ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

合川ダム湖遊覧船乗船記

2025-01-10 03:40:34 | ダム湖遊覧船など
2024年12月30日 合川ダム遊覧船乗船記
 
和歌山県田辺市の二級河川日置川にある関西電力(株)が管理する殿山ダムはダム愛好家の間では、日本で最初に着工・竣工したドーム型アーチ式コンクリートダムとしてよく知られた存在です。
またクレストには全国でも珍しいドロップゲートを装備するなど本来見どころが多いダムであるはずですが、狭隘な渓谷の底に建設されたため展望ポイントはほとんどなく600メートル以上下流に設けられた展望台より遠望するのみでした。
今年、X(旧ツイッター)を通じ合川ダム(殿山ダムの別名)湖遊覧船の存在を知り、年末年始の奈良への帰省のついでに殿山ダムに立ち寄るとともに遊覧船の予約を行いました。

合川ダム湖遊覧船は元関西電力社員で長く殿山ダムの管理業務に携わってこられた地元合川地区在住の日向崇人氏が『過疎化に悩む故郷振興の一助になれば』という思いで2023年(令和5年)に私財を投じて開業されました。
ここでは合川ダム湖遊覧船についてご紹介してゆきたいと思います。

遊覧船乗船の前にダムの下流にある合川ダム展望台へ
1990年(平成2年)に作られたウッドデッキの展望台。


従来はここから遠望するのみでした。


ズームアップ
残念ながら下流から遠望するだけでは注目のドロップゲートはおろか、ドーム型アーチであることすら視認できません。


展望台から上流に向かうとダム管理所入り口に着きます。
もちろん中は立入り禁止。
背を伸ばしインクラインを撮影。
ダムは非常に狭隘な渓谷に作られダムサイトに下りるためのインクラインが設けら、物資の運搬のみならず、職員さんの移動もこれを使います。


ダムの堤体と言えば、かつてはもう少しはっきりと見えたようですが今は木が茂りこんな感じ。


いよいよ遊覧船に乗船します。
写真が遊覧船代表で船頭の日向さん。
遊覧船と言ってもボートで乗客定員は5名。
日向さん曰く『日本で最も小さな遊覧船』
今回は我が家夫婦に加え滋賀県在住のダム愛好家のtomo.y523さんの計3人での乗船です。


船の桟橋はもとより、桟橋に通じるスロープも日向さんの手弁当。


操船しながらガイドをする日向さん。


あいにくの高曇りですが風がなく穏やかな湖面
こんな無風の日は年に10日もないそうです。


ダム湖右岸の予備ゲート格納庫
オリフィスローラーゲートの改修の際に使用されます。


関西電力らしく予備ゲートもブラック。
予備ゲートは浮きゲートで使用の際には堤体まで曳航するとのこと。
それはそれで見てみたい。


格納庫そばに繋留された巡視艇と作業船
作業船で湖面のゴミや流木を除去します。


日置川本流に架かる国道371号線三川大橋が見えてきます。


橋を潜りまずは本流上流へ。


涸れずの滝
雨の少ない冬季でも涸れないそうです。
多雨期にはもっと美しい流れが見れるとか?


川には山仕事用の吊橋が多数架かっていますが、こちらは向山の吊橋。
老朽化のため傾きサルでも渡るのは難しそう。
ちなみにすぐ上流に新しい橋が架かっています。


本流を引き返しいよいよダム堤体へと向かいます。
向かって右手に堤体、左手は殿山発電所への取水設備。

船は網場の中へは進入できません。


網場に沿ってゆっくり進みます。
事前にダムマイスターでありダムを見学するのが主目的と伝えていたこともあり、いろんなアングルでダムと対峙していただけます。


網場の位置は風向きによって大きく変わるそうです。
今回は無風のため網場は堤体寄りにあり、船も堤体に大きく接近できます。


下流からの遠望ではわかりづらかったドーム形状がはっきり見て取れます。
クレストには全国でも希少なドロップゲートが6門。


ドロップゲートをズームアップ
開放の際はゲートを下に落としゲート上部を越流させます。
ゲート間には水中に没しているオリフィスローラーゲートのコースターレールが見て取れます。


ダム左岸の殿山発電所の取水設備
ここで取水された水は約1.7キロの導水路で殿山発電所に送られ、有効落差69.05メートルを利用して最大1万5000キロワットのダム水路式発電を行います。




最後に日向さんお薦めポイントに。
国道の橋が架かる、支流の熊野(いや)川合流点は両岸が突き出した瀬戸になっています。


狭い瀬戸を潜り反転すると
瀬戸部分は両岸に高い岩壁が迫り、恰も宮崎の高千穂峡のような雰囲気
正式名称ではありませんが、日向さんはここを三川高千穂峡と命名されました。
この呼び名が定着するといいですね。


本場の高千穂峡が阿蘇火砕流で形成された凝灰岩の柱状節理が立ち並ぶのに対し、こちらはプレート活動で隆起した泥岩、砂岩、礫岩の岩壁が迫り、激しい地殻変動による断層や褶曲が間近で見て取れます。
また礫岩の岩壁では、秋に紀伊半島の一部のみに自生する絶滅危惧種のキイジョウロウホトトギスの開花も見れるそうです。

遊覧の最後に三川大橋をバックに記念撮影。


下船後、日向さんも一緒にもう一枚。


遊覧が終わった後はダム湖に架かる小麦橋へ。
かつて対岸には小麦集落がありその生活橋として架橋されました。
しかし小麦集落は廃村となり、現在は主に山仕事用の吊り橋となっています。


今回ご一緒したtomo.y523 さんと。


ちょうど眼下を次の便が進んでゆきます。


以上、合川ダム湖遊覧船乗船の詳細でした。
遊覧船とはいっても乗客定員はわずか5名、ざっくり言えばモーターボートに毛が生えたようなサイズですが、その分船頭である日向さんとの距離が近く会話も弾みます。
特に我々ダム愛好家にとっては、殿山ダム駐在時代の苦労話やエピソードなど元ダム管理人ならではの話が聞けるのは貴重です。
今回は下船後、ダム左岸上流側からの展望スポットやダム下に下りるルートについてもご教授いただきました。
ただ前者は藪が多く、後者については相応の登山スキルが必要なことから今回は自重しました。
機会があれば、準備を万端にしてアプローチしたいと思います。

合川ダム湖遊覧船は1時間の遊覧船コースからお弁当付きや古民家での食事付きプランなど魅力あふれるプランが用意されています。
ダム好きなら、ぜひ一度は乗船していただきたい遊覧船です!
乗船には事前予約が必要となります。詳細は下記リンクをご覧ください。

殿山ダム(合川ダム)

2025-01-07 08:00:00 | 和歌山県
2021年 9月20日 殿山ダム(合川ダム)
2024年12月30日
 
殿山ダムは和歌山県田辺市合川の二級河川日置川本流にある関西電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
日本有数の多雨地帯である紀伊半島の各河川では戦前より複数の発電業者による電源開発が進められていました。
日置川では戦前の五大電力の一つであった東邦電力が当地での発電所建設を企図しますが、その後の電力国有化や戦況の悪化等により事業は凍結され戦後を迎えます。
1951年(昭和26年)の電気事業再編成により新たに誕生した関西電力(株)は朝鮮戦争特需による電力需要ひっ迫に対処するため各所で積極的な電源開発を進めます。
同社は1955年(昭和30年)に東邦電力が事業化を進めた日置川本流と支流の将軍川、前ノ川合流地点である合川地区へのダム建設に着手、1957年(昭和32年)に殿山ダム及び殿山発電所が完成し最大出力1万5000キロワットのダム水路式発電の運用が開始されました。
ダム建設に際しては堅固な地盤を生かすとともによりコンクリートの使用量を節約できるドーム型アーチが採用され、殿山ダムは日本で初めて着工、竣工したドーム型アーチ式コンクリートダムとなっています。
正式名称は殿山ダムですが、現地ではダム建設地点の地名から『合川(ごうがわ)ダム』の名称が一般的で、国土地理院地形図や多くの道路マップなどでも合川ダムと記載されています。
一方でダムは深い渓谷の底に建設されたこともあり展望ポイントはほとんどなく、下流に設けられた展望台から遠望するのみで、2021年(令和3年)9月の初回訪問時もここから眺めるにとどまりました。
しかし、2023年(令和5年)に元関西電力社員で長く殿山ダムの管理業務に携わって来られた日向崇人氏が合川ダム湖遊覧船を開業され、船上からアーチ堤体上流面を見学することが可能となりました。
そこで2024年(令和6年)12月の帰省を利用し遊覧船に乗船し至近からの殿山ダム見学が叶いました。
なお掲載写真はすべて再訪時のものを使っています。
また遊覧船乗船についての詳細は別項の『合川ダム湖遊覧船乗船記』に記すことにします。

ダムの下流約600メートルにある合川ダム展望台から
1990年(平成2年)に作られたウッドデッキの展望台。


深い谷の合間にゲート部が姿を見せます。
従来はここから遠望するのみでした。

 

 
ズームアップ
クレスト、オリフィスともにゲートは6門ずつ。
クレストは全国でも珍しいドロップゲートでゲートを下げることで開放される珍しいゲートです。
クレストゲートの真下にオリフィスゲートが並ぶ珍しいゲート配置で、オリフィスはローラーゲートとなっていますが、中2門だけ形状が異なります。
残念ながら下流から遠望するだけではドロップゲートの詳細やアーチのドーム状況がわかりかねます。


展望台にあるダムの概要板
だいぶ傷んでいますが、ダムの概要、特にドーム型アーチである点はよくわかります。

 
展望台から上流に進むとダム管理所入り口に到着します。
ダムは非常に狭隘な渓谷に作られており、ダムサイトに下りるためのインクラインが設けられ、物資の運搬のみならず職員さんの移動もこれを使います。

かつてはもう少し堤体が見えたようですが、今は木が茂りこんな感じ。

 
いよいよ遊覧船に乗船します。
合川ダム湖遊覧船は日向氏が私財を投じて開業され、船は乗客定員5人、日向氏曰く『日本で一番小さな遊覧船』

 
ダムの右岸上流500メートルほどにある予備ゲート格納庫。
関西電力らしく色はブラック、浮きゲートになっており使用の際は堤体まで船で曳航します。


格納庫沖の巡視艇と作業艇。
作業艇で流木やごみの除去などを行います。


いよいよダムに接近
正面に殿山ダム、左手は殿山発電所の取水設備。

 
上流から見れば殿山ダムがドーム型アートであることがよくわかります。
クレストに6門のドロップゲートが並びます。

 
ドロップゲートをズームアップ。
開放の際はゲートを下に落としゲート上部から越流させる仕組み。


ダム左岸の殿山発電所の取水設備
ここで取水された水は約1.7キロの導水路で殿山発電所に送られ、有効落差69.05メートルを利用して最大1万5000キロワットのダム水路式発電を行います。

 
上記のように遊覧船の代表で船頭をされる日向氏は長く殿山ダムの管理業務を務められ、当時の逸話やエピソードなどを多々伺うことができました。
さらに左岸上流側からの展望スポットや、ダム下への下降点などについてもアドバイスを頂けました。
近いうちに、準備を万端にして当地を再訪するとともに再度遊覧船に乗船したいと思います。

(追記) 
殿山ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、台風の襲来が予想される場合には事前放流を行う治水協定が締結されました。

1644 殿山ダム(合川ダム)(1694)
和歌山県田辺市合川
日置川水系日置川
64.5メートル
128.7メートル
25446千㎥/13795千㎥
関西電力(株)
1957年
◎治水協定が締結されたダム