ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

栗駒ダム

2024-09-20 20:00:00 | 宮城県
2016年4月 2日 栗駒ダム
2024年7月28日
 
栗駒ダムは宮城県栗原市栗駒沼倉の一級河川北上川水系三迫川にある宮城県土木部が管理する多目的の重力式コンクリートダムです。
栗駒山に源を発し栗原市、登米市を流下して旧北上川に合流する迫川(はさまかわ)流域は伊達藩時代に新田開発された広大な穀倉地帯が広がり『金成耕土』と呼ばれています。
しかしもともとは複数の河川が交錯する湿地帯のため氾濫が頻発し、とりわけ1948年(昭和23年)のアイオン台風襲来時は3000ヘクタールを超える水田が冠水する大災害となりました。
これを受け宮城県は迫川上流三河川のうち迫川(一迫川)と三迫川への多目的ダム建設に着手、1957年(昭和32年)の花山ダムに次いで1962年(昭和37年)に竣工したのが栗駒ダムです。
ただ花山ダムが建設省(現国土交通省)の補助を受けた迫川総合開発事業によって建設された補助多目的ダムなのに対し、栗駒ダムは農林省(現農林水産省)の補助を受けた県営防災ため池事業で建設された農地防災ダムとなります。
完成後は県土木部が管理を受託し、三迫川の洪水調節(7月1日~9月30日の洪水期間中は最大毎秒735立米の洪水カット)、迫川沿岸約2600ヘクタールへの特定かんがい用水の供給、細倉金属鉱業(株)玉山発電所での最大2800キロワットのダム水路式発電を目的としています。
両ダムの完成により迫川の治水能力は大きく向上しますが、依然1万ヘクタールに及ぶ金成耕土では用水不足の状態が続き、この解決は1998年(平成10年)の荒砥沢ダム、2005年(平成17年)の小田ダムの完成しまで待つことになります。
上記のように栗駒ダムは完成後は宮城県土木部が管理を受託していますが、農林省の補助事業で建設されたダムのため目的は『FAP』ではありますが、補助多目的ダムとはなりません。

2008年(平成20年)の宮城岩手内陸地震では栗駒山周辺で地滑りや土石流など多大な被害が出ましたが、栗駒ダムでも下流からダムへ通じる道路が崩落により通行不能となりました。
一方、施設の老朽化を受けて2010年(平成22年)にかけてゲートと堤体の改修が行われ、さらに2015年(平成27年)には取水設備が刷新されました。
栗駒ダムには2016年(平成18年)4月、2024年(令和6年)7月と2度訪問しており掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

右岸から下流面
堤高57.2メートル、堤頂長182メートル、残念ながらダム下流から堤体と正対できるポイントはありません。
(2024年7月28日)

 
堤体は右岸側が屈曲。
(2016年4月2日)

 
ゲートピアをズームアップ
2010年(平成22年)にゲートが改修されるとともにゲートピアや扶壁の一部も刷新されました。
(2024年7月28日)


右岸ダムサイトには記念碑がありその隣にはゲート改修で撤去された古い巻上げ機がモニュメントとして展示されています。
(2024年7月28日)

 
天端は徒歩のみ開放。
(2024年7月28日)

 
上流面。
ゲートは扉高15.6メートル、径間メートルの縦長ローラーゲート。
(2024年7月28日)

 
右岸の管理事務所とインクライン。
かつては職員が常駐していましたが、現在は花山ダム管理所で統合管理されています。
(2024年7月28日)

 
インクラインをズームアップ。
(2024年7月28日)

 
ゲートを真上から。
(2024年7月28日)

 
天端から減勢工を見下ろします。
減勢工左手は放流設備、その下流に落ちている石は2008年(平成20年)の宮城岩手内陸地震で崩落したもの。
(2016年4月2日)

 
同じアングルで再訪時。
栗駒ダムの洪水期は7月1日~9月30日で、この間は常時クレストローラーゲートを開けて放流し洪水調節容量を確保します。
(2024年7月28日)

 
手前の青い機器は取水ゲートの操作機器。
(2024年7月28日)
 
2015年(平成27年)に置換された取水ゲートのプレート
日本では2例目となる遮水膜式取水ゲートになります。
(2024年7月28日)

 
減勢工はジャンプ台式。
(2024年7月28日)

 
ダム湖は『くりこま湖』
総貯水容量1371万5000立米、有効貯水容量1275万8000立米
かんがい期には有効貯水容量の7割の910万3000立米が洪水調節容量となります。
再訪時は直前まで記録的な豪雨が続き水位が上昇、ダム湖の水もかなり濁っています。
(2024年7月28日)

 
左岸から
取水設備は2015年(平成27年)に導入された遮水膜昇降式多段フロー取水ゲート
ダム水位に連動して鋼製フレームに取り付けられた複数段の遮水膜が伸縮し、最上部から取水することで連続的な表層取水を行います。
詳細はリンクをご覧ください。 
(2024年7月28日)

 
上流面
初訪時は非かんがい期にもかかわらずかなり水位が下がっていました。
(2016年4月2日)

宮城県のホームページでは、栗駒ダムの役割として
『既得用水の補給・維持流量の確保等、流水の正常な機能の維持と増進を図ります』と記され不特定利水(N)があるような表記がなされています。
しかし県が配布するダムカードにはダムの目的は『FAP』と記され『N』はありません。
貯水容量にも不特定利水容量の配分はないため当ブログでもダムの目的はFAPと記します。

(追記)
栗駒ダムでは台風の襲来に備え事前放流を行う治水協定が締結されています。
 
0293 栗駒ダム(0281)
宮城県栗原市栗駒沼倉
北上川水系三迫川
FAP
57メートル
182メートル
13715千㎥/12758千㎥
宮城県土木部
1962年
◎治水協定が締結されたダム


2 コメント

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古城・・ (tibineko)
2024-09-20 21:38:35
ダムの写真を見ていると
湖の中に浮かぶ古城を連想してしまいます
三枚目と六枚目の写真
武骨で、それでもどんな風雪に耐えてきた古城
そうして・・私の中で勝手な物語が展開されていきます。
まっちさんの正確で緻密な紹介文をみて
そんな風に妄想を膨らませるなんて、随分失礼な奴ですよね。
お叱りを受ける前に、先に「ごめんなさい!!」
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tibinekoさま (まっち)
2024-09-23 02:57:39
人によって感性は異なるので、同じ風景を見てもその感想は百人百様。
湖面に浮かぶ古城という発想は全くなかったので、逆に新鮮さを覚えます。
湖面と城に見えるとすればtibinekoさんの原風景はドイツのライン川沿いのお城になるのでしょうか?
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