病院のケモ室のゆったりしたリクライニングの椅子は、大きな窓の方を向いて、整然とならんでいた。
私は、いつもそのどこかの席で、なんどの点滴をくりかえしただろうか。
クールでいえば術目8クールだけど、ハーセプチンも入っていたからもっとの気がする。
窓の外は、小さな森のように木々が幾重にもかさなって、きっと病院内の特等席なのだろうとおもった。
揺れる緑の葉とのびやかな枝。2009年の夏の日を思い出す。
それから術前を終えて、翌年の夏、ちょうどそのケモ室の真上あたりの2階の部屋に私はいた。
一応、この病院で乳がんオペした人限定で当時リンパ浮腫外来というのがあった。
そこへ、私はいった。
もう、この腕を気にして生きるくらいだったら、いっそないほうがいい。この腕、切り落としたい。
看護師とはなしているうちに、私は泣いてうったえていた。
ほんとに、リンパ浮腫の呪縛からのがれられるんだったら、腕はいらないと思った。
ケモ室から観た木々はずっとずっと雲の上までさらさらと揺れているような幻想をみて続けてきた抗がん剤。それも終え、胸もなくなってみて、のこったのはとてつもい恐怖のかたまりの腕だと思った。
木々の葉は、2階の窓からは、日差しで枯れて朽ちていたり、鳥につつかれたり、そんなにいい景色じゃない。
登ってきて見た景色、この腕、全てが何かの私の錯覚に思えた。こんな長い悪夢をたちきりたいんだ。そう叫んでいた。こころで。
またあの夏の日のような、つよい日差しの季節がめぐってきた。
なんであの時なけたのかはわからない。今ではね。
きっと、あの部屋の2階の窓はちょっとだけ現実が遠くにみえてたんだよな。
あ~、
でも、今じゃ、真白いスリーブ何本も洗って部屋の定位置に並べてかわかしてると、すごく涼しくもみえる。
夏の日。
緑もいいけど、そうめんのような真白いスリーブも今の現実に優しい。
さて、このごろ2枚重ねだからますます量がおおい。
寝る前に、下の記事で覚書してるあいだに、ふっと、あの夏の日を思い出した。
若かった
かわいかった。