2023年4月24日 川上ダム
川上ダムは左岸が三重県伊賀市青山羽根、右岸が同市阿保の淀川水系前深瀬川にある水資源機構が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
戦後の水道需要増大に対処するため1962年(昭和37年)の「水資源開発促進法」により淀川水系では水資源開発公団(現水資源機構)により河川総合開発が進められることになりました。
淀川左支流の木津川では1969年(昭和44年)の高山ダムを皮切りに、青蓮寺ダム、室生ダム、布目ダム、比奈知ダムのいわゆる木津川上流5ダムが建設され、川上ダムは人口増加が特に著しかった奈良県への都市用水供給を主目的に1981年(昭和56年)に木津川上流6番目のダムとして事業着手されました。
しかし、バブル崩壊以降の利水需要の低減を受け奈良県が事業から撤退、さらに公共事業見直し機運を受け事業は停滞、国交省による検討対象ダムとなります。
その後2014年(平成26年)に事業の『継続』が決定、2018年(平成30年)より本体工事が着手され2021年(令和3年)に本体打設が完了しました。
川上ダムは水資源機構法による多目的ダムで、毎秒最大780立米のカットによる前深瀬川・木津川・淀川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、木津川上流既設ダムの代替補給、伊賀市への上水道用水の供給を目的としています。
既設ダムの代替補給とは、堆砂除去のため既設ダムの水位低下を余儀なくされる際、川上ダムでその容量不足分を補填するという全国でもおそらく初めてとなる運用方法です。
そのほか、特徴的な設備として放流水の水質保全及び、流入水と放流水の温度差解消のためダム湖上流に取水堰を設けダム湖をバイパスしてダム下流に直接放流する流入水バイパスが設けられました。
また河川維持放流と放流水バイパスを利用した管理用小水力発電所(最大出力901キロワット)も設置されています。
ダム下から
洪水吐はクレスト自由越流頂6門とオリフィス高圧ラジアルゲート1門。
水資源機構のダムとしては珍しい漸縮型堤体導流壁を装備。
写真右下は転流工。
ダムサイトにはピカピカの看板。
管理事務所や駐車場も来立てほやほや感。
ダムサイトの公園部分は芝生の養生中で立ち入り禁止。
堤頂部の襟がずいぶん高くなっています。
一方で高欄や各種建屋は今どきのダムらしく無駄な装飾を排除し無機質。
左岸の繋留設備とインクライン
こちらは人員昇降用のインクラインです。
天端から減勢工と放流設備
奥は利水放流、手前は流入水バイパスの放流口。
流入水バイパスは同じ水資源機構が2012年(平成24年)に建設した大分の大山ダムでも導入されています。
ダム湖は総貯水容量3100万立米で『あおやま川上湖』と命名されました。
訪問時は試験湛水実施中。
6~10月は洪水期運用となるため、一旦水位を下げる必要があります。
6月までによほどの大雨がなければ、サーチャージに到達するのは今年の秋以降になる模様。
ダム湖に突き出た半島上には中部電力阿保発電所遺構
1921年(大正10年)竣工で、木造切妻の発電所建屋はCランクの近代土木遺産に選ばれていました。
写真は上部層と水圧鉄管の跡。
天端は2車線幅ですが、徒歩のみ通行可能。
放流設備・発電所をズームアップ
左から利水放流ゲート、間に管理用小水力発電所の四角い放流口が2条、右手は流入水バイパスゲート。
訪問時は発電所は稼働していませんでした。
上流面
クレストゲートの間にはオリフィス高圧ラジアルゲートの予備ゲートがあります。
左岸のインクライン
船は浮桟橋に繋留され、人員用のインクラインが設置されています。
左岸公園部にあるモニュメント。
上流面が一望できる場所を探しましたが見つかりません。
手前の半島は7枚目写真を反対から見たものです。
(追記)
川上ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
1333 川上ダム(1982)
左岸 三重県伊賀市青山羽根
右岸 同市阿保
淀川水系前深瀬川
FNW
G
84メートル
334メートル
31000千㎥/29200千㎥
水資源機構
2022年
◎治水協定が締結されたダム