ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

指久保ダム 取材見学

2024-09-18 20:00:00 | ダム取材見学
2024年7月26日 指久保ダム 取材見学
 
青森県十和田市(左岸)と新郷村(右岸)に跨る二級河川奥入瀬川水系後藤川にある指久保ダムはダム湖上流に架かる県道十和田三戸線の後藤川大橋からの眺めの良さから、近年インスタ映えするスポットとして人気が上昇しています。
しかし、ダム構内は全面立入り禁止となっており、その姿は後藤川大橋から遠望するのみでダム便覧フォトアーカイブスにもその詳細を撮った写真の掲載はありません。
2022年(令和4年)10月に青森県を訪問した際に指久保ダムを管理する青森県上北地域県民局地域農林水産部に見学の申請をしたところ、ダム構内で撮った写真は一般公開しないという条件で見学許可を頂きました。
そのため、せっかくの見学内容もブログにアップしたり撮影写真のダム便覧への提供もできず終いでした。
ただこれを契機にダム管理人さんとの私的な交流が始まり、ダムの四季折々の写真やその後に増設された小水力発電所についての情報などを頂くことができました。
そして今年、2024年(令和6年)7月に再度青森を訪問することになり、ダムマイスターによる取材という形でダム見学が叶うとともに構内で撮った写真についてもブログへの掲載許可を頂きました。
 ここでは指久保ダムの見学の詳細に加え、ダムの受益組織であり所有者でもある奥入瀬川南岸土地改良区への取材について紹介したいと思います。
指久保ダムの詳細については指久保ダムの項をご覧ください。
 
2024年(令和6年)7月26日午前に、まずは青森県おいらせ町にある奥入瀬川南岸土地改良区へ伺います。


土地改良区の理事長さん、主務及び工事担当所の職員さん計3人から奥入瀬川南岸地区の概要や土地改良区の来歴、日常の業務内容等についてお話を伺います。


参考資料として土地改良区の沿革史とかんがい排水事業の事業概要書を頂きました。


土地改良区で2時間近く話を伺った後、奥入瀬川にある藤坂頭首工を見学。
奥入瀬川南岸地区は奥入瀬川本流及び主要水流の後藤川を主要水源としており、こちらは奥入瀬川からの取水堰となります。


藤坂頭首工から南西に約18キロ、車で20分ほどの指久保ダムへ向かいます。
こちらはダム湖に架かる後藤川大橋。
一見斜張橋のようですが、エクストラドーズド橋という斜張橋と桁橋の中間型となる型式で橋長230メートル、湖面からの高さは51メートルとなります。
珍しい型式の橋に加え、ここからのダム湖の眺めが美しいということで最近は訪れる人が増えています。


後藤川大橋からの眺め
中央が多段式取水塔、左手の建屋が管理事務所になります。


取水塔をズームアップ。


上流側の眺め
指久保ダムはかんがい期が終わるとかんがい容量分の水が抜かれます。
こちらはかんがい期が終わった2022年10月の写真。


同じ場所から2024年7月の写真
水位が全く違うのが見て取れます。
天気が良ければもっと素晴らしい眺めになるのですが、あいにくの曇天なのが残念。


ダムに通じる管理道路入口にバリケードがあり、ダム構内は関係者以外多立入り禁止です。
ここから先はすべて立入禁止エリアでの写真となります。
左岸ダムサイトの管理事務所。
365日職員さんが常駐します。


管理事務所1階の定礎石。


ダム操作室。


ダムの管理人さんより各機器の役割やダムの運用方法について説明を頂きます。


指久保ダムの構造上の特徴としては、ダム建設地点は十和田の火山排出物が堆積しており、特に右岸側の透水性が高くなっています。
そのため上流面はアースブランケットで遮水処理が施されておるほか、右岸地山内には連続地中壁が設けられています。
指久保ダム平面図(出典 県営かんがい排水事業指久保地区 事業概要書)

運用面の特徴として、指久保ダムはダムのある後藤川のみならず山の北側にある藤島川および小林川にもかんがい用水を補給しています。ダムによる安定した水源という効果を流域面積が極めて小さく慢性的な用水不足となっていた藤島川・小林川沿岸にも付与するため全長約3.3㎞の藤島導水路により補給を行います。
藤島導水路平面図(出典 沿革史 奥入瀬乃歩み)


ひとしきり説明を受けた後はいよいよダムの見学です。
こちらは左岸の横越流式洪水吐
試験湛水以降、豪雨等による越流はないそうです。


こちらは下流側。
斜水路手前にシルがあります。


減勢工を遠望
減勢工にも大きなシルがありその直下にはバッフルブロック
さらに下流にも背の低いシルが設けられています。
左手は放流設備と小水力発電所。


左岸から見たダムの上流面
見た目にはわかりませんが、堤体の半ばから先、右岸側一帯はアースブランケットにより遮水処理が施されています。


天端はアスファルトで舗装。


減勢工左手高台の建屋は先述の藤島導水路のゲートバルブ室。
ここへはサイフォンで揚水します。


ダム下流を遠望すると火山堆積物が露頭しています。
いわゆるシラス土壌になります。


広角でダム湖を撮ってみます。
総貯水容量292万2000立米。有効貯水容量は207万立米になります。


下流面
天端や地山には草が生えていますが、リップラップは極めてきれいな状態が保たれています。


右岸から上流面
これは初回訪問時の写真でかんがい期が終わり水位が低い状態です。


次にダム下に移動。
こちらも入口にゲートがあり関係者以外は立入り禁止。


ダム下流面
残念ながら地山が邪魔になり、堤体を一望できる場所はありません。


減勢工と後藤川へのゲートバルブ室
放流設備向かって左手が旧来の放流設備、右手が2023年(令和5年)に運転開始した小水力発電所。




発電所の最大出力は191キロワットでFIT認定されています。
発電所は土地改良区が所有管理し、発電した電力はすべて東北電力に売電し土地改良区の運営資金となります。


放流設備内部
写真右奥が発電所へのライン。


発電機。


こちらは取水塔からの導水管
建設時の仮排水路を活用しています。


放流設備の上流側には藤島導水路への分水設備があります。
ここから高台にあるゲートバルブ室にサイフォンで揚水します。


高台にある藤島導水路ゲートバルブ室。


藤島導水路
総延長は約3300メートルで自然流下となります。

 
再びダム天端に戻り監査廊入口へ。


階段を下ります。


クラック箇所に印がつけられ、補修に備えます。


変位計測器。


堤体内の排水設備。


地震計。


揚圧計。


監査廊は本堤から右岸アースブランケットに沿って連続地中壁まで全長406メートル。


監査廊の突き当り。
上北地域県民局のダム担当職員さん及びダム管理人さんと。
壁の向こう側に連続地中壁があります。


監査廊からダム湖左岸の取水塔へ移動。
取水塔への管理橋。


ゲートのプレート
この取水塔には主ゲートである取水放流ゲートのほか、修理用ゲート(予備ゲート)、低水位ゲートの3種類のゲートがあります。


ゲート巻き上げ機。


水位計。
主と副の二つがあります。


こちらは水位計周辺の凍結防止装置
寒冷地ならではの設備です。
 


修理用ゲート(予備ゲート)。


取水放流ゲート
水位が高いかんがい期の写真。
農業用水ですので表層取水を行います。

こちらは水が抜かれた非かんがい期の写真。
流入量をそのまま下流に放流します。


取水塔内部から見る後藤川大橋。
関係者以外でこの景色を眺めたのは私だけかも?


最後に指久保ダムから藤島導水路で用水を補給する2か所の注入口を見学。
こちらは小林川注入口で最大毎秒0.108立米を補給します。


こちらは藤島川に架かる導水路


藤島川注入口
最大毎秒0.159立米を補給します。


これにて、奥入瀬川南岸土地改良区の取材及び指久保ダムの取材見学は終了です。
見たいところはすべて見せて頂き大満足の見学となりました。
今回の取材見学については当ブログのほか(一財)日本ダム協会が発刊している月刊誌『ダム日本』にも掲載予定です。
今回の取材に対応していただいた青森県上北地域県民局地域農林水産部のダム担当様、指久保ダム管理人様および奥入瀬川南岸土地改良区の皆様には心より感謝を申し上げます。
指久保ダムは一般個人からの見学要請に対応しておりません。
今回はダムマイスターによる取材申し込みに対して特別のご配慮で見学が叶ったことを明記しておきます。

丸山ダム・丸山浄水場見学

2024-04-23 08:00:00 | ダム取材見学
2024年3月19日 丸山ダム・丸山浄水場見学

3月中旬よりプライベートな事情で奈良の実家に帰省することになり、そのついでに近隣のダムを見学できないか?いくつか候補を思案していました。
その中で心に引っかかったのが兵庫県西宮市にある丸山ダムです。
このダムには2017年(平成29年)3月に訪問していましたが、ダム下や天端は立入禁止となっており貯水池上流側から遠望するのみでした。
そこで、事前にダムを管理する西宮市上下水道局にダム及び隣接する丸山浄水場の取材を申し込んだところ特別のご配慮で見学させていただけることになりました。
また兵庫県営水道を通じて西宮市に上水道用水を供給している兵庫県川西市の水資源機構が管理する一庫ダムについても同日での内部見学が叶い、3月19日は午前に丸山ダム・丸山浄水場、午後に一庫ダムをそれぞれ職員様同行で見学するという贅沢な一日となりました。
本稿では丸山ダム及び丸山浄水場の見学について記載したいと思います。
丸山ダムの概要については『丸山ダム』の項をご覧ください。

西宮市北部地区では1974年(昭和49年)の中国自動車道完成を機に宅地開発が急展開し、これに対処するために西宮市水道局(現上下水道局)は1975年(昭和50年)に丸山浄水場を、1977年に(昭和52年)に丸山ダムを建設します。
しかし、その後も人口の増加がとどまらず1994年(平成6年)より水資源機構一庫ダムを水源とする兵庫県営水道多田浄水場からの受水が開始されました。
現在では西宮市北部への上水道用水の給水の9割は兵庫県営水道が担っており、丸山ダム及び丸山浄水場はサブ的存在となっています。
西宮市水道事業の概要図(西宮市水道ビジョンより)


これを踏まえたうえでダムと浄水場の見学をすることにします。
こちらは丸山浄水場入口。
当然のことながら関係者以外の立入りは禁止されています。


完成当時の西宮市水道局が改組され上下水道局になったため、門扉のプレートはまだピカピカ。


浄水場管理棟内に置かれたダム・浄水場の模型。


まずはダムへと向かいます。


丸山ダムの売りである紫のゲートが見えてきました。


減勢工の副ダム
切欠きの下流にさらに小さな導流堤があります。
右手の穴はダム湖に隣接するゴルフ場からの水路。
ゴルフ場では除草剤を多用するため、飲料水の水源であるダム湖をバイパスしてダム下流に流下させます。


副ダムをズームアップすると小さなゲートがあります。
これは減勢池内の土砂を排出するゲートです。


こちらの細いパイプはかつて貯水池に隣接していたプールの排水用。
プールは廃止になったため、こちらは今は使われていません。


ゲートを開けてダムの構内へ。


ダムと正対
堤高31メートル、堤頂長71メートル
手前の水路橋は取水設備から浄水場への水管。


ゲートをズームアップ。
これほど鮮やかな紫のゲートはほかには思い浮かびません。
想起できるのは山形の月山ダムのコンジットゲートくらいか?


ついつい同じような写真を何枚も撮ってしまいます。


水路橋から
右手の建屋は放流設備で、下流域の利水需要に合わせて3本の放流管があります。
さらに奥には水位低下用のホロージェットバルブを装備。


もう一度ゲートをズームアップ。


放流設備をズームアップ。 


導流部の下部には穴を塞いだような跡
建設時の堤体内仮排水路の跡になります。

3本の放流管
今後下流域での田起こしや田植えが始まるとさらに放流量を増やすそうです。


水路橋から見た減勢池。


水路橋を渡りダムの右岸へ移動
これは取水設備からの管路
この後水路橋を経て浄水場へと続きます。 


右岸のフーチングを登ります。
堤高31メートルは基礎岩盤からの高さで、実際に上るのは20メートルほどか?
斜めの管は上記プールからの排水管。
今は使われていません。


フーチングからの下流面。

天端に到着
完成当初は天端は開放されていたそうで、上下流面にフェンスが設けられています。
今も湖岸沿いに道路が通じていますが途中に門扉が設けられ一般の立入りは禁止。
奥の建屋はゲート操作室で止まっている車はメンテナンスの業者さん。


取水設備は3段の多段式。


ゲート巻き上げ機。 


天端から減勢工を見下ろす。


ゲート操作室
台風や豪雨の際には職員さんはここに籠ってゲート操作を行い『水道屋がダム屋にならなければいけない』。


下流面。


上流面
奥が上水用取水設備
手前は放流用の取水設備。


ちょっと見づらいが竣工記念碑。


諸元の銅板。


ダムから浄水場に戻ります。
こちらは高架水槽。
急速濾過池の逆洗用の水を貯めています。
横にあるのは分割式の予備ゲート
主ゲートに比べて随分色あせています。


着水井
ダムから送られた原水が流入します。


フロック形成池
薬品を投入した水をかくはん機でかき混ぜ不純物の固まり(フロック)を作ります。
水中の羽根のようなものが撹拌機。


沈殿池
原水からフロックを自重で沈めます。
沈殿したフロックはガントリーで定期的に排出されます。
正面の山上には丸山配水池があり、ここで浄水された水および兵庫県営水道から受水した水をブレンドして給水しています。


急速濾過池
水を砂と砂利の層に通し、細かい汚れをろ過して透明できれいな水にします。
 


濾過池の模型。


こちらは濃縮槽
排出したフロックをここで脱水して濃縮します。
丸山浄水場には天日乾燥床はなく、濃縮されたフロックは産業廃棄物として処理されます。

これにて丸山ダム及び浄水場の見学は終了
現在、丸山配水池から西宮市北部地区に給水する上水道用水の約9割は兵庫県営水道からの受水により、丸山ダム及び浄水場は事実上のサブ扱いです。
兵庫県営水道については従来は一庫ダムを水源とする多田浄水場からの受水に依っていましたが、青野ダムを水源とする三田浄水場からの送水管が新たに接続されより柔軟な水運用が可能となりました。
とはいえ、今年は一庫ダムが記録的な渇水に見舞われ取水制限が実施されました。
主役の座を兵庫県営水道に譲ったとはいえ、当面はセイフティーネットとして自己水源を維持する必要性は大きいように思われます。
一方で、人口減少時代となりいずれ水需要が大きく縮小するような事態に備え、中長期的には水道事業のさらなる合理化・広域化は不可避です。
その際、丸山ダム及び浄水場の立ち位置がどうなるのか?ダム愛好家としての立場から非常に気になるところです。


最後に、案内していただいた職員さんの見送りを受けて浄水場を後にしました。
この後午後2時からは水資源機構一庫ダムの内部見学となります。


西宮市上下水道局では一般個人の見学対応はされておりません。
今回はダムマイスターとしての取材要請に対し特別のご配慮で見学の許可を頂けました。
改めて西宮市上下水道局および丸山浄水場の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。

南房総広域水道企業団大多喜浄水場・水資源機構房総導水路管理所見学

2024-03-09 08:05:15 | ダム取材見学
2024年2月26日 大多喜浄水場・房総導水路管理所見学

千葉県では地方自治体および一部事務組合(水道企業団)が管理する上水道用水目的のダムは15基あります。(廃止された富津市の小久保ダムは除く)。
さらに灌漑兼用を含むとその数は17基に達し、千葉県のダム総数に占める上水ダムの比率は34%にも及びます。
しかも17基のうち16基が南房総地域と呼ばれる房総半島南部の5市3町に集中しており、従前より南房総地域の水道事業についてもっと見識を深めたいと願っていました。
これを受けまず、今年1月に南房総のうち安房地区と呼ばれる館山市・南房総市・鋸南町の上水ダムを歴訪、その詳細を当ブログでアップしてきました。
2月にも1泊2日の日程で房総半島を再訪し、利根川の水を房総半島に供給する水資源機構房総導水路管理所、房総導水路の水を南房総各水道事業者に供給する南房総広域水道企業団、さらにいすみ市水道課が管理する上水ダム及び浄水場を見学する機会を得ました。
ここではそのうち南房総水道企業団大多喜浄水場及び水資源機構房総導水路管理所の見学について記載したいと思います。

まず最初に訪れたのが千葉県夷隅郡大多喜町にある南房総広域水道企業団です。
南房総地域では昭和30年代~50年代にかけて各自治体により水道事業が創設されますが、観光客の増加や水洗トイレ普及など生活様式の変化などにより水道需要は一段と増加、各事業者の独自水源では水道需要を賄うことが困難となってきました。
そこで南房総各自治体は水資源開発公団(現水資源機構)が事業を進めていた房総導水路に水源を求め、1990年(平成2年)に用水供給事業者として一部事務組合である南房総広域水道企業団を設立、1996年(平成8年)より給水が開始されました。
現在は南房総地域水道全水道使用量の約5割に当たる、日量最大4万2330立米の水を総延長171キロの送水管で南房総8水道事業者に給水しています。

房総導水路他南房総広域水道企業団水道用水供給地域概要図
(出典 南房総広域水道企業団ホームページ)
房総導水路は利根川上流ダム群や霞ケ浦などを水源とし、約100キロの導水路で京葉臨海工業地帯や房総半島各地に都市用水を供給する水資源機構の事業です。
南房総広域水道企業団はこのうち水資源機構が管理する長柄ダムに水利権を確保しています。


今回は事前に施設見学申請を行い職員様に大多喜浄水場を案内いただき、具体的な浄水の工程を見学、解説していただきました。
浄水の流れ
(出典 南房総広域水道企業団ホームページ)


26日午前9時
大多喜浄水場正門に到着。
インターホンで施設見学の旨伝え門を開錠していただきます。

浄水場の広景
奥に事務所棟があります。

事務所で挨拶を交わしたのち、職員様帯同で見学開始。
こちらは着水井
房総導水路から受水した原水がここに流入し、粉末活性炭・塩素・硫酸を注入します。

グリーンの機械で粉末活性炭・塩素・硫酸を注入します。


水は粉末活性炭接触池を経て薬品混和池に送られます。
ここで凝集剤と消毒剤を注入し、活性炭への不純物吸着の準備を行うとともに消毒を行います。

グリーンの機械で粉末活性炭・塩素・硫酸を注入します。


フロック形成池
薬品混和池から受けた薬品の混ざった水をかくはん機でかき混ぜ不純物の固まりを作ります。
この固まりをフロックと言います。

沈殿池
フロック形成池から受けたフロックが浮遊する原水を自重で沈めます。
大多喜浄水場では太陽光によるカビや微生物の繁殖を抑えるため、遮光板が設置されています。 
一方沈殿したフロックは後述する排水池→濃縮槽→天日乾燥床に送られます。


急速濾過池
水を砂と砂利の層に通し、細かいフロックの汚れをろ過して透明できれいな水にします。
見た目にも原水よりも水がきれいになっているのが分かります。 


浄化された水は浄水池に貯留されたのち、送水管で各水道事業者に送水されます。
重機の奥の地下に約4200立米の水を貯留する地下浄水池があります。
大多喜浄水場では原水から上水になるまでの工程は約10時間。
これは浄水場によってまちまちですが想像していたよりも短時間できれいな水ができるのにちょっとびっくり。


こちらはエアチャンバー
ポンプの脈動を抑え安定した送水を行うための装置です。 


一方、沈殿池で除去されたフロックは排水池→濃縮槽を経て天日乾燥床に送られます。
こちらは濃縮水槽から送られたばかりの天日乾燥床。
濃縮されたとはいえまだ黒い泥水のような状態。


天日で乾燥させかなり水分が抜けた状態。


ほぼ乾燥しきった状態
原水にはこんなに不純物が混じってるんですね。
この汚泥は『脱水ケーキ』と呼ばれ、産業廃棄物として焼却処理されます。
焼却灰は従来はそのまま埋め立て処分されてきましたが、最近では建設資材として路盤材やコンクリート骨材、セメント原料などに再利用されることが多くなっています。
また有機物を多く含む脱水ケーキは発酵により肥料や土壌改良材として利用されます。


ここまで約1時間
ダムを単体として見るのではなく、水の流れをたどる中で改めて浄水場を見学した意義は大きいものがありました。
普段蛇口をひねれば当たり前のように出てくる水ですが、実はそれがどのように作られているのか?いまさらながら大変勉強になりました。

最後に夷隅川にかかる水管橋
これはいすみ市や御宿町への送水管です。


このあと長南町の山内ダムに向かいますが、それはまた別稿で。
山内ダムの次に向かったのは大網白里市にある水資源機構房総導水路管理所。
こちらも事前にお願いして房総導水路事業についての簡単なレクチャーを受け大網揚水機場の見学をさせていただきます。


1962年(昭和37年)に利根川水系は『水資源開発水系』に指定され水資源開発公団(現水資源機構)による総合的な水資源の開発と利用が進められることになりました。
一方、房総半島では東京湾岸部が京葉臨海工業地帯として急速に発展するにつれ人口が急増し都市用水の需要は拡大の一途をたどります。
しかし大河がない房総半島内の水源ではこれらの需要を賄うことは不可能で利根川にその水源を求めることになります。
1970年(昭和45年)に利根川上流ダム群や霞ケ浦を水源とし、利根川から約100キロの導水路により房総半島各所に都市用水を供給する『房総導水路』が着工され、1997年(平成9年)の『南房総導水路』完成により同事業は竣工しました。
房総導水路概要図
(出典 水資源機構房総導水路管理所ホームページ)


しかし利根川の取水口から導水路南端の導水制御工までは最大で100メートル近い標高差があり、約100キロの導水路中に揚水機場が5か所、調整池ダムが2か所ある壮大な事業となっています。
これらの施設により京葉臨海工業地帯への工業用水、千葉市営水道・千葉県営水道・九十九里沿岸水道企業団・南房総広域水道企業団への上水道用水として最大毎秒8.4立米の水が房総導水路を通じて供給されています。
房総導水路断面図(水資源機構房総導水路HPより)


房総導水路管理所では導水路全般の管制を行うほか、隣接する大網揚水機場では約70メートルの揚水を行っています。
こちらは東金揚水機場からの吐口。


巨大な沈砂池の先にあるのが大網揚水機場
訪問前日のまとまった雨で水は濁っています。


揚水機場内。
3台のポンプが並び、毎秒最大13立米の水を74メートル揚水できます。
発電所は何度も見ましたが、揚水機場内を見るのは初めて。
渦巻き型のポンプは一見発電機にも似ていますが、こちらは電気の力で水を持ち上げる、一方発電機は水流で電気を作るという違いがあります。
 

ポンプの説明板。


これまでは水の流れを意識しつつも、どうしてもダムのみに焦点を当てた活動に終始してきました。
今回初めて浄水場と揚水機場を見学する機会を得ましたが、ダムはあくまでも点に過ぎず河川や水路を線、さらに集水域や受益地域を面とした多面的な視点で水の流れを辿る必要性を強く感じました。
今回は見学に至れませんでしたが、利根川の取水口や2基の調整池ダム、さらには水源となる利根川上流ダム群や霞ヶ浦についてもその水がどこに行き何に使われるのか?を意識して改めて訪問してみたいと思います。
最後に見学に対応していただいた南房総広域水道企業団及び水資源機構房総導水路管理所の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。

鋸山ダム・元名ダム 見学

2024-02-07 08:00:00 | ダム取材見学
2024年1月26日 鋸山ダム・元名ダム見学

2024年(令和6年)の本格的なダム活は南房総からスタートすることにしました。
ダム便覧には千葉県のダムとして50基が掲載されていますが、そのうち到達困難な第2袋倉ダムを除く49基は訪問済みです。
しかしその多くはダム巡りを始めて初期のころの訪問で、知識不足もあり見落とし箇所が多々ありました。
そんな中、千葉県では県内水道事業の統合が計画されており、南房総地区でもいすみ市・御宿町・大多喜町・勝浦市の2市2町の水道事業が2025年(令和7年)4月の統合をめどに調整中との記事を目にしました。
他方鋸南町・館山市・南房総市・鴨川市の安房地区でも水道事業統合が検討されており、1月は安房地区、2月は夷隅地区の上水ダムを中心にダムを回ることにしました。

まず最初に訪れたのが鋸南町です。
町はでは鋸山ダムと元名ダムの2基の上水用水源を所有していますが、どちらも関係者以外立入り禁止となっており、見学に際しては事前に「ダム敷地の一時使用届出書」を提出する必要があります。
今回は書類提出後、見学の許可を頂き建設水道課職員様案内での見学が叶いました。
両ダムの概要については鋸山ダム元名ダムの項をご覧ください。

まずは天端から見学開始
天端への入り口にはフェンスが設置されています。


職員さんに鍵を開けていただきます。


ダムへ続く通路
副ダム?止水工?諸説ありましたが職員さん曰く『通路』。
この写真のみ2016年1月12日撮影のものです。


通路を進むと再びフェンスがあります。


フェンスには水利使用標識。


堤体の手前(右岸側)には高さ10メートルほどの地山があります。


地山頂上の竣工記念碑
昭和卅七年九月と記されています。
卅という字は今はほとんど使いません。


記念碑から堤体を見下ろします。


昭和30年代の上水ダムらしく、ゲート部分が一段高くなり取水設備は半円形。


取水設備は4段の選択取水式で、それぞれの取水口の開閉用ハンドルが並びます。 


洪水吐ゲート
扶壁に溝がありますが、完成当初はスライドゲートを装備していたそうです。
その後撤去され今は自由越流頂になっています。


天端からダム下を見下ろします。
ダム直下は鋸南町建設水道課の資材置き場で、中央の白い線の下に浄水場への導水管が埋設されています。
この写真ではほとんどわかりませんが、写真左上部分に微かに東京湾が見えます。


洪水吐導流部
昭和30年代だと、この緩やかな導流壁の建設にはさぞかし手がかかったのでは?


総貯水容量14万7000立米の貯水池。
少雨のため貯水率は40%台まで低下。


取水塔の円形バルコニーを見下ろすと
右手4つは上記のように取水口開閉用ハンドル
左手二つは水量調節用のハンドルですが、いまは開放したままほとんど操作しないそうです。


洪水吐上にもハンドルが並びます。
かつて装備していたスライドゲート開放用のハンドルですが、今はゲートが撤去されたためこのハンドルも用無し。


洪水吐導流部と減勢工。
放流量は多くなく小さな減勢工
奥に副ダムが見えます。


洪水吐中央上流側のバルコニーがあります。
このハンドルは土砂吐ゲート開閉用ですが、ハンドルが撤去されゲートは閉めたまま。

これで天端の見学は終了
ダム下へと向かいます。
普段は閉まっているダム下資材置き場も開放されています。


資材置き場にマイカーで進入
交換予定の水管や古い巡視艇が並びます
白い砂利の下に浄水場への導水管が埋設されています。


白い砂利上に置かれたコーン
横に青い栓が見えます。
実はこれ河川維持放流用のバルブ。


ダムとほぼ正対
洪水吐は当初ゲートを備えていましたが今は自由越流。


導流部下部には土砂吐ゲート
手前の細いパイプは上記コーンから分水された河川維持放流用
訪問時は貯水率が低下したため維持放流は中断。


堤体直下まで接近、ダムにタッチできます。
手前の白い部分は染み出した石灰成分。


これにて鋸山ダムの見学は終了
元名ダムへと移動します。
こちらも立入禁止で職員さんにチェーンを開けていただきます。


天端の手前にもチェーン。


天端からは東京湾越しに伊豆半島まで遠望できます。


天端中央の竣工記念碑。
御影石に昭和55年3月と記されています。


総貯水容量7万7000立米の小さな貯水池。
少雨のため貯水率は40%台。
正面には斜樋。


斜樋をズームアップ。


天端を右岸から撮影
逆光でゴーストが入りました。


右岸の円形越流式洪水吐。


水位が下がっているので貯水池に入って撮影。


越流した水は隧道経由で斜水路へ
ちょうど木の枝が被さった奥に隧道があります。


ロックフィルなので当然上流面もロック材で護岸。
低水位ならではの眺め。


いったん天端に戻りダム下へと向かいます。


堤高28.2メートルをダム下から見上げると
千葉県唯一のロックフィルダムですが、リップラップには灌木が茂とてもロックフィルには見えません。
木が根を張ることでダムの構造に影響はないんでしょうか?


右岸の洪水吐斜水路
洪水吐を越流した水は上記隧道を経由してここを流下します。




洪水吐減勢工脇に放流口があります。
この河川には維持放流義務はなく水位低下用放流口となります。


この鉄板の下に放流口への分水バルブがあります。
でもさび付いた鉄板を見ればわかるように最近はこの放流口は使ってないそうです。


最後に左岸上流湖岸にある取水設備へと向かいます。


取水設備は斜樋で右手がゲート開閉用のハンドル。
基本的に取水量は一定でこのハンドルを回すことはほとんどないとのこと。
左手は水位計。


糸が伸びているのが水位計。


取水設備から洪水吐を遠望
かなり水位が低いのが分かります。


最後に二つのダムから水を送る鋸南町浄水場の写真で今回の見学は終了。


鋸南町水道事業のうち、この二つのダムの占める割合は70%弱
残りは南房総広域水道企業団からの受水になります。
現在南房総地域として夷隅地区及び安房地区それぞれで水道事業の統合がすすめられており、鋸南町・三芳水道企業団・南房総市・鴨川市の水道事業統合がそう遠くない時期に実現する見込みです。

最後にご多忙の中、2つのダムを丁寧に案内していただいた鋸南町建設水道課には厚く御礼申し上げます。