナット・キング・コール、メル・トーメ、アニタ・オデイが有名だが、彼らにまさるともおとらぬ、素晴らしい出来ばえだ。

ふたりの女性シンガーを中心に、完璧なハーモニーを聴かせてくれる。個人的には、本盤のベスト・トラックだと思っている。

マントラはその後も着実に活動を続け、20枚近くのオリジナル・アルバムを発表、健在ぶりを見せている。来日も10回近い。

マントラの約30年のキャリアから考えれば、この一枚はほんの一部をカヴァーしているに過ぎないが、それでもその高い音楽性を知るには十分だろう。

ヴォーカル、そしてコーラスの可能性を限界まで追求したワン・アンド・オンリーな存在。歌よし、選曲のセンスよし。

やはり、マントラはスゴいグループだと思うよ、いまだに。


音盤日誌「一日一枚」#148 V.A.「BLUES BROTHERS 2000」(UNIVERSAL UD-53116)

2022-04-11 04:51:00 | Weblog

2003年4月13日(日)



V.A.「BLUES BROTHERS 2000」(UNIVERSAL UD-53116)

今週も、ブルースの「現在(いま)」を伝える一枚。

98年公開の米映画「ブルース・ブラザーズ2000」は、もちろん81年作品「ブルース・ブラザーズ」の続編。本盤はそのサントラだ。

前作公開後、ジェイク役のジョン・ベルーシが急逝。続編の制作は難しいだろうと思われていたが、17年の歳月を経てついに復活。

今回はジョン・グッドマン、ジョー・モートン、J・エバン・ボニファント(子役)を新たなメンバーとして迎え、パワーアップした歌と踊りを見せてくれるのだが、本盤は映画とは関係なく聴いてもなかなか楽しめる。

まずはポール・バターフィールド・ブルース・バンド「BORN IN CHICAGO」からスタート。

ニック・グレイヴナイツ作のブルース・ナンバーだが、65年録音という「時代」をまったく感じさせないシャープなリズムがカッコよろし。バターフィールドのハープも、絶好調。

続くはマット・マーフィー「THE BLUES DON'T BOTHER ME」。「クロスロード」を下敷きにしたような濃ゆーいブルース・ナンバー。マーフィーのシブい歌、ファンキーなギター・プレイがたっぷり楽しめる。

「HARMONICA MUSINGS」は白人シンガー/ハーピスト、ジョン・ポッパーによるハモニカ・インスト。32秒と短めながら、ブルースのエッセンスがつまった演奏だ。

ポッパーは67年生まれ、「ブルース・トラベラーズ」なるバンドで90年デビュー。これからが期待される中堅白人ブルースマンだ。なにせ、この世界では40前なんて、ひよっこみたいなもんだからね。

「CHEAPER TO KEEP HER」はエルウッド役のダン・エイクロイドに、ベテラン・ブルースマンのロニ-・ブルックスジュニア・ウェルズが加わったナンバー。バックはもちろん、ブルース・ブラザーズ・バンド

ユーモアにあふれたヴォーカルもさることながら、ここでの聴きものはやはり、ウェルズ、エイクロイドふたりの吹くハープだろう。

続く「PERRY MASON THEME」はもちろん、TVドラマ「ペリー・メイスン」シリーズの主題曲。演奏するは、ブルース・ブラザーズ・バンド

おなじみの重厚なメロディが、彼らの達者なプレイによってよみがえる。

「LOOKING FOR A FOX」ジョン・グッドマンダン・エイクロイドの歌をフィーチャーしたナンバー。

グッドマンの声は、日本のべテラン声優、「タイムボカン」シリーズでおなじみの八奈見乗児サンによく似ていて、独特のとぼけた味わいがあって○。

「CAN'T TURN YOU LOOSE(おまえを離さない)」は、以前の「ブルース・ブラザーズ」でも十八番のナンバーの再録音。オーティス・レディングの作品。

ここではジョン・ポッパーブルース・ブラザーズ・バンドを従えて、超絶技巧のハープを聴かせてくれる。必聴。

「R-E-S-P-E-C-T」も、いうまでもなくオーティス・レディングの畢生の名曲。これをソウルの女王、アレサ・フランクリンブルース・ブラザーズ・バンドを率いて歌ってくれるんですから、何の文句もありませんです、ハイ。

3分ジャストの短い時間にこめられた無限大のソウル、これを聴いて心をゆさぶられることのないヤツは逝ってよし、です。

「634-5789」はスタックス・ソウルの立役者、エディ・フロイド、スティーヴ・クロッパーの代表的作品。これを御大フロイド自身、そしてウィルスン・ピケットが熱唱。それぞれのシンガーの微妙な個性の違いが出て、興味深い一曲。

そして注目は、若手白人シンガーのジョニー・ラング(当時なんと17才!)がギター・ソロを披露。これがメリハリのあるプレイで、結構カッコいい。

「MAYBE I'M WRONG」はジョン・ポッパー率いる白人バンド、ブルース・トラベラーズのナンバー。ポッパーの作品。

ポッパーのヴォーカルはやや線が細いが、なかなか「味」はある。そしてハープでも、見事なテクを披露してくれる。

「RIDERS IN THE SKY (A COWBOY LEGEND)」は、ブルーグラスの名曲中の名曲。ダン・エイクロイドジョン・グッドマンが、低音が魅力のヴォーカルを聴かせてくれる。

映画の中では、「ご愛嬌」として演奏される一曲だが、なかなか堂に入ったプレイだ。さすがブルース・ブラザーズ・バンド、引き出しが多い!

「JOHN THE REVELATOR」は、サン・ハウスの歌で知られるニグロ・スピリチュアル風の一曲。ジョンとはもちろん、聖者ヨハネのこと。

これを歌うは、タジ・マハールサム・ムーア(サム&デイヴの片割れ)、ジョー・モートンシャロン・ライリーザ・フェイス・コーラル。なんとも豪華な顔ぶれだ。

バック・コーラスには、おなじみクリオファス牧師役のジェイムズ・ブラウンまで加わり、もうゴージャスの一言。

聴いているだけで、映画の教会でのシーンがまぶたに浮かんでくるはず。

「LET THERE BE DRUMS」は、ザ・カール・ラフォング・トリオによるインスト。日本でも昔人気が高かったドラマー、サンディー・ネルスンの作品。(「ドラム!ドラム!ドラム!」のシリーズ、皆さん、覚えてます?)

シャドウズ風といいますか、ティンパン風といいますか、トレモロ・アームをきかせたギター・プレイがなかなかイケてます。

「SEASON OF THE WITCH(魔女の季節)」はご存じ、ドノヴァンの代表曲。

これを歌うは、ドクター・ジョン。あのダミ声が、ミョ-にはまって、おどろおどろしさ百倍であります。

「FUNKY NASSAU」ジョン・モートンダン・エイクロイドジョン・グッドマンポール・シャッファーエリカ・バドゥによるラテン・ビートのナンバー。

名手ラルフ・マクドナルドがコンガ等のパーカッションで参加、サウンドをビシッとひきしめております。

「HOW BLUE CAN YOU GET」は、ブルース・ブラザースのライバル・バンド、ルイジアナ・アリゲイター・ボーイズによる演奏。この顔ぶれが、ハンパでないスゴさ。

B・B・キングを筆頭に、ジェフ・バクスター、ゲイリー・U・S・ボンズ、エリック・クラプトン、クラレンス・クレモンス、ジャック・ディジョネット、ボ・ディドリー、アイザック・ヘイズ、ドクター・ジョン、ルー・ロウルズ、ココ・テイラーにジミー・ヴォ-ン…。まだまだ続きますが、このへんで割愛。とにかく、ブルース、ジャズ、ロック界の一大サミットなんであります。

「HOW BLUE~」はもちろん、BBの歌とギターをメインに、ECがギターで絡むというスペシャルおいしい構成。

ま、作品の出来うんぬんはともかくとして、一種の「お祭り」として、一見・一聴の価値はあり、といったところかな。

「TURN ON YOUR LOVE LIGHT」はジョー・スコット&ディアドリック・マローンの作品ということになっているが、実は100%ボビー・ブランドのオリジナル。

これをジョー・モートンダン・エイクロイドジョン・グッドマンJ・エバン・ボニファントの四人が勢揃いで歌いまくり、(映画では)踊りまくる。本映画の、まさにハイライト的一曲。

声変わり前のボニファント少年が、往年のマイケル・ジャクスンばりの大活躍。とにかく、ノリノリの演奏が楽しめます。

ラストの「NEW ORLEANS」は、宿命のライバル(?)、ルイジアナ・アリゲイター・ボーイズブルース・ブラザーズが、ブルース&ジャズの聖地、ニュー・オーリンズで一堂に会しての大合奏。

ゲイリー・U・S・ボンズのヒット、いかにもN.O.らしい陽気なR&Bナンバーを、総勢30名以上のスーパー・ミュージシャンたちが歌い、プレイするさまは「壮観」のひとことですな。

本盤におさめられた18曲は、スタイルもさまざま、現代的なアレンジを施されているものもあるが、いずれもブルースのスピリットを強く感じさせる曲ばかりだ。

10代のボニファントから70代のBBまで、世代・人種を超えた最強の「絆」、それはブルース。

ビギナーから、コアなマニアまで楽しませてくれる一枚、おススメです。


音盤日誌「一日一枚」#147 大木トオル「SWEET HOME TOWN」(avex io IOCD-2001)

2022-04-10 05:16:00 | Weblog

2003年4月6日(日)



大木トオル「SWEET HOME TOWN」(avex io IOCD-2001)

本場アメリカでも活躍するブルース・シンガー、大木トオルの最新作。2002年リリース。

60年代後半より音楽活動を開始、76年に渡米。「Everynight Woman」のヒットで日本でもメジャーな存在になったのが79年。

35年ものキャリアを誇る、元祖イエロー・ブルースマンだ。

そんな彼のニュー・アルバムはまず、「Mississippi Boogie」からスタート。

MG'S調のビートにのせて、マディ風のオリジナル歌詞を歌う。

彼の声質は、ご存じのかたはご存じと思うが、しゃがれてくぐもったような感じの低音で非常にクセが強い。好き嫌いがはっきり分かれるタイプの声だ。

筆者も昔はこの声、「ちょっとブルースの"型"にはまり過ぎているんじゃないの?」と思っていて、あまり好きになれなかった。

だが、ひさしぶりに聴いてみて、おのれの音楽を聴く耳(感性)が変わったためだろうな、「そう悪くもないじゃん」という印象を抱いた。

これが、長年音楽を聴くことの面白さともいえそうだね。子供のころ、「おつ」な食べ物を受け付けなかったのに、年齢を重ねると不思議と美味しく感じられるようになるのと、似ている。

続くは「Land Of 1,000 Dances」。そう、60年代に一世を風靡したR&Bヒット、「ダンス天国」である。

正直言うと、ホーンの代わりに使用されたシンセサイザーの音にいささか違和感を感じる。こういうコテコテの"ソウル"な曲はぜひとも生ホーンでやって欲しいもんだ。

が、それ以外は全編、なかなかタイトでノリがよく、ご機嫌なサウンドです。

お次は、アルバムタイトル曲「Sweet Home Town」。これは彼のオリジナル。

これは当初、大木の生まれ故郷である日本橋人形町をイメージして作られたそうだ。

だが、2001年にNYCで同時多発テロ事件が起きた後、被害者救済のチャリティ・コンサートに彼も出演し、この歌を唄ったところ、観客であるNY市民にも大いに共感を呼んだという。

以来、もうひとつの意味がこの曲に加わったという。「Sweet Home Town」とは、東京でもあり、NYCでもあり、そしてまたどこか別の、あなたの生まれた街でもあるのだ。

女声コーラスを配して、ジャズィなムードで切々と歌う大木。丁寧な歌唱がいい。また新たな境地を切り開いた一曲といえそうだ。

「Midnight Soul」はオリジナルだが、JB、ウィルスン・ピケットあたりが歌っていてもおかしくなさそうな正調R&B。

こういう曲だと、実に生き生きと楽しそうに歌っておるね。

「You Really Got A Hold On Me」、これは再びカヴァーものだが、作者のスモーキー・ロビンスン率いるミラクルズとも、また有名なビートルズ・ヴァージョンともまた違った「悲痛な叫び」が印象的。

50代になった大木が歌う「You Really~」は、人生の表も裏も全部見てきた者でないと出せない、ミョーに深い味わいがある。

「Everynight Woman 2002」はもちろん、79年のヒットの再録音。

こうやってひさびさに聴いてみると、そのメロディ・ラインといい、歌いぶりといい、ほとんど「演歌」だな~と思うが(笑)、でもそれもまたよし、である。

ブルースとか演歌とか、そういうジャンル分け自体にほとんど意味はないし、いい音楽でありさえすればいいのよ、実際のところ。

大木トオルも、長年ブラック・ミュージックにどっぷりハマって、英語の歌ばかり歌ってきているものの、根っこはやはり、東洋人、ジャパニーズである。そのへんを自覚して、日本人なりのブルースを歌っていけばいい。

黒人クリソツに歌うことが「ブルースを極めた」ということではないっちゅうことや。

次はなんとオーティス・ラッシュの「Homework」。いかにも大木好みの、賑やかなホーン&コーラス・アレンジを施した一曲。

ラッシュのシブさとはまた違った、メリハリに富んだ、お祭り騒ぎのようなこのヴァージョン、けっこう好きです。

「Talk To My Baby」(Talk To Me Babyとも)は、エルモア・ジェイムズのカヴァー。ホワイト・ブルース系バンドにカヴァーの多い一曲だ。

いかにもエルモア風のハードなスライド・ギターに負けじと、大木もテンションの高いヴォーカルを聴かせる。

「East Side Woman Called The Blues」はオリジナル。ブルースを夜の女に喩えたメタファーといい、マイナーの曲調といい、「Everynight Woman」の流れの上にある曲といってよい。これもまた再録音とのこと。

裏に反戦メッセージをこめた、戦士たちに捧ぐブルース。彼のもの悲しい声質がなんともマッチしている。

やはり彼の本領は、マイナー系でこそ発揮される、そういう気がするね。

「Hip Shake Mama」は一転、ひたすら陽気なシャッフル。大木のオリジナルで、これも再録音。

サックスそしてギターのソロが、ノリノリ、ギンギンで、ほんとにごキゲンであります。

「Stormy Monday Blues」はいうまでもなく、ブルース・スタンダード中のスタンダード。

この名曲を大木は掌のブランデー・グラスでも温めるかのように、じっくりと歌いこむ。熟成された味わいだ。

バックのタメのきいたギター・プレイ、ホーンの分厚い音の壁、これまたヨロシイ。

まさにブルースの王道を行く完璧な仕上がりぶり。

しかし、これで大団円にせず、もう一曲。

DJ KAORIの手による「Land Of 1,000 Dances Remix」がそれである。。

バッキング・トラックをあえて外し、再構築した「意欲作」。ま、ふつーのブルース・ファンから見れば噴飯ものの「お遊び」だろうが、あえてあのお年で、こういう異分野にも挑戦した意欲(というか、洒落っ気か?)は評価したいと思う。

ブルースとはあくまでも「現在進行形」の音楽。つねに変化をとげ、進化していくものだという考え方がそこには感じられる。

「博物館」におさめられた「過去の遺品」ではなく、生きた音楽としてのブルースを生み出していこうという姿勢、後輩のわれわれも大いに見習って、「いま現在」を映し出したブルースを歌っていこうではないか。


音盤日誌「一日一枚」#146 テイスト「LIVE AT THE ISLE OF WIGHT」(Polydor 841 601-2)

2022-04-09 05:27:00 | Weblog

2003年4月1日(火)



テイスト「LIVE AT THE ISLE OF WIGHT」(Polydor 841 601-2)

本コーナー、新装開店の第一回はこれ。ロリー・ギャラガー率いるテイストの、ワイト島フェスティヴァルでのライヴ盤。70年録音、71年リリース。

ステージは彼らのセカンド・アルバム「ON THE BOARDS」からのオリジナルナンバー「WHAT'S GOING ON」からスタート。

ここでいきなり、ロリーの激しいギターに脳天をガツンとやられる。リズムのふたりも、一曲目からゴリゴリのハードな音を聴かせる。もう、たまらんっす。

続くはデビュー・アルバム「TASTE」からスロー・ブルース「SUGAR MAMA」を。

ロリーのオリジナルとなってはいるが、正しくはトラディショナル・ブルースの改作というべきだろう。

サニーボーイ、ウルフ、フリートウッド・マック等の演奏でおなじみだが、彼らの演奏はその誰よりも飛び抜けてハードでヘヴィーだ。

10分近くにわたって、これでもかのネチこいギター・ソロが堪能できます。ピッキング・ハーモニクスも全開。

お次の「MORNING SUN」はセカンド・アルバム収録のナンバー。ロリーのオリジナル。

アップ・テンポで始まり、途中リズムが抜け、また復活するという一風変わった構成のロック。自在に飛びまわるようなギターが印象的。

そして、アルバム未収録のオリジナル新曲「SINNER BOY」をぶちかます。

ここでは、ロリーの奔放なスライド・ギターが心ゆくまで味わえる。エキセントリックな音色がサイコ-。

続く「I FEEL SO GOOD」はロリーの特にお気に入りの曲のようだ。ビッグ・ビル・ブルーンジーのカヴァー。

前作「LIVE TASTE」に続いて、ここでも9分を超える大熱演だ。

ロリーの痙攣せんばかりのラウドなプレイが聴きものなのはいうまでもないが、リチャードのワイルドなベース、ジョンのパワフルなドラムもなかなかのもの。

ラストのアンコールナンバー「CATFISH」は、これまたトラッド・ブルース。

スローで重たいビートに乗せて、粘っこいフレーズが執拗に繰り返される。

そして中盤からはテンポもアップ、ギター&ベース、超絶技巧を駆使したインタープレイが展開される。これも聴きもの。

もちろんロリーの、特徴ある上ずったヴォーカルも、最高潮。

とにかく、全編、ロリーのギター・プレイはまことに激しく、熱く、狂おしい。

まあ、「激しいギター・プレイ」といっても、ジミヘンとか、クリームのECとか、DPのリッチー・ブラックモアとか、クイーンのブライアン・メイとか、いろんなタイプがあるだろうが、ロリーの場合はギター・プレイそのままに、弾き手である彼自身もこの上なくパッショネイトな人間だということがよくわかるね。

四十代の若さで燃え尽きて、早世してしまったのも、無理もないかなと思ってしまうほど。

彼の死からこのかた、このくらい情熱的なギタリストに、一人として出遭っていない。

血沸き肉躍るライヴとはまさにこの一枚。ギターを弾く者なら、必聴でっせ!


音盤日誌「一日一枚」#145 ケニー・バレル「ON VIEW AT THE FIVE SPOT CAFE」(BLUE NOTE B2-46538)

2022-04-08 04:59:00 | Weblog

2003年3月23日(日)



ケニー・バレル「ON VIEW AT THE FIVE SPOT CAFE」(BLUE NOTE B2-46538)

(1)BIRK'S WORKS (2)OH, LADY BE GOOD (3)LOVER MAN (4)SWINGIN' (5)HALLELUJAH (6)BEEF ATEW BLUES (7)IF YOU COULD SEE ME NOW (8)36-23-36

<制作データ>

デトロイト出身のジャズ・ギタリスト、ケニー・バレル、59年リリースのライヴ盤。

ベニ-・ゴルソンのペンによるカーティス・フラーの代表曲「FIVE SPOT AFTER DARK」のモチーフともなった、ニューヨークのライヴハウス、「ファイヴ・スポット・カフェ」にての録音。

パーソネルはバレル(g)をリーダーに、ベン・タッカ-(b)、アート・ブレイキー(ds)。(1)~(4)ではティナ・ブルックス(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、(5)~(8)ではローランド・ハナ(p)が加わっている。いずれも腕ききのプレイヤーばかりだ。

<ジャケット>

バレルの顔写真の一部を切り取ったデザイン。これはブルーノートの重要なスタッフのひとり、レイド・マイルズによるもの。撮影は同じく、フランシス・ウルフ。

モノクロで撮影、茶系の地色をしいたヴィジュアルが、独特のメロウなムードをかもし出している。

ちなみにプロデュースはアルフレッド・ライオン、録音エンジニアはRVGことルディ・ヴァン・ゲルダー。彼らもブルーノートを一流レーベルたらしめたスタッフ達だ。

言ってみれば、当時の最高の才能が集結して、このアルバムを制作したのだ。出来の悪いはずがない。

<聴きどころ>

オープニングは、ビ・バップの巨匠、ディズィ・ガレスピー作のマイナー・ブルース、(1)から。

バレル、ブルックスがテーマを弾き、以後バレル、ブルックス、ティモンズとソロが渡されていく。

ここでのバレルのギターは実によく歌い、スウィングする。もちろん他のふたりのソロもいい。饒舌に吹きまくるブルックス、ブロック・コードを多用してファンキーなソロを聴かせるティモンズ。

ブルーなムードに満ちた(1)から一転、威勢のいいアップテンポのテーマから始まるのは、ご存じガーシュウィン兄弟の作品、(2)。多くのジャズメンがカヴァーしているが、とりわけカウント・ベイシー楽団によるそれが有名ですな。

ここでひときわ活躍が目立つのは、ブレイキーのドラムだろう。ものスゴいスピードのリズムを、まったく乱れることなく叩き出している。さすが、ジャズ界最強のパワー・ドラマーだ。

ソロは、(1)同様の順序で引き継がれ、最後にもう一度バレルが弾く。三人ともに、気合い十二分のプレイだ。

(3)は、落ち着いたムードのバラード。デイヴィス=ラミレス=シャーマン作、ビリー・ホリデイの名唱であまりにも有名なスタンダードだ。

まずはバレルがソロ、続いてティモンズ。再びバレル。控え目ながらオクターヴ奏法も織り交ぜた、ブルース感覚あふれるギター・プレイを味わえる。

(4)は天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの作品。ミディアムファスト・テンポの快調な演奏だ。

スタンダード・ナンバーのコード進行を借り、ハードバップにアレンジしたこのナンバーを、ブルックス、バレル、ティモンズの順でソロ演奏していく。

(5)からは、ホーン抜きの編成による演奏。前半とはひと味違った、落ち着いた雰囲気がある。

(5)は、テーマがどことなく「チェロキー」風で、ビ・バップ的なイディオムを持った、アップテンポのナンバー。

グレイ=ロビン=ユーマンスの作品。ユーマンスといえばヒット曲「二人でお茶を」であまりにも有名だが、キャッチーな「小唄」を書く一方で、こういうタイプの曲もものしていたとは、ちょっとした発見だ。

ジャズメンによるカヴァーとしてはバド・パウエルのそれがよく知られている。

ステージはテーマに続き、バレル→ハナ→ブレイキーの順でソロが展開される。ハナがかなりパウエルを意識したかのようなソロを弾いているのが面白い。

(6)はジャズ・ピアニストにして作曲家、ランディ・ウェストンの作品。ミディアム・テンポのワルツ・ビートにのせて、のびのびとしたムードの演奏が展開される。

テーマの後は、ハナ、バレル、タッカ-、そして再びバレルと軽快なソロが続く。ノリノリのスウィンギーな演奏が心地よい。

個人的には本盤のベスト・トラックだと思っているのは、(7)である。

ビ・バップの名ピアニストにして作・編曲家でもあるタッド・ダメロンのナンバー。メロディがひたすら美しい、ラヴ・バラードである。

この曲に関しては、バレルの先輩格にあたるウェス・モンゴメリーの、ハーフ・ノートでの名演(65年)が有名だが、本盤での演奏はそれに勝るとも劣らぬ、素晴らしい出来である。

オクターヴ奏法のウェスとは対照的に、バレルはもっぱらシングル・トーンで、切々と訴えかけるようなプレイを聴かせる。

ウェスのような華麗さはないが、ハートにじんわりとしみて来るプレイだ。こういうのを、本当に「うまい」演奏というのだろうな。ギタリストならば、必聴だろう。

ラストは、バレル自身のオリジナル・ブルース、(8)。「36-23-36」とは、もちろん、女性のスリーサイズのこと。

B91cm、W58cm、H91cmの超ナイスバディな女性が闊歩するさまを表現した、ミディアムテンポのナンバー。

バレルのブルーズィなフレージングと、それを見事にフォローするハナのプレイが、実にイカしている。

まるでアフター・アワーズ・セッションのようなリラックスした雰囲気。「ファイヴ・スポット」店内の、当時の様子までほうふつとさせる一枚だ。

<アーティストのその後>

その後もバレルは、地道に活動を続けていく。

ジャズ・ギタリストとしての枠組みにおさまりきらず、イージー・リスニング、フュージョンの世界にまで行ってしまったウェス・モンゴメリーとは対照的に、あくまでもジャズ・ギターのスタイルを貫いて、現在に至っている。

発表したアルバムも、70枚を超えるほどの精力的な活動ぶり。まさに名実ともに「トップ・ジャズ・ギタリスト」とよぶにふさわしい人だ。

多くのジャズ・ギタリスト同様、チャーリー・クリスチャンの強い影響を受けながらも、独特のクールなトーン、ブルース感覚を失わぬプレイで、われわれを魅了し続けている。

決して派手な人気はなくとも、彼こそが「ミスター・ジャズ・ギター」。そう思うね。

<独断評価>★★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#144 ディープ・パープル「DEEP PURPLE IN ROCK」(Warner Bros. 1877-2)

2022-04-07 04:59:00 | Weblog

2003年3月16日(日)



ディープ・パープル「DEEP PURPLE IN ROCK」(Warner Bros. 1877-2)

(1)SPEED KING (2)BLOODSUCKER (3)CHILD IN TIME (4)FLIGHT OF THE RAT (5)INTO THE FIRE (6)LIVING WRECK (7)HARD LOVIN' MAN

<制作データ>

英国のハード・ロック・バンド、ディープ・パープル、70年のアルバム。彼ら自身のプロデュース。

68年にアルバム「SHADES OF DEEP PURPLE」でデビューした彼ら、当初はハード・ロックというよりプログレッシヴ・ロックに近い、キーボード主体の音作りをしていたのだが、翌年にメンバー・チェンジを行う。

オリジナル・メンバーのロッド・エヴァンス(vo)、ニック・シンパー(b)に代わって、イアン・ギラン(vo)、ロジャー・グローヴァ-が参加、希代のシャウター、ギランの激しいヴォーカルをフィーチャーした本格派ハード・ロック・バンドへと変貌する。

このメンバー及び路線変更は、ギタリスト、リッチ-・ブラックモアの提言によるところが大きいという。

そして翌70年、満を持してリリースしたのが、この「イン・ロック」なるアルバムなんである。

折りしもレッド・ツェッペリンを始めとするハード・ロック・バンドの勃興期、彼らの狙いは見事命中、当アルバムも大ヒット。全英では4位を記録している。

ことにわが国では、シングル「ブラック・ナイト」(当アルバムには未収録)のヒットとともに、それまで無名に近かった「ディープ・パープル」の名を、一躍日本中に知らしめたのである。

<ジャケット>

ジャケット・デザインはもちろん、「マウント・ラッシュモア」とよばれる、G・ワシントンら4人のアメリカ大統領をかたどった実在のモニュメントをパロったもの。

タイトルの「イン・ロック」がこの「岩石」と音楽の方の「ロック」にひっかけてあるのは、いうまでもない。

実にベタでわかりやすいね(笑)。

この「わかりやすさ」はそのまま、彼らのサウンドについても言えるように思う。全編、シンプルでキャッチ-な音が満載なんである。

<聴きどころ>

オープニングの(1)からいきなり、熱いシャウト、ハードなギター・リフが炸裂。パワー全開のハード・ロックだ。

過去数枚のパープルからは想像もつかない、激しい汗みどろの世界が展開する。

後の彼らの代表曲「ハイウェイ・スター」同様、彼らのヴァイオレントな側面を凝縮したような一曲だ。

(2)もまた、ゴリゴリのハード・ロック。タイトル通り、ホラー映画のようなおどろおどろしいムードを持つナンバー。

ブラックモアのストラトキャスターが、エッジの立った音を奏でる。これがなんともカッコいい。

(3)は、アナログ盤ではA面の後半、10分以上を占める大作。

ギランの超高音シャウト、ジョン・ロードのオルガンをフィーチャーした、スローなバラード。

一般にパープルの音楽は、そのシンプルなサウンドが災いして、「単純バカ」なものと思われがちだが、その歌詞を読むと、意外と前衛的、あるいは幻想的な世界をうたいこんでいたりする。

(日本では、コトバの問題から、そのへんの受容がすっぽり抜け落ちて、単なる「暴走族御用達音楽」になってしまっているのだが)。

(3)などはまさに、彼らのそういう詩的な一面をうかがい知ることの出来る一曲だと言えよう。

(4)はふたたび、アップテンポのハード・ロック。

歌詞のほうはこれまたなんだかシュールな感じだが、サウンドはひたすらタイトでパワフル。

ブラックモアのノイズィーなコード・カッティング、多重録音によるツイン・リードが、ホント、イカしてます。数多くのギタリスト達が彼のコピーにいそしんだのも、うなずける。

(5)はタイトルからして、いかにもパッショネイトな、ミディアム・テンポのナンバー。

どこかキング・クリムゾンの「21ST CENTURY SCHIZOID MAN」を思わせるギター・リフが印象的。

そしてなんといっても聴きどころは、ギランの沸騰せんばかりの熱いシャウトだろう。

当時すでに人気絶頂だったZEPのロバート・プラントが、たとえていえば「切り込んでいく」鋭利な刃物タイプのヴォーカルであるのに対し、ギランは「ねじ込んでいく」強力なスクリュードライヴァーのようなヴォーカルであるといえよう。

超高音、でもどこかドスがきいているのである。

(6)もミディアム・テンポのロック。マイナーでメロディアスな曲調。「バーン」など、のちに彼らのお得意の分野となったパターンが、すでにここで生まれている。

ある意味、「演歌」に通じるものさえある。こういう、ヘンにひねらないストレートさが、日本でも大人気を獲得した理由のような気がするね。

ここでも、ギランの常軌を逸した超高音シャウトは絶好調であります。

(7)も、いかにも「パープル調」な一曲。16ビートのアップ・テンポ・ナンバー。

当然、こういう曲ではブラックモアのギターが暴れまくる。

彼とロードとのからみ、トレモロ・アームやスライド・バーを使ったフリーキーなプレイ等々、ギター少年にとっては必聴の一曲といえよう。

とにかく全編「捨て曲」なし、聴かせどころ満載なんであります。

<グループのその後>

この一枚がきっかけで、日本でのファンが急増。翌年にはアルバム「FIREBALL」、シングル「ストレンジ・ウーマン」のヒットでさらに人気を獲得、72年には初来日、日本武道館でライヴを行うなど、彼らの快進撃が続く。

さらには武道館のライヴ・アルバム「MADE IN JAPAN」により、アメリカでの本格的人気も獲得、名実ともにZEPと並ぶトップ・グループへとのし上がったのだから、この「イン・ロック」における「路線変更」は実に重要であったということだ。

もし、その選択をとらなければ、パープルはまったく別もののバンドになっていたに違いない。

ウラ話をもうひとつすると、この「イン・ロック」の前に、ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラとの共演盤「CONCERTO FOR GROUP AND ORCHESTRA」がリリースされている(「CHILD IN TIME」はそこで初録音されている)のだが、これはブラックモアとバンドの主導権を争っていたロードが実質プロデュースした企画。

つまり、ロードとブラックモアとの協議により、クラシック色の強いアルバムと、ハード・ロックのアルバムを交互に出していこうという計画があったようなのだ。

しかし、実際には前者はセールスが芳しくなく、後者がバカ売れしたことで、結局ハード・ロック・オンリーの道を選択することになったようだ。

まさに運命的な一枚。以後のパープル・サウンドの原点、いやすべてのHR/HMバンドの原点とさえ言っていいかも知れない。

そのジャケット・デザインのように、ロック史上の「モニュメント」的一枚といえます。ぜひ一聴を!

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#143 ローリング・ストーンズ「LET IT BLEED」(ABKCO 80042)

2022-04-06 04:57:00 | Weblog

2003年3月9日(日)



ローリング・ストーンズ「LET IT BLEED」(ABKCO 80042)

(1)GIMMIE SHELTER (2)LOVE IN VAIN (3)COUNTRY HONK (4)LIVE WITH ME (5)LET IT BLEED (6)MIDNIGHT RAMBLER (7)YOU GOT THE SILVER (8)MONKEY MAN (9)YOU CAN'T ALWAYS GET WHAT YOU WANT

<制作データ>

ストーンズ、69年リリースのアルバム。プロデュースはジミー・ミラー。

皆さんご存じとは思うが、同年6月にオリジナル・メンバーのブライアン・ジョーンズがグループより脱退(追放というべきか)、7月には自宅のプールで変死をとげている。その後の11月にこのアルバムが発表されている。

そのため、一部の曲ではブライアンが参加しているが、大半はブライアンの死後にレコーディングされている。

ブライアンの代役として急遽参加したのが、ブルース・ブレイカーズにいたミック・テイラー。このアルバムの制作時点ではサポート・メンバー扱いだったが、のちに正式メンバーとして迎えられた。

よって、本盤は第一期ストーンズの最後のアルバムであると同時に、第二期ストーンズの最初の作品でもあるといえよう。

<ジャケット>

オモテはストーンズのLPの上に、映画フィルムの缶やらタイヤ、ストーンズの人形付きのデコレーション・ケーキ等が乗っかった奇妙なオブジェ。

ウラでは、無残にLPは割れ、ケーキは切り取られて人形は散乱、フィルムの缶もグシャグシャ。まさに「流血の惨事」状態。

これはもちろん、「LET IT BLEED」というアルバム・タイトルから考えついたヴィジュアルなんだろうが、ブライアンの怪死の直後だけに、ドキッとするものがあるね。

行動のスキャンダラスさ、アナーキーさでは随一であったストーンズらしいといえば、らしい。

タイトル自体も、ライヴァルであるビートルズのアルバム、「LET IT BE」をおちょくったものだろう。なかなか洒落がきいてます。

<聴きどころ>

筆者が思うに、ストーンズが一番クリエイティヴな仕事をしていたのは、本盤の前作「ベガ-ズ・バンケット」あたりから、第二期最後の作品「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」までの時期だという気がする。

彼らが自らのオリジナリティに目覚め、セルフ・プロデュースが出来るようになったのがその時期だと思うし、逆に第三期からはその確立されたフォーマットを何度も焼き直して使っているだけ、そんな印象がある。

ホント、68年から74年までの約6年間は、どのアルバムもハズレなく、よく出来ていると思うよ。

そんな中でも本作品は、ベスト3に入る完成度だと思う。

たとえば、(ジャガー=リチャード作名義になってはいるが)ロバート・ジョンスンが作り出した名曲、(2)。

このまったりとした、カントリー調のブルース一曲を聴くためだけでも、本盤を買う価値はある。ゲスト・プレイヤー、ライ・クーダーの弾くフラット・マンドリンがなんともいい雰囲気だ。

あと、ヒット曲「HONKY TONK WOMAN」のアコギ・ヴァージョンである(3)もいい。

ここではバイロン・バーラインのフィドルをフィーチャー、アメリカ南部風の鄙びたサウンドを聴かせてくれる。ミック・テイラーもスライド・ギターで参加。

(7)もキースのスライド・ギターをフィーチャ-したアコースティック・アレンジの曲。彼らの普段のライヴでは聴くことの出来ない、リラックスしたムードが横溢している。ブライアンもオートハープで参加。

もちろん、カントリー路線の一方で、正調ストーンズ流ロックン・ロールも健在。

緊張感にあふれた演奏が光る(1)、ベースラインがイカした(4)。まさに、後の「ブラウン・シュガー」「ダイスをころがせ」や「ハッピー」あたりへとつながっていく正統派ロックン・ロールだ。(4)にはミック・テイラーも参加、ソリッドなリズム・ギターを聴かせてくれる。

グループの準メンバーともいうべきイアン・スチュアートのピアノが実にごキゲンな(5)、シンプルなリフの繰り返しがカッコいいブギ-、(6)(この曲もブライアンが参加)。これらもまた、文句なしの出来ばえ。

ビル・ワイマンのヴィブラフォンを隠し味にした(8)も聴き逃がせない。スライド・ギターを前面に押し出した、ワン・コード・リフの繰り返しによるファンキーなスタイルが、この曲あたりで見事に確立されている。

そして本盤中一番の「意欲作」といえるのが(9)。ロンドン・バッハ聖歌隊や、マデレーン・ベル、ドリス・トロイ、ナネット・ニューマンら女性歌手との共演だ。

最初はおごそかな賛美歌ふうに始まり、次第にリズムも加わって盛り上がっていく。ゲストのアル・クーパーのピアノ、オルガン、フレンチ・ホルンでのプレイも、きめ細かなサウンドを生み出すのに、一役かっている。

当時の英国は、こういうロックのクラシックとのクロスオーヴァーが盛んだった(ビートルズ、ディープ・パープルなど)ということやね。

ストーンズ自身、かねてより「ルビー・チュ-ズデイ」「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」などでオーケストラを導入しているので、その流れの上にあるともいえる。

ストーンズと聖歌隊、水と油かと思いきや、意外とイケてます。

要するにどれを取っても、粒揃いの曲ばかり。ストーンズの演奏もタイトさに磨きがかかっており、その一方、イアン・スチュアートやニッキー・ホプキンスらの準メンバーたち、レオン・ラッセル、ライ・クーダー、アル・クーパーらゲスト連も巧者ぞろい。初参加のミック・テイラーも、臆することなく、堂々とプレイしている。

「王者の風格」の一枚といえよう。

<グループのその後>

前述したようにミック・テイラーはほどなく正式メンバーとなり、ハイド・パークの野外コンサートでライヴ・デビュー。

その後も、ストーンズが新しいサウンドを次々と生み出していく上で重要なキーパースンとなっていく。

実際、第二期はキース・リチャ-ズのドラッグ中毒が一番ひどかった時期で、スタジオワークの方はともかく、ライヴではほとんどリードを弾けないくらいの状態だったようだ。

そんな中で、リード・ギタリストとして活躍、あるいはアメリカ南部のサウンドをグループに積極的に導入したミック・テイラーの存在は、われわれが思う以上に大きかったのではなかろうか。

とにかくこの一枚は、新生ストーンズの以後の方向性をはっきり示したという意味でも、聴き逃がすことの出来ない作品だ。

現在、来日公演真っ最中のストーンズ。60歳前後の彼らの(実質最後?の)ライヴを聴きにいくのもいいんですが、やはり一番「旬」だった頃の彼らをチェックしとかんとね。

<独断評価>★★★★★


音盤日誌「一日一枚」#142 マディ・ウォーターズ「KING BEE」(BLUE SKY ZK 37064)

2022-04-05 05:06:00 | Weblog

2003年3月2日(日)



マディ・ウォーターズ「KING BEE」(BLUE SKY ZK 37064)

(1)I'M A KING BEE (2)TOO YOUNG TO KNOW (3)MEAN OLD FRISCO BLUES (4)FOREVER LONELY (5)I FEEL LIKE GOING HOME (6)CHAMPAGNE & REEFER (7)SAD SAD DAY (8)(MY EYES) KEEP ME IN TROUBLE (9)DEEP DOWN IN FLORIDA #2 (10)NO ESCAPE FROM THE BLUES

<制作データ>

マディ・ウォーターズ、BLUE SKYレーベルでの三作目。81年リリース。

プロデュースは一・二作目同様、ジョニー・ウィンター。

83年に亡くなるマディの、最後のオリジナル・アルバムである。

録音メンバーは、マディ、ウィンターの他、ボブ・マーゴリン、ルーサー・ジョンスン(ともにg)、カルヴィン・ジョーンズ(b)、ウィリー・スミス(ds)、パイントップ・パーキンス(p)、ジェリー・ポートノイ(hca)と、前二作とほぼ共通の顔ぶれ。

<ジャケット>

ジャケ写自体は何の変哲もないマディのポートレートだが、ライナーの写真が面白い。

マディ一家、かなり年下の奥さん(もちろん再婚だ)、前の奥さん、それぞれとの間に出来た子供8人、総勢11人が写っている。いやー、壮観。

さすが元祖フーチー・クーチー・マン、御年66才にしてこのお盛んぶり、うらやましいとしかいいようがない(笑)。

アルバムの内容も、老いてなおギラギラとしたマディの個性を反映したものであるのは、いうまでもない。

<聴きどころ>

本作では(6)を除く全曲で、プロデュースのジョニー・ウィンターがギターもプレイ。

そのソリッド、シャープな音で、マディ・バンドのサウンドをうまくまとめあげている。

特にいい雰囲気をかもし出しているのは、(5)における彼のアコギ(ドブロかな)でのスライド・プレイ。

ロックン・ロール・ギタリストとして捉えられがちな彼ではあるが、見事にダウン・ホームな響きを紡ぎ出している。

他のプレイヤーも、とりたてて派手なプレイはないが、実に堅実で力強いビートを繰り出している。

ハープのポートノイの演奏もなかなか。要所要所、たとえば(6)などで、切れ味のいいソロを聴かせてくれる。

ベテラン中のベテラン、ピアノのパイントップも、ほとんどソロらしいソロは取らないが、バンド・サウンドの要として、なくてはならない存在といえそうだ。

このふたりの働きにより、サウンドに奥行き、深みが大いに増しているのは、間違いない。

<曲についてあれこれ>

本作も先行の二枚同様、往年のブルース・スタンダード的な曲のカヴァー、そしてオリジナルでも過去にレコーディングした曲の再演が多い。いわばマディの「原点回帰」だな。

タイトル・チューン、スリム・ハーポがオリジナルの(1)(単に「KING BEE」とも題される)は、初録音のようだが、マディ自身のオリジナルと称しても違和感がないくらい、彼にしっくり合ったナンバー。(そういえば昔、「HONEY BEE」という曲をやっていたなあ。)

もちろん、ハーポのロー・テンションぶりとは違って、こちらはあくまでも雄々しく「俺は王様蜂だ」と歌いあげとります。

他人のカヴァーはこのほかに、アーサー・クルーダップの(3)がある。BB、クラプトンらもカヴァーしている有名曲だ。

こちらも初録音なれど、まるで昔からやっているナンバーのように聴こえる。こういう、昔ながらのスタイルの曲だと、マディの歌は実にイキイキとしている。

(8)もカヴァーものだが、詳細はよくわからない。くわしい方、ご教示を乞う。

マディのオリジナルは、(2)、(4)、(5)、(6)、(7)、(9)、(10)。(10)は共作だが。

(2)は「MORE REAL FOLK BLUES」で収録された曲の再演。(4)は初録音。(5)は71年の「THEY CALL ME MUDDYWATERS(II)」の再演。(6)は初演。(7)は「LONDON MUDDY WATERS SESSION」の再演。

(9)は77年の「HARD AGAIN」でもやっている。(10)は初演。

ということで、新作・旧作とりまぜてやっているものの、スタイルはまったくといっていいほど(笑)、変化していない。

あくまでも十年、いや五十年一日のごとく、骨太のマディ節を貫いているのだ。

マディというブルースマンの真の面目は、いってみれば、どこでレコーディングしようが、農場生活時代の泥臭さ、いなたさを死ぬまで失わなかったという点にあるだろう。

還暦を過ぎて、いよいよ一徹ぶりに磨きがかかってきたようで、それもまたいかにもマディらしいね。

<アーティストのその後>

前述したように、マディは2年後の83年に亡くなる。

本盤の制作とほぼ同時期にライヴにも出ているが、その模様を収めたDVD「MUDDY WATERS LIVE AT THE CHICAGO BLUES FESTIVAL」がPIONEER ARTISTSから出ているので、ご興味のあるむきは、ぜひ観てほしい。

彼が「シカゴ・ブルース・フェスティヴァル」に出演したときのライヴで、ゲストとしてジョニー・ウィンターも登場。

マディはさすがに足腰の問題からか、椅子に座ってのプレイが多いが、その力強い歌いぶりは、往年と変わっていない。

とても、60代なかばのジイサマとは思えないパワフルさであります(笑)。

意地悪な言い方をすれば、やっている音楽が超ワン・パターンでもあるのですが。

それは本作品についても言えていて、皆似たような曲調、やや平板で変化に乏しい構成なんですが、ファンにとってはそれもまた良しということでしょうか。

録音の質、バランス等は良好なので、聴きやすい一枚ではあります。BLUE SKYの他の二枚がお気に召したかたは、こちらもどうぞ。

<独断評価>★★★


音盤日誌「一日一枚」#141 ザ・ヤードバーズ「THE BBC SESSIONS」(Repertoire REP 4777-WY)

2022-04-04 05:00:00 | Weblog

2003年2月23日(日)



ザ・ヤードバーズ「THE BBC SESSIONS」(Repertoire REP 4777-WY)

(1)I AIN'T GOT YOU (2)KEITH RELF TALKS ABOUT THE BAND'S BACKGROUND (3)FOR YOUR LOVE (4)I'M NOT TALKING (5)I WISH YOU WOULD (6)KEITH RELF TALKS ABOUT USA TOUR (7)HEART FULL OF SOUL (8)I AIN'T DONE WRONG (9)TOO MUCH MONKEY BUISINESS (10)LOVE ME LIKE I LOVE YOU (11)I'M A MAN (12)EVIL HEARTED YOU (13)INTERVIEW ABOUT THE 'STILL I'M SAD' SINGLE (14)STILL I'M SAD (15)HANG ON SLOOPY (16)SMOKE STACK LIGHTNING (17)THE YARDBIRDS GIVE THEIR NEW YEAR'S RESOLUTIONS (18)YOU'RE BETTER MAN THAN I (19)THE TRAIN KEPT A-ROLLIN' (20)SHAPES OF THINGS (21)DUST MY BROOM (22)BABY, SCRATCH MY BACK (23)KEITH RELF TALKS ABOUT HIS SOLO SINGLE (24)OVER UNDER SIDEWAYS DOWN (25)THE SUN IS SHINING (26)SHAPES OF THINGS, VERSION 2 (27)MOST LIKELY YOU GO YOUR WAY (AND I'LL GO MINE) (28)LITTLE GAMES (29)DRIKING MUDDY WATERS (30)THINK ABOUT IT (31)INTERVIEW WITH JIMMY PAGE (32)GOODNIGHT SWEET JOSEPHINE (33)MY BABY

<制作データ>

英国のロックバンド、ヤードバーズは65年から68年にかけて、BBCのラジオ番組にたびたび出演し、演奏をレコーディングしているが、これはその総集編ともいうべきアルバム。

彼らの演奏のほか、メンバー・インタビューの抜粋も収録されている。

(1)~(4)は、エリック・クラプトンが脱退し、代わりにジェフ・ベックが参加してまもない、65年3月の録音。

(5)~(8)は同年6月、(9)~(15)は8月、(16)~(19)は12月、(20)~(21)は翌66年2月、(22)~(26)は同5月の録音。

以上、いずれも第三期ヤードバーズ、すなわちレルフ、ベック、ドレヤ、サミュエル・スミス、マッカ-ティがメンバーであった時代の演奏である。

(27)~(33)は解散間近の、68年5月の録音。第五期、すなわちレルフ、ペイジ、ドレヤ、マッカ-ティの4人編成の時代に収録されたものである。

<ジャケット>

第三期のメンバー5人のスタジオ収録風景を撮った1ショット。

ベックがピックアップを付けたギルドの12弦アコギ、サミュエル・スミスがウッドベースを抱えているのが珍しい。

この編成から察するに、(14)を収録した際、すなわち65年8月に撮影されたのではないかと思われますな。

<聴きどころ>

ヤードバーズの公式ライヴ・アルバムは第二期、クラプトン在籍時の「FIVE LIVE YARDBIRDS」と、第五期の「LIVE YARDBIRDS FEATURING JIMMY PAGE」(これは発売差し止めになっている)のみ。

つまり、ジェフ・ベック時代のライヴ演奏が良いコンディションで聴けるのは、この一枚だけなので、ファンは必聴といえよう。

演奏自体もなかなか気合いが入っていて、大半はオーヴァー・ダビングをしない「一発録り」にもかかわらず、よくまとまったものが多い。

また、ジミー・ペイジ時代のライヴも、ブートでは何種か(スウェーデン、ドイツ公演など)出ているものの、やはり本盤のテイクが録音状態が一番よいので、一聴の価値はあるだろう。

ただし、欲をいえば、本盤からはすっぽり抜け落ちている第四期、つまりベック&ペイジのツイン・ギター時代に番組収録が行われていれば、なおよかったのだが。

実際には第四期はきわめて短く、アメリカ・ツアーに嫌気がさしたベックが脱退したことで、黄金のツイン・ギターは数曲録音されたに過ぎなかった。

また、インタビューのほうも、けっこう面白い。特にペイジの、声の響かない妙に女性的かつインテリチックな喋り方には、「いかにも彼らしいな」と、思わず笑ってしまった。

<曲についてあれこれ>

本盤は、収録曲も25曲プラス別テイク1曲と盛りだくさん。第三期以降のヒット、代表的ナンバーはほぼ網羅されている。

たとえば(3)は、クラプトン脱退のきっかけとなったヒット・シングル。後に10CCを結成したグレアム・グールドマンに作曲を依頼したナンバーだ。

クラプトンはこの録音を拒否して脱退、急遽、ジェフ・ベックを後任に迎えたといういわくつきの曲なのだ。

(3)同様、グールドマンのペンによる(7)、(12)も収められている。いずれも従来のブルース、R&Bカヴァー・バンドというイメージを打ち破る、ポップ感覚あふれるナンバーだ。

この他、外部作曲家への依託によるものでは、(28)、(32)などがある。

もちろん、ブルース、R&B系のカヴァー、そして改作も多く、(1)、(4)、(5)、(9)、(11)、(16)、(19)、(21)、(22)、(25)、(29)あたりがそれに当たる。

オリジナル・アルバムではメンバーの作品ということになっている(21)、(22)も、ここでは原曲の歌詞を歌っているのが興味深い。

一方、同時代のロック&ポップ・アーティストのカヴァーも意外に多いのが、彼らの特色。

たとえば、マッコイズのヒット(15)や、マンフレッド・マンのヒット(18)、さらにはボブ・ディラン作の(27)までカヴァーしいているのは、なかなか面白い。ヤードバーズというバンドの、非ブルース的な要素、多面性が垣間見れる。

そういったさまざまなアーティストの影響のもとに、(20)、(24)、(30)といった曲では、自らの独特な世界を作り上げているのだ。

(30)などは、後のレッド・ツェッペリンを十分に予感させるサウンドだ。一聴をおすすめしたい。

こうなると、既にその時期ライヴでは演奏していた「幻惑されて」のプロトタイプ、「アイム・コンフューズド」も収録して欲しかったなあ。あ、もちろん「幻の十年」も。

その二曲が加わっていれば、確実に四つ星は差し上げていたかと思いますです(笑)。

<メンバーのその後>

まあ皆さんご存じではあろうが、リーダー格のレルフはその後「ルネッサンス」等で活動後、感電事故により死亡。

ベック、ペイジは今ももちろん、現役でバリバリに活躍中。

サミュエル・スミスは脱退後、プロデューサーに転向。カーリー・サイモン、キャット・スティーヴンス、ジェスロ・タルなどをプロデュース。曲もオールマンズ、レインボウ、ボニ-・Mらが取上げている。

ドレヤは解散後、カメラマンに転職。ZEPのファーストのジャケ写は彼によるものだ。

80年代以降はグループ「BOX OF FROGS」に参加したりもしている。

マッカ-ティは、レルフと共に「ルネッサンス」で活躍。

現在も自己名義のアルバムを出すなど、地道に活動中。新生ヤードバーズ(ドレヤを含む5人編成)の結成にも一役かっている。

いずれも、亡きレルフ以外は、音楽界とその周辺で現在も活躍を続けている。

スタートは黒人音楽ファンに過ぎなかった美術学校の学生たちも、その後のポップス&ロック界を大きくリードする存在となったのである。

ミーハー・ロック・バンドから出発しながらも、世界のバンドの覇王となったヤードバーズ。その多彩な魅力を理屈抜きで楽しめる一枚であります!

<独断評価>★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#140 アート・ファーマー「MODERN ART」(United Artists 4007)

2022-04-03 06:26:00 | Weblog

2003年2月16日(日)



アート・ファーマー「MODERN ART」(United Artists 4007)

(1)MOX NIX (2)FAIR WEATHER (3)DARN THAT DREAM (4)THE TOUCH OF YOUR LIPS (5)JUBILATION (6)LIKE SOMEONE IN LOVE (7)I LOVE YOU (8)COLD BREEZE

えーっと、今回から大幅にフォーマットを変えましたので、よろしこ。

<ジャケット>

ジャケ写のご仁は、映画評論家・水野晴郎さんではない(笑)。本盤のリーダー、アート・ファーマーご本人である。

それにしても、クリソツですな。

ちなみに同じ「MODERN ART」という題のアルバムは、アート・ペッパーにもある(56-57年録音)。

<制作データ>

58年9月、NYCにて録音。制作はジャック・ルイス。

メンバーはアート・ファーマー(tp)のほか、ベニ-・ゴルスン(ts)、ビル・エヴァンス(p)、アディスン・ファーマー(b、アートとは双子の兄弟)、デイヴ・ベイリー(ds)。

本セッションがきっかけとなり、翌年にはファーマー、ゴルスンの双頭バンド、「ジャズテット」が結成されている。

<曲についてあれこれ>

収録曲は大別すると、スタンダード・ナンバー、ファーマー、ゴルスンのオリジナル、他のジャズ・アーティストの作品の三系統に分かれる。

スタンダード系では、ジミー・ヴァン・ヒューゼン作の(3)、同じく(6)、英国の作曲家レイ・ノーブルの(4)、コール・ポーターの(7)。

いずれもミュージカル、映画等でおなじみのメロディである。

オリジナルは、ファーマーの(1)と、ゴルスンの(2)。(2)はフランス映画「殺られる」の主題曲でもある。

他のジャズマンの作品としては、ピアニスト、ジュニア・マンス作の(5)、ウェード・レギー作、ジジ・グライス編曲の(8)。

メロディアスなバラードと、躍動感あふれるアップ・テンポのナンバーがうまく同居した選曲となっている。

<聴きどころ>

なんといっても本盤のキモは、アート・ファーマーのメロディ・ラインを大切にした、繊細でしかもハート・ウォーミングなプレイだろう。

また、それを陰でささえる、ゴルスンの重厚なハーモニー・プレイも素晴らしい。このふたりのコンビネーションはほぼ完璧といえる。

リズムのふたりも、実に息の合った、手堅いプレイを見せている。

メンバーの中では、一番所在なさげなのが、ビル・エヴァンスだ。

彼はすでにマイルス・デイヴィスのもとから独立、「EVERYBODY DIGS BILL EVANS」でトリオでのデビューを果たしていたが、まだあの黄金のメンバー、ラファロ&モチアンとのトリオ結成には至らず、サウンド的にも模索を続けていた時期であった。

だが、ところどころでは注目すべき、カッコいい演奏を残している。

たとえば、(1)の緊張感あふれるファンキーなイントロ。ソロも、まだ若干バド・パウエルの影響を脱しきれていないものの、コード・プレイに後年のエヴァンス・サウンドの萌芽のようなものが見られる。

(2)、(4)、(7)、(8)などでも、他のメンバーの直球一本やりな演奏をちょっとはぐらかしたような、内省的でどこか「知能犯」ふうなソロを展開し、自己主張しているのが面白い。

またバラードものでは、本領を発揮して、実に美しいフレーズを聴かせる。(6)が代表例だ。

一方ゴルスンも、ファーマーに主役を譲ってはいるものの、(3)や(6)などのバラードでは威風堂々としたソロを聴かせてくれる。

彼の演奏の「安定感」は本当にスゴいね。

もちろん、(2)や(8)のような、テンポの速いスゥインギーなナンバーでも、豊かな響き、饒舌なフレージングを聴くことが出来る。

なんていうのかな、ゴルスンにはテナーの「職人」という呼び名がピッタリのような気がする。

<メンバーのその後>

アート・ファーマーは本作の出来があまりに素晴らしかったために、以後、それを超える作品をなかなか生み出せず、苦心したようだ。

実際、60年代以降で特筆すべきアルバムはほとんどない。

でも、プロ・ミュージシャンとして、そういう名盤を一枚でも世に出せただけで、じゅうぶん幸せなのかもしれない。

アート、ゴルスン、アディスンは前述のように「ジャズテット」での活動を続けたのち、再びそれぞれ別行動をとるようになる。

対照的に、この後大いに才能が開花したのは、エヴァンスである。

翌年には、新生トリオで超名盤「PORTRAIT IN JAZZ」を録音、その知性的かつリリカルな音で、一躍時代の寵児となる。

以後、ホーン・セクションに頼ることなく、己れの「ピアノ・ジャズ」を極めていくことになるのである。

そのへんはまた後日取上げてみたいが、本盤での彼のプレイは、彼ならではの「個性」が確立する前の「多様性」を感じさせて、それもまた興味深い。

いくらこの一枚が「ツー・ホーン・ジャズの歴史的名盤」「マスターピース」といったって、それはあくまでも後代の評価。

リリース当時は、とにかく「イキ」のいいアルバムが出来た!という感じだったと思う。

スタジオのホットな雰囲気を見事に伝える一枚。45年も前に録音されたとは到底思えないくらい、ヴィヴィッドな音ですぞ!

<独断評価>★★★★☆


音盤日誌「一日一枚」#139 ジョー・ウィリアムズ「EVERY NIGHT」(VERVE 833 236-2)

2022-04-02 05:29:00 | Weblog

2003年2月9日(日)



ジョー・ウィリアムズ「EVERY NIGHT」(VERVE 833 236-2)

(1)SHAKE, RATTLE AND ROLL (2)EVERY NIGHT (3)A DOLLAR FOR A DIME (4)TOO MARVELOUS FOR WORDS (5)SOMETIMES I'M HAPPY (6)EVERYDAY (I HAVE THE BLUES)/ALL BLUES (7)SAME OL' STORY (8)JIMMY'S BLUES (9)I WANT A LITTLE GIRL (10)DON'T YOU KNOW I CARE (11)ROLL 'EM PETE

筆者の場合、いくらブルースやロックが三度のメシより好きだからといって、いつもそういうジャンルの歌ばかり聴いているわけではない。

他のジャンルでも、本当に歌のうまいシンガーなら、積極的に聴く。

逆にいくらブルースやロックでも、歌があまりいいと感じられないアーティストは、ノーサンキューだ。

ディスクを聴くことの出来る時間はしょせん有限だから、貴重な時間を有効活用するためにも、上質のものを厳選して聴く。

これが筆者のやりかただ。

そこで今日の一枚である。黒人ジャズ・シンガー、ジョー・ウィリアムズのライヴ盤。87年リリース。

これがなんともブルースな一枚なのだ。

もちろん、いわゆる「ブルース」のカテゴリーに入る曲は数えるほどしかないが、その「フィーリング」は凡百のブルースマンなど逆立ちしたってかなわない。とにかく抜群に歌がうまいのである。

ジョー・ウィリアムズについて簡単に紹介しておくと、1918年ジョージア州生まれ、カウント・ベイシー楽団のシンガーとして名を上げ、ソロとして独立してからもさまざまなミュージシャンと共演、数多くのアルバムを発表してきたが、99年、80才でこの世を去っている。

ナット・キング・コールやビッグ・ジョー・ターナーに影響を受けたという、中低音に特徴のあるなめらかな歌声で一世を風靡した。黒人ジャズ・シンガーとしては、成功した数少ないひとりといえよう。

このライヴは、カリフォルニアはハリウッドのジャズクラブ「ヴァイン・ストリート」にて収録されたもの。

ビシッと黒のタキシードで正装したウィリアムズが、ステージに上がってまず歌うのは、(1)。

オリジナルはブルースシンガー、ビッグ・ジョー・ターナー。ビル・へイリー&コメッツのカバーで知られるロックンロール・ナンバー(54年)だが、その大ヒットの翌年、カウント・ベイシー楽団もさっそく録音をしている。

もともとジャズとロックンロールに截然とした違いがあったわけではない。

成り立ちから見れば、ロックンロールはいわばジャズの亜種として生まれたようなものだ。だから、このナンバーがジャズ、ロックの両サイドで愛唱されたのも、実に自然なことなのだ。

ウィリアムズはなんとも楽しげに、軽やかにシャウトしてこの曲を歌う。そのリズム感、ドライヴ感は、ハンパなブルースマン、ロッカーを軽く凌駕するものだ。

続く(2)は、このアルバム・タイトルにもなっている、ウィリアムズ自身のオリジナル。

毎晩毎晩ショー・ビジネスに明け暮れる、彼自身の心境を投影させたかのような、ブルース・ナンバーだ。

これが実にいい。ときにはシャウト、ときにはソフトに包み込むような歌い方で、さらにはユーモラスな語りもまじえて、日常の苦しみと喜びを歌い上げる姿は、ブルースマン以上にブルース的だ。

(3)は一転して、いかにもジャズ・シンガーらしい、バラード・ナンバー。「もう一度ときめきをくれるのなら、君のためには何だってする」という内容の、この上なく甘いラヴ・ソング。

これを聴いてロマンチックな気分にならない女性は絶対いない、というくらいの極上のスウィートな歌声だ。

(4)もジャズィなバラード。ジョニー・マーサーの美しいメロディに、彼のヴェルヴェットを思わせる声質がぴったりとマッチしている。

バックの演奏も素晴らしく、ことにヘンリー・ジョンスンの正統派ジャズ・ギターが耳に心地いい。

(5)はウィリアムズの見事なスキャットが聴きものの、アップテンポのスウィンギーなナンバー。

バックも軽快にスウィング、ジョンスンのウェス・モンゴメリーばりのオクターヴ・プレイも聴ける。

バンマスのノーマン・シモンズのピアノ、ベースのボブ・バッジリーのソロもなかなか達者で、十分に楽しめる一曲だ。

続くは、この一枚の「目玉」といえるナンバー、(6)。

この「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」はもちろん、メンフィス・スリム作の、名曲中の名曲と称されるブルース。

もともとは48年に「ノーバディ・ラヴス・ミー」というタイトルで世に出たのだが、その後、B・B・キングらのカヴァーにより、スタンダードとしての地位を獲得した。

で、このジョー・ウィリアムズもまた、同曲を50年代初頭には持ち歌としてヒットさせているのだ。

ご本家メンフィス・スリム、BBを東西両横綱とするなら、ウィリアムズは、いわば「大関」にも相当する存在なのである。

で、ここでは、ただその持ち歌を再演しただけではない。なんとバックにマイルス・デイヴィスのオリジナル「オール・ブルース」をモダンなスタイルで演奏させて、これに乗って「エヴリデイ~」を歌う、という凝りようなのだ。

これが意外にしっくりと合っていたりして、面白い。決して木に竹を接いだって感じではない。

やはり、ブルースとは、さまざまなサウンドに架け橋を渡す、強力無比の「共通語」なのだなと思った次第。

しかも、この曲、オリジナルの(2)と見事に「対」を成している。なんとも粋だねぇ~。

(7)は、同名異曲が多いタイトルだが、これはウィリアムズ独自の持ち歌。バーナード・アイグナーの作品。

軽快なテンポのフュージョン~AOR風ナンバーだ。彼本来のカラーから考えれば、かなり異色だが、持ち前のたくみなテクニックで、完璧に歌いこなしているのはさすが。

(8)は、40年代、カウント・ベイシー楽団にも在籍したことのある、ウィリアムズにとっては先輩格にあたるシンガー、ジミー・ラッシングのオリジナル。

タイトルもまさに「まんま」という感じのブルース。ラッシングもまた、ブルース感覚にあふれたジャズ・シンガーのひとりで、ブルースを歌ったアルバムを何枚も出しているほどだ。

先輩への尊敬をこめて歌うこのブルース・ナンバーは、ソフトな歌い方ながら、実にディープ。これぞ、本物の味わいだ。

(9)は30年代のスタンダード。ルイ・アームストロングの歌でおなじみだが、カウント・ベイシー楽団もレパートリーとしていて、これまたラッシングがヴォーカルを担当している。

スウィンギーにしてブルーズィ、まさにウィリアムズにうってつけの佳曲といえよう。もちろん、文句なしの出来ばえだ。

(10)はエリントン・ナンバー。シモンズのピアノ・プレイがこのうえなく美しい。そして、ハートフルなウィリアムズの歌唱も最高。

「私がどれだけあなたのことを思っているか、あなたは知らない」という思いを、最上質のヴェルヴェット・ヴォイスにのせて、切々と歌う。これでクラッとこない女性がいるだろうか?

さて、ラストは彼もリスペクトするビッグ・ジョー・ターナーのナンバー、(11)。

ターナーもまた、カウント・ベイシー楽団で30~40年代活躍したシンガーだ。その特徴ある早口ヴォーカルで、不動の人気を得ている。

超アップ・テンポの伴奏に負けじと、歌とスキャットで飛ばしまくるウィリアムズ。

先輩シンガーの名曲を心から楽しんでいるのが、ダイレクトに伝わってくる一曲だ。

以上、「ショーはかくあるべし」と言えそうな、究極のエンタテインメントなライヴ。

同じようにステージで歌う人間にとって、これ以上のお手本はないというぐらい、完全無欠のステージング。

とにかく、モノホンの風格に、圧倒されまっせ。

<独断評価>★★★★


音盤日誌「一日一枚」#138 V.A.「BLUES MASTERS, VOLUME 4: HARMONICA CLASSICS」(RHINO R2 71124)

2022-04-01 05:23:00 | Weblog

2003年2月2日(日)



V.A.「BLUES MASTERS, VOLUME 4: HARMONICA CLASSICS」(RHINO R2 71124)

(1)JUKE (Little Walter & His Night Cats) (2)ENDS AND ODDS (Jimmy Reed) (3)ROCKET88 (James Cotton Blues Quartet) (4)HELP ME (Sonny Boy Williamson II) (5)MESSIN' WITH THE KID (Junior Wells Chicago Blues Band) (6)BLUES WITH A FEELING (Paul Butterfield Blues Band) (7)SUGAR COATED LOVE (Lazy Lester) (8)STEADY (Jerry McCain) (9)I'LL BE AROUND (Howlin' Wolf) (10)I WAS FOOLED (Billy Boy Arnold) (11)TAKE A LITTLE WALK WITH ME (Big John Wrencher) (12)EASY (Jimmy & Walter) (13)BOOGIE TWIST (Snooky Pryor) (14)WOLF CALL BOOGIE (Hot Shot Love) (15)LAST NIGHT (George Smith And The Chicago Blues Band) (16)I GOT LOVE IF YOU WANT IT (Slim Harpo) (17)CHERRY PINK AND APPLE BLOSSOM WHITE (Fabulous Thunderbirds) (18)CHRISTO REDEMPTOR (Charlie Musselwhite)

最近、筆者もブルースマンのはしくれとして、マウスハープ、つまりハーモニカをアマチュア・ミュージシャンのサークルに加わって、練習している。

ブルースハープというものは楽器自体も安価でとっつきやすいが、実際やってみるとまことに奥が深いもので、なかなか上達せずに苦しんでいる(笑)。先人たちの出した"音"が、全然うまく出ないのである。

まあここは、彼らの模範演奏をじっくり聴いて、その奥義を盗むしかあるまい。

ということで、本日の一枚はこれ。おなじみRHINOの「BLUES MASTERS」シリーズ中の一枚、ブルースハープの名演集である。

トップの(1)は、ハーピストなら誰でも一度はコピーに挑戦するという、あまりにも有名な一曲。52年リリース。

ハーピスト達にとって「神」にも等しい、リトル・ウォルター=ウォルター・ジェイコブスの十八番。

このわずか3分たらずのインスト・ナンバーの中に、ハーピストがマスターすべき基本の全てがギュッと凝縮されているといえよう。

ちなみにバックには、ジミー・ロジャーズにマディ・ウォーターズといった大物が参加しているんだとか。

続く(2)は、シンガーとしても名高いジミー・リード。堅実なリズム・カッティングで定評のあるエディ・テイラーのギターを従え、ギターを弾きつつハープを演奏する。58年リリース。

リトル・ウォルターのような華やかさはないが、彼のキャラそのままの、枯れた味わいのハープがまことにいい。

(3)は以前「A SUN BLUES COLLECTION/BLUE FLAMES」なる一枚を紹介したが、その中に収録されたジャッキー・ブレンストン&デルタ・キャッツのヴァージョンがオリジナル。

「一番最初のロック・ロール・レコード」とよばれるこの曲をカヴァー、66年にリリースしたのが、ジェイムズ・コットンとそのバンドだ。

オーティス・スパンの達者なピアノをバックに、軽妙なヴォーカル、そしてエモーショナルなハープを聴かせてくれる。

まさにそのアーティストのキャラクターを反映した音が出るところが、このハープという楽器の面白いところだ。

(4)はサニーボーイ二世の、以前紹介した「MORE REAL FOLK BLUES」なるアルバムに収められていた一曲。

曲はMG'S風ビートのモダンなブルース。だが、ヴォーカルやハープを聴けば、まぎれもないサニーボーイ調。

あくまでも泥臭い。でも、そこがまたイカしているんだよなあ。

(5)はジュニア・ウェルズの代表曲。多くのフォロワーによるカヴァーを持つことでも有名だ。

65年録音のヴァージョンはやはり、さすがの迫力。怒鳴るようなヴォーカル、そしてむせび泣くようなハープ。相方バディ・ガイのとんがったギター・プレイも、もちろん聴き逃がせない。

(6)では白人・黒人混成のポール・バターフィールド・ブルース・バンドが、リトル・ウォルターの作品をカヴァー。65年リリース。

ヴォーカル、そしてハープはもちろん、バターフィールド。マイク・ブルームフィールドとエルヴィン・ビショップのツートップ・ギターを従えて、堂々のプレイを聴かせてくれる。

白人として初めて黒人街で暮し、ブルースハープを極めた男、バターフィールドの勇姿がここにある。

(7)は、日本ではあまりおなじみでないシンガー/ハーピスト、レイジー・レスター、58年のレコーディング。

ルイジアナ出身で、おもにエクセロ・レコードでレコーディングしているとのことだが、よくは知りまへん。詳しいかた、教えてちょ。

残念ながら歌の方は、お名前通りレイジーかつ一本調子な感じで、お世辞にもうまいとはいえないが、ハープにはキラリと光るものがある。

アンプリファイせず、エコーをかけたサウンドには、独特の透明感がある。

(8)はアラバマ出身のハーピスト、ジェリー・マッケイン、61年の録音。

彼もご多分にもれず、リトル・ウォルターに強くインスパイアされたひとりだそうだが、そのアンプリファイド・サウンドにはウォルターの影響だけでなく、彼ならではの、イナたくも心やすらぐような"味"が感じられる。

初心者のコピーにも最適の、かっちりとよくまとまった佳曲といえるだろう。

(9)は大御所ハウリン・ウルフ、54年リリースのナンバー。

もちろんハープはウルフ自身。格別テクニック的にスゴいという演奏ではないが、ムダのないフレージング、そしていかにもブルースらしい「響き」を持ったプレイである。これまたコピーにうってつけ。

続く(10)はヤードバーズによる「アイ・ウィッシュ・ユー・ウッド」のカヴァーでロック・ファンにもおなじみとなったブルースマン、ビリー・ボーイ・アーノルド55年の録音。

ヘンリー・グレイ、ジョディ・ウィリアムスらを従え、歌とハープで熱演を聴かせてくれる。

彼のハープ・スタイルは、わりと「泣き」の要素が強いもの。ハートにじかに訴えてくるようなプレイだ。

(11)は、ロバジョンの「スウィート・ホーム・シカゴ」をその義理の息子、ロバート・ロックウッドが改作したナンバー。

ハープを演奏するのは、ビッグ・ジョン・レンチャー。このひともあまりおなじみではないが、ミシシッピ州出身、シカゴに出てロバート・ナイトホーク、ジョニー・ヤングらと共演している。

ここではヴォーカル、ギターのジョー・カーターと共演。レンチャ-のプレイは、あまりアクは強くなく、バンド・サウンドのワン・パートとして他とうまく協調・調和しているタイプだ。

(12)はジミー&ウォルター、すなわちジミー・ディベリー(g)とビッグ・ウォルターことシェイキー・ホートン(hca)のコンビによる53年の録音。

スロー・テンポのインスト・ナンバーだが、なんといってもビッグ・ウォルターの縮緬ビブラートがスゴい。

これまでのどのプレイヤーとも異なる、迫力あふれる響きに、ただただ圧倒される。

スローなのでメロディは拾いやすいが、この"響き"をコピーするのは至難の業だ。さすが、本物は違う!

(13)は、軽快なシャッフル・ビートが印象的なブギ。現役最高齢ブルースマンのひとり、スヌーキー・プライヤーの作品。

63年のリリース。歌、ハープともに彼が担当している。

彼の歯切れのいい元気な歌声もいいが、遠い汽笛を思わせるようなハープ・サウンドもまさにブルースそのもので、カッコいい。

(14)はケイ・ラヴをリーダーとするグループ「ホット・ショット・ラヴ」のナンバー。54年リリース。

この曲もブギのビートにのせ、ラヴのファンキーな語りとハープが披露される。

いきなり演奏の途中でとぎれて終わってしまうという、ヘンな曲なのだが、そのへんのテキトーさもブルースっぽくていい。

(15)はその名も、ジョージ・"ハーモニカ"・スミスなるシンガー/ハーピストが歌う、リトル・ウォルターのナンバー。68年録音。

スミスも「リトル・ウォルター命」のハーピストの一人。彼自身はスター・プレイヤーとはなりえなかったが、T・ボーン・ウォーカー、ビッグ・ママ・ソーントン、マディ・ウォーターズら多くのミュージシャンと共演している。

ここでは歌・ハープともに披露している。歌もそこそこ歌えるし(マディっぽい)、ハープのほうも百戦錬磨のつわものらしく、実に堂々としたプレイだ。

その力強いアンプリファイド・サウンドは、まさにリトル・ウォルター二世とよぶに、ふさわしい。

また、バックの顔ぶれが、オーティス・スパン、マディ・ウォーターズらベテラン揃いなのにも注目である。

(16)は、これもヤードバーズのカヴァー(「ベイビー・スクラッチ・マイ・バック」)によりその名が知られるようになったスリム・ハーポのナンバー。57年リリース。

彼のヴォーカル・スタイルは他に類例を見ないユニークなもので、そのあくまでもロー・テンションでクールな歌いぶりは、一度聴いたら忘れられないものがある。

ハープの方も、その歌に通じるものがあり、あくまでもクールなテイストだ。

まさにブルース界の異端児。でもこれもまたブルースのひとつのありかただという気がする。

(17)は、だいぶん時代が下がって、81年リリースの作品。ジミー・ヴォーン率いるブルース・ロック・バンド、「ファビュラス・サンダーバーズ」の登場である。

名ハーピスト、キム・ウィルスンをフィーチャーしたこのナンバーは、ペレス・プラドの大ヒットで知られるマンボの名曲。

全然ブルースでもなんでもないのだが、ハープというメロディ楽器をマンボに持ち込むことにより、新しいハイ・ブリッドなサウンドが生み出されているのが、なんとも面白い。

ラストの(18)は白人ハーピスト、チャールズ・マッセルホワイトによる67年リリースの作品。

曲はジャズ・ピアニスト、デューク・ピアスン作のバラード。たとえていえば、キャロル・キングの「イッツ・トゥー・レイト」のような曲だ。

ジョン・メイオールのバンドにもいたハーヴィー・マンデル(g)、フレッド・ビロウ(ds)など、ブルース系のミュージシャンを使って、コアなジャズの曲をやるという、なかなか面白い試みだが、これがけっこう成功している。

バターフィールドとわりと近い味わいをもつ、マッセルホワイトのハープのメロウな響きが、意外とマイナー・バラードにしっくりと合うのである。

(17)のケースと同様に、ブルースハープは音楽のジャンルを超えて、自由自在に活躍出来るってこと、である。

その構造は実に単純ながら、ハープという楽器は本当に「無限」の可能性を持っている。

あなたもこの一枚を水先案内人に、広大で底なしに深い「ハープ・サウンド」への航海をしてみてはいかがかな。

<独断評価>★★★★