2021年 9月20日 殿山ダム(合川ダム)
2024年12月30日
殿山ダムは和歌山県田辺市合川の二級河川日置川本流にある関西電力(株)が管理する発電目的のアーチ式コンクリートダムです。
日本有数の多雨地帯である紀伊半島の各河川では戦前より複数の発電業者による電源開発が進められていました。
日置川では戦前の五大電力の一つであった東邦電力が当地での発電所建設を企図しますが、その後の電力国有化や戦況の悪化等により事業は凍結され戦後を迎えます。
1951年(昭和26年)の電気事業再編成により新たに誕生した関西電力(株)は朝鮮戦争特需による電力需要ひっ迫に対処するため各所で積極的な電源開発を進めます。
同社は1955年(昭和30年)に東邦電力が事業化を進めた日置川本流と支流の将軍川、前ノ川合流地点である合川地区へのダム建設に着手、1957年(昭和32年)に殿山ダム及び殿山発電所が完成し最大出力1万5000キロワットのダム水路式発電の運用が開始されました。
ダム建設に際しては堅固な地盤を生かすとともによりコンクリートの使用量を節約できるドーム型アーチが採用され、殿山ダムは日本で初めて着工、竣工したドーム型アーチ式コンクリートダムとなっています。
正式名称は殿山ダムですが、現地ではダム建設地点の地名から『合川(ごうがわ)ダム』の名称が一般的で、国土地理院地形図や多くの道路マップなどでも合川ダムと記載されています。
一方でダムは深い渓谷の底に建設されたこともあり展望ポイントはほとんどなく、下流に設けられた展望台から遠望するのみで、2021年(令和3年)9月の初回訪問時もここから眺めるにとどまりました。
しかし、2023年(令和5年)に元関西電力社員で長く殿山ダムの管理業務に携わって来られた日向崇人氏が合川ダム湖遊覧船を開業され、船上からアーチ堤体上流面を見学することが可能となりました。
そこで2024年(令和6年)12月の帰省を利用し遊覧船に乗船し至近からの殿山ダム見学が叶いました。
なお掲載写真はすべて再訪時のものを使っています。
また遊覧船乗船についての詳細は別項の『合川ダム湖遊覧船乗船記』に記すことにします。
ダムの下流約600メートルにある合川ダム展望台から
1990年(平成2年)に作られたウッドデッキの展望台。

深い谷の合間にゲート部が姿を見せます。
従来はここから遠望するのみでした。


ズームアップ
クレスト、オリフィスともにゲートは6門ずつ。
クレストは全国でも珍しいドロップゲートでゲートを下げることで開放される珍しいゲートです。
クレストゲートの真下にオリフィスゲートが並ぶ珍しいゲート配置で、オリフィスはローラーゲートとなっていますが、中2門だけ形状が異なります。
残念ながら下流から遠望するだけではドロップゲートの詳細やアーチのドーム状況がわかりかねます。

展望台にあるダムの概要板
だいぶ傷んでいますが、ダムの概要、特にドーム型アーチである点はよくわかります。

展望台から上流に進むとダム管理所入り口に到着します。
ダムは非常に狭隘な渓谷に作られており、ダムサイトに下りるためのインクラインが設けられ、物資の運搬のみならず職員さんの移動もこれを使います。

かつてはもう少し堤体が見えたようですが、今は木が茂りこんな感じ。

いよいよ遊覧船に乗船します。
合川ダム湖遊覧船は日向氏が私財を投じて開業され、船は乗客定員5人、日向氏曰く『日本で一番小さな遊覧船』

ダムの右岸上流500メートルほどにある予備ゲート格納庫。
関西電力らしく色はブラック、浮きゲートになっており使用の際は堤体まで船で曳航します。

格納庫沖の巡視艇と作業艇。
作業艇で流木やごみの除去などを行います。

いよいよダムに接近
正面に殿山ダム、左手は殿山発電所の取水設備。

上流から見れば殿山ダムがドーム型アートであることがよくわかります。
クレストに6門のドロップゲートが並びます。

ドロップゲートをズームアップ。
開放の際はゲートを下に落としゲート上部から越流させる仕組み。

ダム左岸の殿山発電所の取水設備
ここで取水された水は約1.7キロの導水路で殿山発電所に送られ、有効落差69.05メートルを利用して最大1万5000キロワットのダム水路式発電を行います。

上記のように遊覧船の代表で船頭をされる日向氏は長く殿山ダムの管理業務を務められ、当時の逸話やエピソードなどを多々伺うことができました。
さらに左岸上流側からの展望スポットや、ダム下への下降点などについてもアドバイスを頂けました。
近いうちに、準備を万端にして当地を再訪するとともに再度遊覧船に乗船したいと思います。
(追記)
殿山ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、台風の襲来が予想される場合には事前放流を行う治水協定が締結されました。
1644 殿山ダム(合川ダム)(1694)
和歌山県田辺市合川
日置川水系日置川
P
A
64.5メートル
128.7メートル
25446千㎥/13795千㎥
関西電力(株)
1957年
◎治水協定が締結されたダム
いつも拝見させていただいております。
深緑の急斜面の中のダムは萌えますね。
木造の展望台も雰囲気があって良いです。
できれば直上から見下ろしてみたいダムではありますが、深い渓谷の奥に城壁のように川を締め切るダムの姿はなかなかのものでした。
やや朽ちかけたウッドデッキですが、中谷を吹き抜ける風も心地よく気持ちの良い時間を過ごせました。
圧巻というよりも威圧的で
外敵を寄せ付けない厳めしさを感じます
それでいて妙な安心感を与える所以は何でしょう?
守りは固い・・そんな言葉がひょいと浮かんできます
改めまして
「あけましておめでとうございます
今年も素晴らしいダムの世界を見せてください。」
コメントありがとうございました。以前に比べると開店休業状態が続いてまして気づくのが遅くなりました。
そして、色々と大変だったのですね。
12月の記事がないなぁとは思っていたのですが。
足の具合はいかがでしょう?
私も、母が施設に入ってもう7年くらいになります。正直ほっとしたってのが本音です。自由になる時間が増えました・・・って、今までも好き勝手やってましたが💦
また、あちこち旅する時間が、早く戻るといいですね。応援しています。
>こんばんわ... への返信
朝鮮戦争勃発による特需で瀕死だっ日本経済は奇跡の復興から高度成長へと向かいます。
その基盤が電力で、関西電力としては殿山ダムでの成果がのちの黒部へと繋がります。
今の価値観でいえばわずか1万5000キロワットのためにこんな大掛かりな施設を!となりますが、当時の1万5000キロワットは今の感覚で50万キロワットの価値があったのでは?と思います。
>明けましておめでとうございます。... への返信
昨年後半はほぼ何もできなかったので、今年は一念発起、昨年の遅れを取り戻したいと思います。
いつも地質のおはなし興味深く拝読させていただいており大変勉強になります。
新潟でも奥胎内やかさ上げ再開発した笠堀、中空の内ノ倉などで見学イベントを実施したいと思っており、具体化したらご案内させていただきます。
今年もよろしくお願いいたします。