ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

深城ダム

2016-03-02 12:00:00 | 山梨県
2015年10月24日 深城ダム
2016年  2月28日
 
深城ダムは山梨県大月市七保町瀬戸の相模川水系葛野川上流部にある山梨県県土整備部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
1974年(昭和49年)に山梨県は『葛野川総合開発事業』を採択し葛野川上流部への多目的ダム建設を決定しますが、補償交渉が長期化し着工には至りませんでした。
しかしバブル期に入り都市部の地価高騰の影響で上野原や大月の中央線沿線での宅地開発が一気に進展したことで、利水用水源確保に迫られたことで事態は急変、1996年(平成8年)に本体着工にこぎつけ2004年(平成16年)に深城ダムが竣工しました。
深城ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、葛野川の洪水調節、安定した河川流量の維持と既得取水権への補給、大月市・上野原市への上水道用水の供給を目的としています。
さらに2011年(平成23年)には放流水を利用した山梨県企業局深城発電所が新設され最大340キロワットの小水力発電が開始されました。
深城ダム直上、支流土室川には東京電力葛野川ダムがあり約2キロの距離を置いて事業主体の異なる2基の重力式コンクリートダムが近接する珍しい状況となっています。
 
大月市街から国道139号線を北上すると深城ダムに到着しますが、途中国道とは名ばかりの隘路もあり運転には注意が必要です。
国道からダムと正対できます。(2016年2月28日)
 
直前にまとまった雨があり水位が上昇したおかげで2種類の常用洪水吐からの美しい放流を見ることができました。
(2016年2月28日)
 
非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂6門
洪水期・非洪水期常用洪水吐として自然調節式オリフィス上下1門ずつ計2門を装備。
今回は2種類の常用洪水吐それぞれから越流しています。(2016年2月28日)
 
ダム下右手の建屋は利水放流設備でジェットフローゲート2条を装備。
左手は2011年(平成13年)に新設された山梨県企業局深城発電所。
カスケード式の減勢工も深城ダムの特徴です。(2016年2月28日)
 
左岸から。
 
上流から
左手に管理事務所、右岸には艇庫とインクライン。
初回訪問時はずいぶん水位が低くなっていました。
 
ズームアップ
左手は常用洪水吐ゲートとゲート操作室、右手は選択取水設備と操作室
2つの常用洪水吐をゲートの昇降により開閉することで洪水期および非洪水期の水位調節が可能となっています。
 
天端は徒歩のみ開放。
 
天端から導流部及び減勢工。(2016年2月28日)
 
上下2段の常用洪水吐からの越流をズームアップ。(2016年2月28日)
 
上流面
2度目の訪問時は直前の雨の影響で水位が上がっています。
6枚目、7枚目の写真と比較すれば水位の違いがわかります。(2016年2月28日)
 
初回訪問は日も暮れかけた薄暮の中での見学でしたが、2度目はじっくり時間を掛けて見ることができた上に美しい放流のおまけまでついてきました。
 
追記
深城ダムには439万立米の洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらに最大75万立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0975 深城ダム(0023)
山梨県大月市七保町瀬戸
相模川水系葛野川
FNAP
87ートル
164メートル
6440㎥/5140㎥
山梨県県土整備部
2004年
◎治水協定が締結されたダム

上来沢川ダム

2016-03-01 09:00:00 | 山梨県
2016年2月27日 上来沢川ダム
 
上来沢川ダムは山梨県韮崎市旭町上條北割の富士川水系小武川左支流上来沢川にある東京電力リニューアブルパワー(株)が管理する発電目的の表面石張重力式粗石コンクリートダムです。
富士川上流部の釜無川流域では大正末期から昭和初期にかけて電源開発が進められ(事業者不明)、これらの発電施設は日本発送電を経て戦後の電力分割民営化により東京電力が事業を継承しました。
上来沢川ダムもそんな発電施設の一つで小武川第三発電所の調整池として1927年(昭和2年)に建設されました。小武川で取水された水が一旦ここに貯留されたのち小武川第三発電所に送られ最大2200キロワットのダム水路式発電を行っています。
上来沢川ダムは戦前の貴重な土木建築物ということで近代土木遺産に選定されています。
 
なお2020年(令和2年)の東京電力ホールディングスの組織改編により小武川第三発電所及び関連発電施設はすべて同社の100%子会社である東京電力リニューアブルパワー(株)に移管されました。
また上来沢川ダムは洪水調節目的のない利水ダムですが、近年頻発する豪雨災害に備えて2020年(令和2年)より豪雨の際に事前放流のを行う治水協定が締結され、基準降雨量350ミリの雨が予想される場合には事前放流により新たに最大5000立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
 
北杜市武川町宮脇の国道20号線宮脇交差点から小武川林道に入り小武川沿いを遡上します。
上来沢にダムに向かう林道が分岐しておりここから徒歩で約15分ほど歩くとダムに到着します。
林道の大半は舗装済みですが、舗装状態は悪い上に落石が多いため運転には気を使いました。
 
下流から
全面石積みです。
 
堤体直下から
手前の穴は排砂路
中に入ってみたい!!
 
右岸側
赤さびた上に石灰成分が染み出しておりダムの歴史を醸し出します。
 
 
減勢工??そのまま上来沢川となります。
 
ゲートは全面越流式です。
直近の改修で越流部が削り取られコンクリート張りになりました。
改修前はすべて石貼りだったようで、ちと惜しい気がします。
削り取られた部分がよくわかります。
 
 
奥が小武川上流の取水口からの吐口。
手前側に小武川第三発電所への取水口があります。
 
追記
上来沢川ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流により新たに5000立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0960 上来沢川ダム(0244)
山梨県韮崎市旭町上條北割
富士川水系小武川
19メートル
49.6メートル
9㎥/3㎥
東京電力リニューアブルパワー(株)
1927年
◎治水協定の締結されたダム

川茂ダム

2016-02-29 12:00:00 | 山梨県
2016年2月27日 川茂ダム
 
川茂ダムは山梨県都留市の桂川に架かる東京電力の発電用重力式コンクリートダムで、1924年(大正13年)に桂川電力によって建設され東京電燈、日本発送電を経て1951年の電力分割民営化で東京電力が事業を引き継ぎました。
隣接する川茂発電所で最大2500キロワットのダム式発電を行うほか、川茂発電所の放流水は約6700メートルの導水路で駒橋発電所に送られ最大2万2000キロワットの発電を行っています。
堤高が15メートルに満たないため、河川法では堰堤とされダム便覧にも掲載されていません。
 
大月から国道139号線を南下して禾生駅の先で富士急の線路を渡り桂川の左岸に出ると川茂ダムが見えてきます。
本堤のすぐ下流に副ダムがありますが、これは1907年(明治40年)に建設された駒橋発電所の取水堰堤です。
 
同じ場所からズームアップ
副堤にもゲートがありますが、これがもともと駒橋発電所の取水堰だった名残です。
駒橋発電所は1907年(明治40年)の竣工、川茂ダムは1924年(大正13年)の竣工ですので、もともとあった駒橋発電所取水堰の直上に川茂ダムが建設されたことになります。
 
堤体は全面越流式。
 
右岸のゲート
下段にあるのは排砂ゲート。
ダムの側面は石貼りになっており、越流面も当初は石貼りだったと推察されます。
 
右岸には川茂発電所があります。
こちらの壁面もすべて石貼りです。
 
越流面
対岸に川茂発電所の取水口があります。
手前には付近の田畑用の灌漑用水の取水口です。
 
川茂ダム
左岸 山梨県都留市川茂
右岸       古川渡
相模川水系桂川
13.33メートル
61.57メートル
東京電力リニューアブルパワー(株)
1924年

大野ダム

2016-02-29 08:00:00 | 山梨県
2016年2月27日 大野ダム
 
大野ダムは山梨県上野原市にある東京電力の発電用アースダムで、1914年(大正3年)に東京電燈によって建設され日本発送電を経て戦後は東京電力が継承しています。
大月市の駒橋発電所から八ツ沢発電所に至る導水路の調整池になっており日本で最古の発電用アースダムとされています。
八ツ沢発電所施設は国の重要文化財に指定されており、大野ダムも堰堤、余水路、制水門が重要文化財となっています。
大野ダムの堰堤は規模としては日本最大の重要文化財です。
 
上野原から国道20号を西進、四方津で大野貯水池の標識に従って右折すると大野ダムに到着します。
下流から
目の前の堤体も重要文化財です。
 
上流面は上部が漆喰、下部はアスファルトで補強されています。
 
大野貯水池。
 
下流面。
 
右岸高台から
春になると桜の花で彩られるようです。
 
ダム湖右岸側にある余水路つまり洪水吐。
これも重要文化財ですがフェンスに阻まれそばで見ることができません。
 
取水口の制水門
これも重要文化財ですがやはりフェンスが邪魔をする。
 
八ツ沢導水路11号隧道出口
ダム湖のインレットにありこの隧道も重要文化財です。
 
重要文化財に指定されているにもかかわらず、大野ダムの認知度はいまいちです。。
これはアースダムという地味さに加えて、制水門や余水路がフェンスに囲まれて間近で見れないことも影響してるんだと思います。
現役も稼働している施設の文化財という難しさですね?
 
追記
大野ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流により新たに56万立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
 
0955 大野ダム(0240)
山梨県上野原市大野
相模川水系谷田川
37.3メートル
309.1メートル
1692㎥/467㎥
東京電力(株)
1914年
◎治水協定が締結されたダム