ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

丸山ダム 見学会

2024-08-29 08:00:00 | ダム見学会
2024年5月29日 丸山ダム 見学会
 
5月25日(土)から5泊6日で木曽川流域のダム巡りを計画し、最終日の5月29日(水)に国土交通省が管理する丸山ダム(元)のダム見学会に参加しました。
丸山ダム(元)では毎週水曜日に事前予約により定員6名までの見学会を実施しており今回はこれに申し込みました。
ところが見学会2日前から東海地方ではまとまった雨となり、28日には豪雨と呼んでもおかしくない激しい雨脚となり、丸山ダム(元)ではピーク時に毎秒最大2400立米の放流が実施されました。
丸山ダム管理所のホームページには、ゲート放流の際には見学会は中止と記されており見学会が行われるのかやきもきしましたが、見学会の直前には放流量が毎秒600立米まで減ったことから無事開催される運びとなりました。
ここでは丸山ダム見学会の詳細についてご紹介してゆきたいと思います。

見学会開始前にダムの下流にある丸山ダム展望台・まるっとテラスおよび丸山大橋からダムを望みます。
こちらはまるっとテラスから
ダム左岸(向かって右)では転流工を建設中
右岸(向かって左)のエンジの建造物の下には新丸山発電所があります。


これは丸山大橋から
丸山大橋では駐車の自粛要請があるので駐車場からてくてく歩きました。
5門のクレストゲートから放流中。
これで毎秒600立米ですがそれでも激しい放流。未明には毎秒2400立米の放流が行われました。


ズームアップ。


左岸で建設中の転流工
ダム完成後は放流設備の放流口として活用されます。


午後1時から見学会が開始
まずは簡単なレクチャーから。
今回は我が家夫婦のほか男性2名の計4名。
gooブログを通じて知り合い『木曽川大堰ダム研見学会』でもご一緒したMさんも参加されました。

 
現在の丸山ダム(元)の諸元や目的、運用のほか新丸山ダム(再)建設についても説明がありました。
以下は新丸山ダム(再)建設の進め方。
これについては国土交通省新丸山ダム建設事務所ホームページに動画が掲載されているのでそちらも参照ください。








20分ほどのレクチャーのあと、管理支所屋上から説明を受けます。


上記のように新ダムは左岸側から施工されるため、左岸で掘削が行われています。


橋台が設置されているあたりには転流工の取水工が新設される予定。


ケーブルクレーンも架設済み。



管理支所での説明を終え、マイカーでダムの天端へと向かいます。
再開発工事中のダムの天端にマイカーで乗り付けるというのもなかなかできない経験。


まずはエレベーターで監査廊に下ります。


エレベーターを降り監査廊へ
階段がさらに続きますが今回はここまで。


監査廊では地元の酒蔵のお酒が貯蔵されています。


プラムライン。


昭和20年代のダムということで、各所で炭酸カルシウムが染み出しています。


こちらはミニ鍾乳石の様相。


エレベーターで天端に戻ります。
エレベーターには昔ながらの手動の蛇腹がついています。


あまり見かけない日立のロゴ。


極めつけは積載量の表記
キログラムは漢字で『瓩』、初めて見ました。


天端に戻りました。
ダムを施工した『間組』の銘板
今でこそ中堅ゼネコンに甘んじていますが、かつては『ダムの間』と呼ばれダム建設の第一人者でした。


ゲート部前面にはキャットウォーク(歩廊)が設置されています。
普段ならここからゲートを間近に見ることができたんですが、今回は放流中のため立ち入れません。




毎秒600立米まで減ったとはいえ、間近で見る放流はかなりの迫力、轟音もすごい。


ダムの下流
かつては橋の手前右岸側に管理支所がありました。 


ピア上の巻き上げ機を見上げます。
放流がなければこちらにも昇れたんですが、今回はお預け。


前日までの大雨でダム湖も濁りまくり
写真左手に関西電力の発電用取水工があります。
新ダム建設ではこの取水工も水没するため、奥の橋台部分に新しい取水工が建設されます。


左岸から見た歩廊
前面の円形のバルコニーは昭和20年代らしい造形。


左岸では新ダム建設の備え絶賛掘削中
上部の法面はかなり出来上がっています。


タンクのある場所が新ダムのダム軸。


眼下の重機群がまるでおもちゃのよう。


最後に記念写真。


国土交通省中部地方整備局管内で今年から配布が始まった『ダム印』
丸山ダムには通常バージョンと見学会用バージョンの2種類があります。


2016年(平成28年)以来8年ぶりの丸山ダムでした。
今回は放流中ということで通常の見学会とは異なるメニューとなましたが、むしろ間近で放流を見れる方が希少な体験だったと思います。
新丸山ダム(再)の完成は2036年(令和18年)と14年も先。
今後も再開発の進捗に合わせて見学会に参加したいと思います。

大川ダム ダム研見学会

2024-07-16 20:18:28 | ダム見学会
2024年4月26日 大川ダム『ダム研見学会』
 
昨年8月に日本ダム協会よりダムマイスターを拝命以降、フェイスブックの勉強会グループ『ダム研』メンバーを中心に平均月1回ペースで見学会を開催してきました。
ゴールデンウィークに休みが取れない代休として4月25~27日に2泊3日で宮城・福島のダム歴訪を計画し、その中で宮城の大倉ダム、福島の新宮川ダム大川ダムの3基のダムで職員様同行による見学が叶いました。
ここでは国土交通省北陸地方整備局が管理する大川ダム見学の詳細を紹介したいと思います。
参加者は我が家夫婦とダム研メンバーで霞ヶ浦用水事業見学でもご一緒したIさん、ツイッターで知己を得た東北在住のKさんの計4人です。
大倉ダムについての詳細は『大川ダム』の項をご覧ください。
 
この日は新宮川ダムの見学、鶴沼川防災3ダムの取材見学に続いての大川ダム見学となり、一日で5基のダム見学イベントというのはこれまでにもないかなりのハードスケジュール。
約束の午後3時半前に何とか大川ダムに到着できましたが、右岸ダムサイトにある管理事務所に対しグーグルが左岸ダムサイトに案内したため、管理事務所まで500メートルを歩く羽目に…。
 
左岸駐車場から
手前から予備ゲートと運搬用のガントリークレーン、クレストラジアルゲート、選択取水設備という並び。


減勢工
減勢池の先で右に直角に折れる特徴的な造り。


天端は車両通行禁止。
昭和末期のダムでは珍しいガントリークレーン装備。




左岸の電源開発(株)下郷発電所
大内ダムとの間で最大100万キロワットの純揚水式発電を行います。


選択取水設備のプレート
ゲートは多段式シリンダーゲート。


ようやく管理事務所が近づいてきました。
右岸はロックフィルダム。


フィルダム下の大川ダムの植栽。


管理事務所に到着。
なんとか時間に間に合いました。
玄関には選択取水設備の模型が置かれています。


まずは大川ダムの概要について10分ほどレクチャーを受けます。


次にダム操作室の見学。




古いダムコンも残ります。


いよいよ見学スタート
まずは管理事務所屋上の通信アンテナを見上げます。
山上の反射板を使って情報通信やデータ収集を行います。

ダム湖の『若郷湖』
会津若松市と下郷町から一字ずつを取りました。


管理事務所裏手から見た上流面
万一の堤体越流に備え、フィル堤体保護のため重力式コンクリート部が一段低くなっています。


いよいよ監査廊へ。


節目の高さごとに表示があります。






ドレーン管。


ダム継目漏水量測定孔
文字通り、ダムの継目からの漏水量を計ります。


EL363.5メートルまで下りたら中段の監査廊に到着。


いったんダム下流面に出ます。


目の前には右岸側の『カド』。


EL366.5メートルの中段の監査廊を進みます。
『カド』に合わせて監査廊も屈曲しています。


逆アングルから。


その先の監査廊は『たいむとんねる フォトギャラリー』。


建設中の貴重な写真など、時系列で写真が展示されています。


ダム建設中の写真が多数。




ダム建設に併せて当時の会津線は移設されました。
こちらは移設前の舟子駅
さらに1987年(昭和62年)の会津鉄道転換に合わせ『大川ダム公園』駅に改名されました。
駅名にダムがつく数少ない駅です。


会津線時代のC11蒸気機関車。


こちらは1996年(平成8年)放送のTBSドラマ『風葬の城』のロケ風景
辰巳琢郎さん主演の浅見光彦シリーズです。


刑事役の小松政男さん。


主演の辰巳琢郎さん。


ダムの四季の風景や過去のイベント写真も展示されています。




最後にEL335の下部監査廊へ。


ダム案内図。


最下層の三角堰漏水計。


エレベーターで天端に戻り職員さんと記念写真。


大川ダムには展示館が併設されていることもあり、見学会は操作室や監査廊の見学にとどまります。
しかし、阿賀野川本流唯一の多目的ダムについてその目的や運用について詳しく知ることができたのは大きな収穫です。
もりみずイベントでは下郷発電所の見学や巡視艇乗船体験などもあるので機会があればそちらも参加してみたいと思います。


新宮川ダム ダム研見学会

2024-06-25 08:00:00 | ダム見学会
2024年4月26日 新宮川ダム『ダム研見学会』
 
福島県会津美里町にある新宮川ダムは、例年4月~5月の融雪期には18門のクレスト自由越流頂から融雪放流が行われ、その美しさ故に『東の白水堰堤』とも呼ばれ、ダム愛好家間では春の風物詩になっています。
しかし、ダム構内の立入りは制限されダムは左岸下流側とダム湖上流からの遠望に限られています。
一方、福島県 新宮川ダム管理所ホームページには事前予約でダムの見学が可能な旨が記されています。
昨年8月に日本ダム協会よりダムマイスターを拝命以降、フェイスブックの勉強会グループ『ダム研』メンバーを中心に平均月1回ペースで見学会を開催してきました。
2024年(令和6年)4月は、ゴールデンウィークに休みが取れない代休として4月25~26日に休暇を獲得し2泊3日で宮城・福島のダム歴訪を計画、その期間中、宮城の大倉ダム、福島の新宮川ダム大川ダムの3基のダムで職員様同行による見学会を実施することになりました。
さらに新宮川ダム見学に併せて、同ダムの受益組織である『会津宮川土地改良区』が操作を受託している鶴沼川防災ダムについてもダムマイスターによる取材という形で取材見学の許可を頂きました。
ここではまず福島県農林水産部が管理する新宮川ダム見学会について紹介したいと思います。
新宮川ダムの詳細については『新宮川ダム』の項を、鶴沼川防災ダムについては『宮川ダム』『二岐ダム』『栃沢ダム』の項をご覧ください。
 
2024年(令和6年)4月26日、見学会の開始は午前10時からですがその前にダム下へ。
例年ですとゴールデンウィーク前のこの時期に融雪放流が行われるのですが、今年の冬は記録的な少雪。
そのため融雪放流も前倒しとなり残念ながら放流はちょろちょろ。


国道401号線松坂第1トンネル内に新宮川ダムへの管理道路入口があります。
関係者以外立入り禁止の管理道路を進むと目の前にダム湖とダムの上流面が現れます。
灌漑期を控えダム湖は満水。


手前は表面取水設備、対岸の建屋は艇庫。


水利使用標識
会津宮川土地改良区管内4490ヘクタールの農地が受益地となります。
水稲向けが主となりメインの灌漑期は5月6日~9月10日ですが、畑地や果樹園地も受益対象のため、水利権は年間を通して配分されています。


管理事務所の玄関。


玄関わきの定礎。


まずは、ダムの操作室でダムの概要や運用方法について説明を受けます。
ここには福島県農林水産部の職員さんおよび会津宮川土地改良区の職員さんが常駐されます。


いよいよダムの見学開始
普段立ち入れない場所の見学はいつもドキドキです。


天端は4メートル幅。
堤頂長は323メートルに及びます。


左岸ダムサイトに石碑が2基
こちらは竣工記念碑。


裏には会津宮川農業水利事業の説明。


こちらにはダム湖である『会津美里湖』と刻されています。


新宮川ダムのキャラクターの『はかせくん』
『はかせ』は近接する博士山に由来し、博士山で営巣するイヌワシをモチーフにしています。


いよいよ監査廊へ。
2004年(平成16年)の竣工から20年
内部のコンクリートは白くきれいな状態が保たれています。


左岸ダム下へ。
豪雪地帯ということで、積雪期用にシェルターつき通路が設けられています。


こちらは小水力発電所で最大出力は1100キロワット。
管理は会津美里土地改良区が行い施設管理用電力として利用され、余剰電力は東北電力に売電します。
中は見学できず。


発電所の水利使用標識。
最大取水量は2.6立米/秒、最大出力は1100キロワットですが、見学時は1.8立米/秒を取水し約600キロワットの発電を行っていました。


発電所に隣接する放流設備内部
大口径および小口径の2門のジェットフローゲートを装備。
向かって左が主ゲート、右が副ゲートになります。


放流設備のプレート。


取水設備及び放流設備の図面。


向かって左手が小水力発電所。
右手は放流設備。


ダム直下の管理橋から
ここから融雪放流を見たかったなあ!!






底部監査廊を進みます。


排水ピット。


プラムライン。


三角堰漏水計。


揚圧計。


右岸の監査廊階段
新宮川ダムにはエレベーターはありません。


堤高69メートルの登り返しですが、すでにバテバテの方も…。


右岸から下流面。
農業用コンクリートダムとしては珍しく堤頂部を自由越流頂が占めます。


上流面。


艇庫の内部
豪雪地帯らしく巡視艇だけじゃなく除雪機やスノーモービルも格納されています。


天端から見た艇庫。


天端からダム下を見下ろす。


左手は先ほど見学した管理用発電所と放流設備。


天端から1.4キロ下流の宮川ダムを遠望
1962年(昭和37年)竣工の農地防災ダムです。

 
ダム湖は会津美里湖で総貯水容量1032万立米
本州の農業用ダムとしては屈指のスケールを誇ります。


堤頂部にあるプラムライン。


最後に取水設備へ
農業用ダムですから表面取水となります。


これにて約1時間45分の新宮川ダムの見学は終了。
基本的に見たいところはすべて見せて頂ける充実した内容となりました。
上記のようにこの冬は記録的な少雪のため、融雪量が少なく灌漑期に向けた貯留など関係者一同大変なご苦労をされています。
ご多忙の中、丁寧な対応をしていただきました福島県及び会津宮川土地改良区の皆様には厚く御礼申し上げるとともに、今年一年大きな災害なく安定した灌漑用水の補給ができますことを心より祈念申し上げます。

この後は宮川ダム二岐ダム栃沢ダムのいわゆる鶴沼川防災ダム群の取材見学となりますが、それはまた別項で。

大倉ダム ダム研見学会

2024-06-12 08:00:00 | ダム見学会
2024年4月25日 大倉ダム『ダム研見学会』
 
昨年8月に日本ダム協会よりダムマイスターを拝命以降、フェイスブックの勉強会グループ『ダム研』メンバーを中心に平均月1回ペースで見学会を開催してきました。
ゴールデンウィークに休みが取れない代休として4月25~27日に2泊3日で宮城・福島のダム歴訪を計画し、その中で宮城の大倉ダム、福島の新宮川ダム大川ダムの3基のダムで職員様同行による見学が叶いました。
ここではまず宮城県土木が管理する大倉ダム見学の詳細を紹介したいと思います。
参加者は我が家夫婦とダム研メンバーのYさん、Kさんのほかツイッターで知己を得た東北在住のダム愛好家お二人を加えた計6人です。
大倉ダムについての詳細は『大倉ダム』の項をご覧ください。
 
2024年(令和6年)4月25日、午前中に鳴子ダムのすだれ放流を見た後約束の午後1時前に大倉ダム右岸ダムサイトにある管理事務所前に集合。
 

今回ダムを案内、解説していただくのは大倉ダム管理事務所の技術次長様、技術主幹のお二人です。
管理事務所内で簡単なレクチャーを受けた後見学開始。
まずはダム操作室。






操作盤はパソコンを使った最新のものに置換されていますが、古いダムコンも残っています。


管理事務所内に掲示された完成直後の写真
当時は中央のスラストブロック(人工アバット)上に管理事務所がありました。


建設中の貴重な写真も残っています。




ダムの上流には名刹『定義如来 西方寺』があります。
こちらは大正期の観光絵図でダム地点は西方寺参詣途中の風光明媚な渓谷だったようです。


机の上には配布予定の大量のダムカード。


管理事務所からダムの天端へ移動します。
ダム右岸の大倉ダムバス停。赤が鮮やか。


上流面
こちらは右岸側の非越流アーチ堤体。


同じく右岸側のアーチ堤体下流面。
右奥がスラストブロック


アーチ堤体とスラストブロックの間にはくびれがあります。
スラストブロックは堤体を面というよりは点で支えている感じ。


左岸側のアーチ堤体下流面。

クレストはローラーゲート4門でゲートピアは鉄骨製。


減勢工。
手前には非常用放流バルブ、奥には左岸農業用取水管があります。


非常用放流バルブをズームアップ
大倉ダムでは利水放流や水位低下放流は発電所経由で行われますが、発電所の点検や改修際にこのバルブが使用されます。


天端は県道55号線
交通量の多い土日祝日は時計回りの一方通行となります。


ダム建設地点周辺は全幅200メートル程度の渓谷ですが、左岸側が深く浸食され大倉川の流路になり右岸側は河岸段丘となっています。
下流にアーチ型の副ダムがあり、右手段丘上はダム下公園です。


左岸から見たスラストブロック
アーチ堤体との接続点にくびれがあるのが分かります。


ゲートピア横には艇庫があります。
格納された巡視艇。


超広角で左岸アーチ堤体下流面。


24ミリで。


先述の非常用放流バルブ。


こちらは左岸農業用水取水管
広瀬川沿岸の仙台市大倉川土地改良区に専用水路で灌漑用水を供給します。


左岸農業用水の水利使用標識。


東北電力大倉発電所の取水口
昭和30年代ということで大掛かりな取水設備になっています。
主要な利水のほか、水位低下放流などもここを経由して行われます。


発電所の水利使用標識。


アーチ堤体と接続する県道55号線の橋梁
地震等の際に堤体に圧力がかかるのを防ぐため、ダム側は橋台に乗っているだけ。


車でダム下に移動します。
ダムの下流400メートル地点にある東北電力大倉発電所
もともと当地には水路式の旧大倉発電所がありましたがダム建設で水没するため新たな発電所に置換されました。
最大出力は5200キロワットでダムに発電容量はなく利水従属発電となります。
この発電所からの放流水が下流で灌漑・上水・工水として利用されます。


左右二つのアーチ堤体を支えるスラストブロック。


洪水吐を備えた左岸側のアーチ堤体。
手前にはダムカード風の写真フレーム。


ダム手前にはフェンスがあり一般の見学はここまで。


フレーム越しに。


ゲートをズームアップ。
例年ゴールデンウィーク前のこの時期は融雪放流が見られるのですが・・・・
今年は記録的な少雪の影響で放流はなし。


もう少しダムに接近して見たかったのですが、見学はここまで。
最後に記念写真。


見学会といってもといっても見学コースは一般の見学とほぼ変わりません。
でも常時職員様随行ということで逐次解説を聞きながらの見学は内容が濃く、参加者一同全国でたった一つしかないダブルアーチを堪能しました。
翌日は福島県の新宮川ダムと大川ダム見学のダブルヘッダーに加えて、鶴沼川防災ダム群取材見学という過密日程です。

霞ヶ浦用水 ダム研見学会 後編

2024-05-26 08:00:00 | ダム見学会
2024年4月22日 霞ヶ浦用水『ダム研見学会』後編

霞ヶ浦用水管理所から約36キロ、車で50分ほどで南椎尾調整池に到着。


南椎尾調整池よりも貯水池名である『つくし湖』の名が通っています。
堤体には水資源機構の管理施設らしく『つくし湖』と書かれています。


右岸にトイレのある駐車スペースがあり、ここに車を止めます。
駐車場わきの『国営霞ヶ浦用水農業水利事業』の説明板。


こちらには霞ヶ浦用水事業化に至る経緯が説明されています。
もともとは農業用水の導水が当事業の発端でした。


駐車場わきには筑波トンネル掘削の際に使用されたベルトコンベアが展示されています。


まずは調整池を歩いて一周します。
右岸から
見た目はアースフィルのようですが、ダム便覧ではロックフィル。
堤高27.4メートル、堤頂長は400メートル。


天端は2車線幅で舗装されていますが、車両は進入禁止で徒歩のみ開放。


上流面は花崗岩で護岸。
筑波トンネル掘削の際に掘り出した花崗岩を使っています。


天端からの眺め
奥の山並みに至るまで、眼前に広がる農地はすべて霞ヶ浦用水の受益地です。
ちなみに奥の山は観音で有名な富谷山で山の向こう側は焼き物で知られた益子になります。


貯水池のつくし湖は総貯水容量56万立米
ため池でいえば中の上クラス
左奥に筑波山が聳えます。

 
左岸の横越流式洪水吐
灌漑期を控えてほぼ満水。


左岸から下流面。


左岸の石碑には『つくし湖調整池』
正式名称と貯水池名がごちゃ混ぜになってると思いきや、国土地理院地形図では『つくし湖調整池』の表記。ややこしい。


隣には霞ヶ浦用水の事業説明およびつくし湖(南椎尾調整池)の諸元表・断面図
これによると南椎尾調整池は傾斜コアですが、型式はアースフィルっぽい。


洪水吐導流部。


上流からみた横越流式洪水吐。


上流面
草は生えていますが、白い花崗岩の石積みが美しい。


左岸湖岸にある建屋は神郡幹線向けの取水設備。
南椎尾調整池の南方、つくば市の桜川左岸地帯に灌漑用水を供給します。


つくし湖右岸にある南椎尾調整池分水工を遠望
霞ヶ浦用水筑波トンネルの出口で、ここで基幹線水路と南椎尾調整池に貯留する水を分水します。
向かって左にゲート、右手には水位計。


分水工の対岸、左岸にあるよく似た施設は『南椎尾調整池取水工』
基幹線水路は調整池湖底をバイパスしています。
これはつくし湖から基幹線水路への取水設備。


湖岸にある歌碑
『紫の 山を薬師の 影うつす 水辺に映えよ 若き桜木』
湖岸には桜が植えられ春は花で染まりますが、残念ながら訪問時は花は散った後。
薬師とはつくし湖東側高台にある薬王院のこと。


上流から堤体を遠望
ここからでもロック材の花崗岩の白さが際立ちます。


右岸の分水工にやってきました。


一般には立入り禁止ですが、今回は職員様同行で中を見学。


南椎尾調整池分水工のプレート。


つくし湖側から


南椎尾調整池の断面図と容量配分図。
基幹線水路は貯水池湖底を潜りサイフォンで導水されます。
有効貯水容量52万2000立米中、神郡幹線向け容量が44万立米、基幹線のタイムラグ調整容量が8万2000立米となります。


前方が貯水池になります。
右手が神郡幹線用ゲート、左は調整池への放水ゲート。


筑波トンネル吐口
ネットはゴミ防止かと思いきや、釣り対策用
分水工には大量のナマズが生息しており、道路からフライフィッシングで釣りをするバカがいたようです。


神郡ゲートはフラップ付きローラーゲート。


導流壁を挟み右手が調整池への流入口
左手は湖底を潜る基幹線水路。


アングルを変え貯水池側から見た分水工。


左がフラップのついた神郡幹線向けゲート、右が放水ゲート。


水位計。


分水工からみた取水工
つくし湖に8万2000立米配分された調整容量の取水工になります。


神郡幹線の取水用斜樋。


これにて霞ヶ浦用水の見学は終了
今回は3人だけでしたが充実した内容でした。


Iさんとお別れして小貝川の水管橋へ
サイフォンで小貝川を越えます。


農水用と都市用水用の水管が2本並びます。


今回は多忙な中、丁寧な対応をしていただいた水資源機構霞ヶ浦用水管理所および職員様には厚く御礼申し上げます。
霞ヶ浦では水資源機構による霞ヶ浦開発事業、および霞ヶ浦用水事業がともに竣工しています。
このほか国土交通省によりより柔軟な水運用を可能にするため、霞ヶ浦と利根川および那珂川をそれぞれ導水路で結ぶ『霞ケ浦導水事業』が進捗中です。
こちらの方も見学対応していただけるようなので、機会があればいずれ見学会を実施したいと思います。

霞ヶ浦用水 ダム研見学会 前編

2024-05-24 18:00:00 | ダム見学会
2024年4月22日 霞ヶ浦用水『ダム研見学会』前編
 
昨年8月に日本ダム協会よりダムマイスターを拝命以降、フェイスブックの勉強会グループ『ダム研』メンバーを募って、月に1度のペースでダムや水関連施設の見学会を実施してきました。
4月の見学会の場として選んだのが水資源機構が管理する霞ヶ浦用水事業です。
霞ヶ浦は湖面積220平方キロと琵琶湖につく我が国二番目の湖としてよく知られた存在です。
実はただの湖ではなく、1968年(昭和43年)~1996年(平成8年)に実施された霞ヶ浦開発事業によってダム化され、ダム便覧にも洪水調節・灌漑用水・上水道用水・工業用水を目的とする多目的ダムの『霞ケ浦開発』として掲載されています。
一方、霞ヶ浦用水事業は霞ヶ浦から水利に乏しい茨城県南西部15市2町に灌漑・上水道・工業各用水を導水する事業で1980年(昭和55年)に当時の水資源開発公団(現水資源機構)により着工され、2004年(平成16年)に竣工しました。
当事業には農林水産省、茨城県農林水産部、茨城県企業局が事業参加しこれらを総称して『霞ヶ浦用水事業』としています。
今回の見学会は茨城県かすみがうら市にある水資源機構霞ヶ浦用水管理所にお邪魔し事業のレクチャーを受けた後、管理所に隣接する揚水機場及び管理所から約35キロ離れた南椎尾調整池(つくし湖)を職員様同行で案内していただくという内容です。
参加者は我が家夫婦とメンバーのIさんの3人です。
 
2024年(令和6年)4月22日、約束の10時に対し9時45分ごろに管理所に到着しました。
向かって左手が管理所、右手が揚水機場になります。


敷地内には事業にかかわる様々な展示品や説明板があります。
こちらは玄関先にある霞ヶ浦用水の記念碑。


工事で使われたシールドマシンのカッター
一般的に管水路は開削して行われますが、高速道路や幹線道路、国道などと交差する場合推進工法で施工されます。
これはその際に使用されたもの。


カッターの説明板。


揚水機場で使用されるポンプの模型。


霞ヶ浦用水事業全体の水路が記載された概要図。


揚水機場の施設案内図。


基幹線水路は霞ヶ浦から筑波山をトンネルで貫通し受益地に導水します。
これは筑波山トンネルの地質縦断図
実際の岩石も展示され地質マニアには垂涎の模型。


入館する前からあれこれ見て回り、早くもテンション上がりまくり。
さて、午前10時から職員さんに約30分ほど事業のレクチャーをしていただきます。
実際にはビデオとパワーポイントを使った説明がありましたが、ここでは水資源機構の霞ヶ浦用水事業パンフレットを引用します。
霞ヶ浦用水の受益地は茨城県南西部15市2町ですが、このうち農業用水受益地は13市町の1万9300ヘクタール(水田1万900ヘクタール、畑地8400ヘクタール)となります。
農林水産省による『国営霞ヶ浦用水農業水利事業』に加え県営5事業、団体営3事業によりかんがい排水施設が整備されました。
これらの施設は運用開始後は霞ヶ浦用水土地改良区が管理を受託しています。
実は茨城県の農業産出額4263億円(令和2年度)は北海道、鹿児島県に次ぐ全国第3位となっており、霞ヶ浦用水は茨城の農業に大きく貢献しています。


上水道用水は県企業局『県南西広域水道供給事業』を通じ8市1町に供給しています。


工業用水は県企業局『県南西広域工業用水道事業』を通じ13市1町に供給しています。
そのうちビール製成量はシェ13%と全国1位を誇っています。


基幹線水路60キロのうち、水資源機構が管理するのは霞ヶ浦から鬼怒川までの53キロ部分です。
この間筑波山をトンネルで抜けるため、管理事務所に隣接する霞ヶ浦揚水機場から標高差56メートルをポンプアップしたのち、自然流下で基幹幹線終点の東山田揚水機場まで導水されます。


管理所玄関先にも掲載されていた事業概要図。
各水路のうち青い部分が水資源機構管理区間となります。


霞ヶ浦用水取水施設概要図
これを踏まえたうえで。


管理事務所屋上へ移動
左手が霞ケ浦、正面が吸水層で右手が揚水機場。


揚水機場
8か所の取水口が並びそれぞれ2重のスクリーンが設置されています。


吸水槽左岸側にあるのは霞ヶ浦土地改良区の出島揚水機場。
霞ヶ浦用水事業に合わせて、もともと霞ケ浦を水源としていた霞ケ浦西岸の既得灌漑用水が合口されたものです。
ちなみにこちらは『霞ヶ浦土地改良区』
一方県南西部の用水受益地は『霞ヶ浦用水土地改良区』とけっこうややこしい。


いよいよ揚水機場の見学です。
揚水用ポンプが8台並び奥5台が農水用、手前3台が都市用水用となります。
ポンプ8台の総出力は約2万5000キロワットで最大毎秒10.3立米の水を103メートル揚水する能力を持ち、完成当初は東洋一の規模を誇る揚水機場でした。


揚水機場の説明板。


渦巻型ポンプは一見発電機に似ていますが、発電機が水力で水車を回して発電するのに対し、揚水ポンプは電気の力で羽根を回し揚水します。
天井には巨大なクレーン。


ポンプはすべて日立製
奥の四角い箱が電動機で、横軸で手前の渦巻きポンプの羽根車を回します。

クレーンも日立製
最大荷重は50トン。


電動機の日立のプレート。


これにて午前の部は終了、
なんだかんだで1時間を超える見学となりました。
昼休みを挟んで午後は茨城県桜川市の筑波山西側山麓にある南椎尾調整池を見学します。
最後に管理所すぐ北側の高台にあるサージタンクへ。
点検や改修で揚水を止める際に、水の逆流により水路管が真空状態になり破損するのを防ぐ施設です。

後編に続く。

一庫ダム 内部見学

2024-04-28 08:00:00 | ダム見学会
2024年3月19日 一庫ダム 内部見学
 
3月中旬より奈良の実家に帰省することになり、その機を利用して一般の立入りが制限されている西宮市上下水道局が管理する丸山ダム見学許可を頂きました。
一方、丸山ダムが給水する西宮市北部の水道水の大半は兵庫県営水道からの受水となっており、その水源となっている水資源機構の一庫ダムも併せて訪問することにしました。
その際、一庫ダムのHPを見てみると、事前予約で職員ガイドによる内部見学ができることを知りました。
結果的に3月19日午前に丸山ダム及び浄水場、午後に一庫ダムをそれぞれ職員様同行で見学するという贅沢な一日となりました。

ここでは一庫ダム内部見学の詳細についてご紹介してゆきたいと思います。
一庫ダムの概要については『一庫ダム』の項を、丸山ダム・丸山浄水場に見学につていは『丸山ダム・丸山浄水場見学』の項をご覧ください。

内部見学前日に時間の余裕があったので、あらかじめ一庫ダムを見て回りました。
右岸ダム下から
洪水吐としてクレストラジアルゲート2門とコンジット高圧ラジアルゲート2門を装備
コンジットのゲートハウスは昭和50年代のダムらしく前面に張り出しています。


右岸上流から
右岸ダムサイトに管理事務所があります。


ゲートをズームアップ
左から選択取水設備
クレストゲートを挟んでコンジットの予備ゲートが並びます。

 
艇庫とインクライン
艇庫屋上は展望台になっています。


アングルを変えて
右岸からの上流面。


ダム湖上流から。
秋以降の少雨で今期の一庫ダムは記録的な渇水となっており、やや回復したとはいえいまだ貯水率40%前後。


管理事務所の駐車場に車を止めます。


約束の午後2時から見学がスタート。
管理事務所裏手から。




管理事務所わきから監査廊に入ります。


完成当時の航空写真
ダム建設とは別に周辺では大規模な宅地開発が進められ、ダムの建設残土は宅地造成に利用されました。
つまり盛土ってこと?


288段の監査廊階段が現れます。
てっきりここを下りるのかと身構えたら、エレベータで降りるとのこと。
ほっとしつつも残念な気も。


エレベーターで下に下ります。


上層から中層の監査廊へ。


監査廊内には電気や通信ケーブルが並びます。


地震計。
震度ではなくガルを計測します。


コンジットゲートハウスから洪水吐に架かる管理橋へ。
もとはグレーだったそうですが、赤く塗り替えられ通称『赤橋』。
一庫ダムの名物の一つです。


赤橋からラジアルゲートを見上げます。


こちらは減勢工と副ダム。


ゲートハウスに入ります。
意外と広々
右手は高圧ラジアルゲートの油圧シリンダー。
左手斜めに横たわるのは主にフラッシュ放流を行う利水補助バルブ。
一庫ダム名物のクロス放流はこれを使います。


ゲートは鮮やかなグリーン。
2002年(平成14年)の塗装の際に、当時の担当者が独断でこの色に塗り替え上司に大目玉を食らったとか?


ゲート操作は管理棟で行いますが、万一に備えゲートハウスにも操作機器が置かれています。


正面の主管ゲートから放流中。 


赤橋の下の穴が利水補助バルブで主としてフラッシュ放流の際に利用します。
左右同時に放流するのが一庫名物クロス放流です。


放流管とコンジットゲートのプレート
ともに今はなき田原製作所製。


常用洪水吐の説明版。


階段を下りゲートを間近で見学。
こちらも鮮やかなグリーン。




壁には吊り金具(吊りピース)
ゲートを分解整備(修理)する際に、分解した重量物の部品等をこれを起点に吊り建物内を移動させるために使用します。
これは過去の整備で設置した吊り金具で今後の整備作業等でも使用する可能性があるので残されています。


塗装記録
グリーン犬られたのは2002年(平成14年)
この時の担当者が独断でこの色にしたんですね。


エレベーターで最下層の監査廊に向かいます。


288段の階段を下から見上げます。
階段途中に転落防止用の黄色い柵が何か所も設置されています。


漏水計
上層や中層に比べるとコンクリートもさすがに湿った感じ。


排水ピット
一定以上の漏水が溜まるとここから排出されます。


監査廊ではおなじみ、プラムライン。



 
こちらは主管の予備ゲート。


放流管。


放流管据え付け工事の写真。


分岐管バルブ。


主管・分岐管はすべて酒井鉄工所製。


穴の向こうで主管から放流中。
水量が多いときは主管、少ないときは分岐管を使います。


ドアを開けると左岸ダム下に飛び出しました。
ここは立入禁止エリア、内部見学ならではの眺め。


さらに引いて。


副ダムには2基のゲートがついています。
副ダム堤頂には空気管が設けられています。
減勢池内の水位が増した際に水中でのゲートの開閉をスムーズにするための空気管です。


副ダムゲートの操作機器。


これにて約1時間半の見学は終了。
貸し切り状態で中身の濃い内部見学を堪能しました。
水資源機構一庫ダム管理所および丁寧に案内していただいた若い職員さんには厚く御礼申し上げます。
なお、一庫ダムでは事前予約により個人一人からの内部見学が可能です。
詳細は管理所ホームページをご覧ください。

三ツ森ダム見学・三ツ森ダム非灌漑期『ダム研見学会』

2024-01-23 08:00:00 | ダム見学会
2023年 3月17日 三ツ森ダム見学
 
東日本大震災から12年目、13回忌に当たる今年3月、鎮魂の意も込めて福島県のダムや溜池を回ることにしました。
そんな中、震災により堤体に亀裂が入るなど被災した福島県安達郡大玉村の三ツ森ダムについて、管理する大玉土地改良区にダムの見学をお願いしたところ職員様同行での見学許可がいただけました。
貴重な機会ですのでここではその詳細を記載したいと思います。

約束の時間よりも早く到着したので、見学可能場所からダムを撮影。
ダム左岸を通る県道146号線から
奥が堤体で堤頂長は205メートル、足元に斜樋があります。


もともと上流側は石積み護岸でしたが、復旧事業によりコンクリート護岸になっています。




ダムサイトに建つ赤い鳥居
この上に水神が祀られています。


職員さんが到着
門扉を開けていただきました。

天端
震災により堤頂部には長さ130メートル、深さ4~5メートルの亀裂が入りました。
即座に水抜き作業に取りかかりましたが、須賀川市の藤沼ダムの決壊もあり下流では住民の避難も行われました。


復旧工事では、既設堤体の上流面に傾斜コアを設置するとともに上流面全体と下流面下部に盛土を施し補強が行われました。
復旧事業により堤体積は26万5000立米から31万9000立米に増加
一方総貯水容量は72万立米から67万4000立米に減じました。


天端から下流を見下ろします。
下流側も下部で土が盛られ堤体が補強されています。


総貯水容量67万4000立米の三ツ森貯水池
4月中旬からの灌漑補給に備えてほぼ満水
バブル期に周辺でリゾート開発が進められ、立派な県道が建設されました。
しかし、バブル崩壊でダム下流にゴルフ場が建設されただけで開発はとん挫、結果、素晴らしい自然が残りました。
紅葉期にはもっと素晴らしい眺めになるんでしょう。


大きく湾曲した右岸の越流式洪水吐
1980年(昭和55年)にかけての大規模老朽ため池整備事業で改修されたものです。




よく見るとコンクリートがずれています。
改修事業さなかの1978年(昭和53年)の宮城県沖地震によりずれたとのこと。
洪水吐の安全性には問題ないのでそのまま使用されています。


建設当初の洪水吐は深さ2.5メートルでしたが、改修により6メートルとなり、また越流頂も延長され放流能力が拡大しました。


洪水吐導流部
上に量水計があります。
流下するのは山側ドレーンからの水。


ダム下に下ります。
減勢工は1991年(平成3年)にかけて改修されました。


左岸ダム下の取水設備からの樋門
非灌漑期のため河川維持放流だけ放流されています。


放流ゲートの先に幹線水路が伸びています。


河川維持放流用の分水
非灌漑期は大きなゲートを開放して維持放流を実施
灌漑期には大きなゲートは閉め、右手の小さなゲートから維持放流を行ないます。


維持放流は洪水吐減勢工下で七瀬川に合流。



擁壁は石積みで流路には石が敷かれています。
これは1939年(昭和14年)の竣工当時のもの。


ここから見ると、復旧事業で堤体下部に土が盛られたのが見てとれます。


堤体中段のゆがみ計。


再び天端に戻ります。
左岸の斜樋。




取水用のシャフトは6本。
このほか底樋ゲート2門を備えています。


各種データはリアルタイムで土地改良区に送られていますが、実際の操作はここで行います。




ダムの下流約1キロにある長井坂円形分水
かつて不買運動にまで発展した激しい水争いがあったとこから、視覚的に分水の公平感が実感できる円形分水が採用されたそうです。
百日川と安達太良川に3対2の割合で分水され、灌漑補給が始まる4月中旬から通水されます。


今回はダムを管理する大玉土地改良区様のご厚意によりダムの見学が叶いました。
同土地改良区はわずか職員2名(その後3名に増員)で運営されており、所々多忙の中厚く御礼申し上げます。
大玉村は人口9000人弱の村ではありますが、大いなる田舎を標榜し『メガソーラー望まない宣言』を村議会で可決するなど、豊かな自然との調和を図る政策を打ち出しています。
さらに奇しくも、訪問直後の3月26日の日本テレビ『鉄腕ダッシュ』の舞台はなんと大玉村。
これを機に、個人的にも大玉村を応援してゆきたいと思っています。

2023年12月14日 三ツ森ダム『ダム研見学会』

非灌漑期で水が抜かれた同年12月に再び職員様同行での見学会を実施しました。
今回は天端及び貯水池内での見学となります。
左岸の県道から
水がないので復旧工事で盛土で肉付けされた部分がよくわかります。


肉付けに合わせて傾斜コアも設置されました。


水位が低いので斜樋の6門の取水ゲートすべてが姿を見せています。


天端へ移動
例年灌漑期終了後に水を抜き12月から貯留を始めるのですが、今年は底樋に土砂が滞留したため流水で流下させるため12月半ばまで低水管理が続いたとのこと。


貯水池内へも立ち入らせていただけました。
職員さんに続き斜樋脇の階段を下ります。


斜樋を見上げます。
こんなアングルで斜樋を見る機会はなかなかありません。

一か月以上水が抜かれていたので、ぬかるむことなく進めます。


さらに貯水池を進み土砂吐ゲートへ。
もともとは斜樋近くにありましたが、復旧工事で上流側に新しいゲートが新設されました。


コンクリートで護岸された上流面を上ります。


再び天端へ。
土砂吐ゲートを閉めると、1日もたたずにゲートは水に没するそうです。


水がない状態での横越流式洪水吐。


3月に続き、今回は水が抜かれた状態でダムを見学させていただきました。
普段水中に没している復旧工事による盛土部分や斜樋、土砂吐ゲートなどを間近に目にし。ため池の構造についてより理解が深まりました。
大玉土地改良区様には返す返す御礼申し上げます。

須川ダム『ダム研見学会』

2024-01-21 07:55:27 | ダム見学会
2023年11月27日 須川ダム『ダム研見学会』

11月後半に4泊5日で東海から近畿のダムを回り、その過程で木曽川大堰と須川ダムの2か所でダム見学会を開催しました。
須川ダムを選んだ理由は2点あり、普段は立ち入りが制限されていること、さらに全国で2基しかない市町村が管理するアーチ式コンクリートダムという希少性からです。
上水ダムということで見学のハードルは高いと思われたのですが、事前にダムを管理する奈良市企業局に問い合わせたところ意外にあっさり見学許可が下り逆に拍子抜けしてしまいました。
奈良市企業局では主として学校の社会見学を想定して見学対応をしていますが、個人ベースでも日程の都合が合えば見学の受け入れを行っているそうです。
ただし、見学者に奈良市民(奈良市に住民票のある者)が1人以上いることが条件となります。
今回はダム研メンバーのほか既知のダム愛好家に声をかけ、総勢6名での見学会となりました。
須川ダムの概要については『須川ダム』をご覧ください。

ダムには南北2か所から道が通じています。こちらは南側の門柱にある『須川ダム』のプレート


こちらはメインとなる北側の入り口。
普段はこのようにゲートが閉じられ立ち入りできません。


こちらにも同様の『須川ダム』のプレート。


職員さんにゲートを開けていただきダムサイトへ向かいます。
管理事務所前の案内板。
描かれているのは奈良市水道事業のキャラクター『なみか』ちゃん
頭から角が生えているところはせんとくんと同じですが、キャラとしてはこちらが先。


『須川貯水池』の記念碑。


ダムの竣工は1969年(昭和44年)
2年後の1971年(昭和46年)より運用が始まりました。


水利使用標識。


『奈水』と書かれた境界石
でもここは境界じゃなくダムの敷地内なんですが…。


左岸高台からダムを見下ろします。
小ぶりなアーチダムですが円形取水塔との組み合わせが秀逸。


ズームアップ。 


こちらは布目川・白砂川からの自然流下水源導水路流入口。
奈良市企業局は前川に水利権はなく、上水道用水はすべて布目川・白砂川からの導水に依ります。


ダムサイトには説明版が4枚設置されています。
こちらは自然流下水源導水路の説明板
須川ダムは自然流下水源導水路の調整池で、布目川・白砂川から導水された水はいったんここに貯留されたのち専用管で緑ヶ丘浄水場に送られます。
須川ダム経由で日量15万立米の水が送水され、これは奈良市水道事業の全体の6割強にあたります。


ダムの諸元。


曝気装置とダム及び取水設備の断面図。


ダムはドームアーチ、取水設備は多孔式選択取水となります。
奈良ということで大きさの比較の対象は大仏様。


いかにも学校の社会見学用という説明板。


左岸ダムサイトに下ります。
こちらは艇庫。


ダム上流面
洪水吐としてクレストローラーゲート4門を装備。


ダムと取水塔。


昭和40年代のダムとしては珍しい円形取水塔。
多孔式選択取水設備になります。


左岸から
ドームアーチが体感できます。


ダム下の建屋はバルブ室
その背後に突き出た感がプラムライン。
プラムラインがこんな風に見えるのもドームアーチならでは。


バルブ室と放流バルブ
事前放流など水位低下用です。


天端はゲート部分だけ高くなっています。


副ダムの先はそのまま前川となります。




こちらが河川維持及び既得水利権向けの放流設備
上記のように前川には水利権がないので、前川の流入量はここから放流します。


ゲートは堤体右岸寄りにあり減勢工は堤体に対し左向きに傾いています。




キャットウォークと細い管理用階段。
残念ながら現在は堤体右岸側およびダム下の見学は実施しておらず見れるのはここまで。


こちらは左岸にあるインクライン


最後に記念写真。
ここで解散。


ダムの見学を終えた後は、普段唯一須川ダムの展望スポットとなる上流の橋へ
貯水池は総貯水容量79万7000立米。


ズームアップ
堤体の一部と取水塔がかろうじて見えるだけ

こちらは布目川取水場。
もともとあった布目川の水利権に加え、布目ダムの水利権が加わり奈良市の水道事情は大きく改善しました。


上流からの布目川取水場と水利使用標識。


取水場の先には沈砂池。
ここから白砂川取水場を経由して須川ダムに送水されます。


沈砂池の擁壁には、『自然流下式水源導水路竣工碑』が嵌め込まれています。


白砂川取水場へは隘路のため訪問を断念。
現地に赴いたダム仲間のYさん撮影の写真をお借りしました。


上流から。
同じくYさん撮影の写真。

最後に布目ダムの写真
今回は須川ダムに先立ち見学しました。
水資源機構が管理する多目的ダムですが、利水に限定すれば奈良市水道事業のためのダムです。


今回は参加者6名に対し職員様3名での手厚い対応をしていただきました。
奈良市企業局の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。

木曽川大堰『ダム研見学会』

2024-01-05 17:23:27 | ダム見学会
2023年11月24日 木曽川大堰『ダム研見学会』
 
今年8月に日本ダム協会よりダムマイスターを拝命し、従来のダム活動に加え私が主催するダム勉強会グループ『ダム研』メンバーを中心にした見学会の企画・実施を活動の柱とすることにしました。
そして11月2日の蔵王ダム見学会に次いで見学会の場として選んだのが水資源機構が管理する木曽川大堰です。
木曽川大堰を選んだのは、木曽川本流にある河川法上のダムの中で唯一未訪物件であること、さらに今年4月に木曽川用水上流事業の調整池である蜂谷調整池を訪問し、木曽川用水事業についてもっと深く知識を得たいと考えたからです。
今回は既知のダム愛好家に声がけし結果的に計4名での見学会となりました。
なお木曽川大堰の概要については『木曽川大堰』の項をご覧ください。
 
こちらは木曽川大堰を管理する水資源機構木曽川用水総合管理所の正門。
普段は関係者以外立ち入り禁止です。


御影石の親柱
『独立行政法人 水資源機構 木曽川用水総合管理所』と記されています。


こちらはちょっと古びた管理所の玄関。
見学会は13時から、30分ほど前に到着しメンバーの到着を待ちます。


敷地内にある木曽川用水通史20周年記念碑。
○○豊潤
○○が分からない。


こちらも敷地内にあるモニュメント
水資源機構の前身、水資源開発公団と記されています。


いよいよ見学会の開始。
まずは職員様による木曽川用水事業についてのレクチャー。
約40分にわたり詳細な説明を受けました。


木曽川用水事業は馬瀬川にある岩屋ダムを水源とし、美濃加茂周辺の木曽川右岸地区を受益地とする上流部事業と、木曽川下流沿岸の濃尾第二地区を受益地とする下流部事業に大別されます。
木曽川大堰は下流部事業の取水堰です。
木曽川用水総合管理所は木曽川大堰の管理・運用のみならず、上流部事業・下流部事業・長良川河口堰を取水堰とする長良導水事業を統合管理するほか、発電や愛知用水等他の利水事業者と綿密に情報交換を行い適正な配水管理を行っています。


堰長587メートル、堤防間距離735メートルで木曽川を締め切る木曽川大堰の説明。


レクチャーの後は管制室で具体的な管理業務についての説明を頂きますが、保安上の理由もあり写真は割愛。
こちらは管理所屋上からの木曽川大堰の眺め。
手前に取水口があります。


こちらは静水池。


ズームアップ
静水池の『ハ』の字型の導流堤で水流を整えます。


手前が除塵機
その先が流量計。
奥が主要幹線となる海部幹線水路
ここから濃尾第二地区に灌漑用水及び都市用水を供給します。

木曽川大堰そばに向かいます。
手前は取水口主ゲート。


ここから先は普段は立ち入り禁止。


まずは下流側から
木曽川大堰は土砂吐ゲート2門、調節ゲート3門、洪水吐ゲート9門のほか、舟通し1か所、魚道3か所を備えています。


こちらは調節ゲート
平時はここから放流します。


閘門と呼ぶのが一般的ですが、木曽川大堰では舟通しと呼びます。


左岸の魚道。


ゲートハウスを見上げます。
木曽川大堰と水資源機構のシンボルが貼られています。


手前2門は土砂吐ゲート
ゲートの下部から土砂を排出し、手前にある取水口への土砂の流入を防ぎます。


こちらが取水口。


アングルを変えて
2か所のスクリーンで塵芥や流木の流入を防ぎます。


暗渠の先には取水ゲートがあります。
こちらは主ゲート。
左奥は管理所で先ほどはあの屋上から大堰を見下ろしました。


堤防から
取水ゲートは2か所あり静水池手前のこちらのゲートは予備ゲートになります。


静水池側からの取水ゲート予備ゲート。


水利使用標識。
この取水口からの認可取水量は最大毎秒34.02立米、
灌漑用水の受益面積は7878ヘクタールに及びます。


ちょっと見づらいですが除塵機のスクリーン。
流入口2か所のスクリーンで捕捉できない塵芥をここで捕捉します。


こちらが除塵機。


除塵機の先の流量計。


流量ゲートの銘板。
ゲートは丸島水門(現丸島アクシア)製。


これは水質観測設備。


流量計越しの除塵機と取水ゲート。


静水池わきの馬飼東分水工
木曽川大堰は85か所の灌漑用取水口を合口しましたが、こちらもその一つ。
ここから受益農地へ分水されます。


最後に管理所裏手の利水神社へ。
ここにはかつて木曽川下流部の最大用水だった佐屋用水取入れ口である佐屋川樋門がありました。

 
佐屋用水の説明板。

利水神社の社
この奥に佐屋川樋門がありました。


佐屋用水の記念碑裏面。
用水建設に至る由来や経緯が詳細に刻されています。


表には佐屋川用水樋門の銘板が嵌め込まれています。


木曽川用水総合管理所では原則学校の社会見学等への対応のみで個人での見学は受け付けていません。
今回はダムマイスターとして見学をお願いし、特別のご配慮で見学が叶いました。
対応していただいた水資源機構木曽川用水総合管理所の職員の皆様には厚く御礼申し上げます。
これを機に改めて木曽川の利水や治水について統合的に学びたいという意を強くしました。
今後、機会があれば木曽川水系のダムや頭首工などを改めて訪問したいと思います。

蔵王ダム『ダム研見学会』後編

2023-12-26 17:11:43 | ダム見学会
2023年11月2日 蔵王ダム『ダム研見学会』後編
 
蔵王ダム『ダム研見学会』前編では、ダムの天端から堤体内部の上部監査廊の見学内容について紹介しました。
ここではその続編、管理事務所からダム下、そして堤体内下部監査廊の見学について紹介したいと思います。

前編同様まず山形県県土整備部ホームページ内の蔵王ダム平面図を添付します。
中空ダムといっても堤体内部がすべて空洞というわけではありません。
いわゆるダイヤモンドヘッドでブロックごとに中空空間が仕切られています。
これを踏まえたうえで・・・・


管理事務所内の見学。
右手は古いダムコンで近々更新予定とか。


コンジットゲートの模型
社会見学の子供向けの模型ですが、真鍮製でかなりの出来栄え。


管理事務所の窓から
ダムの全景はここからの眺めが一番。


見学はすでに2時間を経過。
今度はダム下に移動します。
蔵王ダムは堤頂長273.8メートルとコンクリートダムとしてはかなりの横長。
放流設備は右岸側に偏っています。


非常用クレストゲート2門、常用コンジットゲート1門
利水放流用ジェットフローゲート1門
コンジットゲート上部の穴は先ほど外を覗いた空気孔になります。


天端からは見えなかったクレストラジアルゲート。


堤体から突き出た水圧鉄管は利水用の管路です。
中段に分水工があり、左手のジェットフローゲートとダム下流にある管理用小水力の蔵王ダム発電所に分水されます。


水圧鉄管をズーム
前方彼方の高架橋は上水用の水路管。


振り返ると
奥の蔵王ダム発電所に続く水路管
右手は洪水吐減勢工。


水路管の接続部。


建設時のドリル跡。

ジェットフローゲートのバルブ。


ゲート操作室の裏手からクレストゲート導流部を見上げる


再び堤体内へ。
今度は下部から中空を見上げます。


監査廊ではおなじみ三角堰漏水計。


こちらは堤体内仮排水路のあるブロック
基礎岩盤である花崗閃緑岩が露出。
堤体内で岩盤が露出しているのも中空ダムならでは。


見上げるとまるでダイヤモンドのような光景
先ほど歩いた上部監査廊がはるか上に見えます。




今度はプラムラインと排水ピットのあるブロックに移動。
こちらはプラムライン。


プラミラインを見上げます。
頂上部にかかるのが上部監査廊。


こちらは前編でも紹介した上部監査廊から見たプラムライン。


中空内部に置かれた定礎石。


排水ピット。


こちらも上部監査廊からの写真。

最後に管理用小水力発電所である蔵王ダム発電所へ。
水利使用標識。


認可出力484キロワット
最近塗装が塗りなおされ青が鮮やか。

最後に集合写真。



事前に精鋭ぞろいとお伝えしたせいか?参加者9名に対し職員様4名体制で対応していただきました。
さらにあれも見たいこれも見たいという無茶ぶりにも快く応対して頂き、通常1時間程度のメニューのところなんと3時間にもわたる濃い内容の見学会となりました。
マイスターとして初の見学会で幹事役としては不慣れな部分もあったかと思いますが、参加者の皆様には十二分に満足していただける会になったのではと自画自賛しております。
それもこれも山形県村山総合支庁建設部山形統合ダム管理課の職員の皆様のおかげと感謝の気持ちに堪えません。
改めて厚く御礼申し上げます。

蔵王ダム『ダム研見学会』前編

2023-12-25 16:42:02 | ダム見学会
2023年11月2日 蔵王ダム『ダム研見学会』前編
 
今年5月に当面の目標であった2000ダム訪問を達成、これを契機にこれまでの自分の欲求のためだけのダム活動からもう少し幅を広げてみようと思い、日本ダム協会のダムマイスターに応募し8月に拝命しました。
これまでもただダムを見て回るだけじゃなく、このブログで訪問したダムを紹介するとともにダム便覧への写真の提供、フェイスブックでのダム勉強会グループである『ダム研』の主催などの活動を行ってきました。
マイスター就任後は、さらにダムの周知・広報の一助になるとともにダムへの理解を広く深めるために『ダム研』メンバーをベースにした見学会や勉強会を企画・実施してゆこうと考えました。
その第一弾として選んだのが山形県山形市にある蔵王ダムです。
蔵王ダムを選んだ理由としては、全国で13基しかない希少な中空重力式ダムであること、さらに普段は立ち入り規制が多く見学ポイントの少ないダムであることなどです。
山形県県土整備部が管理するダムでは参加者5名以上でのダムの内部見学が可能です。
今回は『ダム研』メンバーから参加者を募り無事見学会実現にこぎつけました。
ここではその詳細についてご紹介してゆきたいと思いますが、写真が70枚近くになるため前編・後編に分けてアップしたいと思います。
またダムの一般的な内容については『蔵王ダム』の項をご覧ください。

見学を紹介する前に山形県県土整備部ホームページ内の蔵王ダム平面図を添付します。
中空ダムといっても堤体内部がすべて空洞というわけではありません。

いわゆるダイヤモンドヘッドでブロックごとに中空空間が仕切られています。


まずは下流面
ここは普段唯一ダムの全容が望める見学ポイントです。
中空ダムらしく襟はなく堤頂部からスロープが始まります。

ダムサイトの説明版。

 
上流面
水面直上からダイヤモンドヘッド、通称『たこ足』が見えます。


少しズームアップして
手前は艇庫で船はクレーンで昇降させます。
最奥の赤いゲートはコンジット予備ゲート。
注目すべきは艇庫のすぐ先の取水設備、黒いレールのようなものが見えますが蔵王ダムの取水設備は珍しい『ヒンジ式』です。


右岸ダムサイトから天端を進みます。
近年の改修で高欄がかさ上げされ路面も再舗装されました。

ダムの銘板。


蔵王ダムには取水設備が2か所あります。
こちらは左岸側の山形市への上水用取水設備から延びる水路管。
専用管で浄水場まで送水されます。

上で紹介した艇庫内の巡視艇
乗船したまま船を昇降させるそうです。
怖いけど乗ってみたい。


このマンホールの下にはプラムラインが設置されています。
後ほど中の様子も紹介します。


水位計
正副2台あり右が正のフロート式、左が副の水晶式。


蔵王湖と命名されたダム湖は総貯水容量720万立米。
奥の山は北蔵王雁戸岳
紅葉は見ごろなのですが曇天に加えて靄っぽいあいにくのお天気。


こちらは10月半ばに職員さんが撮った写真
風がなく湖面が鏡面のようです。


水利使用標識。
水道・水力発電と書かれていますが、こちらは山形市向け上水道用水の水利権。


ヒンジ式取水設備
右手はワイヤーの案内滑車でワイヤーの巻き上げにより黒いガイドレースに沿ってヒンジが動きゲートを開閉します。 
同タイプの取水設備は新潟県佐渡市の大大野川ダムにも設置されています。

言葉で説明してもわかりづらいので図面を添付。


こちらが取水設備の機械室。
右手のドラムでワイヤーを巻き上げます。

次にクレストラジアルゲート
ゲートは2門ありともに石川島播磨重工(現IHI)製。


天端からはクレストゲートのアームが見えるのみ。


クレストゲートの巻き上げ機。
ゲートは巨大ですが開度を変えるだけなので取水設備に比べたら機械は簡素。


こちらはコンジットゲートの空気孔。
ゲートの充水時の空気抜きと緊急遮断時の給気用を兼ねています。
通常は堤体の前面にあることが多く、この位置にあるのは珍しい。


今度はコンジット予備ゲートです。
直轄ダムではクレスト、オリフィス、コンジット、予備ゲートなどはメーカーを分けることが多いのですが、蔵王ダムはすべて石川島播磨重工(現IHI)製。


予備ゲート操作室
クレストゲートに比べて稼働距離が大きいのでかなり大がかり。
二つのワイヤードラムでゲートを昇降させます。 


当の予備ゲートは隙間から垣間見るだけ。


天端から減勢工を見下ろします。
副ダム下流は岩盤が露出。
左手の管路は利水放流用で、奥の建屋は管理用発電所である蔵王ダム発電所。


天端はゲート部分だけ上流側にクランク。


右岸から下流面。


利水放流用のジェットフローゲート。
利水放流は放流量によりこのゲートと管理用発電所を併用もしくは使い分けます。


ようやく堤頂長273.8メートルの右岸に到着。
見れるものはすべて見せていただいており見学開始からすでに1時間近く経過。
この階段の左下に上部監査廊入り口がありいよいよ中空ダム内部に向かいます。


と、右手の法面に何やら蓋されたものが?
実はここには蔵王権現を勧請した水神が祭られているのですが、冬に備え木板で覆われています。


いよいよ上部監査廊に突入。
最初に添付した平面図を見ればわかるように中空ダムは空洞空間はブロックごとに仕切られています。
そのため上部監査廊はコンクリート部と空洞部が交互に繰り返されます。


3つ目の空洞は広いホールになっています。
実はここがコンジットゲート操作室。
前方の丸い穴は中空ダムおなじみの空気孔になります。


空気孔から外を覗いてみると紅葉が見ごろ。
巣穴から外を覗くキツツキになった気分。


コンジットゲートのプレート。
先述のようにこちらも石川島播磨重工(現IHI)製。


こちらがコンジットゲートの油圧シリンダー。


ゲート操作は管理事務所で行われますが、万一に際し手動用の装置もあります。

 
コンジットゲート。


監査廊を先に進みます。
眼下の十字に見るのは排水溝で上の四角が排水ピット。


壁の管はプラムライン。
こうやってプラムラインを見下ろせるのも中空ダムならでは。


こちらが上部監査廊の一番左岸よりのブロック。


終点間際にはこんなものも
コンクリートが乾く前に踏み込んだ足跡だそうです。
しかし足跡がやたら多い。


最後の階段を上がると。


左岸の管理事務所に到着。


振り返ると
中空ダムのこんな位置から堤体を見れるのも見学会ならでは。


一度にすべてを紹介すると、ブログの文字制限3万字を超えてしまうので今回はここまで。
後編に続く。

平取ダム見学

2023-12-01 09:00:00 | ダム見学会
2023年10月19日 平取ダム見学
 
2023年(令和5年)10月19日から一週間かけて北海道のダム巡りをしてきました。
そのうち事前に説明付き見学を要請した3基の国土交通省直轄ダムで管理支所長さま直々のガイドによる見学が叶いました。
まずは北海道初日の10月19日の平取ダム見学について内容を詳しく紹介したいと思います。
ダムの詳細については『平取ダム』を参照ください。
 
今回は平取ダム管理支所長様直々のガイドによる見学です。
約束したのは13時。
昼過ぎに激しい雨が降り内心ひやひやしましたが、ダムに到着するころには雨も上がりホッと一息。
左岸ダムサイトで支所長様と待ち合わせし、ダムの概要について簡単に説明を頂きました。
こちらはダムサイトにある電源室。
実は管理支所は堤体から約800メートル東方のダム湖岸にあります。


ダム左岸段丘上は透水性の高い砂礫層となっています。
そのため、地中に連続地中壁を設け遮水を行います。
写真の砂利の下に連続地中壁が埋設されています。


このマンホールのある場所が堤体と連続地中壁の接続地点。


堤頂350メートルの過半を左岸段丘部が占めます。


上流側。


ダム周辺にはアイヌの聖地が多く所在し、ダムサイトにはその説明板が設置されています。


左岸は川によってもたらされた砂礫が堆積してできた段丘です。


天端
徒歩のみ開放。


天端高欄のダムのプレート。
竣工後まだ1年ちょっとということでピッカピカ。


天端からの眺め
河床部は左右両岸に堤趾導流壁とフーチングが設けられています。


過度の装飾が許されないご時世
天端高欄や建屋はシンプル。


クレスト越流頂と取水設備。


総貯水容量は4580万立米
ダムは額平川と宿主別川の合流地点直下に建設されており左は額平川、右手が宿主別川になります。


左から魚道、利水放流設備、非洪水期オリフィス、洪水期オリフィス、融雪期放流設備という並び。


利水放流設備と魚道をズームアップ。
河川維持放流は魚道優先で行われます。
また俎上する魚が利水放流ゲートに向かわないよう段差が設けられています。 


オリフィスをズームアップ
左が非洪水期、右のデフレクター付きが洪水期オリフィス。 


一番右岸にあるのが融雪期放流設備。
4~6月の融雪期は水量豊富で利水供給に余裕があるため、平取ダムの貯水池を空にし流水運用を行います。
豊富な流量の掃流により貯水池内の土砂を排出して堆砂を防ぐ仕組みです。


右岸から見た天端建屋群。
手前が融雪期放流ゲートの機械室。


融雪期放流ゲートを開閉するためのワイヤーが見えます。


右岸から下流面
堤趾導流壁とフーチングで仕切られた部分は堤体の半分でしかありません。


次にダム下に向かいます。
普段は立ち入り禁止ですが、今回は特別の配慮で見せていただきます。


多彩なゲートに目が釘付け。
しかも見えているのは350メートルの堤体全体の半分に過ぎないという…
洪水調節は自然調節で、非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂11門、非洪水期および洪水期用オリフィス各1門ずつを装備。
堤体下部には向って左手から土砂流下を目的とする融雪期放流設備、利水放流ゲート、魚道が並びます。

 
土砂排出を目的とする融雪期放流設備は摩耗を防ぐためステンレス等でライニングされています。
これは宇奈月ダムでの実績を生かした技術だそうです。


下流のポールは水位計。


河床の左岸に魚道が設置されています。
サクラマスの遡上に配慮したもので、河川維持放流は魚道を優先して行われます。


魚道はそのまま堤体を潜ります。


熟成のためにお酒が貯蔵されていました。


以上がダムの見学。
最後にダム管理所に併設されている「ノカピライウォ・ビジターセンター」に案内していただきました。
ここではアイヌの文化保全の取り組みについてパネルや展示物で紹介され、アイヌの文化や風習を詳しく知ることができます。
プロジェクトマッピングを使った斬新な展示となっています。


アニメが人気化し実写映画化も決まった「ゴールデンカムイ」で注目を浴びるアイヌ料理についても詳しく説明されています。


北海道で一番新しいダム、そして全国でもここだけという融雪期放流設備など見どころの多い平取ダム。
今回は特別のご配慮でダムを詳しく見学させていただきました。
一般の方が同じような見学を求めるのは無理ですが、今後もりみず旬間などで見学会が開催される機会もあるでしょう。
ただダムを見てカードをもらうだけじゃなく、珍しい運用方法にも興味を持っていただければ、併せてアイヌの文化や風習にも触れていただければと思います。

最後に繰り返しになりますがご多忙の中貴重なお時間をとっていただいた平取ダム管理支所及び支所長様には厚く御礼申し上げます。

2023年7月30日 豊丘ダムまつり・ダム探検

2023-10-17 17:00:23 | ダム見学会
2023年7月30日 豊丘ダムまつり・ダム探検
 
前日の内村ダム見学会菅平ダム・菅平発電所見学会に続いて7月30日は豊丘ダムまつりの一環として開催されるダム探検イベントに参加させていただきました。
豊丘ダムでは例年ダムを管理する長野県須坂建設事務所と地元豊丘地区が共同でダムまつりを開催し、ダム見学会であるダム探検のほか地元農産物の販売、建設機械の展示、工作教室など親子で楽しめるイベント多々用意されています。

午前9時30分ごろにダムに到着し、ダム探検イベントの予約をしたあと右岸ダムサイトをうろうろ。
まずは下流面の写真を何枚かパチリ。
前回訪問時よりも手前の木が伸び、見通しが悪くなっています。



ついで上流面
硫黄成分の影響でダム湖は美しいエメラルドグリーン。


定礎石。


10時前に建設事務所長さんや地元自治会会長によるダムまつり開会の挨拶。


ダム探検イベントは第1組
まずは職員さんによるダムの基本的な説明。
参加者の多くはダムマニアではない一般市民の皆さんなので、内容も初歩的なものとなります。


ダムの目的や運用方法のほか、監査廊内の設備の説明も行われます。


次に艇庫に移動
艇庫は『蔵の街須坂』をモチーフにしたデザイン。


インクラインの巻き上げ機。


艇庫に置かれたダムの立体模型
透明なプラスチック製なのでうまく写真が撮れません。


ついで天端からの説明。


天端から艇庫とインクライン
ダムまつりに合わせてインクラインのシャッターが開けられています。


乗っているのは流木や塵芥を除去する作業船。


ダムからは長野市街を挟んで戸隠や北アルプス後立山連峰まで遠望できますが…。


この日はやや靄っており戸隠と飯綱山がかすかに見えるだけ。


ダム下を見下ろします。


低水放流設備には管理用小水力発電所が併設されていますが、今は休止中。
発電所は県企業局に移管され刷新される予定。


ダム湖(昇竜湖)は総貯水容量258万立米
百々川ほどではありませんが、灰野川も硫黄成分を含むため湖面は独特のエメラルドグリーン。


オリフィスゲートを真上から
戸当たりの溝は試験湛水の際のゲート用。


上流面。


いよいよ監査廊内へ。
エレベーターでEL818まで下りて横坑を進みます。


続いて斜度45度の階段を下ります。
『ここでダメな方はエレベーターで引き返してください』という職員さんの言葉がありますが全員GO!


湿度ほぼ100%で案内板は結露。




右手はドレーン。


ようやくEL788の最下層へ
30メートルを下りきりました。


こちらもドレーン。


職員さんが説明しているのは?


監査廊ではおなじみのプラムライン
堤頂部からぶら下げたワイヤーでダムの微細な歪みを計ります。


三角堰漏水計。


排水ピット
漏水をここに集め排水します。




こちらは最新式の漏水量計。


再び30メートルを登り返し。


これにてダム探検終了
正直、ダム見学としては物足りなく取水設備やダム下の放流設備・発電所なども見れたらなあという内容。
せっかくなので農産物販売所へ。


ジャガイモ、タマネギ、ピーマン、プラムを購入。
東京から見ればかなりお安いお値段。


須坂はトウモロコシが特産
焼トウモロコシも頂きます。


上でも書いたようにダムの見学会としては監査廊の中を見るだけでちょっと物足りない内容。
ただ、多くのダムが単独イベントとして見学会を実施するのに対し、ここでは地元との共催によるダムまつりという点が味噌。
お昼過ぎにダムを後にしましたが、駐車場の空きを待つ車も多くお祭りとしてはなかなかの盛況。
ダムツーリズムという視点ではお手本とも言うべき豊丘ダムまつりでした。


2023年7月29日 菅平ダム・発電所ダムもりみず見学会

2023-10-15 17:00:22 | ダム見学会
2023年7月29日 菅平ダム・発電所ダムもりみず見学会
 
昼前の内村ダム見学会のあとに向かったのが長野県企業局が管理する菅平ダムです。
ここは普段ダム下流からの展望ポイントがなく、見学会の際にダムを下から拝めるだろうという期待もあり参加したのですが…
事前予約はなく希望者は適時、見学ができるスタイル。
 
見学会の前に国道から上流面
灌漑主体のため取水設備は表面取水となります。


取水設備の扉も開いていますが、中は立ち入り禁止。


取水設備概略図。


取水設備のプレート
メーカーは丸島水門(現丸島アクアシステム)。


天端から洪水吐を見下ろすと
取水設備から導水路までの落差を利用した小水力発電所の建設工事中。
こりゃあ、ダム下には行けないかも??


管理事務所入り口で見学手続きを終えたら、まずはダム操作室で運用についての説明。
旧式のダムコンだそうです。


取水ゲートの操作説明。
質疑応答に集中して写真はこの2枚だけ…。


次に監査廊見学。


ダムは堤高41.8メートル。


建設中の小水力発電所をズームアップ。


少し階段を下ります。


ここが監査廊入り口。


いきなり階段を下ります。
漏水計や電気ケーブルが通っています。


こちらはダム最下層。


ちょっと登り返すと。


ダム下の監査廊出入り口。


ダムの下流面はこれが精いっぱい。
普段ならさらに下流まで行けるのですが、今工事中のためここまで。


剥がれたコンクリートが建設以来50年以上の時間経過を感じさせます。


来た道を戻って見学終了。

意外にあっさり終わった見学会。
天端の愛車と記念撮影。


つぎに4キロ下流の菅平発電所へと向かいます。
見学終了時間ギリギリの到着でしたが、ご厚意により見学OK。


発電所越しに水圧鉄管を見上げます。


こちらは発電所からの放水路
舟形の余水吐が特徴的。


アングルを変えて
実はこの下流には戦前完成の中部電力(株)横沢第一および第二発電所があり、平時は菅平発電所の放流水がそのまま使われます。
一方、菅平発電所が停止中は、写真左手の神川取水堰から導水されます。


右手は発電所の放流口
見学時は絶賛発電中で勢いよく放流されています。
左手は上部水槽の余剰水放流口で、発電所をバイパスして放流されます。


有効落差276メートルの水圧鉄管
右手は発電用の鉄管、左手は余水管で余剰水の流下に使われ上の写真の余剰水放流口から放流されます。


ちょっと見づらいですが、鉄管の左手にモノレールのレールがあります。
かつては点検の際には右手の階段で標高差276メートルを昇り降りしていたそうですが、いまはモノレールで移動。
でも上部水槽まで約15分、急傾斜かつ乗り心地も悪いためお尻は痛くなるし首への負担も大きいようです。
昇りは良いけど、下りは怖そう…。


水圧鉄管のプレート
佐世保重工製。


いよいよ発電所内へ
認可最大出力5400キロワットの発電機。




明電舎製です。


職員さんによる説明を受けますが、発電機の音がすごくよく聞き取れません。


階下へ下ります。
これは上階の発電機と地下の水車を結ぶ縦軸。
発電中なので毎分900回転で回っています。


水車と縦軸は荏原製。


正直、ダムの見学は今一つでしたが、発電所では稼働中の発電機をすぐそばで見れたほか、珍しい形状の放流口余水吐など内容の濃い見学となりました。
特に発電所では見学終了間際の訪問にもかかわらず、時間超過で丁寧な説明、質疑応答をしていただき感謝の念に堪えません。
菅平ダムの小水力発電所完成の暁には改めて来訪したいと思います。